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第2話
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この世界に転生してから半年ほどが経過した。
あれから何度も『ヴァイアスだけは嫌だ』と願うも悪夢は覚めず。
気づいたらそれだけの時間が経過していた。
そのくらい時間があれば諦めもついた。
なってしまったものは仕方ない。
今更変えられようもない現実なのだから。
とはいえ、原作をなぞって悪役になるのはごめんだ。
原作のヴァイアスは勇者の特権でうまい汁を吸っていたようだが。
それを羨ましいとは断じて思えない。
彼の末路を知るから余計にそう思えてしまう。
そこで俺は考えた。
(そうだ……勇者を目指そう……悪役じゃない。本物の勇者を……)
どうせなら憎まれるより誰もが認める勇者になりたい。
幸いにも俺はまだ赤ん坊だ。
いくらでもやり直しが効くはずだ。
そう決意してからは早かった。
まず、起きて、乳を吸い、ふて寝するだけの暗い赤ん坊からジョブチェンジ。
見聞を広げるために家中をハイハイで這い回る芋虫に進化した。
段差から落ちようが、頭を打とうが気にせず動き回る。
痛みはあるがそれで泣き喚くほど精神年齢は低くない。
そうやって家の中を探索して分かったことだが。
まず、我が家はそれなりに裕福だった。
木造建築の平屋で、部屋はリビング、寝室を除いても四つ以上。
書庫のようなものも存在し、蔵書が本棚いっぱいに収納されていた。
他にも武器庫のようなものがあったが、
「こら、ヴァイアス。ここは危険なものがあるからダメだよ?」
部屋に入ろうとするたびに父さんが現れ、部屋への侵入を阻んできたので今のところは入ることが出来ていない。
(気づいたら後ろにいるんだもんな)
一応部屋の前に来るときには周囲に気を配っている。
にもかかわらず、気づいたら抱きかかえられてるのだから不思議だ。
もしかしたら、今世の父はアサシンか何かかもしれない。
とはいえ、一度や二度ほど阻止されても武器庫への興味は尽きない。
いつかは侵入してやるつもりだ。
興味といえば、この世界には魔術が存在する。
魔力と呼ばれる生き物の内に秘められた力を糧に打ち出す、ある種の『必殺技』としてゲームでは描かれていたはずだ。
発動方法はおそらく呪文詠唱。
ゲーム内では魔術の名前を口にすれば発動していた。
「だー……(ウォーターボールと言ってるつもり)」
が、やはりというか赤子の言語ではうんともすんとも言わない。
手を出す。念じる。イメージする。思いつく限りは試してみたが。
今のところは一度として成功していない。
魔術に適正でもあるのかと、別の魔術を使ってみることもあった。
しかし、全て不発である。
(一応何かが出そうな感じはするんだけどなぁ……)
手をかざし、イメージしながら言葉を紡ぐ。
そうすると、心臓の位置から血が巡るように何かが指先に向かう感じはする。
けど、そこからが上手くいかない。
(方法は間違っていないはずなんだけど……)
以前、一度だけ母のコレットが魔術を使ったところを見たことがある。
家中を這い回っていた時に誤って少々高い段差から落ちたときのこと。
頭を強く打ち、その痛みに悶える中で母の声が聞こえた。
「癒しの魔術」
瞬間、温かな薄緑のベールに包まれたかと思うと、それまで感じていた頭痛が嘘みたいに消え去ったのを覚えている。
まぁ、そのあとの両親の泣きそうな顔も忘れられないが……。
ともかくだ。あのとき母は魔術の名前を口にしていた。
薄っすらとだが手をかざしていたような気もする。
そして、おそらくだが魔力も消費しているのだろう。
(呪文名と発動先。あとは必要な魔力……)
ダメだ。赤子の体では何が足りていないのか分からない。
やはり言葉にすることが魔術を成功させるカギなのか……。
それとも必要な魔力が足りていないのか……。
もしかして、そもそも魔術の才能皆無なの? 勇者なのに……?
そうなると、現状は諦めることしか出来ないんだが?
(……気長に続けるか)
ここで卑屈になって練習を断念するのは簡単だ。
だがそうやって諦めて進み続けていった結果がゲームの『ヴァイアス』であるというのなら、それを回避するために俺は頑張り続けなければならない。
(うしっ! 続きだ……!)
大丈夫。困難に打ち勝ち進み続けるのが勇者だ。
こんなことで挫けるつもりはない。
あれから何度も『ヴァイアスだけは嫌だ』と願うも悪夢は覚めず。
気づいたらそれだけの時間が経過していた。
そのくらい時間があれば諦めもついた。
なってしまったものは仕方ない。
今更変えられようもない現実なのだから。
とはいえ、原作をなぞって悪役になるのはごめんだ。
原作のヴァイアスは勇者の特権でうまい汁を吸っていたようだが。
それを羨ましいとは断じて思えない。
彼の末路を知るから余計にそう思えてしまう。
そこで俺は考えた。
(そうだ……勇者を目指そう……悪役じゃない。本物の勇者を……)
どうせなら憎まれるより誰もが認める勇者になりたい。
幸いにも俺はまだ赤ん坊だ。
いくらでもやり直しが効くはずだ。
そう決意してからは早かった。
まず、起きて、乳を吸い、ふて寝するだけの暗い赤ん坊からジョブチェンジ。
見聞を広げるために家中をハイハイで這い回る芋虫に進化した。
段差から落ちようが、頭を打とうが気にせず動き回る。
痛みはあるがそれで泣き喚くほど精神年齢は低くない。
そうやって家の中を探索して分かったことだが。
まず、我が家はそれなりに裕福だった。
木造建築の平屋で、部屋はリビング、寝室を除いても四つ以上。
書庫のようなものも存在し、蔵書が本棚いっぱいに収納されていた。
他にも武器庫のようなものがあったが、
「こら、ヴァイアス。ここは危険なものがあるからダメだよ?」
部屋に入ろうとするたびに父さんが現れ、部屋への侵入を阻んできたので今のところは入ることが出来ていない。
(気づいたら後ろにいるんだもんな)
一応部屋の前に来るときには周囲に気を配っている。
にもかかわらず、気づいたら抱きかかえられてるのだから不思議だ。
もしかしたら、今世の父はアサシンか何かかもしれない。
とはいえ、一度や二度ほど阻止されても武器庫への興味は尽きない。
いつかは侵入してやるつもりだ。
興味といえば、この世界には魔術が存在する。
魔力と呼ばれる生き物の内に秘められた力を糧に打ち出す、ある種の『必殺技』としてゲームでは描かれていたはずだ。
発動方法はおそらく呪文詠唱。
ゲーム内では魔術の名前を口にすれば発動していた。
「だー……(ウォーターボールと言ってるつもり)」
が、やはりというか赤子の言語ではうんともすんとも言わない。
手を出す。念じる。イメージする。思いつく限りは試してみたが。
今のところは一度として成功していない。
魔術に適正でもあるのかと、別の魔術を使ってみることもあった。
しかし、全て不発である。
(一応何かが出そうな感じはするんだけどなぁ……)
手をかざし、イメージしながら言葉を紡ぐ。
そうすると、心臓の位置から血が巡るように何かが指先に向かう感じはする。
けど、そこからが上手くいかない。
(方法は間違っていないはずなんだけど……)
以前、一度だけ母のコレットが魔術を使ったところを見たことがある。
家中を這い回っていた時に誤って少々高い段差から落ちたときのこと。
頭を強く打ち、その痛みに悶える中で母の声が聞こえた。
「癒しの魔術」
瞬間、温かな薄緑のベールに包まれたかと思うと、それまで感じていた頭痛が嘘みたいに消え去ったのを覚えている。
まぁ、そのあとの両親の泣きそうな顔も忘れられないが……。
ともかくだ。あのとき母は魔術の名前を口にしていた。
薄っすらとだが手をかざしていたような気もする。
そして、おそらくだが魔力も消費しているのだろう。
(呪文名と発動先。あとは必要な魔力……)
ダメだ。赤子の体では何が足りていないのか分からない。
やはり言葉にすることが魔術を成功させるカギなのか……。
それとも必要な魔力が足りていないのか……。
もしかして、そもそも魔術の才能皆無なの? 勇者なのに……?
そうなると、現状は諦めることしか出来ないんだが?
(……気長に続けるか)
ここで卑屈になって練習を断念するのは簡単だ。
だがそうやって諦めて進み続けていった結果がゲームの『ヴァイアス』であるというのなら、それを回避するために俺は頑張り続けなければならない。
(うしっ! 続きだ……!)
大丈夫。困難に打ち勝ち進み続けるのが勇者だ。
こんなことで挫けるつもりはない。
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