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母の肖像
1人目 隣人 久保田壮一の証言
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死体を最初に見つけたのはたしかに俺だよ。あれはコンビニへたばこを買いに行った帰りだったな。南田の旦那と上のお兄ちゃん、お嬢ちゃんたちがわあわあ言いながら家から出てきて、四方に散って行っちまいやがったからさ。なにかあったんかと思って覗いてみたんだよ。玄関も十センチばかし開いてたもんでな。
そしたらば、薄暗い廊下に、なんか人が倒れているみたいに見えたんだよ。そうそう、あの家、ちょっとばかし奇妙でな。旦那や子供たちが出かけると、カーテンを閉め切って、中が見えないようにしちまうんだよ。昔はそうじゃなかったんだけどなあ。ここ半年くらいかなあ。気になったんで、この間、旦那に聞いてみたら、防犯対策だって笑ってたんだけども。昼間からカーテンを閉めきっちまうのがなんで防犯対策になるんだかなあ。まあ、それも他人の家のことだから、俺にはなんも関係ねえ話だけども。
そんで俺、これは大変だと思って中へ入ったんだよ。なんだか腥せえ臭いがぷんぷんしてやがった。足元見たら、ひでえ血だまりがある。おえって吐きそうになりながら、廊下の電気のスイッチを探して上がり框を慎重にのぼったら、足がぬるっとしたんだ。それでも電気をつけるまではなんだかわかんなくって、そのまんま廊下の端まで歩いたさ。電気をつけた途端、おったまげたよ。あまりのことにちびっちまった。尻もちついたせいで今もじんじんケツも痛え。
あれはもう、恐ろしいなんてもんじゃなかったよ。玄関も廊下も血の海さ。そこに人の形した風船みたいなのがうつぶせに倒れているもんだから、とにかくこうしちゃおれんと急いでお巡りさんに連絡したんだよ。壁や天井も真っ赤っかだったろう?
あんなもんは二度と思い出したかないね。おっかなくて、寝られやしねえ。今、思い出したって怖くて金玉が縮こまっちまうんだ。しばらくはなんも食えねえな。食ってもやっぱり吐いちまうだろうからな。
なんだって? あれが南田の奥さんだったって! いや、そんなはずねえよ、刑事さん。奥さんはなあ、すげえべっぴんで、スタイルがよくて、細い人だったんだから。腰なんて抱きしめたらポキッて折れそうなくらいだあよ。それこそ俺は奥さんに近づきたくって、昼ご飯を作りに来てくれって頼んだくらいなんだ。
ちょうど二年前のことだよ。家内が亡くなって、俺もさみしかったんだ。旦那が金を払えばいいって言うもんだから、週に二回、昼飯作りと掃除をしに来てもらってたんだ。まあ、そのついでにあっちの処理も頼んでしてもらったんだけどな。そりゃあ、もういい体だったんだ。あそこの締まりも抜群で、旦那がうらやましくて仕方なかったよ。そうそう、夜んなると余計に隣んちが気になって、こっそり覗きもしたなあ。ありゃあ、興奮したよ。その翌日はふたりしてかなり燃えたもんだ。
だから俺が殺したって? 自分のものにしたくって? 冗談はよしてくれ。奥さんとはもう、そういう仲でもなんでもねえんだ。旦那にバレてな、俺もこっぴどくやられたんだ。それこそ、半殺しだ。あの旦那、昔ラグビーかなんかをやっていたらしくって、体もがっしりしてやがるが、タックルがすごくってな。岩がぶつかって来たかと思うくらい固いんだよ。あんなもん食らったら死んだって、誰だって思うさ。
それから馬乗りになって顔がわからなくなるまでぼっこぼこにぶん殴られた。顎の関節は外れて治らねえし、そのときのせいで右目もろくに見えやしねえ。耳もうんと悪くなった。まあ、自業自得ってやつだったから、警察沙汰にはしなかったんだ。それ以来、口もきいちゃいねえよ。
それに、ここ最近、ちっとも見てねえよ。
どうもねえ、重たい病気にかかっちまったらしいよ。寝たきりなんだとさ。おまえが性病でもうつしたんだろうなんて、くっだらねえ冗談かまされたがよお。まあ、そう言いたくなるくらいには悪くなっちまってたんだろうなあ。
奥さんが倒れたとなれば、家事や介護をしなきゃならねえ。俺は家内のときに、いやってくらい味わったから、そういう大変さはよくわかるんだよ。で、大丈夫なのかいって訊いたらば、家政婦を雇ったんだと。いいなあ、金がある家は。
でも、その家政婦ってのもなんだか妙でさ。ひどい皮膚炎らしくて、大きなマスクやら帽子やら、手袋やらで見えるところ、全部隠しちまってたんだよ。なんだっけ? スケキヨだっけ? ほら、横溝正史の小説に出てきたアレだよ、わかるだろう? あんな感じで、俺あ見るたびにゾーっと首筋が寒くなったもんだよ。それにこう言っちゃなんだが、本当にブクブクに太っていやがったし、なんかボロボロの服を着てたから、余計に気味が悪くってよお。なんで、あんな家政婦をわざわざ雇ったのか、気が知れねえよ。
なあ、刑事さん。俺が見たのは奥さんなんかじゃねえ。家政婦だ。あんな赤や黄色や青色のまだら模様した風船人間が奥さんのわけねえんだよ。それに、あの家政婦、寝たきりの奥さんを虐待していたみたいだぜ? よく隣の家から「やめて」って泣き叫ぶ女の声が聞こえてたからな。ありゃあ、奥さんの声だ。間違いねえ。俺は何遍もああやって請われたから、よおくわかるんだよ、ヒヒヒ。
だから家政婦なんかいないだって? 犯行を誤魔化すために嘘をついてるだって? いい加減にしてくれよ。俺は殺しはやっちゃいねえよ。ちょいとばかり金をくすねただけだよ。頼むから信じてくれよ。なあ、刑事さん。
そしたらば、薄暗い廊下に、なんか人が倒れているみたいに見えたんだよ。そうそう、あの家、ちょっとばかし奇妙でな。旦那や子供たちが出かけると、カーテンを閉め切って、中が見えないようにしちまうんだよ。昔はそうじゃなかったんだけどなあ。ここ半年くらいかなあ。気になったんで、この間、旦那に聞いてみたら、防犯対策だって笑ってたんだけども。昼間からカーテンを閉めきっちまうのがなんで防犯対策になるんだかなあ。まあ、それも他人の家のことだから、俺にはなんも関係ねえ話だけども。
そんで俺、これは大変だと思って中へ入ったんだよ。なんだか腥せえ臭いがぷんぷんしてやがった。足元見たら、ひでえ血だまりがある。おえって吐きそうになりながら、廊下の電気のスイッチを探して上がり框を慎重にのぼったら、足がぬるっとしたんだ。それでも電気をつけるまではなんだかわかんなくって、そのまんま廊下の端まで歩いたさ。電気をつけた途端、おったまげたよ。あまりのことにちびっちまった。尻もちついたせいで今もじんじんケツも痛え。
あれはもう、恐ろしいなんてもんじゃなかったよ。玄関も廊下も血の海さ。そこに人の形した風船みたいなのがうつぶせに倒れているもんだから、とにかくこうしちゃおれんと急いでお巡りさんに連絡したんだよ。壁や天井も真っ赤っかだったろう?
あんなもんは二度と思い出したかないね。おっかなくて、寝られやしねえ。今、思い出したって怖くて金玉が縮こまっちまうんだ。しばらくはなんも食えねえな。食ってもやっぱり吐いちまうだろうからな。
なんだって? あれが南田の奥さんだったって! いや、そんなはずねえよ、刑事さん。奥さんはなあ、すげえべっぴんで、スタイルがよくて、細い人だったんだから。腰なんて抱きしめたらポキッて折れそうなくらいだあよ。それこそ俺は奥さんに近づきたくって、昼ご飯を作りに来てくれって頼んだくらいなんだ。
ちょうど二年前のことだよ。家内が亡くなって、俺もさみしかったんだ。旦那が金を払えばいいって言うもんだから、週に二回、昼飯作りと掃除をしに来てもらってたんだ。まあ、そのついでにあっちの処理も頼んでしてもらったんだけどな。そりゃあ、もういい体だったんだ。あそこの締まりも抜群で、旦那がうらやましくて仕方なかったよ。そうそう、夜んなると余計に隣んちが気になって、こっそり覗きもしたなあ。ありゃあ、興奮したよ。その翌日はふたりしてかなり燃えたもんだ。
だから俺が殺したって? 自分のものにしたくって? 冗談はよしてくれ。奥さんとはもう、そういう仲でもなんでもねえんだ。旦那にバレてな、俺もこっぴどくやられたんだ。それこそ、半殺しだ。あの旦那、昔ラグビーかなんかをやっていたらしくって、体もがっしりしてやがるが、タックルがすごくってな。岩がぶつかって来たかと思うくらい固いんだよ。あんなもん食らったら死んだって、誰だって思うさ。
それから馬乗りになって顔がわからなくなるまでぼっこぼこにぶん殴られた。顎の関節は外れて治らねえし、そのときのせいで右目もろくに見えやしねえ。耳もうんと悪くなった。まあ、自業自得ってやつだったから、警察沙汰にはしなかったんだ。それ以来、口もきいちゃいねえよ。
それに、ここ最近、ちっとも見てねえよ。
どうもねえ、重たい病気にかかっちまったらしいよ。寝たきりなんだとさ。おまえが性病でもうつしたんだろうなんて、くっだらねえ冗談かまされたがよお。まあ、そう言いたくなるくらいには悪くなっちまってたんだろうなあ。
奥さんが倒れたとなれば、家事や介護をしなきゃならねえ。俺は家内のときに、いやってくらい味わったから、そういう大変さはよくわかるんだよ。で、大丈夫なのかいって訊いたらば、家政婦を雇ったんだと。いいなあ、金がある家は。
でも、その家政婦ってのもなんだか妙でさ。ひどい皮膚炎らしくて、大きなマスクやら帽子やら、手袋やらで見えるところ、全部隠しちまってたんだよ。なんだっけ? スケキヨだっけ? ほら、横溝正史の小説に出てきたアレだよ、わかるだろう? あんな感じで、俺あ見るたびにゾーっと首筋が寒くなったもんだよ。それにこう言っちゃなんだが、本当にブクブクに太っていやがったし、なんかボロボロの服を着てたから、余計に気味が悪くってよお。なんで、あんな家政婦をわざわざ雇ったのか、気が知れねえよ。
なあ、刑事さん。俺が見たのは奥さんなんかじゃねえ。家政婦だ。あんな赤や黄色や青色のまだら模様した風船人間が奥さんのわけねえんだよ。それに、あの家政婦、寝たきりの奥さんを虐待していたみたいだぜ? よく隣の家から「やめて」って泣き叫ぶ女の声が聞こえてたからな。ありゃあ、奥さんの声だ。間違いねえ。俺は何遍もああやって請われたから、よおくわかるんだよ、ヒヒヒ。
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