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母の肖像
2人目 コロ丸の飼い主 杉田みのりの証言
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南田さんたちがこの町内に越して来たのはたしか十年前だったんじゃないかしら?
上のお兄ちゃんの崇君とうちの子はちょうど同じ年でお互いの家をよく行き来して遊んでいたんですよ。高校生になってからは、学校も別々になっちゃったから。崇君はほら、うちの子と違って勉強がすごくできるから、県で一番の高校へ行ったんですよ。
でもねえ、未だに顔を合わせれば「おばちゃん、こんにちは」って元気に挨拶してくれるんですよお、崇君。それにお母さんの恵理子さんに似て、とても男前でしょ? あれはもう、将来芸能人にスカウトされるだろうねって、ママ友さんたちの間でも噂になってるくらいなんだから。恵理子さんも誇らしいでしょうねえ。ああ、うらやましいったらないわ。
恵理子さんですか? ああ、半年くらい前まではうちの前をよく散歩してらしたわねえ。物静かで、優しい人ですよ、恵理子さん。いつもニコニコして怒るようなこともない人で、すっごいオシャレだったな……それなのに、うちのコロ丸が恵理子さんにとんでもないことしでかして。私、もうびっくりしちゃって。
恵理子さんは散歩のとき、いつもうちのコロ丸の頭を撫でてくれていたの。あの人、猫派らしいんですけどね。犬もかわいいですねって。特にコロ丸は名前の通り、コロコロ太って食べたくなっちゃうくらいだって。赤毛の子は特に美味しいんだなんて、ユーモアたっぷりに言うもんだから、私、噴き出しちゃったくらいです。
でも、当のコロ丸はそれを真に受けちゃったみたい。そう言って、頭を撫でようとした恵理子さんの手に食いついて、指を二本噛み千切って食べちゃったんです。もう、そりゃ、すさまじい状況でしたよ。恵理子さんの指から血が噴きだして、そこら中、血まみれになってたし。コロ丸は興奮してギャンギャン泣き喚いて、もっと噛みつこうとするし。だから仕方なく、コロ丸の頭を殴りつけて。ええ。コロ丸はそれで大人しくはなりました。恵理子さんは「大丈夫だから」と笑って帰って行っちゃって。
私はその後、すぐに主人にこのことを知らせて帰って来てもらったんです。コロ丸をすぐに保健所へ連れて行って、それからすぐに恵理子さんの家へ電話したんですがお留守のようでした。とにかくお詫びに行かないとと思って、夜あらためてお電話したんです。すると崇君が出て、お母さんは具合が悪いので出られないと言うんです。私はどうしてもお詫びがしたいから訪問したいと崇君にお願いしたんですが、お気持ちだけで結構ですと断られてしまって。それきり、恵理子さんを見かけていませんね。
そうそう。この間、崇君が通りかかったので、恵理子さんのことをお聞きしたら、まだ具合が悪いって言ってました。どうも寝たきりらしいですね。家のこと、大変なら手伝うよって言ったら、家政婦さんがいるから大丈夫だって言ってました。本当に申し訳ないことをしたと悔やんでも悔やみきれません。
ところで、この話とあの家で起こった殺人事件となにか関係があるんでしょうか?
もしかして、私を犯人と疑っていらっしゃるの? コロ丸の敵討ち? 不倫を咎められた復讐?
やだ。もうそんなことまでバレてるの? ええ、ええ。たしかにそういう気持ちがなかったとは言いませんよ。たしかにひどい殺され方でしたしね。うらみのある人間の仕業だって思いますよ。ああ何回も背中を包丁でぐさぐさ刺されたんじゃあねえ。本当に怖い、怖い。まるで見てきたような言い方ですって? 新聞にも載せてないのに? いやあね。そんなの噂でとっくに回ってますよ。
でもね、私はやっていません。殺意を持っていたのは認めますけど、本当に私じゃないんですってば! だって、私が行ったときにはもう、彼女は死んでいたんですから!
上のお兄ちゃんの崇君とうちの子はちょうど同じ年でお互いの家をよく行き来して遊んでいたんですよ。高校生になってからは、学校も別々になっちゃったから。崇君はほら、うちの子と違って勉強がすごくできるから、県で一番の高校へ行ったんですよ。
でもねえ、未だに顔を合わせれば「おばちゃん、こんにちは」って元気に挨拶してくれるんですよお、崇君。それにお母さんの恵理子さんに似て、とても男前でしょ? あれはもう、将来芸能人にスカウトされるだろうねって、ママ友さんたちの間でも噂になってるくらいなんだから。恵理子さんも誇らしいでしょうねえ。ああ、うらやましいったらないわ。
恵理子さんですか? ああ、半年くらい前まではうちの前をよく散歩してらしたわねえ。物静かで、優しい人ですよ、恵理子さん。いつもニコニコして怒るようなこともない人で、すっごいオシャレだったな……それなのに、うちのコロ丸が恵理子さんにとんでもないことしでかして。私、もうびっくりしちゃって。
恵理子さんは散歩のとき、いつもうちのコロ丸の頭を撫でてくれていたの。あの人、猫派らしいんですけどね。犬もかわいいですねって。特にコロ丸は名前の通り、コロコロ太って食べたくなっちゃうくらいだって。赤毛の子は特に美味しいんだなんて、ユーモアたっぷりに言うもんだから、私、噴き出しちゃったくらいです。
でも、当のコロ丸はそれを真に受けちゃったみたい。そう言って、頭を撫でようとした恵理子さんの手に食いついて、指を二本噛み千切って食べちゃったんです。もう、そりゃ、すさまじい状況でしたよ。恵理子さんの指から血が噴きだして、そこら中、血まみれになってたし。コロ丸は興奮してギャンギャン泣き喚いて、もっと噛みつこうとするし。だから仕方なく、コロ丸の頭を殴りつけて。ええ。コロ丸はそれで大人しくはなりました。恵理子さんは「大丈夫だから」と笑って帰って行っちゃって。
私はその後、すぐに主人にこのことを知らせて帰って来てもらったんです。コロ丸をすぐに保健所へ連れて行って、それからすぐに恵理子さんの家へ電話したんですがお留守のようでした。とにかくお詫びに行かないとと思って、夜あらためてお電話したんです。すると崇君が出て、お母さんは具合が悪いので出られないと言うんです。私はどうしてもお詫びがしたいから訪問したいと崇君にお願いしたんですが、お気持ちだけで結構ですと断られてしまって。それきり、恵理子さんを見かけていませんね。
そうそう。この間、崇君が通りかかったので、恵理子さんのことをお聞きしたら、まだ具合が悪いって言ってました。どうも寝たきりらしいですね。家のこと、大変なら手伝うよって言ったら、家政婦さんがいるから大丈夫だって言ってました。本当に申し訳ないことをしたと悔やんでも悔やみきれません。
ところで、この話とあの家で起こった殺人事件となにか関係があるんでしょうか?
もしかして、私を犯人と疑っていらっしゃるの? コロ丸の敵討ち? 不倫を咎められた復讐?
やだ。もうそんなことまでバレてるの? ええ、ええ。たしかにそういう気持ちがなかったとは言いませんよ。たしかにひどい殺され方でしたしね。うらみのある人間の仕業だって思いますよ。ああ何回も背中を包丁でぐさぐさ刺されたんじゃあねえ。本当に怖い、怖い。まるで見てきたような言い方ですって? 新聞にも載せてないのに? いやあね。そんなの噂でとっくに回ってますよ。
でもね、私はやっていません。殺意を持っていたのは認めますけど、本当に私じゃないんですってば! だって、私が行ったときにはもう、彼女は死んでいたんですから!
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