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第一章 異世界転生

第二話 さよなら現世、こんにちは異世界

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 いつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれる――なんてことが、現実に起こりえないことは重々承知の上で、私はそれでもステキな男性とのステキな恋愛結婚を夢見ていた。

 だって、私が読んでいた小説の中では、恵まれない境遇の娘は必ずと言っていいほど、ステキな男性と巡り合い、寵愛を受け、しあわせな結婚をしているのだから。

 現世での私。
 加賀美郷という名の、平凡な女子大生だった私。

 特に目立つわけでもなく、勉強ができたわけでもなく。
 運動神経抜群だったわけでもなく、なにか突出して才能があったわけでもなかった。
 
 本当に平均点だった私は、誰に嫌われるわけでも、好かれるわけでもなかった。

 そういう人生に不満があったわけじゃなかったし、これからもそういう平均的な人生を歩むものなんだとも思っていた。

 けれど、そんな平凡な人生の私に、ある日、非凡な出来事が起こった。

 交通事故。
 それが前世の私の死因。

 雨の日、横断歩道をとぼとぼと渡っていた私の元に、信号無視した車が突っ込んできた。
 あっという間もない出来事で、気づいたときには道路に血まみれになって倒れている私がいた。

 ステキな恋愛結婚を夢見ていた平凡な少女はこうして、あっけない最期を遂げた。

 私は、自分の亡骸を足元に見ながら、自分の不遇を呪った。
 こんな仕打ちを施した神様を呪った。
 ばかやろうって。
 ひどすぎるじゃないかって。

 そうしたら、こんな声が聞こえてきた。

「本当だね。これはひどすぎるよね」

 って。

 振り返るとそこに、金色の長い髪をした碧眼の美貌の人が立っていた。
 彼は「かわいそうなことをするもんだ」と私の隣に並んで、私の亡骸を見つめた。

 そのとき、私はハッと息を飲んだ。
 その人は私を見ながら泣いていた。
 泣けない私の代わりに泣いてくれているみたいに、私には思えた。

「どうして私、死ななくちゃならなかったんでしょうか?」

 知らない人に、私はそんなことを聞いていた。
 この人だって、そんなこと、わかりっこないはずなのに、誰かにこの無念の内を聞いてほしかったんだと思う。

 彼は「そうだね」と言った。
 なんの答えにもなっていなくて、私はまた訊いた。

「私はただ、ステキな男性と巡り合って、愛されて、結婚したかっただけなのに。そんな小さな望みすら、神様は叶えてくれないんですね。この世に神様なんか、きっといないに違いない。そう思いませんか?」

 すると彼はまた「そうだね」と言った。
 それから今度は彼が私に訊いた。

「もしもその願いが叶えてくれる神様がいたら、きみはその神様のことを大事にするかい?」

 私はそんなことを訊いてきた彼を見上げた。
 彼の目から涙は姿を消していた。
 深い海のような色の瞳はとても澄んでいて、すごくキレイで吸い込まれそうだな――なんて思ってしまった。

「そんな神様がいるなら、私は全力でその神様をお慕いします」

 私はきっぱりと答えた。
 
「じゃあ、その願いを私が叶えてあげるよ、加賀美郷ちゃん」
「え?」

 驚いて彼を見上げる。
 彼は極上の笑みを湛えながら、私の頬に触れた。
 とても柔らかですべすべした手の感触に、私はしばし我を忘れた。

「その代わり、私を助けてほしい。私はね、今、死にかかってるんだ」
「死にかかってる?」
「そう。忘れ去られようとしている。それは死と同等の意味なんだ。このままでは私という存在は消えてしまう。だからね、私のことを多くの人に知らしめてほしいんだ」
「私、なんの力もありません。平凡な女子大生です」
「そう。今はね。でも、きみは知らないだけで、きみはすごい力を持っているんだよ。誰よりも、なによりもすばらしい聖なる力を、その内に秘めた子なんだ。だから、私はきみを選んだ。私の使者として」

 彼はやさしく私の頬を撫でた。
 撫でた傍から、ぽわっと温かくなって、かたくなった細胞が息を吹き返して芽吹いていく――そんな感覚に襲われた。

「教祖になって、私の名を再び広めてほしい。すれば、きみの願いは叶うだろう」
「いったい、あなたは誰なんですか?」
「私の名前は『ルドモンド』。きみを選んだ、きみの神の名だ」
「ルドモンド神?」
「私の最後の力で新しい命をきみにあげる。さあ、新しい世界へ行っておいで」

 そういうと、彼は私を、私の魂を、空高く放り投げた。
 私は青い空へと吸い込まれ、一体になり――そうして新しい世界で、新しい器と名前を手に入れた。

 アリア=ラグドール。

 恵まれた容姿、才能を持った、新しい世界の新しい私は、こうして異世界へと転生することになった。

 
 
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