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lesson 31 温かい背中
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揺れる、揺れる。
一定のリズムで息遣いが聞こえる。
揺れる、揺れる。
不安定な足が振り子のように前へ後ろへとかすかに揺れる。
鼻先を掠めるのは煙草と香水の混じった大好きな匂い。
頬にあたるくすぐったい感触はなんだろう?
ゆっくりと目を開ける。
重たい瞼がうまく開いてくれないけど、こじ開けるようにして前を向く。
見慣れない風景が広がっている。
いつも見ている風景よりも、目線が高いことにぼんやりとしながらも気づく。
どうしちゃったのかなって思う私の体がすごくポカポカしている。
視線を少しだけずらすと、胸に密着した大きな背中があった。
「もうすぐだからな」
何も言っていないのに、葵の声が飛んできた。
「ん……」
ぼんやりする頭を持ち上げようとした瞬間に葵に「寝てろ」ととめられた。
「熱が39度近いんだ。無理するな」
葵の表情は見えない。
声しか聞こえない。
それでも、背中から見える葵の顔に私は得した気分になる。
葵の肩に、その首にすりよせるように頭を乗せた。
葵の匂い。
葵の呼吸。
葵の振動。
しあわせな匂い。
しあわせな音。
しあわせな揺れ。
大好きな背中におんぶされて、熱があってよかったなんて不謹慎な事まで考えてしまう。
「好き……」
聞こえるか、聞こえないか分からないくらいの声で私はつぶやいた。
大好き。
言った途端に、たくさん言いたくなった魔法の言葉。
くすっ。
葵が笑ったような気がした。
見えないのに、どんな顔をしているのか手に取るようにわかる。
「寝てないと、熱、あがるぞ」
「うん……」
布団の中ではないから寝たら余計に体に障る気もするけど、葵の優しさが心にしみて、どうしようもないくらい嬉しくて、思わず素直になってまぶたを閉じる。
熱が下がった後、葵と私はどうなるんだろう?
答えが待っているのかな?
それでも今が本当にしあわせだから、どんな答えが待っていても受けいれられる気がした。
葵の背中の上、ただ今だけはしあわせなこの時間を噛みしめるように顔を押しつけて、もう一度だけ夢の世界へと意識を手離した。
一定のリズムで息遣いが聞こえる。
揺れる、揺れる。
不安定な足が振り子のように前へ後ろへとかすかに揺れる。
鼻先を掠めるのは煙草と香水の混じった大好きな匂い。
頬にあたるくすぐったい感触はなんだろう?
ゆっくりと目を開ける。
重たい瞼がうまく開いてくれないけど、こじ開けるようにして前を向く。
見慣れない風景が広がっている。
いつも見ている風景よりも、目線が高いことにぼんやりとしながらも気づく。
どうしちゃったのかなって思う私の体がすごくポカポカしている。
視線を少しだけずらすと、胸に密着した大きな背中があった。
「もうすぐだからな」
何も言っていないのに、葵の声が飛んできた。
「ん……」
ぼんやりする頭を持ち上げようとした瞬間に葵に「寝てろ」ととめられた。
「熱が39度近いんだ。無理するな」
葵の表情は見えない。
声しか聞こえない。
それでも、背中から見える葵の顔に私は得した気分になる。
葵の肩に、その首にすりよせるように頭を乗せた。
葵の匂い。
葵の呼吸。
葵の振動。
しあわせな匂い。
しあわせな音。
しあわせな揺れ。
大好きな背中におんぶされて、熱があってよかったなんて不謹慎な事まで考えてしまう。
「好き……」
聞こえるか、聞こえないか分からないくらいの声で私はつぶやいた。
大好き。
言った途端に、たくさん言いたくなった魔法の言葉。
くすっ。
葵が笑ったような気がした。
見えないのに、どんな顔をしているのか手に取るようにわかる。
「寝てないと、熱、あがるぞ」
「うん……」
布団の中ではないから寝たら余計に体に障る気もするけど、葵の優しさが心にしみて、どうしようもないくらい嬉しくて、思わず素直になってまぶたを閉じる。
熱が下がった後、葵と私はどうなるんだろう?
答えが待っているのかな?
それでも今が本当にしあわせだから、どんな答えが待っていても受けいれられる気がした。
葵の背中の上、ただ今だけはしあわせなこの時間を噛みしめるように顔を押しつけて、もう一度だけ夢の世界へと意識を手離した。
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