2 / 3
第一章 異世界転生
第二話 さよなら現世、こんにちは異世界
しおりを挟む
いつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれる――なんてことが、現実に起こりえないことは重々承知の上で、私はそれでもステキな男性とのステキな恋愛結婚を夢見ていた。
だって、私が読んでいた小説の中では、恵まれない境遇の娘は必ずと言っていいほど、ステキな男性と巡り合い、寵愛を受け、しあわせな結婚をしているのだから。
現世での私。
加賀美郷という名の、平凡な女子大生だった私。
特に目立つわけでもなく、勉強ができたわけでもなく。
運動神経抜群だったわけでもなく、なにか突出して才能があったわけでもなかった。
本当に平均点だった私は、誰に嫌われるわけでも、好かれるわけでもなかった。
そういう人生に不満があったわけじゃなかったし、これからもそういう平均的な人生を歩むものなんだとも思っていた。
けれど、そんな平凡な人生の私に、ある日、非凡な出来事が起こった。
交通事故。
それが前世の私の死因。
雨の日、横断歩道をとぼとぼと渡っていた私の元に、信号無視した車が突っ込んできた。
あっという間もない出来事で、気づいたときには道路に血まみれになって倒れている私がいた。
ステキな恋愛結婚を夢見ていた平凡な少女はこうして、あっけない最期を遂げた。
私は、自分の亡骸を足元に見ながら、自分の不遇を呪った。
こんな仕打ちを施した神様を呪った。
ばかやろうって。
ひどすぎるじゃないかって。
そうしたら、こんな声が聞こえてきた。
「本当だね。これはひどすぎるよね」
って。
振り返るとそこに、金色の長い髪をした碧眼の美貌の人が立っていた。
彼は「かわいそうなことをするもんだ」と私の隣に並んで、私の亡骸を見つめた。
そのとき、私はハッと息を飲んだ。
その人は私を見ながら泣いていた。
泣けない私の代わりに泣いてくれているみたいに、私には思えた。
「どうして私、死ななくちゃならなかったんでしょうか?」
知らない人に、私はそんなことを聞いていた。
この人だって、そんなこと、わかりっこないはずなのに、誰かにこの無念の内を聞いてほしかったんだと思う。
彼は「そうだね」と言った。
なんの答えにもなっていなくて、私はまた訊いた。
「私はただ、ステキな男性と巡り合って、愛されて、結婚したかっただけなのに。そんな小さな望みすら、神様は叶えてくれないんですね。この世に神様なんか、きっといないに違いない。そう思いませんか?」
すると彼はまた「そうだね」と言った。
それから今度は彼が私に訊いた。
「もしもその願いが叶えてくれる神様がいたら、きみはその神様のことを大事にするかい?」
私はそんなことを訊いてきた彼を見上げた。
彼の目から涙は姿を消していた。
深い海のような色の瞳はとても澄んでいて、すごくキレイで吸い込まれそうだな――なんて思ってしまった。
「そんな神様がいるなら、私は全力でその神様をお慕いします」
私はきっぱりと答えた。
「じゃあ、その願いを私が叶えてあげるよ、加賀美郷ちゃん」
「え?」
驚いて彼を見上げる。
彼は極上の笑みを湛えながら、私の頬に触れた。
とても柔らかですべすべした手の感触に、私はしばし我を忘れた。
「その代わり、私を助けてほしい。私はね、今、死にかかってるんだ」
「死にかかってる?」
「そう。忘れ去られようとしている。それは死と同等の意味なんだ。このままでは私という存在は消えてしまう。だからね、私のことを多くの人に知らしめてほしいんだ」
「私、なんの力もありません。平凡な女子大生です」
「そう。今はね。でも、きみは知らないだけで、きみはすごい力を持っているんだよ。誰よりも、なによりもすばらしい聖なる力を、その内に秘めた子なんだ。だから、私はきみを選んだ。私の使者として」
彼はやさしく私の頬を撫でた。
撫でた傍から、ぽわっと温かくなって、かたくなった細胞が息を吹き返して芽吹いていく――そんな感覚に襲われた。
「教祖になって、私の名を再び広めてほしい。すれば、きみの願いは叶うだろう」
「いったい、あなたは誰なんですか?」
「私の名前は『ルドモンド』。きみを選んだ、きみの神の名だ」
「ルドモンド神?」
「私の最後の力で新しい命をきみにあげる。さあ、新しい世界へ行っておいで」
そういうと、彼は私を、私の魂を、空高く放り投げた。
私は青い空へと吸い込まれ、一体になり――そうして新しい世界で、新しい器と名前を手に入れた。
アリア=ラグドール。
恵まれた容姿、才能を持った、新しい世界の新しい私は、こうして異世界へと転生することになった。
だって、私が読んでいた小説の中では、恵まれない境遇の娘は必ずと言っていいほど、ステキな男性と巡り合い、寵愛を受け、しあわせな結婚をしているのだから。
現世での私。
加賀美郷という名の、平凡な女子大生だった私。
特に目立つわけでもなく、勉強ができたわけでもなく。
運動神経抜群だったわけでもなく、なにか突出して才能があったわけでもなかった。
本当に平均点だった私は、誰に嫌われるわけでも、好かれるわけでもなかった。
そういう人生に不満があったわけじゃなかったし、これからもそういう平均的な人生を歩むものなんだとも思っていた。
けれど、そんな平凡な人生の私に、ある日、非凡な出来事が起こった。
交通事故。
それが前世の私の死因。
雨の日、横断歩道をとぼとぼと渡っていた私の元に、信号無視した車が突っ込んできた。
あっという間もない出来事で、気づいたときには道路に血まみれになって倒れている私がいた。
ステキな恋愛結婚を夢見ていた平凡な少女はこうして、あっけない最期を遂げた。
私は、自分の亡骸を足元に見ながら、自分の不遇を呪った。
こんな仕打ちを施した神様を呪った。
ばかやろうって。
ひどすぎるじゃないかって。
そうしたら、こんな声が聞こえてきた。
「本当だね。これはひどすぎるよね」
って。
振り返るとそこに、金色の長い髪をした碧眼の美貌の人が立っていた。
彼は「かわいそうなことをするもんだ」と私の隣に並んで、私の亡骸を見つめた。
そのとき、私はハッと息を飲んだ。
その人は私を見ながら泣いていた。
泣けない私の代わりに泣いてくれているみたいに、私には思えた。
「どうして私、死ななくちゃならなかったんでしょうか?」
知らない人に、私はそんなことを聞いていた。
この人だって、そんなこと、わかりっこないはずなのに、誰かにこの無念の内を聞いてほしかったんだと思う。
彼は「そうだね」と言った。
なんの答えにもなっていなくて、私はまた訊いた。
「私はただ、ステキな男性と巡り合って、愛されて、結婚したかっただけなのに。そんな小さな望みすら、神様は叶えてくれないんですね。この世に神様なんか、きっといないに違いない。そう思いませんか?」
すると彼はまた「そうだね」と言った。
それから今度は彼が私に訊いた。
「もしもその願いが叶えてくれる神様がいたら、きみはその神様のことを大事にするかい?」
私はそんなことを訊いてきた彼を見上げた。
彼の目から涙は姿を消していた。
深い海のような色の瞳はとても澄んでいて、すごくキレイで吸い込まれそうだな――なんて思ってしまった。
「そんな神様がいるなら、私は全力でその神様をお慕いします」
私はきっぱりと答えた。
「じゃあ、その願いを私が叶えてあげるよ、加賀美郷ちゃん」
「え?」
驚いて彼を見上げる。
彼は極上の笑みを湛えながら、私の頬に触れた。
とても柔らかですべすべした手の感触に、私はしばし我を忘れた。
「その代わり、私を助けてほしい。私はね、今、死にかかってるんだ」
「死にかかってる?」
「そう。忘れ去られようとしている。それは死と同等の意味なんだ。このままでは私という存在は消えてしまう。だからね、私のことを多くの人に知らしめてほしいんだ」
「私、なんの力もありません。平凡な女子大生です」
「そう。今はね。でも、きみは知らないだけで、きみはすごい力を持っているんだよ。誰よりも、なによりもすばらしい聖なる力を、その内に秘めた子なんだ。だから、私はきみを選んだ。私の使者として」
彼はやさしく私の頬を撫でた。
撫でた傍から、ぽわっと温かくなって、かたくなった細胞が息を吹き返して芽吹いていく――そんな感覚に襲われた。
「教祖になって、私の名を再び広めてほしい。すれば、きみの願いは叶うだろう」
「いったい、あなたは誰なんですか?」
「私の名前は『ルドモンド』。きみを選んだ、きみの神の名だ」
「ルドモンド神?」
「私の最後の力で新しい命をきみにあげる。さあ、新しい世界へ行っておいで」
そういうと、彼は私を、私の魂を、空高く放り投げた。
私は青い空へと吸い込まれ、一体になり――そうして新しい世界で、新しい器と名前を手に入れた。
アリア=ラグドール。
恵まれた容姿、才能を持った、新しい世界の新しい私は、こうして異世界へと転生することになった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
神に愛された子
鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。
家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。
常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった!
平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――!
感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
戦車で行く、異世界奇譚
焼飯学生
ファンタジー
戦車の整備員、永山大翔は不慮の事故で命を落とした。目が覚めると彼の前に、とある世界を管理している女神が居た。女神は大翔に、世界の安定のために動いてくれるのであれば、特典付きで異世界転生させると提案し、そこで大翔は憧れだった10式戦車を転生特典で貰うことにした。
少し神の手が加わった10式戦車を手に入れた大翔は、神からの依頼を行いつつ、第二の人生を謳歌することした。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~
泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。
女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。
そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。
冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。
・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。
・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる