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第1話

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 目が覚めると見慣れた自室。
 なんてことは無く、俺は相変わらず女性の腕の中にいた。
 おかげで察しの悪い俺でも現状を正しく理解した。


(……俺、転生したんだな)


 『転生』とは、人生を何らかの理由で終了した者が、別の世界かあるいは同じ世界で他の人物として生を受けるアレだ。

 昔はトラック追突からの異世界転生が多くみられたが。
 今は俺の様に気づいたら転生してた。
 なんてことが結構ある気がする。

 こうして赤子に戻ってるということは、きっと前世の俺は死んだのだろう。


(今頃は死体が見つかってるのかな)


 閑静な住宅街にあるアパートにて男性の死体を発見。
 なんてニュースにでも取り上げられてるのか……。
 
 いずれにしても転生した俺にはどうすることもできないことだ。


「ヴァイアスは大人しいね」

「赤子はよく暴れると聞いてたけど。うちの子はそうでもないみたい」

「うん。これも勇者の貫禄ってやつなのかもね」


 ぼーっと前世の俺に思いを馳せていると、聞き逃せない単語が耳に入る。


(勇者……?)


 勇者ってアレか?
 魔王を倒す的な奴のことだろうか。

 だとしたらなんとも心が躍る存在に転生したものだ。
 勇者といえば凄まじい能力と才能に恵まれてるはずだし。
 
 これは本格的に将来は約束されたようなものだ。


(そういえば、生前やってたゲームにも『ヴァイアス』って勇者がいたな)

 ゲーム『レジェンド・オブ・クリスタリア』に登場する勇者。
 とは言っても、勇者とは名ばかりのクズで、当然ながら悪役キャラだ。
 
 脅迫は当たり前。
 他にも強姦、窃盗と勇者の権力を振りかざして、やりたい放題のクソ野郎。

 18禁のゲームだから胸糞具合は更に増していて。
 ヒロインを徐々に寝取られるシナリオを執筆したライターは、心が病んでるんじゃないかと思ったくらいだ。

 ちなみにそんなヴァイアスの末路は三つ。
 
 
 ――魔王に体を乗っ取られて精神的に死亡のノーマルエンド。
 
 一番スカッとする終わりだな。勇者の末路というにはあっさりし過ぎかもしれないが、小物感があって個人的にはスッキリする。

 
 ――寝取ったヒロインに寝込みを襲われ死亡のバッドエンド。
 
 完全に快楽堕ちしてしまったヒロインが、主人公くんの死亡を切っ掛けに精神的に崩壊。ヴァイアスを殺して自殺する救いのない終わりだ。

 誰も幸せにならない最悪の終わりに喪失感でいっぱいだった気がする。

 好感度によっては完全にヴァイアスに惚れ込んで生存もあるけど。
 余程の鬼畜プレイで嫌われない限りは、基本的には殺される。

 
 ――最後は二周目主人公くんに呆気なく倒されて国外追放のトゥルーエンド。
 
 序盤の負けイベントで勝利すると始まるエピソードで、先のバッドエンドとは真逆の普通に異世界を冒険する勇者的な話だな。
 
 その世界での最期は描写されてないが、ろくな死に方はしてないだろう。


(いずれにしても、そんな勇者にはなりたくないもんだ……)


 ふと、何の気なしに自分の右手の甲に視線を向ける。
 きっと違う。名前が同じだけで俺はそんなクズじゃない。

 誰に言うでもない言い訳を頭の中で反復させながら見てみる。

 そこには剣を模したような痣があった。
 俺の視線に呼応するかのように僅かに輝いているようにも見える。


(そうそう。確か、こういう痣がヴァイアスの手にも…………)


 血の気が引いた。
 どうやら俺は18禁ゲームの悪役だったらしい。

 それを思い知った俺は当然泣いた。
 年甲斐もなく大泣きして、喚いて。両親に心配させて。

 そしてふて寝した。
 悪夢なら覚めてくれ。そう切実に願いながら。
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