伏喰童子

七転ヤオキ

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神隠シニ非ズ

最強天使の慙愧

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 「最強の天使の慙愧」

 バキバキと音を立てて、腹から白い突起物が、彼岸花ように開いた。モヤのような瘴気を纏う、二十にも満たない小柄な少年。その少年は大人の三倍の背丈はあろう悪魔の肉を、文字通り『腹に入れている』。
 背景に映る仲間たちは一斉に顔を背けた。目を固くつぶる者もいたと思う。それほどまでに目の前の怪物は、悍ましいのだろう。人の形を保った化け物の食事風景は、恐ろしさよりも醜悪さの方が際立っていた。

 だが私は、その姿に高揚感を覚え、目を離すことができなかった。

◼︎
(そういえば、家出る前に、風呂のお湯を溜めていた気がする)
 びちゃびちゃと、頭上から液体が降りかかる中、ルクスはふとそんなことを思い出していた。空は雨曇りだが、降っているのは水ではない。上方に向かって差し込んだ穂先は、牛のような巨大な化け物の胸に一突きで潜り込んだ。

 槍で貫かれた臓器が、腹から、そして口から吹き出された体液だ。お湯のように熱く、そして、生臭い。槍に貫かれた肉片を振り払った。体重の重みだけで落ちた歯肉は、クッキーがボロボロに崩れて粉になるように黒い瘴気になって消え失せた。

 泥のように流れる、粘性の高い体液は、時間が経つと水分が抜け、こちらもまたカサブタが砕けるようにポロポロと落ちていった。
 最後の敵を倒したルクスは、服についた埃と汚れを気にするでもなく、空を見上げた。空の遠くに青紫色に染まり始める。もうすぐ夕方のようだ。

『お疲れ様です。索敵班から敵影の確認はありません。一度、教会へ帰還し、報告をお願いします」
「了解」

 ルクスは通信を切った。周囲は家に帰れることに喜ぶもの、仲間の死や怪我に嘆くものなど様々だ。もう何度も見慣れた光景だ。ルクスの気分が晴れることはなかった。誰もルクスの気持ちを知ることはない。

 あるものは無表情で冷たい心を感じ取り、あるものは疲労や共に戦った仲間の死を悼んでいるとそれぞれの思惑を感じ取った。だがルクスの仲間たちは、誰も彼に話しかけようとはしなかった。

 目の下に酷いクマ、眉間に皺を寄せて、美しかった白髪も乱れた青年は、先ほど倒された牛の化け物よりも恐ろしい姿だった。天を見上げ、まだ残っている化け物の血ぬれの姿に、誰しもが身震いした。
 片付けを行なっていた隊員の一人が、真っ直ぐ彼の元へと向かった。彼は戦場のにいる隊員の中では地位が低いものの、ルクスと同期だ。何十日も戦場に閉じ込められていたルクスに対し、一番に話しかけるのは彼だった。

「ルクス隊長、帰還準備できました!」
「・・・わかった」

 報告に頷き、最後に再び戦場を視野に入れた。洗剤の泡のように大小さまざまな大きさの悪魔がひしめき合っていたというのに、今は跡形もなく、何もない。
 硝煙と腐った卵のような匂いに、後ろ髪をひかれながらも、帰路にたつ。
 
 ・・・そういえば、部屋の植物は無事だろうか、もう二ヶ月くらい帰ってない。

◼︎
 ルクスが聖堂地区中央の教会に戻ると、待っていたのは同僚たちだった。だが彼らが部隊の中心にいるルクスの姿を見るや否や、すべての神官たちは顔を引き攣らせる。中には口を抑える者もいた。
 『ルクス・ルーメン』という青年は、教会の悪魔討伐部隊の中ではとても有名だ。教会の部隊を何人か並べれば、人々は真っ先に探すであろう人気の神官の一人だ。
 絹のように滑らかな髪を腰まで伸ばし、月の光を集めたような銀髪を一つに結っている。目つきは冷たく、氷のような青みがかった瞳を持ち、鼻筋はすっと通っている。玲瓏たる美貌はその場にいる人々を虜にさせた。
 その浮世離れした姿を持ちながらも、討伐部隊の中で一番の戦闘脳力を持ち、これまで討伐してきた悪魔たちの数は三桁にものぼるという。彼に憧れるものも多く、神官のみならず、国民ですら一歩引いて拝む姿を見かける。
 
 そんな彼らが、ルクスを見て、顔を歪めて引いている。

 絹のように滑らかな髪はところどころ千切れていたりとボサボサで、月のような美しさの髪も土埃と黒いモヤで、一見して使い古した箒のようだ。そしてニキビひとつなかった顔も、今では無精髭と顔のクマでそこらの浮浪者のようだ。いや、もしかしたら、目の前の人物は神官の服をきた浮浪者なのかもしれない。それほどまでにルクスの姿は落ちぶれていた。

「ひどい顔だな! ルクス」

 現れたのはルクスと同じくらいの背丈の青年、ルクスとは違い、黄色味がかった白髪を短く整えている。気安く声をかけた青年は二十代前半だが、ルクスの今の見た目により、もっと若く見える。

「とてもじゃないが、今のお前、俺と同期とは誰が見ても思えないな!」
「・・・そんなにひどい顔なのか? テスラ」
 無礼な物言いをする青年を誰も止めようとはせず、むしろ彼のためにルクスまでの道を確保するために避けている。なぜなら『テスラ・ウェーヴァ』もまた、ルクスと別部隊の隊長であり、人気の神官の一人だからだ。そして、ルクスの親友でもある。

「テスラ、ユニさまは? 任務の報告をしたい」
「そのユニさまから、命令だ。お前はもう帰れ」
「何?」
 突然の親友からのぶっきらぼうな命令に、ルクスの表情が険しさを増す。その様子に周囲は怯えるが、テスラは涼しい顔でルクスを見つめている。
「ルクス、いくら何でも働きすぎだ・・・俺の仕事も持っていったって? いくら人手不足といっても、『ヨタ』のお前が、前線に二ヶ月も活動する必要はないはずだ」
「私は・・・」
「今のお前の状態を知っているからこそユニさまはお前に休暇をお与えになった。報告なんぞ部下に任せても、休暇明けでもできる

……だから、お前は帰れ」

 そう言ったテスラに助力するように、ルクスが率いてきた部下たちも、次々と急き立てる。
「そうですよ! ルクスさま、二ヶ月も休みなしに戦ってきたんですよ! 負傷した神官たちを休ませているのに、自分は前に出て!」
「いや、部隊を守るには当然の……」
「そうですよ! 今ここにいる私たちは、みんなあなたに守られてきた者たちです! 任務報告くらい私たちに任せて先に休んでください!」
「いや、私は……」
「あなたの帰りを待っている人だって……」
「いや、家族はいな……」

 どうにかして仕事に残りたいルクスに、テスラが彼の腕を逃げれないように握りしめる。
「とーにーかーくー、ルクスお前はうちに来い、うちの嫁さんが風呂も飯も用意している」
「私にも家はあるんだが」

 反論するルクスの言葉も遮り、テスラは後のことを他の部下たちに任せて、ルクスを自宅まで引っ張った。途中で馬車を拾い、武器も服もルクスのそのまま押し込んだ。
 ガタゴト揺れる馬車に、今までの疲れがドッと体に押し寄せてきた。このままだと馬車の中で寝てしまいそうだったが、気力だけでどうにか目をこじ開ける。
 やがて馬車が止まると、騎手が馬車の扉を開けた。騎手は疲労困憊のルクスの姿を見て、不安そうな表情を浮かべている。テスラがルクスの腕を引っ張り、扉の向こうへ連れ出そうとする。

「ついたぞ、俺の家だ」
「ああ・・・」

 テスラに引かれるだけのルクスに、騎手は困惑しているようだった。無理もない。なぜならルクスですら、この状況を理解していないのだから。
「テスラ、私はなぜ、君の家に?」

 門構えを過ぎ、玄関まで続く道を進みながらルクスは聞いた。ルクスにだって家はある。だがテスラは呆れたようにルクスの質問に答えた。

「だってお前家に帰っても、二ヶ月も掃除していない家に帰るんだぜ? 玄関開けたらその場でうつ伏せになって、管理人さんに次の朝、悲鳴を上げられるに決まっている」
「そこまでじゃ……」
「いーや、その後に職場の同僚が様子見に来て、そのまま仕事へ行く未来まで見えたね」
「…………」
 何か言い返そうと思ったが、テスラのいう通りの未来が容易に想像できてルクスは何も言えなくなった。

キャハハハ……!
 
 ほぼ反射で声のした方向に、顔を向けた。
 近所で子供の笑い声が大気を伝ってルクスの耳にも届いた。他にも馬の嘶きや、人の雑踏ですら周囲から聞こえてくる。
「……」

 ルクスの住む家は、聖堂地区の一番端で職場から一番遠い場所にある。
 家賃も安く近隣の住民は老人ばかりで静かだ。何より緑豊かな林と川が流れる公園が近くにあるのがルクスのお気に入りだ。対してテスラの家は人家が多く、店や交通量だって多い。賑やかな場所が好きなテスラにとっては良い環境だが、ルクスはそれが落ち着かない。

 玄関までつくと、テスラは呼び鈴を鳴らしてから、扉を開けた。わざわざ呼び鈴を鳴らす習慣のないルクスにとってはそれが異様な行為に見えるが、何も言わなかった。

(これが家族がいる者とそうでない者の差か)

 テスラは扉に真っ先に入ると、奥から現れた女性に向かって抱きしめた。
「帰ったよ、グレイ!客人も一緒だ!」
「お帰りなさい、あなた……ルクスさん? も、ようこそいらっしゃい、……ました」
「お久しぶりです、グレイさん」

 テスラの奥方であるグレイは、穏やかな笑みでルクスを出迎えたが、初めて怪物を見た新人兵士のように恐怖で顔を歪めている。数ヶ月前の見た目の美しかったルクスを知っている分、今の姿は見るに耐えないらしい。

「あー、とにかくルクスを風呂に入れてやってもいいか? こいつ二ヶ月以上前線にいてさ」
「二ヶ月!? それでうちに!?」
 奥方は悲鳴のような声をあげ、ルクスとテスラを交互に見る。
 もっともな意見だ。ルクスだって、知り合いの家に行くならばもっと綺麗な服で行きたかった。
「すまん、グレイ! とりあえず、ルクスを入れてくる!」
色々騒いでいる自分の奥方を置いて、親友を自分の家へと連れていく。テスラは親友の背中を押して浴場へと押し込む。

「一応、魔法で体を清めてはいたのだが・・・」
「それで匂いはそこまでではないんだな・・・でも、見た目はひどいぞ。鏡は見てないんだろ」
「・・・ああ」

 一応、教会にも仮眠室や浴場はあるが、睡眠すらもままならない激務、シャワーを浴びる暇すらなく、唯一使える清浄魔法を自身に使って清めていたのだ。清潔にはできたが、自身の身なりに気を使うことなく、二ヶ月が経過してしまったのだ。

「とにかく、鏡みて、ヒゲ剃ってこい! ちゃんと風呂に入って1000秒ぐらい数えてこいよ! お前いっつもシャワーだけで済ませるんだからな!」
「ああ・・・」

 一人残されたルクスは、仕方なく、着ていた服を脱ぎ風呂に入った。温められたお湯を頭からかぶる。用意されていた洗剤を泡立てて髪や体に擦り付ける。だが髪は洗浄魔法をかけていたのに、泡立ったのは2回くらいお湯を流してからだった。
 身体中の汚れもすべて落とし、髪とヒゲを魔法で整えて二ヶ月前と同程度の身なりにはなった。だが、疲労の溜まった目の下のクマは、睡眠と休息でしか消せそうにない。

「・・・とりあえずは、これで」

 風呂から上がれば、自分の知らぬ衣服が置かれていた。
 おそらくテスラが用意してくれたのだろう。無地のシャツに動きやすそうな色の薄いズボンと上着がカゴの中に入っていた。その横には縮小されたルクスの武器である神具と財布などの貴重品が置かれていた。

 着ていた服が近くに置かれていたり、洗浄されている様子がないのを見ると、多分捨てられたのだろう。

 一応、重要な神官服ではあるのだが、すでに化け物の血や仲間の血をたくさん含んだものだ。洗浄魔法をかけたといえど、見た目だけだ。
 ルクスも服を洗う気力もなく、適当に放っておいただろう。
 
着替えてから、テスラたちがいる部屋までいくと、机の上には豪勢な料理が並べられていた。
と言っても一般家庭の豪華な食事である。だがそれでも、この数ヶ月食卓で食事をとるということをしなかったルクスにとっては、『豪勢な食事』といわざるを得ない。

「・・・すまない」
「気にするな!すべて俺が作った!俺の妻の食事を食べることができるのは俺だけだからな!」
「あなた・・・、ルクスさんが困っていますよ」

 フフン、とふんぞりかえるテスラに、彼の奥方のグレイが困ったように笑っている。ルクスは食事に頭を下げると、そっと食器を取った。

「いただきます・・・」
「おう、くえ」
「「お行儀が悪い」」

乱暴な物言いにルクスとグレイは同時にテスラを嗜める。二人に見つめられたテスラは居心地悪そうに笑った。

◼︎
「俺は職場に帰るが、お前は一旦寝ろ!」
「いや、家で・・・」
「ダメだ! 今帰しただけで、道中の疲労死とか、ユニさまに怒られてしまう」
「くるしい・・・」

 疲労困憊のルクスに寝床を貸すのはわかるのだが、逃げないようにテスラの神具で縛り上げるのは流石にやりすぎだと思う。

「じゃあな! お前は一週間の強制自宅待機だ!」
 
 自宅じゃないのに・・・

「明日から一週間だからな!しっかり寝ろよ!」
「ああ、いってらっしゃい・・・」
 こうしてテスラを見送った。ベッドに縛り付けられたまま・・・

「・・・」
「あら?ルクスさん、もう起きられたのですか?」

 気がつけば、そばにグレイがいた。手にはテスラの神具がある。
 どうやらルクスの体から外してくれたらしい。
 時間を見れば食事を終えてから2時間くらいしか経過していない。グレイの気配で目が覚めてしまったのだろう。起き上がるとグレイが困ったような表情を浮かべている。

「ええっと、ルクスさん・・・旦那から今日は寝かせているようにと言われているのですが」
「いや、もう帰る・・・世話をかけてしまってすまない」
「そうですか、なら馬車を呼びます」

 馬車を手配しようとグレイが、連絡用の魔法具を探しにいこうとした。すると足元に小さな影が取り憑いた。影はグレイの足にしがみつき、ルクスの方を見つめている。

「……お母さん、この人だぁれ?」
「エアル、この人はお父さんのお友達よ。あの有名なルクスさんよ」

 グレイを母と呼んだということは、『エアル』はテスラの子供なのだろう。ルクスは怖がらせないように、そっと微笑んだ。大きな目がルクスを捉える。

「初めまして、エアル。私はルクスという。挨拶が遅れてすまないな」
「……ひっ! うわああああああ‼︎」
「エアル⁉︎」

尋常じゃない泣き喚き方に、グレイが子供の方を注視する。エアルは恐怖のあまり母親からも逃げ出し家の奥に消えていった。グレイは子供を追いかけようとするが、一度だけルクスを見て「失礼します!」と慌てて奥へと消えた。

「……」
 エアルたちが去った後、ルクスは何も言えず、手が震えてしまう。
 だんだん早くなる呼吸に、「落ち着け、落ち着け」と自分に言いきかせるように何度も何度も唱える。

 エアルの尋常じゃない泣き方が、あの時の光景と重なる。
 真っ暗な空、倒れた人に縋り付く子供。
「⚫︎⚫︎⚫︎、⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎」
 何を話しているかわからない。悪魔特有の言語だ。子供がすがりつく人は、ボロボロと土の塊のように崩れていく。うわああああ、と言葉にならない声をあげる子供。

 ルクスは無情にも、縋り付いている子供の影にも神具を突き刺す。
「……っ‼︎」
 子供は胸を突かれたために、声も上げずに力無く項垂れる。

 悪魔はいろんな種類があっていろんな姿でルクスたち神官や人間を襲う。だが倒した悪魔の死骸は残ることはなく、煙のように消えてしまう。その子供だってそのうちの一人だった。

「やめろ・・・やめろ・・思い出すな・・・」
 子供は、・・・消えなかった。
 いつまでもルクスの神具の槍にくっついたままだったのだ。

 その後も何度も何度も、悪魔を殺し続けた……。あの力のなくなった空虚な瞳と冷たい体の子供は、いつまでもルクスに張り付いたままだった。

◼︎
 気がつけば、ルクスの家の近くの公園の中にいた。テスラの家から徒歩でたどり着いたらしい。
 全力で走ってきたのだろう、全身が汗ばんでいて、シャツもぐっしょりと濡れている。

「・・・せっかく風呂に入ったのに」

 ルクスがいる場所は公園の端にある森林、人通りの少ない池の近くだ。最後に時計を見てから、一、二時間が過ぎているだろう。ルクスの周りは真っ暗だ。
 このまま家に帰ることもできたが、近くのベンチに座り、そのまま横になった。

 仕事が終わった時点で、ルクスの体力はほとんど残っていなかったのだ。テスラの家から自宅まで、結構な距離がある。ここまで無我夢中で走ってきたのだ。
 ルクスの意識は眠るように、気を失ってしまった。そして再び目を覚ましたとき、ルクスの周囲は明るく、遠くの空から朝日が顔を出し始めていた。

「……うっ」
 ルクスは朝日に目を細めながら、起き上がる。締め付けられるような頭の痛みを耐えながら、重たい体を引きずる様に帰路へと立つ。きっとテスラが家から消えたルクスを探していることだろう。

「早くテスラに連絡しなければ・・・」

きゃっ、きゃっきゃ

「?」

 ルクスは自分が眠っていたベンチとは反対の方向に視線を向ける。そちらには、森林の入り口の低木と常緑樹がひしめき合っていて、よく見えないが、記憶が確かなら池があったはずだ。

(……こんな時間に子供の声……それも池で遊んでいるのか?)

 こんなところに子供がいるはずがない、もしいるとすればそれは悪魔ではないだろうか…。上着のポケットにしまっていた神具を取り出し、武器へと帰る。森の中でも振り回しやすいナイフに変形した神具を携えてルクスは慎重に森の中へと踏み込んだ。

 道に落ちている枝一つにも注意を払い、森へと踏み込んでいく。池までの距離が近づけは近づくほど、ルクスの耳には水辺で遊ぶ子供の声がはっきりと聞こえた。

(子供の人数は一人?だが水音は子供だけじゃない……近くに大人でもいるのか?)

 ただ朝早くから池で遊んでいる親子連れなら問題はない。もし違っていたときの場合、その時は……。

 池の前の最後の茂みにたどり着いたとき、木の影に隠れてそっ、と池の方を覗き見た。
 朝日に照らされた池の水面は、キラキラと光を反射して何度かルクスの視界を刺激する。
ビシャビシャと音を立てている子供の姿を光の隙間から見つけることができた。五、六歳の子供だろうか、背はルクスの腰の高さよりも低く、ルクスの手の平にお尻をつけて座れそうなほど小さい。
「……」
 ルクスは子供の姿を見て、何も言えなかった。絶句していたと言ってもいい。なぜなら、子供が遊び相手として、水をかけていたのは、ルクスの3倍の背丈はありそうなほどの水の精獣だったからだ。

パキっ!

 意図せずに引いた足から、乾いた音を立てる。見ると枝を踏みつけてしまったらしい。
「「!!」」
(! しまった!)

 運悪く、ルクスの存在に気がついてしまった彼らは、茂みの中にいるルクスと目があった。
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