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case7 河合めぐみ『ママの笑顔を取り戻せ』
第32話【インテーク】幼な子と白い猫
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私が初めて久能様と白夜様にお会いしたのはもう20年も昔の話になりますね。
当時、私は人には言えない悩み事をずっと抱えていました。
そう、死んでしまいたくなるほどに――
*******
「ウナア」
猫の鳴き声が聞こえて、私は振り返った。
ベランダに猫が座っていた。
白い毛の猫だ。
太陽光を浴びた猫の毛は神々しい白さを放っている。
――なんで?
同じアパートで猫を飼っている人はいない。
動物飼育は禁止されている。
これまでだって猫の姿も、鳴き声も見たことや聞いたことはない。
迷い猫だろうかと一瞬考えたけれど、その考えは捨てた。
たまたま迷い込んでベランダにいるという顔つきではない。
じっと私を見る猫の視線がとがった矢のように鋭い。
睨みつけられている――と感じるほどの視線が責めるみたいに私に向けられていた。
前足をきちんと揃えて座った猫の長いしっぽがパタン、パタンッと忙しくベランダの床を打ちつけた。
さっさとここを開けやがれと、さも言わんばかりの猫の憤然とした態度に、私は「ああ」と心の中で大きく息を吐いた。
神様は見ているんだと感じた。
「ママ?」
昼寝をしていた五歳の娘が、とろんとした目で私を見た。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん、真奈。なんでもない」
震える唇の端を必死に押しあげた。
言えるわけがない。
あなたの首をたった今、絞めようとしていたなんて――
「ウナア」
背後でまた猫の鳴き声が聞こえた。
その声に、幼い娘が驚いたように飛び起きた。
「ああっ! ねこちゃんだ!」
「あっ、真奈!」
真奈は体にかけていた毛布を勢いよくめくって、ベランダへ一目散に駆けていく。
鍵をあけて窓を開ける。
「うわあ、ねこちゃん。どこから来たの?」
猫は開いた窓から躊躇もせずに部屋の中に入ってきた。
毛布の上で座ったままの私のところまで足音も立てずに歩いてきた。
私の横にやってきた猫が毛布をふみふみと揉み始めた。
喉をゴロゴロと鳴らして、そのまま毛布の上にごろんと横になったのだった。
「ねこちゃん、毛布気に入ったみたいだね」
真奈が私の隣にちょこんと腰を下ろした。
ゴロゴロ鳴きながら、一定のリズムで毛布を踏む猫を彼女がなでる。
猫は嫌な顔をすることなく、彼女に撫でられつづけた。
「ねえ、ママ。このねこちゃん、どこから来たのかなあ?」
うれしそうにほほ笑んで、真奈が私を見上げた。
たしかに彼女の言うとおりだ。
一体、どこから来たのだろう?
人に慣れているみたいだから、きっと飼い猫なのだろう。
でも首輪はしていない。
このままうちに居つくつもりなのだろうか?
「ママ。ねこちゃん、飼っちゃだめ?」
「うちはねこちゃんは飼えないのよ」
「パパが怒るから? でもパパもねこちゃんといっしょなら、怒らなくなるかもしれないよ?」
「それは……」
唇を噛む。
真奈の濁りのない純粋な目を見るのがつらくて、私は視線を猫に向けた。
小さな手が目に入る。
幼い我が子の腕には赤紫のアザがあった。
彼女のアザが腕だけにあるのではないことを、私はよく知っている。
体のあちらこちらにある。
私にだって彼女と同じアザがある。
どんなに痛いかもわかっている。
それでも彼女はまだ信じている。
自分の父親が変わってくれることを――
「ママ?」
真奈が不安げに私を呼んだ。
彼女の心の支えになるのなら。
この猫がここにいつくのなら飼ってもいいのかもしれない。
でも、見つかれば絶対に保健所に連れて行かれることは間違いない。
だってあの人は私たちの笑顔を見るだけでストレスを感じるのだから。
「真奈、やっぱりこの猫さんは……」
飼えないことを伝えようとしたときだった。
ピンポーンッと長めの呼び出し音に顔を上げた。
「お客さんみたいだよ?」
「うん。でも、誰かしら?」
訪ねてくるような知人も、友人もいない。
当然のことながら、約束なんてしていなかった。
おもむろに立ちあがって玄関に向かう。
ドアの覗き穴から外を見る。
制服姿の若い警察官がひとり、扉の前に立っている。
――あの人がなにかしたのかしら!
家の外で問題を起こしたことはない。
外面はとてもいいのだ。
だとしたら、どうして警察が?
思い当たることがないわけでない。
隣の人が通報したんだろうか。
毎晩、毎晩怒声が聞こえてくるとでも?
事情聴取されたら?
それを夫が知ったら?
――問題を大きくしちゃだめよ、私! 真奈のためなの! 真奈を守るために大事にしちゃだめ!
そう思って玄関を開けずに戻ろうとすると、またしてもピンポーンッと鳴った。
今度は二度鳴らされた。
「すいませーん」
外から声が飛んでくる。
低くて太い声だ。
「は……はい」
チェーンロックを外さないで、私は扉を開けた。
10cmの隙間から若い警察官を見る。
「ええ、私は美浜交番の犬飼と言います。こちらに猫がお邪魔していませんか?」
「え? 猫?」
「はい。白い毛の猫なんですけどね」
「い、います……でも、なんで警察が?」
「飼い主というか、猫を探している人がいまして。こちらに入っていくのを見たっていう連絡をもらって。ほら、飼い主が突然猫を返せと言ってきたら怖いでしょ? で、私が代理で話を聞きにきたんです」
そのとき、足元で「ウナア」と猫の鳴き声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、真奈が白猫を抱き抱えていた。
「おおっ、猫神! やっぱりいたか!」
犬飼刑事が猫を見つけて叫ぶ。
猫が若い刑事の声がしたほうの大きな耳をぷるぷるっと震わせた。
「なにやってるんだよ、そんなところで! 先生、探してたぞ!」
刑事さんが猫に語りかける。
猫はふああっと欠伸を返す。
それを見た刑事さんが大きく肩を落とした。
「すみませんが」と遠慮した小さな声でこちらに伺いを立てる。
「よかったら開けていただいてもいいですか? その……たぶん、お二人の力になれると思うので」
「え?」
目を見開いて刑事さんを見つめる。
彼は扉の隙間から警察手帳に挟まれた白いカードを差し出した。
「実はこの人に頼まれて、河合さんの家を訪問させてもらいました」
刑事さんから受け取ったカード、もとい名刺に目を通す。
黒い文字で『しろねこ心療所 久能孝明』と印刷されている。
「この名刺の方は市役所の相談員さんかなにかですか?」
おそるおそる尋ねると、刑事さんは「いえいえ、そうじゃないんです」と首を振った。
「この方はボランティアで悩み事を聞く仕事をされているんです。特に誰にも言えないような秘密の、ですかねえ」
「あの……悩みはありませんから。猫さんはお返しします」
一度扉を閉めて、チェーンロックを外す。
今度はちゃんと扉を開けた。
ガッチリと体格のいい刑事さんは笑顔で立っていた。
人懐っこい顔をしている。
なにかに似ているんだけど――と思って、ハッとなる。
そうだ。
柴犬に似ているのだ。
そんな刑事さんは柴犬似の笑顔をたたえたまま、ひざを折った。
「ねえねえ、けいじさん。かいぬしさんがねこちゃんをさがしてるの?」
「うん、そうだよ」
「そうなんだ。それじゃあ、かいぬしさんにかえすね」
真奈が刑事さんに白猫を渡す。
彼女の目には涙が浮かんでいた。
「ええっと、お嬢ちゃん。刑事さんにお名前教えてくれるかな?」
刑事さんが真奈に尋ねる。
「かわいまな」
「真奈ちゃん。白夜様を入れてくれてありがとう。お礼にこのしろねこさんが君のお願いを聞いてあげたいって言っているんだけど、なにかあるかな?」
「ほんとう!? まなね! ひとつ、おねがいがあるんだよ!」
「真奈!」
「あのね、ママにずっと笑っていてほしいの! できるかな?」
刑事さんは大きな手を真奈の頭に乗せると「そうか」と言って優しくなでた。
「うん。きっとしろねこさんならやってくれるよ。そのねこさんの飼い主さんも絶対に真奈ちゃんのお願い事を聞いてくれるからね」
そう言って刑事さんが私を見上げる。
「そういうことです、河合さん」
刑事さんは静かに立ちあがると、「お話を聞かせていただけますよね?」と笑った。
そんな刑事さんを後押しするように白猫が「ウナア」と力強く鳴いたのだった。
当時、私は人には言えない悩み事をずっと抱えていました。
そう、死んでしまいたくなるほどに――
*******
「ウナア」
猫の鳴き声が聞こえて、私は振り返った。
ベランダに猫が座っていた。
白い毛の猫だ。
太陽光を浴びた猫の毛は神々しい白さを放っている。
――なんで?
同じアパートで猫を飼っている人はいない。
動物飼育は禁止されている。
これまでだって猫の姿も、鳴き声も見たことや聞いたことはない。
迷い猫だろうかと一瞬考えたけれど、その考えは捨てた。
たまたま迷い込んでベランダにいるという顔つきではない。
じっと私を見る猫の視線がとがった矢のように鋭い。
睨みつけられている――と感じるほどの視線が責めるみたいに私に向けられていた。
前足をきちんと揃えて座った猫の長いしっぽがパタン、パタンッと忙しくベランダの床を打ちつけた。
さっさとここを開けやがれと、さも言わんばかりの猫の憤然とした態度に、私は「ああ」と心の中で大きく息を吐いた。
神様は見ているんだと感じた。
「ママ?」
昼寝をしていた五歳の娘が、とろんとした目で私を見た。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん、真奈。なんでもない」
震える唇の端を必死に押しあげた。
言えるわけがない。
あなたの首をたった今、絞めようとしていたなんて――
「ウナア」
背後でまた猫の鳴き声が聞こえた。
その声に、幼い娘が驚いたように飛び起きた。
「ああっ! ねこちゃんだ!」
「あっ、真奈!」
真奈は体にかけていた毛布を勢いよくめくって、ベランダへ一目散に駆けていく。
鍵をあけて窓を開ける。
「うわあ、ねこちゃん。どこから来たの?」
猫は開いた窓から躊躇もせずに部屋の中に入ってきた。
毛布の上で座ったままの私のところまで足音も立てずに歩いてきた。
私の横にやってきた猫が毛布をふみふみと揉み始めた。
喉をゴロゴロと鳴らして、そのまま毛布の上にごろんと横になったのだった。
「ねこちゃん、毛布気に入ったみたいだね」
真奈が私の隣にちょこんと腰を下ろした。
ゴロゴロ鳴きながら、一定のリズムで毛布を踏む猫を彼女がなでる。
猫は嫌な顔をすることなく、彼女に撫でられつづけた。
「ねえ、ママ。このねこちゃん、どこから来たのかなあ?」
うれしそうにほほ笑んで、真奈が私を見上げた。
たしかに彼女の言うとおりだ。
一体、どこから来たのだろう?
人に慣れているみたいだから、きっと飼い猫なのだろう。
でも首輪はしていない。
このままうちに居つくつもりなのだろうか?
「ママ。ねこちゃん、飼っちゃだめ?」
「うちはねこちゃんは飼えないのよ」
「パパが怒るから? でもパパもねこちゃんといっしょなら、怒らなくなるかもしれないよ?」
「それは……」
唇を噛む。
真奈の濁りのない純粋な目を見るのがつらくて、私は視線を猫に向けた。
小さな手が目に入る。
幼い我が子の腕には赤紫のアザがあった。
彼女のアザが腕だけにあるのではないことを、私はよく知っている。
体のあちらこちらにある。
私にだって彼女と同じアザがある。
どんなに痛いかもわかっている。
それでも彼女はまだ信じている。
自分の父親が変わってくれることを――
「ママ?」
真奈が不安げに私を呼んだ。
彼女の心の支えになるのなら。
この猫がここにいつくのなら飼ってもいいのかもしれない。
でも、見つかれば絶対に保健所に連れて行かれることは間違いない。
だってあの人は私たちの笑顔を見るだけでストレスを感じるのだから。
「真奈、やっぱりこの猫さんは……」
飼えないことを伝えようとしたときだった。
ピンポーンッと長めの呼び出し音に顔を上げた。
「お客さんみたいだよ?」
「うん。でも、誰かしら?」
訪ねてくるような知人も、友人もいない。
当然のことながら、約束なんてしていなかった。
おもむろに立ちあがって玄関に向かう。
ドアの覗き穴から外を見る。
制服姿の若い警察官がひとり、扉の前に立っている。
――あの人がなにかしたのかしら!
家の外で問題を起こしたことはない。
外面はとてもいいのだ。
だとしたら、どうして警察が?
思い当たることがないわけでない。
隣の人が通報したんだろうか。
毎晩、毎晩怒声が聞こえてくるとでも?
事情聴取されたら?
それを夫が知ったら?
――問題を大きくしちゃだめよ、私! 真奈のためなの! 真奈を守るために大事にしちゃだめ!
そう思って玄関を開けずに戻ろうとすると、またしてもピンポーンッと鳴った。
今度は二度鳴らされた。
「すいませーん」
外から声が飛んでくる。
低くて太い声だ。
「は……はい」
チェーンロックを外さないで、私は扉を開けた。
10cmの隙間から若い警察官を見る。
「ええ、私は美浜交番の犬飼と言います。こちらに猫がお邪魔していませんか?」
「え? 猫?」
「はい。白い毛の猫なんですけどね」
「い、います……でも、なんで警察が?」
「飼い主というか、猫を探している人がいまして。こちらに入っていくのを見たっていう連絡をもらって。ほら、飼い主が突然猫を返せと言ってきたら怖いでしょ? で、私が代理で話を聞きにきたんです」
そのとき、足元で「ウナア」と猫の鳴き声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、真奈が白猫を抱き抱えていた。
「おおっ、猫神! やっぱりいたか!」
犬飼刑事が猫を見つけて叫ぶ。
猫が若い刑事の声がしたほうの大きな耳をぷるぷるっと震わせた。
「なにやってるんだよ、そんなところで! 先生、探してたぞ!」
刑事さんが猫に語りかける。
猫はふああっと欠伸を返す。
それを見た刑事さんが大きく肩を落とした。
「すみませんが」と遠慮した小さな声でこちらに伺いを立てる。
「よかったら開けていただいてもいいですか? その……たぶん、お二人の力になれると思うので」
「え?」
目を見開いて刑事さんを見つめる。
彼は扉の隙間から警察手帳に挟まれた白いカードを差し出した。
「実はこの人に頼まれて、河合さんの家を訪問させてもらいました」
刑事さんから受け取ったカード、もとい名刺に目を通す。
黒い文字で『しろねこ心療所 久能孝明』と印刷されている。
「この名刺の方は市役所の相談員さんかなにかですか?」
おそるおそる尋ねると、刑事さんは「いえいえ、そうじゃないんです」と首を振った。
「この方はボランティアで悩み事を聞く仕事をされているんです。特に誰にも言えないような秘密の、ですかねえ」
「あの……悩みはありませんから。猫さんはお返しします」
一度扉を閉めて、チェーンロックを外す。
今度はちゃんと扉を開けた。
ガッチリと体格のいい刑事さんは笑顔で立っていた。
人懐っこい顔をしている。
なにかに似ているんだけど――と思って、ハッとなる。
そうだ。
柴犬に似ているのだ。
そんな刑事さんは柴犬似の笑顔をたたえたまま、ひざを折った。
「ねえねえ、けいじさん。かいぬしさんがねこちゃんをさがしてるの?」
「うん、そうだよ」
「そうなんだ。それじゃあ、かいぬしさんにかえすね」
真奈が刑事さんに白猫を渡す。
彼女の目には涙が浮かんでいた。
「ええっと、お嬢ちゃん。刑事さんにお名前教えてくれるかな?」
刑事さんが真奈に尋ねる。
「かわいまな」
「真奈ちゃん。白夜様を入れてくれてありがとう。お礼にこのしろねこさんが君のお願いを聞いてあげたいって言っているんだけど、なにかあるかな?」
「ほんとう!? まなね! ひとつ、おねがいがあるんだよ!」
「真奈!」
「あのね、ママにずっと笑っていてほしいの! できるかな?」
刑事さんは大きな手を真奈の頭に乗せると「そうか」と言って優しくなでた。
「うん。きっとしろねこさんならやってくれるよ。そのねこさんの飼い主さんも絶対に真奈ちゃんのお願い事を聞いてくれるからね」
そう言って刑事さんが私を見上げる。
「そういうことです、河合さん」
刑事さんは静かに立ちあがると、「お話を聞かせていただけますよね?」と笑った。
そんな刑事さんを後押しするように白猫が「ウナア」と力強く鳴いたのだった。
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