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case4 三好結衣『絶望の前に現れた神の使い』
第17話【相談内容】私が屋上へ向かった理由
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名前は三好結衣です。
美浜第二中学校2年生です。
うちは小さいころに母が病気で亡くなって以来、父と二人暮らしの、いわゆる父子家庭です。
父は工事現場とか家の解体の仕事をしているんですが、裕福とは決して言えない家庭です。
周りの同じ年の子に比べると、スマホも持っていないし、塾にも行ってません。
オシャレもしません。
父は好きなものを買ってあげるよって、スマホもいいよって言ってくれます。
だけど、必死に働いてくれている父を見たら欲しいとは言えなくて。
だってね、父は自分の好きなものとかまったく買わずに私の将来の貯金をしてくれているんです。
だから私もそんな父をなんとか楽させてあげたいって思って。
学校が終わったらすぐに家に帰って、父の代わりに買い物をしたり、ご飯を作ったり、家の掃除をしたりしてます。
え?
いい子だなって、ぜんぜんいい子じゃないです。
だって、私にはそれくらいしかできないんですから。
まだ子供だから、アルバイトもできないですし。
いつから父の手伝いをしているかって?
えっと……小学校の四年生くらいからです。
友達はいるのかって?
仲良しと呼べる友達はほとんどいません。
学校から帰っても遊びに行かなかったから。
数少ない友達は小学校から一緒の麻美くらいかな。
口べたで、女子の輪に入りづらい私に比べると、彼女はいつも華やかでみんなのアイドルなんです。
大きな会社の社長の娘さんだから、スマホはもちろん、お財布とか洋服は全部ブランドなの。
すごいでしょ?
彼女のことをどう思ってるか……かあ。
それ、今の私にはすごく難しい質問です。
彼女は私の憧れだったし、自慢の友だちでした。
いつも私を気に掛けてくれて、小学校の頃はよく私におやつをわけてくれたの。
私に「貧乏人」とか「ブス」とかひどい言葉を浴びせてくる相手にも、私の代わりに言い返してくれていた。
彼女はずっと私のヒーローだったの。
『結衣は言わなさすぎだよ。もっと自信持っていいよ。髪型とか、服とか変わったらさ、すっごくかわいいんだから。それに結衣はめちゃくちゃ優しいんだから。ね?』
そうやってつらくて泣く私をいつも励ましてくれたのが麻美だったんです。
彼女は私の親友で、一番の理解者。
お金持ちを鼻に掛けず、とても優しくて大好きな友達。
そうやって思ってきたの、ずっと――
だけどね、中学二年になってから彼女の態度が急に冷たくなったんです。
『近づかないでくれる? 貧乏臭がついちゃうじゃない?』
って。
初めに聞いたときはびっくりしちゃって。
私をさげすむような目を向けて、露骨に嫌な態度をとるようになった理由もぜんぜんわかんなくて。
とりまきのような女子を何人も引きつれて歩くようになった彼女は、女子グループのリーダーになっていて……
私の知っている麻美とまったく別人になっちゃったんです。
私が麻美を怒らせるようなことをしたのかなって思って、すぐに謝りました。
そうしたら、こう言われたんです。
『ちょっとお。小学校からのつきあいだからって呼び捨てやめてもらえる? あんたみたいな貧乏人に呼び捨てされるほど、私落ちぶれてないから』
呼び捨てがいけなかったんだって思いました。
そうですよね。
麻美は私とは違う世界の人なのに、勝手に親友なんて思っちゃって。
そんなことにも今まで気づかなかったんだって、このとき初めて気づきました。
だから、精一杯謝りました。
『もうほんっとう。あんたって陰気くさくて、こっちまで気分悪くなるわあ。これだけ暗いと貧乏神そのものって感じだわ。やだやだ。ねえ?』
そう言った麻美の顔と声を今も忘れられません。
それからは私、彼女に声を掛けられなくなりました。
ひとりでいることも多くなりました。
でも、麻美に冷たい言葉を返されるよりはひとりでいるほうが気が楽だったんです。
そんなある日のことでした。
給食のトレーを持って自分の席に戻ろうとしたとき、足元に急になにかが飛び出してきたんです。
咄嗟に避けきれずにトレーを放り投げる形でその場にすっころびました。
カレーの汁が制服に付いて、黄色いシミまでできちゃって。
床に転がったパンを急いで拾おうとしたら、きれいなほっそりした足が私の手ごとパンを踏みつぶしたんです。
顔をあげた私が見たのは麻美の顔でした。
私を見下ろしている彼女の顔はそれまで見たことがないくらい意地の悪いものでした。
『ごめんねえ。見えなかったわあ』
彼女が小さく笑いました。
周りでも同じように笑い声が上がりました。
笑い声の中で給食を片づけていると、ひとりの男子が手伝ってくれました。
え?
その男子……ですか?
犬飼君です。
頭が良くて、運動もできるですよ、彼。
身長も高くてかっこよくて。
そのうえ明るくて優しいから、みんなにも好かれていました。
踏んづけられたパンも交換してくれたんです。
『俺と半分こにしたらいいよ』
そう笑顔で言われました。
すごいですよね?
普通、こんなことできないですよね!
彼、すっごく正義感が強い人なんです。
将来の夢は刑事になることだって言ってました。
お父さんが警察の偉い人みたいで。
私は犬飼君にお礼を言ってから、トイレに行きました。
洗面所でカレーのシミを落とそうと思って。
そうしたら、バシャンッ!って水音が響きました。
あんまりにも冷たかったので、悲鳴を上げました。
全身ずぶ濡れになってしまった私の髪からは腐ったようなにおいがしました。
振り返ったら麻美とグループの女子たちがいました。
女子のひとりは水ぶきの掃除用のアルミのバケツを持っていました。
『これで洗濯の手間が省けたでしょ?』
そう言って、麻美が女子たちを引き連れてトイレから出ていった後は、堪えきれずに私はその場にくずれました。
どうして?
なんで?
うちが片親だから?
父子家庭だから?
お金持ちじゃないから?
なんでこんな風にいじめられるのかがわからなかったんです。
そのあとの授業には出られませんでした。
家に帰るために校門を出ようとしたところで、犬飼君に呼び止められました。
「『大丈夫か、三好。荷物、後で家に届けるから』
私は断りました。
そんなことしたら、犬飼君に迷惑がかかっちゃうから。
でも逆に彼に怒られました。
『なに言ってるんだよ! 木崎たちがどうかしてるんだよ! 三好はなにも悪いことしてないし、自分のこと、卑下する必要もないんだからな! 俺は三好のこと……』
涙とバケツの水を浴びてぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、犬飼君の言葉を最後まで聞かずにその場から逃げ帰りました。
その日、帰宅した父に学校のカバンが玄関に置いてあったと聞きました。
絶対に犬飼君です。
だけどお礼は言えませんでした。
その翌日からいじめはますますエスカレートすることになったんです。
教科書や上靴にはマジックで『死ね』とか『ブス』といった言葉が落書きされていました。
椅子に画びょうが置かれていたこともあって、知らずに踏んでしまったこともあります。
なんで?
どうして?
意を決して、麻美に訊きました。
すると麻美は大きなため息をついて『これだから空気の読めない人間は嫌いだ』って言ったんです。
『あんたみたいなのが犬飼君に好かれてるなんて、本当に不相応なのよ!』
やっと理解しました。
麻美は犬飼君が好きなんだって。
私、鈍感で……そんなこと、少しも気づかなくて。
だから誤ったんです。
気づかなくてごめんって、心から謝ったの。
それが余計に麻美を怒らせることになるなんて思いもせずに……
ごめんなさい……
このあとのことは……
ちょっと言葉にできない……
言わなきゃダメって……
うっ……うっ……
麻美は……周りの女子に指図しました。
わ、私は……ひっく……
羽交い絞めにされました。
ス……スカートを引き下ろされて……
セーラー服も……は、はぎ取られ……ゴ、ゴミ箱……捨てられて……
下着も……ぬ……ぬが……
うわあっっっん!
ご、ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
つらくて……つらくて……
やめてって……
さ……さけんだのに……
麻美……やめて……くれなく……
わ、私の……目の前で……写真を……
クラスのグループLINEに……送信……して……
父親と……近親相姦してる淫乱女子高生の本性がこれ……って……
そんなコメントまで……書いて……
消してって叫んだら……唾を吐いて……麻美たちは……か、帰っていきました。
もうムリ……
頑張れない……
お、お父さんが知ったら……って思ったら……
こ、こわくて……
だから……
捨てられた制服を着た後で、屋上に向かい……ました……
この世界から……消えるために……
美浜第二中学校2年生です。
うちは小さいころに母が病気で亡くなって以来、父と二人暮らしの、いわゆる父子家庭です。
父は工事現場とか家の解体の仕事をしているんですが、裕福とは決して言えない家庭です。
周りの同じ年の子に比べると、スマホも持っていないし、塾にも行ってません。
オシャレもしません。
父は好きなものを買ってあげるよって、スマホもいいよって言ってくれます。
だけど、必死に働いてくれている父を見たら欲しいとは言えなくて。
だってね、父は自分の好きなものとかまったく買わずに私の将来の貯金をしてくれているんです。
だから私もそんな父をなんとか楽させてあげたいって思って。
学校が終わったらすぐに家に帰って、父の代わりに買い物をしたり、ご飯を作ったり、家の掃除をしたりしてます。
え?
いい子だなって、ぜんぜんいい子じゃないです。
だって、私にはそれくらいしかできないんですから。
まだ子供だから、アルバイトもできないですし。
いつから父の手伝いをしているかって?
えっと……小学校の四年生くらいからです。
友達はいるのかって?
仲良しと呼べる友達はほとんどいません。
学校から帰っても遊びに行かなかったから。
数少ない友達は小学校から一緒の麻美くらいかな。
口べたで、女子の輪に入りづらい私に比べると、彼女はいつも華やかでみんなのアイドルなんです。
大きな会社の社長の娘さんだから、スマホはもちろん、お財布とか洋服は全部ブランドなの。
すごいでしょ?
彼女のことをどう思ってるか……かあ。
それ、今の私にはすごく難しい質問です。
彼女は私の憧れだったし、自慢の友だちでした。
いつも私を気に掛けてくれて、小学校の頃はよく私におやつをわけてくれたの。
私に「貧乏人」とか「ブス」とかひどい言葉を浴びせてくる相手にも、私の代わりに言い返してくれていた。
彼女はずっと私のヒーローだったの。
『結衣は言わなさすぎだよ。もっと自信持っていいよ。髪型とか、服とか変わったらさ、すっごくかわいいんだから。それに結衣はめちゃくちゃ優しいんだから。ね?』
そうやってつらくて泣く私をいつも励ましてくれたのが麻美だったんです。
彼女は私の親友で、一番の理解者。
お金持ちを鼻に掛けず、とても優しくて大好きな友達。
そうやって思ってきたの、ずっと――
だけどね、中学二年になってから彼女の態度が急に冷たくなったんです。
『近づかないでくれる? 貧乏臭がついちゃうじゃない?』
って。
初めに聞いたときはびっくりしちゃって。
私をさげすむような目を向けて、露骨に嫌な態度をとるようになった理由もぜんぜんわかんなくて。
とりまきのような女子を何人も引きつれて歩くようになった彼女は、女子グループのリーダーになっていて……
私の知っている麻美とまったく別人になっちゃったんです。
私が麻美を怒らせるようなことをしたのかなって思って、すぐに謝りました。
そうしたら、こう言われたんです。
『ちょっとお。小学校からのつきあいだからって呼び捨てやめてもらえる? あんたみたいな貧乏人に呼び捨てされるほど、私落ちぶれてないから』
呼び捨てがいけなかったんだって思いました。
そうですよね。
麻美は私とは違う世界の人なのに、勝手に親友なんて思っちゃって。
そんなことにも今まで気づかなかったんだって、このとき初めて気づきました。
だから、精一杯謝りました。
『もうほんっとう。あんたって陰気くさくて、こっちまで気分悪くなるわあ。これだけ暗いと貧乏神そのものって感じだわ。やだやだ。ねえ?』
そう言った麻美の顔と声を今も忘れられません。
それからは私、彼女に声を掛けられなくなりました。
ひとりでいることも多くなりました。
でも、麻美に冷たい言葉を返されるよりはひとりでいるほうが気が楽だったんです。
そんなある日のことでした。
給食のトレーを持って自分の席に戻ろうとしたとき、足元に急になにかが飛び出してきたんです。
咄嗟に避けきれずにトレーを放り投げる形でその場にすっころびました。
カレーの汁が制服に付いて、黄色いシミまでできちゃって。
床に転がったパンを急いで拾おうとしたら、きれいなほっそりした足が私の手ごとパンを踏みつぶしたんです。
顔をあげた私が見たのは麻美の顔でした。
私を見下ろしている彼女の顔はそれまで見たことがないくらい意地の悪いものでした。
『ごめんねえ。見えなかったわあ』
彼女が小さく笑いました。
周りでも同じように笑い声が上がりました。
笑い声の中で給食を片づけていると、ひとりの男子が手伝ってくれました。
え?
その男子……ですか?
犬飼君です。
頭が良くて、運動もできるですよ、彼。
身長も高くてかっこよくて。
そのうえ明るくて優しいから、みんなにも好かれていました。
踏んづけられたパンも交換してくれたんです。
『俺と半分こにしたらいいよ』
そう笑顔で言われました。
すごいですよね?
普通、こんなことできないですよね!
彼、すっごく正義感が強い人なんです。
将来の夢は刑事になることだって言ってました。
お父さんが警察の偉い人みたいで。
私は犬飼君にお礼を言ってから、トイレに行きました。
洗面所でカレーのシミを落とそうと思って。
そうしたら、バシャンッ!って水音が響きました。
あんまりにも冷たかったので、悲鳴を上げました。
全身ずぶ濡れになってしまった私の髪からは腐ったようなにおいがしました。
振り返ったら麻美とグループの女子たちがいました。
女子のひとりは水ぶきの掃除用のアルミのバケツを持っていました。
『これで洗濯の手間が省けたでしょ?』
そう言って、麻美が女子たちを引き連れてトイレから出ていった後は、堪えきれずに私はその場にくずれました。
どうして?
なんで?
うちが片親だから?
父子家庭だから?
お金持ちじゃないから?
なんでこんな風にいじめられるのかがわからなかったんです。
そのあとの授業には出られませんでした。
家に帰るために校門を出ようとしたところで、犬飼君に呼び止められました。
「『大丈夫か、三好。荷物、後で家に届けるから』
私は断りました。
そんなことしたら、犬飼君に迷惑がかかっちゃうから。
でも逆に彼に怒られました。
『なに言ってるんだよ! 木崎たちがどうかしてるんだよ! 三好はなにも悪いことしてないし、自分のこと、卑下する必要もないんだからな! 俺は三好のこと……』
涙とバケツの水を浴びてぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、犬飼君の言葉を最後まで聞かずにその場から逃げ帰りました。
その日、帰宅した父に学校のカバンが玄関に置いてあったと聞きました。
絶対に犬飼君です。
だけどお礼は言えませんでした。
その翌日からいじめはますますエスカレートすることになったんです。
教科書や上靴にはマジックで『死ね』とか『ブス』といった言葉が落書きされていました。
椅子に画びょうが置かれていたこともあって、知らずに踏んでしまったこともあります。
なんで?
どうして?
意を決して、麻美に訊きました。
すると麻美は大きなため息をついて『これだから空気の読めない人間は嫌いだ』って言ったんです。
『あんたみたいなのが犬飼君に好かれてるなんて、本当に不相応なのよ!』
やっと理解しました。
麻美は犬飼君が好きなんだって。
私、鈍感で……そんなこと、少しも気づかなくて。
だから誤ったんです。
気づかなくてごめんって、心から謝ったの。
それが余計に麻美を怒らせることになるなんて思いもせずに……
ごめんなさい……
このあとのことは……
ちょっと言葉にできない……
言わなきゃダメって……
うっ……うっ……
麻美は……周りの女子に指図しました。
わ、私は……ひっく……
羽交い絞めにされました。
ス……スカートを引き下ろされて……
セーラー服も……は、はぎ取られ……ゴ、ゴミ箱……捨てられて……
下着も……ぬ……ぬが……
うわあっっっん!
ご、ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
つらくて……つらくて……
やめてって……
さ……さけんだのに……
麻美……やめて……くれなく……
わ、私の……目の前で……写真を……
クラスのグループLINEに……送信……して……
父親と……近親相姦してる淫乱女子高生の本性がこれ……って……
そんなコメントまで……書いて……
消してって叫んだら……唾を吐いて……麻美たちは……か、帰っていきました。
もうムリ……
頑張れない……
お、お父さんが知ったら……って思ったら……
こ、こわくて……
だから……
捨てられた制服を着た後で、屋上に向かい……ました……
この世界から……消えるために……
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