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case1 門奈愛華『こちら、しろねこ心療所』
第2話【相談内容】痴漢被害に遭ってます
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――まただ。
そう思いました。
背後にピッタリと張りついてくる人の気配を感じたんです。
とっさに私は息を殺しました。
自然に体がこわばって、緊張で冷や汗も出てきました。
いつものアイツだということはすぐに気づきました。
だってやり方が同じだったから。
体をくっつけてくるんです。
でも、微妙にすき間は作っているんですよ?
なんて言えばいいのかな。
物理的な被害に遭っているって言えない距離感を保たれているっていう説明でわかりますか?
なので、勇気を振り絞って「痴漢されてます」って叫ぶのも絶対にできないわけです。
たぶん相手はそれを狙ってやっているんじゃないかなって思います。
それくらいギリギリの距離なんです。
すごくいやらしい相手だなって思いました。
姑息だなって。
じゃあ、相手の思うツボにハマったまんまでいいのかって言えば、絶対にいいわけないんです。
だってすごく気持ち悪いから。
なんにもしてこないから余計に気持ち悪くて。
いえ……なにかされたらもっと気持ち悪いですけど。
でも、もう電車に乗るのがつらくなるくらいで。
誰かわからない生暖かい息がうなじの辺りにかかっているんですから。
あの……ちょっとすみません。
一個、質問していいですか?
どうしても気になっちゃって。
あの……じゃあ。
首、本当につらくないんですか?
いえ、つらくないならいいんですけど。
久能さん、とてもマッチョに見えないし、白夜さんって結構重そうだし。
あっ、すみません。
続き!
続き、話します!
えっと。
だから、なんとか回避できないかって一生懸命考えて、乗る時間や車両を毎日変えてみることにしました。
怪しい人がいないかも、電車に乗る前にしっかり確認して。
なのに必ずアイツは現れるんです。
どこからどうやって私を見つけ出しているのかわからないんですけど。
毎日変えているのにやってくるんです。
しかも一度捕捉されると逃げられなくて。
ほらっ、満員電車ですから。
次の駅で降りて別の電車に乗り換えても?
ええ、ダメでした。
どう頑張っても標的にされるんです。
こんなことがもう一ヵ月も続いています。
だから、周りにいる人みんなが怪しい人にしか見えなくなってて。
ええ。
久能さんのことも変な人がいるなって。
あっ、すみません。
だって……猫を頭に乗せて電車乗る人なんて見たことも聞いたこともないですし。
今は話しかけてもらえてよかったと思ってます。
ずっと苦しかったから。
もしも……
もしもね。
私に相談相手がいたのなら、ここまで悩まなかったのかもしれません。
だけど両親には言えないんです。
心配をかけたくないし、負担をかけたくないから。
だったら友達に言えればよかったんでしょうけど、信じてもらえないだろうし、笑われたらって思ったら言えなくなってて。
偶然が重なっているだけで、本当は痴漢になんか遭ってないんじゃないかって。
自分の思い過ごしだって何度も何度も思い込もうとしてました。
どうしてって……?
私はお世辞にもかわいいとは言えないじゃないですか?
だってメガネっ子だし。
化粧もしてないし。
髪型のアレンジも挑戦してみたことはあったんですけど、動画見てもなんだかよくわかんなくて。
結局、邪魔にならないように二つにわけて縛るくらいしかできなくて。
ツインテールはその……地味な私にはちょっと突き抜けすぎてるというか……
とにかく、こんな地味な私が変な痴漢被害に遭うなんて、自意識過剰もいいところだって笑われるのがオチだと思うんですよ。
若い子なら誰でもいいっていう理由なら当てはまるとは思います。
でもね。
顔を確認してやろうって奮起したときもあったんです。
ちゃんと顔を確認して「やめてください」って言おうって思って。
でも、できませんでした。
報復されるかもしれないし。
仮にその場で逆切れされて、痴漢以上のことをされるような事態になっちゃったらって考えたらもう、すっごく怖くて。
だからじっとやり過ごすことにしたんです。
相手はなにもしてこないから。
それなら石のように固まっていればいいって。
私さえ我慢すればいい。
気配を殺して、動揺を隠して、時間が過ぎるのを待つだけです。
長くても一時間耐えれば解放されるんです。
だから今日もそうやって終わるもんだって思ってました。
まさか頭に猫を乗せた人に出会うなんて、ほんの少しも思わなかったから。
久能さん。
これが今の私の悩み事のすべてです。
そう思いました。
背後にピッタリと張りついてくる人の気配を感じたんです。
とっさに私は息を殺しました。
自然に体がこわばって、緊張で冷や汗も出てきました。
いつものアイツだということはすぐに気づきました。
だってやり方が同じだったから。
体をくっつけてくるんです。
でも、微妙にすき間は作っているんですよ?
なんて言えばいいのかな。
物理的な被害に遭っているって言えない距離感を保たれているっていう説明でわかりますか?
なので、勇気を振り絞って「痴漢されてます」って叫ぶのも絶対にできないわけです。
たぶん相手はそれを狙ってやっているんじゃないかなって思います。
それくらいギリギリの距離なんです。
すごくいやらしい相手だなって思いました。
姑息だなって。
じゃあ、相手の思うツボにハマったまんまでいいのかって言えば、絶対にいいわけないんです。
だってすごく気持ち悪いから。
なんにもしてこないから余計に気持ち悪くて。
いえ……なにかされたらもっと気持ち悪いですけど。
でも、もう電車に乗るのがつらくなるくらいで。
誰かわからない生暖かい息がうなじの辺りにかかっているんですから。
あの……ちょっとすみません。
一個、質問していいですか?
どうしても気になっちゃって。
あの……じゃあ。
首、本当につらくないんですか?
いえ、つらくないならいいんですけど。
久能さん、とてもマッチョに見えないし、白夜さんって結構重そうだし。
あっ、すみません。
続き!
続き、話します!
えっと。
だから、なんとか回避できないかって一生懸命考えて、乗る時間や車両を毎日変えてみることにしました。
怪しい人がいないかも、電車に乗る前にしっかり確認して。
なのに必ずアイツは現れるんです。
どこからどうやって私を見つけ出しているのかわからないんですけど。
毎日変えているのにやってくるんです。
しかも一度捕捉されると逃げられなくて。
ほらっ、満員電車ですから。
次の駅で降りて別の電車に乗り換えても?
ええ、ダメでした。
どう頑張っても標的にされるんです。
こんなことがもう一ヵ月も続いています。
だから、周りにいる人みんなが怪しい人にしか見えなくなってて。
ええ。
久能さんのことも変な人がいるなって。
あっ、すみません。
だって……猫を頭に乗せて電車乗る人なんて見たことも聞いたこともないですし。
今は話しかけてもらえてよかったと思ってます。
ずっと苦しかったから。
もしも……
もしもね。
私に相談相手がいたのなら、ここまで悩まなかったのかもしれません。
だけど両親には言えないんです。
心配をかけたくないし、負担をかけたくないから。
だったら友達に言えればよかったんでしょうけど、信じてもらえないだろうし、笑われたらって思ったら言えなくなってて。
偶然が重なっているだけで、本当は痴漢になんか遭ってないんじゃないかって。
自分の思い過ごしだって何度も何度も思い込もうとしてました。
どうしてって……?
私はお世辞にもかわいいとは言えないじゃないですか?
だってメガネっ子だし。
化粧もしてないし。
髪型のアレンジも挑戦してみたことはあったんですけど、動画見てもなんだかよくわかんなくて。
結局、邪魔にならないように二つにわけて縛るくらいしかできなくて。
ツインテールはその……地味な私にはちょっと突き抜けすぎてるというか……
とにかく、こんな地味な私が変な痴漢被害に遭うなんて、自意識過剰もいいところだって笑われるのがオチだと思うんですよ。
若い子なら誰でもいいっていう理由なら当てはまるとは思います。
でもね。
顔を確認してやろうって奮起したときもあったんです。
ちゃんと顔を確認して「やめてください」って言おうって思って。
でも、できませんでした。
報復されるかもしれないし。
仮にその場で逆切れされて、痴漢以上のことをされるような事態になっちゃったらって考えたらもう、すっごく怖くて。
だからじっとやり過ごすことにしたんです。
相手はなにもしてこないから。
それなら石のように固まっていればいいって。
私さえ我慢すればいい。
気配を殺して、動揺を隠して、時間が過ぎるのを待つだけです。
長くても一時間耐えれば解放されるんです。
だから今日もそうやって終わるもんだって思ってました。
まさか頭に猫を乗せた人に出会うなんて、ほんの少しも思わなかったから。
久能さん。
これが今の私の悩み事のすべてです。
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