エロゲの悪役に転生したけど、破滅するのは嫌なので全力で勇者を遂行します!!

ボッさん

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第16話

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 どうやら原作ヴァイアスは聖剣を引き抜いていたらしい。
 あのさび一つない刀身と白金色に統一された柄。
 鍔の中央には美しい空色の宝石が輝いている。

 何度見ても間違いない。アレはヴァイアスの剣だ。
 ゲームで何度か対峙したとき、最初から彼が持っていた装備である。

 まさか、それが聖剣だったとは思いもしなかった。


「どうだい、ヴァイアス。キミになら抜けそうかな?」

「……それは、やってみないと分からないかな」


 原作のヴァイアスに出来たなら大丈夫だとは思う。
 と、自分に言い聞かせながら石碑の前へ。


「――っ!?」

「ヴァイアスっ!?」


 瞬間、手の甲が熱を帯び始める。
 熱い……! まるで、熱湯に浸けたかのようだ。
 思わずその場に蹲り、手を押さえる。

 見れば、手の甲にある勇者の紋章が淡い輝きを放っていた。


「ヴァイアス! どうした……! ――それはっ!」

「うん。どうやら、紋章が共鳴してるみたいだ……!」


 慌てて近寄ってきたアストレアに苦笑しながら答える。
 
 勇者にしか抜けないというのは本当らしい。
 そんなことを考えながら、熱さに耐えながら立ち上がる。

 心配そうにこちらを見据えるアストレアに笑みを見せて。
 聖剣に向けて歩き出す。


『………………ス……ァ……』


 やばいな。聖剣に近づくにつれて、幻聴まで聞こえてきたらしい。
 
 しかも、頭の中に直接響いてくる感じがする。
 おかげで少し頭痛がしてきた。

 
「……ハァ、ハァ」

「ヴァイアスっ! 大丈夫かっ!?」

「なん、とかね……」


 手の熱に加えて頭痛までしている現状。
 最悪の状態には違いない。

 とはいえ、聖剣入手のイベントには厄介な壁がつきものだ。
 これがその壁だというのなら、敵と連戦とかに比べれば遥かにマシだ。
 
 自分にそうやって言い聞かせながら、鞭打って無理矢理体を動かす。
 そうやって這うように石碑の頂点に昇り、聖剣の前までやって来た。


『……っと、き……れ……した……スタァ…………』


 ここまで来ると、幻聴は言葉を話していると理解する。
 
 こういうのは基本的に挑戦者のやる気を削ぐ内容が多いはずだが。
 何故だが幻聴にはそういった類の者は感じられない。
 むしろ、声音には嬉しさが混ざってるようにも聞こえる。


「……ハァ、ハァ。お、鬼が出るか蛇が出るか……」


 それは抜いてみれば分かること。
 原作のヴァイアスだってやり切ったんだ。
 俺にやれないことはない……!

 聖剣のグリップ部分を両手で握る。
 腰を落として踏ん張り、そのまま聖剣を引き抜く姿勢へ。


「んがぁぁぁぁぁ~~~ッッ!!!!」


 今まで誰にも抜けなかったとされる聖剣。
 なるほど確かに。ビックリするほど動かない。
 更にはグリップを握った瞬間から熱が増した気がする。

 正直、時間をかけてたらこっちが先にくたばりそうだ。
 これは短期決戦に持ち込むしかない……!


「――身体強化エンハンスッ!!」

 
 体全体に魔力を流すことで、一時的に能力を底上げする魔術を使用。
 魔力の消耗が激しく長期戦には向かない魔術だが。
 こういう時間に迫られた状況では、かなり有能な魔術だ。

 そうして自分の能力を上げて再度腕に力を籠める。
 歯を食いしばり、地面を踏みしめ。
 自分の持ちうる全てを使って聖剣を引き抜きにかかった。

 
「………動いた――っ!!」


 そんなアストレアの呟きが聞こえてくるけれど。
 正直こちらはそれを確認する余裕がないほどに必死だ。

 確かに、さっきに比べれば手応えはある。
 けど、あとどれくらい頑張ればいいんだ?


「頑張れ、ヴァイアスっ! あと少しだッ!」

『……んばって、……スター! ……と、もうちょ……です……っ!』


 どうやら頭の方が先にダメになったらしい。
 なんか、アストレアの声援に交じって幻聴からも励まされてる気がする。

 それはそれとしてだ。
 アストレアの言葉が正しいのなら、聖剣が抜けるのも時間の問題だ。
 自分に残る全て魔力を使って再度『身体強化エンハンス』を使用。


「がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」


 声を荒げ、力の限り引き抜きにかかる。
 そうして数秒が数時間のように感じるような戦いは……


「――っ! やった……!」

『…………っ!!』

「……抜けたぁぁぁぁっ!」


 無事に聖剣を引き抜くことが出来た俺の勝利に終わった。
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