上 下
21 / 57

第20話

しおりを挟む
「けれど、聖剣として待ったかいがありました……。こうしてマスターと会えましたから!」

 ひとしきり嘆いた後に、涙を拭きながらエリスは微笑む。
 胸の内に秘めたものを吐き出していくらかスッキリしたのだろう。
 少しだけ表情も明るい。

 さて、そんな彼女が俺に善福の信頼を向けてきてるわけだが。
 そこまで心を許してくれるようなことしただろうか?

 
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺って何もしてないよ?」

「そんなことありません。わたしはマスターによって救われました!」


 曰く、エリスの魔力は日を追うごとに減少していたらしい。
 魔力はその者の力の源。つまりは生命エネルギーだ。 
 それが尽きるということは、すなわち死を意味する。
 
 あと少しでも遅ければ、最悪誰にも自分を認知されないまま死んでいた。
 そうエリスは苦笑する。
 

「わたしは不老ですが、不死ではありません。ましてや、食事も魔力供給も絶たれていたわけですし……。本当に危ない状況だったんですよ?」

「……だから、俺を信じてると?」

「はいっ! いえ、信じている程度ではありません! 愛していますっ!」

「そんな大げさな……」


 まだ出会って数分しか経っていない。
 にもかかわらず愛してるとか。随分とチョロい聖剣である。
 
 そういえば、原作のヴァイアスだってなんだかんだ聖剣は所有していた。
 じゃあ、彼のような奴クソ野郎でも聖剣は抜けたのだろうか……。


「エリス。仮にキミの前に現れた奴がクズだったらどうなっていた?」

「……クズ、ですか? どの程度のでしょう……?」

「窃盗、暴力、強姦と、自分の欲に忠実なクズ野郎かな……?」

「……マスター、難しい言葉をよくご存じですね」


 そりゃ中身はもういい大人ですから。

 とは口に出さずにエリスの返答を待つ。
 彼女は顎に指を添えて、『う~ん』と悩んだ末に答えた。


「そもそも、そんな奴には抜けませんね。勇者の資格があるわけないです」

「そりゃそうだよな……」

「はい! わたしにだってマスターを選ぶ権利くらいはあるんですから!」


 と、そう答えるエリスだが、『でも……』と言葉を付け加える。


「もしも……もしもですよ? マスターのような勇者の証を持つ人が相手だったら、呆気なく抜かれていたかもです……」

「そうなのか……?」

「はい……。多分、そのショックでわたしも死んじゃうかもですね」


 弱り切っていたエリスに、勇者の力を拒むのは難しい。
 なるほど。だとしたら、原作のヴァイアスは普通に聖剣に挑戦し。
 呆気なくソレを達成したのかもしれない。

 だが、そのせいでエリスは姿を現すことなく死亡。
 だとしたらルクレイアを覆う結界はどうなって……あっ!

 
「……仮にキミが死んだら結界はどうなっていた?」


 アストレアが言うには、結界は聖剣から発生している。
 
 もしも、仮にそれがエリスが生きているからこそ機能する。
 そんな条件で働いていたなら、彼女が死んだ場合はどうなるんだ。

 問いかけてみると、エリスは悲し気に目を伏せて答えた。

 
「もちろん結界は壊れ、魔物が押し寄せてきていたでしょうね……」

「……そうか。そうだよな」


 これは仮説だが。
 アストレアが王都を追われる原因となった魔物の襲撃。
 
 ゲームでは『昔』としか表記されていなかったが。
 もしかしたら、ヴァイアスの誕生日……。
 つまり、今日だった可能性が高いのではないだろうか?

 仮にそうだとしたら、かなり危ないところだったぞ……!
 襲撃の中には魔王軍の幹部が一人紛れ込んでいたはず。
 
 厄介なのはその力。
 『洗脳』で記憶を改竄。相手を意のままにするコントロールする能力だ。
 奴一人の能力のせいで、ノーマルルートじゃ国が完全に崩壊していたし。

 戦闘面でも、奴を囲う敵キャラが無限沸きで面倒だった覚えがある。
 
 おまけに性格が歪んでいたからな。
 幹部の中では特にプレイヤーから特に嫌われていたはず………………。


「……なぁ、エリス。結界ってまだルクレイアを覆ってるの?」

「……え? はい。さっきの食事で魔力も回復しましたし」

「じゃあ、部分的に結界の開閉とか。他にも結界を作ることってできる?」

「えっと、そうですね。おそらくは可能かと……。それが何か……?」

「いや、少しやってほしいことが出来たみたいでさ……」


 ……もしかしたら、暫定幹部を一人消せるかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼畜なエロゲ世界にモブ転生!?このままだと鬱ENDらしいので、ヒロイン全員寝取ってハピエン目指します!

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ファンタジー
「助けて、このままじゃヒロインに殺される……!!」 気が付いたら俺はエロゲーム世界のモブキャラになっていた。 しかしこのエロゲー、ただヒロインを攻略してエッチなことを楽しむヌルいゲームではない。 主人公の死=世界の崩壊を迎える『ハイスクール・クライシス』というクソゲーだったのだ。 ついでに俺がなっちまったのは、どのルートを選んでも暗殺者であるヒロインたちに殺されるモブキャラクター。このままではゲームオーバーを迎えるのは確定事項。 「俺は諦めねぇぞ……トワりんとのハッピーエンドを見付けるまでは……!!」 モブヒロインの家庭科教師に恋した俺は、彼女との幸せな結末を迎えるルートを探すため、エロゲー特有のアイテムを片手に理不尽な『ハイクラ』世界の攻略をすることにした。 だが、最初のイベントで本来のエロゲー主人公がとんでもないことに……!? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠
ファンタジー
騎士として清くあろうとし国民の安寧を守り続けようとした主人公カリヤは、王都に侵入した魔獣に襲われそうになった少女を救うべく単独で撃破する。 あれ以来、少女エドナとは恋仲となるのだが「聖騎士」の称号を得るための試験を間近にカリヤの所属する騎士団内で潰し合いが発生。 カリヤは同期である上流貴族の子息アベルから平民出身だという理由で様々な嫌がらせを受けていたが、自身も聖騎士になるべく日々の努力を怠らないようにしていた。 そんなある日、アベルに呼び出された先でカリヤは絶望する。 恋人であるエドナがアベルに寝取られており、エドナが公爵家令嬢であることも明かされる。 それだけに留まらずカリヤは令嬢エドナに強姦をしたという濡れ衣を着せられ国王から処刑を言い渡されてしまう———

英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位! ・総合週間ランキング1位! ・ラブコメ日間ランキング1位! ・ラブコメ週間ランキング1位! ・ラブコメ月間ランキング1位獲得!  魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。  幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。  そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。  これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...