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第43話

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 ――少し時は遡る。

 エリスの報告を聞いて家を飛び出し空を滑空。
 しばらく進むと、彼女の言う冒険者パーティと、
 それを追うギガムペデスの姿を確認した。


『マスター! アレです!』

「うん。分かってる……。けど、何でギガムペデスが地上にいるんだ……?」


 ギガムペデスは迷宮内にのみ存在する大型の魔物だ。
 しかも、階層的には30階以上は下回らないと出現しない。
 
 迷宮に出現する魔物は、階層を下るごとにその強さも過激化していく。
 それは地下に行くほど、創造主である魔王の力をより濃く受けるから。
 そうゲームの説明書には書かれてあった気がする。
 
 30階層を住処とするギガムペデスの厄介さはかなり高いと言えるだろう。
 だからこそ不思議だ。なんで地下にいるはずの魔物が地上にいるんだ?
 やっぱりゲームじゃなく現実だからだろうか?


「……って、考えてる場合じゃないな! エリス、あのギガムペデスの頭上で浮遊魔術を解いて! 落下攻撃で倒す!」

『分かりました! では、地面に達する直前にまた浮遊魔術を使いますね!』

「助かるよ!」


 言うや否や、風魔術を全開にしてギガムペデスの頭上へ。

 瞬間消失する浮遊感とやってくる重力。
 背中のエリスを引き抜いて、腕を目標に向ける。
 放つのは炎の初級攻撃魔術ファイアボールだ。

 それをギガムペデスの体にぶつける。
 ダメージは期待してない。この魔術の目的は注意を向けさせることだ。

 そして、作戦は見事に成功した。
 突如攻撃を受けた相手は足を止めて攻撃してきた下手人こちらの方を向く。
 長い体を逸らして、鋭利な顎のついた顔をこちらに向けた瞬間。


「――っ!」


 その顔面を胴体ごと斬り刻む。
 緑の血飛沫が噴水の如く飛び出し。
 その巨体が胴体半分ほどまでパカリと割れて倒れ伏す。
 
 俺はエリスの補助で地面に無事着地した。


『やりましたね、マスターっ!』

「うん。それにしても、エリスってかなり刃が鋭いね。ギガムペデスの甲殻ってかなりの強度があるはずだよ? それを豆腐みたいに真っ二つって……」

『えへへ……。お褒めにあずかり光栄です!』


 エリスの心情を現すかのように剣がほのかに赤く輝く。
 無駄に器用なことをするね、キミ……。

 などと考えながら、俺は振り返る。
 そこには追われていた冒険者たちがいて。
 最後の抵抗を見せようとしていたのか、得物を手に硬直していた。

 その表情は驚愕に染め上げられている。

 それもそうだ。

 手も足も出ず、ただ逃げることしか出来なかった魔物。
 それを自分たちよりはるかに年下の少年が倒したんだ。
 こうなるのも無理はないだろう。


「――大丈夫ですか?」


 一声かけてみる。
 すると、しばらく間を開けて三人はその場に腰から崩れ落ちる。
 それから安堵の表情を浮かべてこちらを見遣る。


「た、助かったよ、ありがとう……!」


 おそらくパーティのリーダーらしい男性が、代表して口にする。
 他の二人は抱き合って涙を滝のように流し。
 「良かった!」「良かったよぉぉぉ!」と叫んでる。

 リーダーほど心の余裕が無いと見えた。


『なんというか、騒がしい人たちですね』

「それだけ怖かったんだよ」


 死ぬのは誰だって怖いものだ。
 しかも、巨大な魔物に生きたまま食われるなんてもってのほかである。
 それこそ寝ている間にポックリ死んだ俺がまだマシに思えるほどだ。

 
「とにかくハルバ村に戻りませんか? ここじゃなんですし」


 エリスとの会話を切り上げて、リーダーの男性にそう提案する。
 俺の言葉に彼は力ない笑みを浮かべて「そうしようか」と返してきた。
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