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case6 伊藤真紀『真夏の夜のお猫様』
第27話【相談内容】今日、家出します
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美浜第二中学校3年4組、伊藤真紀、14歳。
あんたというか、その猫が言う通り私は今日、家出することを決意したの。
理由は親と喧嘩をしたから――
って言いたいところだけど、半分当たって半分違う。
喧嘩って言っていいかもわかんないからね。
向こうからしたら、ただの癇癪だもん。
自分たちはいつだって正しくて、私はいつだって不正解なんだから。
ん?
向こうって誰のことって?
それはうちの両親だよ。
あの人たちは私個人になんてまったく興味がないの。
どんな友達がいて、学校ではどんなふうに過ごして、どんなものに興味があるのか。
どんなテレビを見て笑うのか。
どんな話を聞いたら泣いちゃうのか。
そういったことすべてを、あの人たちははまったく知ろうともしない。
だって学校から帰っても、仕事で忙しいあの人たちは家にいたためしがないんだよね。
いつも自分で鍵を開けて家に入る。
いたところで自分の部屋にそれぞれこもって仕事しているからさ。
私が帰ってきたことすら気づかないんだよ。
そりゃあね。
一応声は掛けるよ?
だけどなんて言われると思う?
「今忙しいから」
これだよ?
顔もまともに見やしないんだよね。
それじゃご飯はどうしてるかって?
夕飯はお金か、近所の惣菜屋で買われた弁当が置いてあるんだよ。
どっちみち親と一緒に夕飯を食べることなんてことは、まずないよ。
あるとすれば、受験に関することを話すときだけ。
今日はそのレアな日だったの。
「真紀、勉強のほうはどうだ?」
父が英字新聞に目を通したまま訊いてきたよ。
「別に。普通」って答えた。
そうしたら母がさ、テーブルで書き物しながらこう言ったんだよ。
「普通じゃわからないでしょ? この間の全国一斉学力テストは前回よりも100番以上も順位を落としているじゃないの」
って。
テストの結果だけはきっちり把握してるっていやらしくない?
「だからなに?」
って言ってやった。
そしたら母が怒ったの。
私の返事が気に入らなかったんだね。
「だからなにって。塾でなにを聞いてきているの? このままだと美浜西高合格ギリギリラインじゃないの」
「だからなに?」
ってまた答えてやったの。
そうしたら、今度は父がブチ切れてさ。
「母さんに向かって、その口のきき方はなんだ!」
って怒鳴ったの。
あの人、それでやっと英字新聞を置いたんだよ。
眼鏡越しにこちらをにらみつけてきてさ。
口のきき方や作法っていうか、しつけにはやたらとうるさいんだよ、特に父はね。
「ごちそうさま」
って父の言葉をスルーしたの。
私にしたらさあ、ムカつくことばっかなの。
母のご飯はおいしくない。
味噌汁なんて本当に色がついている程度でさ、飲めたもんじゃないくらい薄味すぎるの。
お肉だって焼きすぎて固くなっている。
普段、料理なんてものをしないから、たまに作ったあの人のご飯は食べられたもんじゃないんだよ。
だから半分以上残して箸を置いた。
そのまま席を立とうとしたらさ、父が「待ちなさい」ってまた怒鳴ったんだよ。
「まだ話は済んでない。それに出された物は残さず食べなさい。母さんが忙しい合間を縫って料理してくれたんだから」
正直、何言ってんだ?って思ったよ。
父の皿を見たら、ちゃんと食べてあるんだよ。
よく食べられるなって腹の中で感心したよ。
ああ、そうだ。
この人たちにとっては味なんかどうでもいいんだ。
仕事ができるだけの栄養が補給できれば、どんなものだって変わんないんだなって。
きっと犬や猫の餌だって、この人たちなら食べられるんじゃないかっていうレベルだよ。
「いらない。ごはん、まずいもん」
正直だねって。
そりゃそうだよ。
言わなきゃわかんない人にはさ、言わなくちゃでしょ?
そうしたら母がものすごい剣幕で「真紀!」って私の名前を叫んだの。
プライドが傷ついたんだろうね。
あの人ったら顔を真っ赤にしてペンを置いてさ。
だからね、続けて言ってやったの。
「いつもの弁当のほうが数倍マシ。それに私、美浜西には行くつもりないし」
美浜西って進学校なの?
でも、私はそこに行きたいって思えなくてさ。
「それはどういう意味だ」って聞いてくる父にハッキリ言ってやったよ。
「そのまんまだよ。私はあんたたちみたいにはなりたくないの」
そう言ったら父が立ちあがったよ。
平手が飛んでくるのはいつものことだから、わかっていながら私はよけなかったの。
ビリリッってさ。
強い電気を食らったみたいな痛みが左頬に走ったよ。
じんじんした。
すごく痛かった。
思いっきりぶたれたんだよね。
だけど私は泣かなかったの。
なんでか?
痛いのはぶたれた頬じゃないから。
「気は済んだ? 私、塾の時間だから行くよ」
あの人たちに背中を向けたの。
そうしたらね、父は「ああ」とだけ短く返事をした。
だけどね、母はなにも言わなかった。
言葉の代わりにペンが走る音が聞こえたんだ。
私、悔しくてさ。
こう、ぎゅうっと握りこぶしを作ったの。
耐えるために。
――痛い。痛い。痛い。
ここがね。
そう。
心がね。
すっごく痛くてさ。
急いで自分の部屋に戻って、カバンを持った。
教科書やノート、参考書が入っている塾のカバンじゃなくて、着替えと銀行のカードと財布が入ったスポーツバッグのほうだよ。
前もって用意していたんだよ。
いつかのときのために、ね。
部屋を出て、玄関で靴を履いてから息を大きく吸いこんで、リビングの二人に聞こえるように「いってきます」って声を掛けたんだ。
だけど「いってらっしゃい」の挨拶ひとつもなかったんだよ。
これが私の家族なの。
心なんかどこにもない。
ただの同居人。
まあ、一応私を育ててはくれているけどさ。
血が繋がっているだけ厄介なんだ。
いっそ他人だったらって何度思ったかわからない。
楽しい思い出を振り返ろうとしてやめたの。
あの人たちは忙しすぎて、動物園とか遊園地とか、そんなところには連れて行ってくれなかった。
そんな時間がもったいないって、小さな私は休日でもやっている保育園へ預けられてたから。
だからお金だけはあるよ。
お金を出せば全部解決できるから。
そういう理由もあってさ。
私はいつもひとりだった。
家にいても、学校にいても、どこにいてもひとりぼっち。
頼れる親も親戚もいない。
仲のいい友達もいない。
家出したところで行く当てもない。
じゃあ、どうすればいいか――
そう思って私はとある掲示板サイトを開いたんだ。
出会い系のサイトだよ。
ほら、ニュースでもよく聞くじゃん?
出会い系のサイトに書き込みすればさ、誰かしらが反応してくれるはずだと思って。
『家出したので誰か泊めてください』
そう書き込みしてさ。
誰かからの返信を待ちながら、私は駅へ向かったの。
あの人たちを困らせてやろうとただその一心でね。
家出の経緯はこんなところだよ。
で、あんたたちはこんなことを聞いて、いったいなにをしてくれるって言うわけ?
あんたというか、その猫が言う通り私は今日、家出することを決意したの。
理由は親と喧嘩をしたから――
って言いたいところだけど、半分当たって半分違う。
喧嘩って言っていいかもわかんないからね。
向こうからしたら、ただの癇癪だもん。
自分たちはいつだって正しくて、私はいつだって不正解なんだから。
ん?
向こうって誰のことって?
それはうちの両親だよ。
あの人たちは私個人になんてまったく興味がないの。
どんな友達がいて、学校ではどんなふうに過ごして、どんなものに興味があるのか。
どんなテレビを見て笑うのか。
どんな話を聞いたら泣いちゃうのか。
そういったことすべてを、あの人たちははまったく知ろうともしない。
だって学校から帰っても、仕事で忙しいあの人たちは家にいたためしがないんだよね。
いつも自分で鍵を開けて家に入る。
いたところで自分の部屋にそれぞれこもって仕事しているからさ。
私が帰ってきたことすら気づかないんだよ。
そりゃあね。
一応声は掛けるよ?
だけどなんて言われると思う?
「今忙しいから」
これだよ?
顔もまともに見やしないんだよね。
それじゃご飯はどうしてるかって?
夕飯はお金か、近所の惣菜屋で買われた弁当が置いてあるんだよ。
どっちみち親と一緒に夕飯を食べることなんてことは、まずないよ。
あるとすれば、受験に関することを話すときだけ。
今日はそのレアな日だったの。
「真紀、勉強のほうはどうだ?」
父が英字新聞に目を通したまま訊いてきたよ。
「別に。普通」って答えた。
そうしたら母がさ、テーブルで書き物しながらこう言ったんだよ。
「普通じゃわからないでしょ? この間の全国一斉学力テストは前回よりも100番以上も順位を落としているじゃないの」
って。
テストの結果だけはきっちり把握してるっていやらしくない?
「だからなに?」
って言ってやった。
そしたら母が怒ったの。
私の返事が気に入らなかったんだね。
「だからなにって。塾でなにを聞いてきているの? このままだと美浜西高合格ギリギリラインじゃないの」
「だからなに?」
ってまた答えてやったの。
そうしたら、今度は父がブチ切れてさ。
「母さんに向かって、その口のきき方はなんだ!」
って怒鳴ったの。
あの人、それでやっと英字新聞を置いたんだよ。
眼鏡越しにこちらをにらみつけてきてさ。
口のきき方や作法っていうか、しつけにはやたらとうるさいんだよ、特に父はね。
「ごちそうさま」
って父の言葉をスルーしたの。
私にしたらさあ、ムカつくことばっかなの。
母のご飯はおいしくない。
味噌汁なんて本当に色がついている程度でさ、飲めたもんじゃないくらい薄味すぎるの。
お肉だって焼きすぎて固くなっている。
普段、料理なんてものをしないから、たまに作ったあの人のご飯は食べられたもんじゃないんだよ。
だから半分以上残して箸を置いた。
そのまま席を立とうとしたらさ、父が「待ちなさい」ってまた怒鳴ったんだよ。
「まだ話は済んでない。それに出された物は残さず食べなさい。母さんが忙しい合間を縫って料理してくれたんだから」
正直、何言ってんだ?って思ったよ。
父の皿を見たら、ちゃんと食べてあるんだよ。
よく食べられるなって腹の中で感心したよ。
ああ、そうだ。
この人たちにとっては味なんかどうでもいいんだ。
仕事ができるだけの栄養が補給できれば、どんなものだって変わんないんだなって。
きっと犬や猫の餌だって、この人たちなら食べられるんじゃないかっていうレベルだよ。
「いらない。ごはん、まずいもん」
正直だねって。
そりゃそうだよ。
言わなきゃわかんない人にはさ、言わなくちゃでしょ?
そうしたら母がものすごい剣幕で「真紀!」って私の名前を叫んだの。
プライドが傷ついたんだろうね。
あの人ったら顔を真っ赤にしてペンを置いてさ。
だからね、続けて言ってやったの。
「いつもの弁当のほうが数倍マシ。それに私、美浜西には行くつもりないし」
美浜西って進学校なの?
でも、私はそこに行きたいって思えなくてさ。
「それはどういう意味だ」って聞いてくる父にハッキリ言ってやったよ。
「そのまんまだよ。私はあんたたちみたいにはなりたくないの」
そう言ったら父が立ちあがったよ。
平手が飛んでくるのはいつものことだから、わかっていながら私はよけなかったの。
ビリリッってさ。
強い電気を食らったみたいな痛みが左頬に走ったよ。
じんじんした。
すごく痛かった。
思いっきりぶたれたんだよね。
だけど私は泣かなかったの。
なんでか?
痛いのはぶたれた頬じゃないから。
「気は済んだ? 私、塾の時間だから行くよ」
あの人たちに背中を向けたの。
そうしたらね、父は「ああ」とだけ短く返事をした。
だけどね、母はなにも言わなかった。
言葉の代わりにペンが走る音が聞こえたんだ。
私、悔しくてさ。
こう、ぎゅうっと握りこぶしを作ったの。
耐えるために。
――痛い。痛い。痛い。
ここがね。
そう。
心がね。
すっごく痛くてさ。
急いで自分の部屋に戻って、カバンを持った。
教科書やノート、参考書が入っている塾のカバンじゃなくて、着替えと銀行のカードと財布が入ったスポーツバッグのほうだよ。
前もって用意していたんだよ。
いつかのときのために、ね。
部屋を出て、玄関で靴を履いてから息を大きく吸いこんで、リビングの二人に聞こえるように「いってきます」って声を掛けたんだ。
だけど「いってらっしゃい」の挨拶ひとつもなかったんだよ。
これが私の家族なの。
心なんかどこにもない。
ただの同居人。
まあ、一応私を育ててはくれているけどさ。
血が繋がっているだけ厄介なんだ。
いっそ他人だったらって何度思ったかわからない。
楽しい思い出を振り返ろうとしてやめたの。
あの人たちは忙しすぎて、動物園とか遊園地とか、そんなところには連れて行ってくれなかった。
そんな時間がもったいないって、小さな私は休日でもやっている保育園へ預けられてたから。
だからお金だけはあるよ。
お金を出せば全部解決できるから。
そういう理由もあってさ。
私はいつもひとりだった。
家にいても、学校にいても、どこにいてもひとりぼっち。
頼れる親も親戚もいない。
仲のいい友達もいない。
家出したところで行く当てもない。
じゃあ、どうすればいいか――
そう思って私はとある掲示板サイトを開いたんだ。
出会い系のサイトだよ。
ほら、ニュースでもよく聞くじゃん?
出会い系のサイトに書き込みすればさ、誰かしらが反応してくれるはずだと思って。
『家出したので誰か泊めてください』
そう書き込みしてさ。
誰かからの返信を待ちながら、私は駅へ向かったの。
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