上 下
26 / 57

第25話

しおりを挟む
 それからの話をしよう。

 真夜中に王都へ魔物が侵入したこと。
 及び勇者によりそれが討伐されたことは、瞬く間に王都全域に伝わった。
 というか、アルフレッドが自ら大々的に発表していた。

 元々泊りがけだった誕生日パーティーだったらしく。
 俺のために用意された城の一室を借りて、一夜過ぎた翌朝のことだ。
 窓の外から聞こえる誰かの声で俺は目を覚ました。


「……」


 目が覚めて、まず目に入るのはエリスの非常に整ったご尊顔。
 まだ眠っているのか、瞳は閉じられ規則正しい寝息が聞こえてくる。
 朝から少々刺激が強い光景だが、まぁ悪い気はしない。

 そんなエリスを起こさないように彼女の腕の中から脱出を試みる。
 背中に回された腕の力は入っておらず。容易に出ることができた。
 
 そうして寝ぼけ目の状態でベランダに立つとアルフレッドの声が聞こえてきた。


「――先日の夜、魔物侵入があった! しかし、安心してほしい! 魔物は勇者によって討ち滅ぼされた! わたしは見た、勇者の圧倒的な力を――――」


 そんな感じで話していたと思う。
 演説の合間には歓声も沸いていたし。
 きっと多くの王都民が招集されていたことだろう。

 演説の中には『勇者が魔物を討伐した』ことの他にも。
 『今日という日を存分に満喫してくれ』みたいな声も聞こえてきたし。

 もしかしたら、街の方で祝宴祭でも催すのかもしれない。


「エリスやアストレアを連れて行ってみようかな」

 
 そんなことを口にしながらあくびを一つしていると部屋の扉がノックされた。


「ヴァイアス様、起きておられますでしょうか?」


 聞こえてきたのは男性の声。
 その声には聞き覚えがある。

 確か、昨日にこの部屋に案内してくれた執事さんだったか。
 扉に向かいドアを開けると、正しく老執事さんその人で。
 彼は俺を目の前に軽くお辞儀する。


「おはようございます、ヴァイアス様。よくお眠りになられましたか?」

「はい。おかげさまでぐっすり眠れました」


 ふかふかで柔らかな羽毛布団だったからな。
 家のベッドもそれなりに良いものだが。
 やはりこの部屋の上質な布団には勝てそうにない。
 
 何せ入った瞬間に睡魔に負けるくらいだし。
 きっと毎日の手入れも欠かしていないのだろう。


「それはようございました」

「それで、俺に何か用ですか……?」

「実は、お嬢様から伝言を仰せつかりまして」


 アストレアから?
 こんな朝からどうしたのだろう。


「今日は勇者ヴァイアス様の生誕祭と、魔物討伐の祝いを込めての祝宴祭が街で催されるのですが。お嬢様が良ければ一緒に行きたいと申しておられまして……」

「なるほど。そういうことですか」


 やはり街の方では祝宴祭が催されるようだ。
 
 執事さんが言うには、街を挙げての豪華なものを企画しているとのこと。
 元々生誕祭は企画されていたようだが。
 そこに『魔物討伐を完遂』が付け加えられるらしい。
 まぁ、ただそれだけらしいけど。


「お嬢様は、今日の祭りには必ずヴァイアス様と行くのだとはしゃいでおりまして……。昨日から眠れぬご様子でした」

「あはは。それは一緒に行かないと機嫌を損ねそうですね」

「ええ。可愛らしいお方です」


 そうして執事さんは微笑む。
 その表情は、まるで可愛い孫の話をする祖父のようだ。
 

「では、アストレアに伝えてもらえますか? ご同行させてもらいますと」

「ええ、承りました。ヴァイアス様、ありがとうございます」


 そうして再度一礼する執事さんを見送り。
 俺は祝宴祭に向けての準備を始めることにした。

 さて、まずはエリスを起こすことから始めるとしようかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?このままだと鬱ENDらしいので、ヒロイン全員寝取ってハピエン目指します!

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ファンタジー
「助けて、このままじゃヒロインに殺される……!!」 気が付いたら俺はエロゲーム世界のモブキャラになっていた。 しかしこのエロゲー、ただヒロインを攻略してエッチなことを楽しむヌルいゲームではない。 主人公の死=世界の崩壊を迎える『ハイスクール・クライシス』というクソゲーだったのだ。 ついでに俺がなっちまったのは、どのルートを選んでも暗殺者であるヒロインたちに殺されるモブキャラクター。このままではゲームオーバーを迎えるのは確定事項。 「俺は諦めねぇぞ……トワりんとのハッピーエンドを見付けるまでは……!!」 モブヒロインの家庭科教師に恋した俺は、彼女との幸せな結末を迎えるルートを探すため、エロゲー特有のアイテムを片手に理不尽な『ハイクラ』世界の攻略をすることにした。 だが、最初のイベントで本来のエロゲー主人公がとんでもないことに……!? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位! ・総合週間ランキング1位! ・ラブコメ日間ランキング1位! ・ラブコメ週間ランキング1位! ・ラブコメ月間ランキング1位獲得!  魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。  幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。  そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。  これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

処理中です...