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第54話

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 翌日、俺たちは冒険者ギルドにて予定通り迷宮探索の依頼を受注。
 街で準備を済ませて、最近近くに出現したらしい迷宮へとやって来た。

 グレイヴェンから南に馬車で数時間程移動したさき。
 不自然に盛り上がった土の山にポカリと空いた巨大な穴が目的地だ。

 人が横一列で五人ほどは入れる大きさのソレは、斜め下方向に向かって地下へと続いている。当然ながらここから見た限りじゃ、最奥は見ることが出来ない。


「深い穴ですね……。この最深部に魔王がいるのですか?」

「ううん。ここにはいないよ。最深部にいるのは、ガーディアンって呼ばれる他の魔物よりも強力な魔物かな? 魔王がいるのははるか南――海を越えた先の大陸にある『魔界へ続く大穴』、とされてるよ」


 そこにはレベルも高く、厄介な技を使う魔物がウジャウジャいる。
 その迷宮最下層……確か100層目が最終目的地である魔王の間だ。
 
 まぁ、この世界ではどうなってるのかは分からないけど。
 

「おっ、冒険者を目指してるだけあって勉強してるな!」


 エリスの問いに答えていると、隣のエリオットがそう言う。
 
 俺の場合は勉強してるというよりは、ゲームの知識を口にしただけだが。
 どうやら現実でも同じような物らしい。
 
 そう思っていると、少し離れたところでセリーナが魔術を発動。
 地面に真っ白な魔法陣が展開した。
 アレは確か、転移魔術だったか。

 と、見ているとセリーナがこちらにやって来る。


「ガーディアンを倒すと迷宮は閉じるからね。あっという間に閉じるから、こうして脱出用の転移魔術を用意してないと生き埋めにされちゃうの」

「なるほど。だから、転移魔術を用意したのか……」
 
「そっ。扱うには膨大な魔力が必要。さらに言えば、この魔術が扱えない冒険者パーティは迷宮探索を受注できないの」


 そういえば、依頼書にも『転移魔術必須』とか書いてあった気がする。
 アレは最深部からの移動が面倒だから使えれば便利くらいに思っていたが。
 ガーディアン討伐後に迷宮が閉じるから必須という意味だったのか。

 それにしても不思議だ。
 
 ゲームじゃ迷宮は踏破しても消えることは無かったはずだ。
 経験値稼ぎや装備に必要なドロップ品目当てに潜ることも何度かあったし、その度に魔物もガーディアンも復活を果たしていた。

 全部が全部ゲームと同じというわけではないらしい。


「それじゃあ、行きますか!」


 エリオットの一声と共に迷宮内に足を踏み入れる。
 階段なんて便利なものがあるはずもない急傾斜の道を降りていくと、段々と横幅も広がり壁や床の材質も変化していく。

 入口から差し込む光が薄れ、迷宮内部が暗くなり。
 壁や床も人の手が加わったかのようなものに変化。
 耳を澄ましてみれば、奥深くから魔物のものによるうめき声にも似た声が聞こえてくるようになる。……軽くホラーだ。

 などと思っていると、ふと近くに水溜りのようなものがあるのに気づく。


『マスター、気を付けてください。なんだか、ソレから嫌な感じがします』

「嫌な感じ?」


 パッと見た感じはただの水だが。
 目を凝らしてみてみれば、それは水銀の様にドロドロとした銀色の液体。
 確かに、見た目だけでも危険な代物だと判断できる。

 そうやって観察していると肩を掴まれた。
 見ればエリオットが俺の肩に手を置いており、真剣な表情を浮かべていた。


「大将、それには触れない方が良いぜ? そりゃ『瘴液』だ」

「『瘴液』って……。魔物の血みたいなもの、でしたか?」


 迷宮内にだけ生成されるもので。
 蒸発もしなければ地面に浸透することもない不思議な液体だ。
 
 魔物はここから這い出てくるため、見つけ次第唯一効果がある魔術でぶっ飛ばす、というのが正しい対処法とのことで。

 エリオットに促されるままに距離を離すと同時に。
 セリーナが炎の中級攻撃魔術エクスプロージョンで吹き飛ばしていた。
 

「あぁ。それだけでも危険な代物だが、何より一番警戒するべきはちょっとでも触れると体を犯され魔物になっちまうことだ……」


 不用意に『瘴液』に触れて、魔物に変貌してしまった同僚をこれまで何度も見てきたとエリオットは告げる。ある意味、魔物以上の脅威なのだと。


「一度ソレに触れたら最後だ。魔物になるのは誰にも止められねぇ。俺らも恩人を敵に回すのは勘弁してほしいからな。大将も十分に気を付けてくれ」

「……わかりました」


 俺の返答にエリオットは頷く。
 それから迷宮の奥を親指で差し、「先に進もうぜ」と口にした。


「……止められない、か。そういえば、だったな……」

『マスター? どうかされたのですか?』

「――いや、なんでもないよ。俺たちも行こうか」


 エリスの言葉にそう返し、エリオットらに続いて迷宮奥地へ進むのだった。
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