極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ

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Lesson 0 きっかけは甘いおねだり

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「ねえ。高校合格のお礼をくれない?」

 いつもとはまったく違う情熱的な目で私を見る彼がそう言って笑った。
 なにかが違う。
 見慣れた顔のはずなのに、自分が知っている人物と同一だとどうしても思えなかった。
 耳元に落ちる囁き声だって別人みたいに違う。
 炎のように熱くたぎった目もそうだし、口角を意地悪く持ち上げる笑い方だって初めてだ。

 そんな顔で現れた彼を見た私は、まるで彫刻にでもなってしまったかのように一瞬で動けなくなった。
 だって彼がこれまでのどんな彼よりも魅力的な笑顔で甘ったるい声でささやくのだから。

「ねぇ、くれる?」

 って、頭を撫でるみたいに優しく。

 全身のゾクゾクがやまない。
 心臓がやかましいくらいに大きな音を立てている。
 彼の声が頭を真っ白にする。
 甘い、甘い、果実にも似た誘惑にめまいを起こしている。

 ――でもダメ! しっかりしなくちゃ!

 なんとしても抗いたくて、私は強く拳を握りしめる。
 だって高校入学したのはもう一年以上も前のことじゃない?

 ――今さら、なに言ってるの!?

 そう思うのに、引き寄せる腕に、力に、なにひとつ逆らえなかった。
 頭の中で警告音が鳴り響いている。
 これ以上は危険! 踏み込むなって。

 ――わかってる! わかってるけど……!

 すると彼は私の握りこぶしをゆっくり開くと、指を滑り込ませて恋人つなぎをした。
 ぎゅうっと力強く握りしめれてた途端、私の心臓がはじけ飛ぶ。
 嗅覚はスパイシーな香水とたばこの香りとが混じった匂いでいっぱいになっている。
 同学年の男子たちが振りまく汗と制汗スプレーの香りとは世界が違う。
 大人の男の人の匂い。
 くらくらして、気を抜いたら体の力が抜け落ちてしまいそう。

 一定のリズムで彼の鼓動が聞こえる。
 髪にかかる彼の吐息が熱い。
 耳に響く低い声は私の中で眠る女のさがを目覚めさせる。

 ――ああっ!

 背中に回った筋肉質のたくましい腕をどうやっても振りほどけない。
 胸の内から湧きあがる熱が痺れとともに足のつま先から頭の先へと抜けていって、まるで麻薬みたいに私を溶かすんだもの。

「大丈夫。優しくするから」

 媚薬にも似た低い声音に心地よい痺れが押し寄せてきて、私から完全に抵抗する意識を喪失させた。
 意思を奪われた私は、大きくて厚い胸に自分の身を預けるしかなかった。

 こうして高校二年のある夏の日、私はさなぎから蝶になった。
 小さい頃からずっと可愛がってくれていた優しいお隣のお兄ちゃん。
 家庭教師をしてくれていた大好きなお兄ちゃん。
 小さい頃の私は彼のお嫁さんになるのが夢だった。

 だけど、そんな幼い関係性はこの日から別のものに変わってしまった。
 甘く香るその人の匂いにつつまれながら、必死にその背にしがみつき、爪をたて、歯を食いしばる。
 うわごとのように彼の名前をつぶやきながら、ただ必死に情熱的な夢の中を泳いでいたのだった。
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