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第36話

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(――まさか、アストレアが婚約者になるとは……)


 故郷の村への帰路の最中。
 クロヴァルのワイバーンの背でそんなことを考える。
 元々彼女とは敵対する気は無かったが。
 まさか婚約者になるとは。

 俺たちゲームじゃ敵対同士なのに。
 恋人になるルートも快楽堕ちみたいな感じで、恋愛の『れ』の字もないぞ?
 それなのに、こうも簡単に関係が進むとは。

 流石に予想外だ……。


「マスター、本当に婚約者になるつもりなんですか?」

「ん? 何で?」

「だって、婚約者って結構面倒くさそうでしたよ?」


 背中に座るエリスがそう言う。
 婚約者になれば、様々なことに参加しなくてはならなくなる。
 例えば誕生日パーティ。
 
 仮にダンスパーティになれば、その相手を務めなければならないし。
 プレゼントだって準備しなくてはいけないだろう。

 勇者は魔王討伐で忙しいのに。
 そんなことしてて大丈夫なのか?
 と、エリスはそう言っているのだ。
 

「ちなみに、それって誰情報なの?」

「わたしを抜きに来た王族の誰かが言ってました!」

「な、なるほど……」


 確かに、王族って気苦労絶えなさそうだもんな……。
 などと考えながら、俺は前に跨るクロヴァルに声を掛ける。


「クロヴァルさん」

「はい、なんでしょう」

「アストレアみたいな王族って、毎年パーティ開催するんですか?」

「そんなことはありませんとも」


 クロヴァルは即座に首を横に振って否定した。
 今回の俺の誕生日パーティは勇者の誕生を祝うのも一つだが。
 その存在を国民に知らしめる意味でも開いたとのことらしい。

 普通は10歳と15歳のときに、計二回大きなものを開くのだとか。
 ちなみにこの世界では15歳で成人認定らしいので。
 15歳の誕生日パーティは酒盛りになりがちだそうだ。


「10歳の誕生日――だいたい三年程か……」

「何がですか?」

「アストレアの誕生日だよ」


 七歳だと言っていたからな。
 婚約者として参加するべき誕生日パーティまでは三年あるということだ。
 それまでに色々準備しないといけない。

 ダンスパーティが開催されるなら当然相手は俺だろうから。
 アストレアの面目を潰さないためにも、練習は必須だし。
 他にも誕生日プレゼントだって――――


「……あっ」


 そこまで考えて俺は気づいた。
 俺って無一文じゃないか。
 
 働いていないのだから当然だが。
 小遣いの一つも貰っていない俺にプレゼントなんて用意できるわけがない。
 早くも厄介な壁が俺の前に立ちはだかってきたぞ。

 婚約者なのにプレゼントも用意できないなんて。
 甲斐性無しにもほどがある。
 もしも、それでアストレアの機嫌を損ねてみろ。
 物理的に首が飛ぶだろうか……?

 分からないが、そんなの嫌だ。
 

「……こうなったら、働くしかないな」


 お金が無いなら稼げばいいじゃない。
 まだ五歳のガキではあるが、そんな俺でも働ける場所を一つ知ってるし。
 

「働くですか……? あの、ご両親のお手伝いとかですかね?」

「それも良いけど、もっと効率的に稼げる場所に行こうかな」


 その名も冒険者ギルド。
 その気さえあれば、老若男女関係なく働ける場所である。
 
 仕事内容は、魔物討伐から地域貢献まで幅広く。
 ゴロツキから貴族まで、幅広い人員が所属している。
 たまに冒険者同士で依頼の取り合いなんかもあるそうだが。
 命の取り合いにまでは発展しない……はずである。

 命を懸ける仕事もあるわけだから、場合によっては報酬も期待できる。
 一攫千金も夢ではないのだ。


「凄く胡散臭いんですけど……。そんなところに行って大丈夫ですか?」

「多分大丈夫だよ。だって、父さんだって冒険者なんだから」


 帰ったら父さんに、次の冒険に連れてってもらえないか相談してみよう。
 
 グリムヴェルスとの戦いでは泣かれてしまったから。
 もしかしたら、反対されるかもしれないが……。
 まぁ、その時は諦めて別の方法でも模索するとしよう。
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