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第22話
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『上手くいきましたね、マスターっ!』
「うん。エリスのおかげだよ」
握った聖剣から聞こえてくるエリスの言葉にそう返す。
俺がエリスに持ち掛けたお願いは三つ。
ルクレイアを覆う結界を一部分だけ解除することと。
結界の解除と同時にルクレイア内部に侵入する何かがいたとしたら。
そいつを別の結界を用いて捕獲すること。
後の一つは単純で。
おそらく戦闘になるから、ずっと聖剣状態でいて欲しいということだ。
以上三つをお願いしてみたところ、エリスは快く承諾。
『わたしの力を見ててくださいねー!』
と、張り切って結界の解除とグリムヴェルスの捕獲を完遂してくれた。
これは後で何かしらお礼を用意した方が良いかもしれない。
それだけのことを彼女はしてくれたのだ。
原作の鬱エピロードの一つを起こさずに済んだし。
王都崩壊を防ぐことに成功したのだから。
「……勇者、ヴァイアス……。この結界は貴様の仕業か……!」
「正確には聖剣に宿る相棒のおかげだけどね」
ついでにこうして空を浮遊しているのもエリスのおかげである。
彼女が扱う魔術の中には重力操作が可能なものもあり。
それを用いれば翼の無い生き物でもこうして宙に浮くことが出来る。
欠点は重力が操作できるだけで、推進力が無いことか。
とはいえ、そこは風魔術でいくらでも代用可能だから問題ないだろう。
「ほぉ……。それで……? こうして俺様を捕らえてどうするつもりだ? まさか、このグリムヴェルス様を討伐するつもりではないだろうな……!?」
「そのまさか、と言ったらどうする?」
即答してみれば、グリムヴェルスの額に血管が浮かび上がる。
ただでさえ不細工な猿顔なのに。
湧いて出る怒りの影響か、更に酷いありさまだ。
そんなグリムヴェルスは指先をこちらに向けて叫びだす。
「いい気になるなよ、クソガキがッ! この俺様を捕らえただけで勝ったつもりか!? 魔物の恐ろしさを見せてくれるわぁっ!」
その一声と共に、無詠唱で放たれる巨大な火球。
おそらくは『炎の初級攻撃魔術』だろうか。
後に魔王幹部に昇りつめる未来があっただけはある。
凄まじい熱と質量だ。
基本修行をしない原作ヴァイアスなら死んでたな……。
そう考えながら、俺は右手のひらを奴の魔術に向ける。
そうして無詠唱で発動したのは『水の初級攻撃魔術』だ。
瞬時に出現した、奴の火球を上回るほどの質量を持った水の球体。
それは向かってくる火球を飲み込み、一瞬で消化した。
「……なにっ!?」
「母さんが言っていた。魔術の質は、それすなわち術者の実力だって。けど、まさかこの程度とは……。正直少しがっかりしたよ……」
あんなにキレ散らかしておいて、放つのが初級攻撃魔術というのも笑えない。
一応未来で幹部やってるんだから、せめて中級くらい放てないのか?
自称魔物一の知恵者が聞いて呆れる。
『マスター、結構口が悪いですね。何かあの魔物に恨みでもあるんですか?』
「もちろん。アイツには昔、随分とお世話になったよ」
エリスの問いかけにそう返しながら、俺は昔を思い返す。
ゲームを始めて最初に敗北したのもコイツだったし。
初の敗北イベントを見せられたのもコイツだ。
そこまで順調に進んでいたのに、ゲーム中盤に来ていきなりの敗北。
洗脳の厄介さのせいで中々勝てず。
対処法が分かるまでひたすら戦っていたのを今でも覚えてる。
他にも『洗脳』を使用して数々の胸糞イベントを生み出した元凶だ。
そんな相手に恨みを抱かぬはずがない。
などと考えていると、目の前にグリムヴェルスの姿。
魔術では勝てないと判断したのか。
接近戦に切り替えたらしい。
「だらしゃぁぁぁっ!!」
「おっと……!」
振り下ろされる鋭利な爪での引き裂き攻撃を聖剣で弾き飛ばす。
ガキンッと堅いもの同士がぶつかった音が木霊し。火花が飛び散る。
「ギシャァァァァァッ!!!」
奇声を発しながら立て続けに繰り出される爪攻撃だが。
全て大振りな上に、フェイントの一つもない愚直極まりないものだ。
軌道に合わせて聖剣を構えれば、そこに必ず爪が振り下ろされる。
こんなに対処しやすい攻撃は他にないんじゃないか?
「ぐぬっ! クソがぁぁぁぁ!!!」
最初は怒りに任せて攻撃していたグリムヴェルスだが。
数をこなすうちにその表情に焦りが見え始める。
息も乱れ始めてるし、汗も滝の如くあふれ出ている。
攻撃もヤケクソ気味だ。
そんなグリムヴェルス姿を目の当たりにしたエリスは言う。
『マスター。この魔物、もしかして……滅茶苦茶弱いのでは?』
「少なくとも、強いほうではないのは確か……だなっ!」
「……ぐえぇっ!?」
エリスの言葉にそう返しながら、俺は奴の顔面を蹴り飛ばした。
「うん。エリスのおかげだよ」
握った聖剣から聞こえてくるエリスの言葉にそう返す。
俺がエリスに持ち掛けたお願いは三つ。
ルクレイアを覆う結界を一部分だけ解除することと。
結界の解除と同時にルクレイア内部に侵入する何かがいたとしたら。
そいつを別の結界を用いて捕獲すること。
後の一つは単純で。
おそらく戦闘になるから、ずっと聖剣状態でいて欲しいということだ。
以上三つをお願いしてみたところ、エリスは快く承諾。
『わたしの力を見ててくださいねー!』
と、張り切って結界の解除とグリムヴェルスの捕獲を完遂してくれた。
これは後で何かしらお礼を用意した方が良いかもしれない。
それだけのことを彼女はしてくれたのだ。
原作の鬱エピロードの一つを起こさずに済んだし。
王都崩壊を防ぐことに成功したのだから。
「……勇者、ヴァイアス……。この結界は貴様の仕業か……!」
「正確には聖剣に宿る相棒のおかげだけどね」
ついでにこうして空を浮遊しているのもエリスのおかげである。
彼女が扱う魔術の中には重力操作が可能なものもあり。
それを用いれば翼の無い生き物でもこうして宙に浮くことが出来る。
欠点は重力が操作できるだけで、推進力が無いことか。
とはいえ、そこは風魔術でいくらでも代用可能だから問題ないだろう。
「ほぉ……。それで……? こうして俺様を捕らえてどうするつもりだ? まさか、このグリムヴェルス様を討伐するつもりではないだろうな……!?」
「そのまさか、と言ったらどうする?」
即答してみれば、グリムヴェルスの額に血管が浮かび上がる。
ただでさえ不細工な猿顔なのに。
湧いて出る怒りの影響か、更に酷いありさまだ。
そんなグリムヴェルスは指先をこちらに向けて叫びだす。
「いい気になるなよ、クソガキがッ! この俺様を捕らえただけで勝ったつもりか!? 魔物の恐ろしさを見せてくれるわぁっ!」
その一声と共に、無詠唱で放たれる巨大な火球。
おそらくは『炎の初級攻撃魔術』だろうか。
後に魔王幹部に昇りつめる未来があっただけはある。
凄まじい熱と質量だ。
基本修行をしない原作ヴァイアスなら死んでたな……。
そう考えながら、俺は右手のひらを奴の魔術に向ける。
そうして無詠唱で発動したのは『水の初級攻撃魔術』だ。
瞬時に出現した、奴の火球を上回るほどの質量を持った水の球体。
それは向かってくる火球を飲み込み、一瞬で消化した。
「……なにっ!?」
「母さんが言っていた。魔術の質は、それすなわち術者の実力だって。けど、まさかこの程度とは……。正直少しがっかりしたよ……」
あんなにキレ散らかしておいて、放つのが初級攻撃魔術というのも笑えない。
一応未来で幹部やってるんだから、せめて中級くらい放てないのか?
自称魔物一の知恵者が聞いて呆れる。
『マスター、結構口が悪いですね。何かあの魔物に恨みでもあるんですか?』
「もちろん。アイツには昔、随分とお世話になったよ」
エリスの問いかけにそう返しながら、俺は昔を思い返す。
ゲームを始めて最初に敗北したのもコイツだったし。
初の敗北イベントを見せられたのもコイツだ。
そこまで順調に進んでいたのに、ゲーム中盤に来ていきなりの敗北。
洗脳の厄介さのせいで中々勝てず。
対処法が分かるまでひたすら戦っていたのを今でも覚えてる。
他にも『洗脳』を使用して数々の胸糞イベントを生み出した元凶だ。
そんな相手に恨みを抱かぬはずがない。
などと考えていると、目の前にグリムヴェルスの姿。
魔術では勝てないと判断したのか。
接近戦に切り替えたらしい。
「だらしゃぁぁぁっ!!」
「おっと……!」
振り下ろされる鋭利な爪での引き裂き攻撃を聖剣で弾き飛ばす。
ガキンッと堅いもの同士がぶつかった音が木霊し。火花が飛び散る。
「ギシャァァァァァッ!!!」
奇声を発しながら立て続けに繰り出される爪攻撃だが。
全て大振りな上に、フェイントの一つもない愚直極まりないものだ。
軌道に合わせて聖剣を構えれば、そこに必ず爪が振り下ろされる。
こんなに対処しやすい攻撃は他にないんじゃないか?
「ぐぬっ! クソがぁぁぁぁ!!!」
最初は怒りに任せて攻撃していたグリムヴェルスだが。
数をこなすうちにその表情に焦りが見え始める。
息も乱れ始めてるし、汗も滝の如くあふれ出ている。
攻撃もヤケクソ気味だ。
そんなグリムヴェルス姿を目の当たりにしたエリスは言う。
『マスター。この魔物、もしかして……滅茶苦茶弱いのでは?』
「少なくとも、強いほうではないのは確か……だなっ!」
「……ぐえぇっ!?」
エリスの言葉にそう返しながら、俺は奴の顔面を蹴り飛ばした。
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