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第二章 聖女編
第63話 反逆の大聖女1 ~出撃・邪竜召喚
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マズい……。私の決意を気づかれてしまう。
ともかく翼を消して、泣き崩れる演技をする。
「ああ、シオン、シオン、私を置いていかないで……」
うそ泣きして手で顔を覆いながら、屋敷に向かって逃げていく。
だけど、ダメだ。どこから見てもウソくさい。
悲劇の令嬢役はヘタクソでどうしようもない。
やりながら自分の顔が恥ずかしさに赤くなっていくのがわかる。
チラッと後ろを見ると、エリザさんもポカンとして私を見ている。
もしかしたら、これが最後かもしれない。
慈愛と呼ばれるエリザ様に憧れて私は聖女になった。
もっと、ちゃんとお別れのあいさつをしたかった……。
でも、もう時間が無い。
その夜、家族には聖女宮に行くと言って家を出たが、セシリアの家を訪ねた。
感づいたかもしれないエリザさんとかソフィア様に説得されたりしたら決意が揺らいでしまう。
セシリアもシオンの処刑の話は知っているようで、なにも聞かずに泊めてくれた。
パジャマに着替えてベッドの上で女の子同士のおしゃべりを楽しむ。
「この前、ハリスにプロポーズされちゃったんだ」
「うわー、おめでとう!」
照れてモジモジするセシリアの手を取ってよろこびを分かち合う。
「結婚式には絶対呼んでね。席はシオンの分もね」
驚いたセシリアは、なんと答えていいかわからないような複雑な表情でうつむいて一言だけ言う。
「そうね……」
セシリアは話題を変えるように笑顔で顔を上げた。
「アンジェは、もしかしたら今頃、四歳の女の子の継母だったわね。二人目もできてたりして」
ああ、そういう話もあったなあ……。
奥様を亡くされた優しい子持ちの侯爵との縁談。
「あの話が進んでたらそうなってたかもね」
私たちは愉快そうに笑った。
「でも、私は決めたの。自分の人生は自分で決めるって。後悔はしたくないから」
「おっ、アンジェ、変わったね。でも、いいんじゃない、それで」
そんなたわいのないやりとりをして最後の夜を過ごした。
明日からは謀反人、犯罪者……、なんと呼ばれるのだろう?
それでも後悔はない!
朝になり、真っ白な聖女の正装に着替える私にセシリアがたずねた。
「こんな日にも公務なの?」
「うん。ちょっと用事があってね」
服の上から胸とスネを保護する軽甲冑を身につける。
セシリアが不思議そうに見ている。
「今日って、なんの仕事なの……?」
奥の仕事場から、セシリアのお父さんがシオンの破邪の槍を持ってきてくれた。
S級『聖女殺し』に真っ二つに折られた槍の修理を頼んでおいた。
「アンジェちゃん、やっと直ったよ」
「ありがとう、おじさま」
私は槍を受け取って、背中にヒモでくくりつけた。
「その格好、まるで戦いに行くみたい……」
「強そうでいいでしょ?」
そのまま通りに出て、空に向かって叫ぶ。
「ピピー!」
白い小さな姿で降りてくるが、道に着陸する寸前で光ってドラゴンの姿へと巨大化する。
私は脚を強化して高く飛び跳ね、ピピの首の根元にまたがった。
そんな私をセシリアはポカンと口を開けてただ見ている。
ピピが羽ばたきを始めて浮かび上がった。
「落ち着いたら手紙書くから!」
「ど、どこ行くのよー?」
「結婚式の席は二人分よ、忘れないでねー!」
ピピが空高く舞い上がると、地上から私を見上げているセシリアの姿はどんどん小さくなっていった。
飛行が安定してきて、ピピが尋ねた。
「ドッチ、イク?」
「南南東、旧処刑場跡地。シオンを助けに行く!」
「リョーカイ!」
ピピは方向を変えて、飛行スピードを上げた。
旧処刑場跡地の上空にたどりついたので雲の中に身を隠した。
強化魔法で聴力を何十倍にも大きくして状況を探る。
ミラさんとエリザさんの話し声が聞こえてきた。
「なあ、エリザ、アンジェはホントに来るのか?」
「ええ、来るわ。昨日最後に見たアンジェは、なんと言うか、その、こわれかかってました」
こわれかかってたって……、そんなふうに見えましたか。
「アンジェに誰も殺させてはなりません。もし、彼女が魔法を使ったら、炎には炎、風には風、水には水で打ち消して下さい。消しきれなかった魔法は私が防御魔法でなんとか対処します」
三人ともいらしてるんだ。だけど、水は誰がいるんだろう?
あっ、ソフィア様の声だ。
「ですが、アンジェは双翼の大聖女。わたくしたちの魔法でなんとかなるものでしょうか?」
「それぞれの魔法での差は極端に大きくないはずです。それに、人を傷つけるような魔法は決して使わないでしょう」
その通りです。
私の力を見せつけてシオンを返してもらったら、そのまま辺境伯領に二人で飛んで逃げるという計画です。
いくら悪役になりきっても、人を傷つけたり殺したりは私には決してできません。
「……アンジェがキレなければな。なあ、ザック」
ミラさんがザックさんに言った。
従騎士の方々も当然来てるんだ。
「ああ、ぷっつんキレて天を仰いでウォーとか吠え始めたら、もう完全にアウト」
やだ、私、そんなことやってたの?
シルビアさんがゴクッとツバを飲んで尋ねた。
「なにが、起こるのですか?」
「俺とミラは一回見てるけど、空一面に魔方陣、片っ端から発射されるあらゆる攻撃魔法。流水槍、氷槍、光槍、火球、烈風斬。さらに地面全体から火柱。全員、逃げ場無し。もしシオンが目の前で殺されたりしたら、必ずこうなるね」
シーンと沈黙が続いた後、エリザさんが念押しするように言う。
「ですから、従騎士の方々はシオンさんが処刑されないように、よく注意して下さい」
「あたしたちでシオンかっさらって、アンジェに渡しちゃうほうが手っ取り早いじゃん」
そういうミラさんにシルビアさんがタメ息が聞こえた。
「それぞれ立場というものがあります。私やエリザには貴族としての家柄、ミラにだって孤児院があるでしょう? そう簡単ではありません」
「だけど、今のアンジェが相手じゃ命がいくつあっても足りないぜ」
エリザさんもタメ息をついた。
「どれだけ危険なことをやろうとしているのか、どうしてあの二人には、わからないのかしら」
エリザさんの言うあの二人とはおそらく……
「あんな気弱な小娘が逆らうなどあり得ないだろ。まあ、ワシの前で土下座して、靴でもなめたら命ぐらいはカンベンしてやるか」
この声は品性下劣なハイデル局長。
「万が一、現れても弱みもわかってますし、切り札もありますからね。双翼の大聖女といえど、手も足も出ないでしょう。自分の立場というものを思い知ってもらういい機会でしょう」
これはオークス枢機卿だが、私の弱み? 切り札? なにを言ってるんだろう……。
強化魔法で視力を何倍にも上げて、雲の切れ目から処刑場跡を見る。
平らな荒れ地の先に大きな石の舞台のような高い台があり、中央に階段。
その上に十字架が立っている。階段の両脇に槍を持った執行人がいる。
シオン!
十字架に張り付けになっているが服のあちこちが破れ、傷も目立つ。拷問を受けたんだろうか、意識がない。
悔しさと怒りで歯をかみしめる。
舞台のような台の前に五十名ぐらいの騎士が隊列を組んでいる。
騎士の前には観客がおらず、みんな、騎士の横から見ている。
相手の戦力はだいたい把握できた。
そろそろ行く!
シオン、待ってて!
「ねえ、ピピ、炎とか吐ける?」
「モチロン。ダケド、サイシュウケイタイ、ヘンシン、ヒツヨウ。トテモ、コワイヨ」
「最終形態? よくわかんないけど、見た目は怖いほどいいわ。できるだけ怖がらせて戦う気力をなくさせたいの」
「デモ、ゼッタイダメ、アブナイ。シオン、キンシ、イッタ」
「今日は特別。大丈夫、シオンもきっといいって言うから」
「ワカッタ!」
「じゃあ、いくわよ!」
ピピの体は光を放ちながら、三倍ぐらいに大きくなった。
見た目もとがった二本の角が頭に生えたり、尻尾の先まで背びれがいくつも現れて不気味な恐ろしいドラゴンになった。
「ピピ、すごいじゃない!」
「ヘヘ、アリガト」
ピピの背中に立ち、さらに迫力を出すために魔力を放出して背中にいつもよりも大きな双翼を出した。
四枚の羽がキラキラと輝き始め、ついでに破邪の槍を手に持つ。
こんな感じでいいかな。
見た人が圧倒されて、戦う気力を無くしてくれるといいんだけど。
雲を風でかき集めて大きな雲の渦を作って、処刑場の上空を覆い尽くした。
太陽の光がさえぎられて辺り一面薄暗くなったようだ。
処刑場に集まっている人たちの動揺する声が聞こえてくる。
”どうしたんだ、暗くなったぞ”
”なにが起こってるんだ?”
よしよし、そろそろ行こう!
「ピピ、行くわよ!」
ピピはゆっくりと羽ばたいて降りていき、処刑場の上空を覆っている雲の渦の中に入っていく。
雲の中で大きく羽ばたきをすると周囲の雲が消し飛んだ。
吹き飛んだ雲の中から突然現れた舞い降りてくる恐ろしい巨大なドラゴン。
その背中に立つのは光輝く大きな双翼を出した聖女。
手には黒い不気味な破邪の槍。
”なんだ、あれは……?”
”……ドラゴンか!”
見ている人たちが言葉を失い、ガク然としている様子が見える。
「ピピ、ここで一発、炎!」
ピピが首をもたげ、ギャオー! と吠えた。
大きく開かれた口の奥がカッと青く輝き、ゴォーと口から長い熱線とでも言える青い炎が勢いよく空に向かって吐き出され、首の動きに従い青い直線が空を切り裂いた。
その迫力に目を丸くして驚いた。
これは、すごすぎる……。
S級魔獣『聖女殺し』に襲われたときにこれで助けてもらってたら。
一瞬頭をよぎったが、こんなの撃ち込まれてたら敵も味方も吹っ飛んだかもしれない、とゾッとした。
シオンが絶対禁止にしたのも当然だわ。
「ピピ、絶対に地上に撃っちゃダメよ」
「チェッ、ツマンナイノ」
”ひぃーっ!”
”逃げろー!”
地上から、みんなの驚き、そして、恐怖におびえる声や悲鳴が聞こえてくる。
よし、いい感じ。
さあ、これでもまだ、私と戦いますか?
”じゃ、邪竜だ! 聖女が邪竜に乗ってる!”
”やはり水の聖女は邪神の使いだ!”
えっ?
”女神ルミナスよ、あいつを成敗ください!”
”騎士団のみなさま、邪悪な存在を倒してください!”
怒りの声も聞こえてきた。
……あれ? どうしてこうなった?
ともかく翼を消して、泣き崩れる演技をする。
「ああ、シオン、シオン、私を置いていかないで……」
うそ泣きして手で顔を覆いながら、屋敷に向かって逃げていく。
だけど、ダメだ。どこから見てもウソくさい。
悲劇の令嬢役はヘタクソでどうしようもない。
やりながら自分の顔が恥ずかしさに赤くなっていくのがわかる。
チラッと後ろを見ると、エリザさんもポカンとして私を見ている。
もしかしたら、これが最後かもしれない。
慈愛と呼ばれるエリザ様に憧れて私は聖女になった。
もっと、ちゃんとお別れのあいさつをしたかった……。
でも、もう時間が無い。
その夜、家族には聖女宮に行くと言って家を出たが、セシリアの家を訪ねた。
感づいたかもしれないエリザさんとかソフィア様に説得されたりしたら決意が揺らいでしまう。
セシリアもシオンの処刑の話は知っているようで、なにも聞かずに泊めてくれた。
パジャマに着替えてベッドの上で女の子同士のおしゃべりを楽しむ。
「この前、ハリスにプロポーズされちゃったんだ」
「うわー、おめでとう!」
照れてモジモジするセシリアの手を取ってよろこびを分かち合う。
「結婚式には絶対呼んでね。席はシオンの分もね」
驚いたセシリアは、なんと答えていいかわからないような複雑な表情でうつむいて一言だけ言う。
「そうね……」
セシリアは話題を変えるように笑顔で顔を上げた。
「アンジェは、もしかしたら今頃、四歳の女の子の継母だったわね。二人目もできてたりして」
ああ、そういう話もあったなあ……。
奥様を亡くされた優しい子持ちの侯爵との縁談。
「あの話が進んでたらそうなってたかもね」
私たちは愉快そうに笑った。
「でも、私は決めたの。自分の人生は自分で決めるって。後悔はしたくないから」
「おっ、アンジェ、変わったね。でも、いいんじゃない、それで」
そんなたわいのないやりとりをして最後の夜を過ごした。
明日からは謀反人、犯罪者……、なんと呼ばれるのだろう?
それでも後悔はない!
朝になり、真っ白な聖女の正装に着替える私にセシリアがたずねた。
「こんな日にも公務なの?」
「うん。ちょっと用事があってね」
服の上から胸とスネを保護する軽甲冑を身につける。
セシリアが不思議そうに見ている。
「今日って、なんの仕事なの……?」
奥の仕事場から、セシリアのお父さんがシオンの破邪の槍を持ってきてくれた。
S級『聖女殺し』に真っ二つに折られた槍の修理を頼んでおいた。
「アンジェちゃん、やっと直ったよ」
「ありがとう、おじさま」
私は槍を受け取って、背中にヒモでくくりつけた。
「その格好、まるで戦いに行くみたい……」
「強そうでいいでしょ?」
そのまま通りに出て、空に向かって叫ぶ。
「ピピー!」
白い小さな姿で降りてくるが、道に着陸する寸前で光ってドラゴンの姿へと巨大化する。
私は脚を強化して高く飛び跳ね、ピピの首の根元にまたがった。
そんな私をセシリアはポカンと口を開けてただ見ている。
ピピが羽ばたきを始めて浮かび上がった。
「落ち着いたら手紙書くから!」
「ど、どこ行くのよー?」
「結婚式の席は二人分よ、忘れないでねー!」
ピピが空高く舞い上がると、地上から私を見上げているセシリアの姿はどんどん小さくなっていった。
飛行が安定してきて、ピピが尋ねた。
「ドッチ、イク?」
「南南東、旧処刑場跡地。シオンを助けに行く!」
「リョーカイ!」
ピピは方向を変えて、飛行スピードを上げた。
旧処刑場跡地の上空にたどりついたので雲の中に身を隠した。
強化魔法で聴力を何十倍にも大きくして状況を探る。
ミラさんとエリザさんの話し声が聞こえてきた。
「なあ、エリザ、アンジェはホントに来るのか?」
「ええ、来るわ。昨日最後に見たアンジェは、なんと言うか、その、こわれかかってました」
こわれかかってたって……、そんなふうに見えましたか。
「アンジェに誰も殺させてはなりません。もし、彼女が魔法を使ったら、炎には炎、風には風、水には水で打ち消して下さい。消しきれなかった魔法は私が防御魔法でなんとか対処します」
三人ともいらしてるんだ。だけど、水は誰がいるんだろう?
あっ、ソフィア様の声だ。
「ですが、アンジェは双翼の大聖女。わたくしたちの魔法でなんとかなるものでしょうか?」
「それぞれの魔法での差は極端に大きくないはずです。それに、人を傷つけるような魔法は決して使わないでしょう」
その通りです。
私の力を見せつけてシオンを返してもらったら、そのまま辺境伯領に二人で飛んで逃げるという計画です。
いくら悪役になりきっても、人を傷つけたり殺したりは私には決してできません。
「……アンジェがキレなければな。なあ、ザック」
ミラさんがザックさんに言った。
従騎士の方々も当然来てるんだ。
「ああ、ぷっつんキレて天を仰いでウォーとか吠え始めたら、もう完全にアウト」
やだ、私、そんなことやってたの?
シルビアさんがゴクッとツバを飲んで尋ねた。
「なにが、起こるのですか?」
「俺とミラは一回見てるけど、空一面に魔方陣、片っ端から発射されるあらゆる攻撃魔法。流水槍、氷槍、光槍、火球、烈風斬。さらに地面全体から火柱。全員、逃げ場無し。もしシオンが目の前で殺されたりしたら、必ずこうなるね」
シーンと沈黙が続いた後、エリザさんが念押しするように言う。
「ですから、従騎士の方々はシオンさんが処刑されないように、よく注意して下さい」
「あたしたちでシオンかっさらって、アンジェに渡しちゃうほうが手っ取り早いじゃん」
そういうミラさんにシルビアさんがタメ息が聞こえた。
「それぞれ立場というものがあります。私やエリザには貴族としての家柄、ミラにだって孤児院があるでしょう? そう簡単ではありません」
「だけど、今のアンジェが相手じゃ命がいくつあっても足りないぜ」
エリザさんもタメ息をついた。
「どれだけ危険なことをやろうとしているのか、どうしてあの二人には、わからないのかしら」
エリザさんの言うあの二人とはおそらく……
「あんな気弱な小娘が逆らうなどあり得ないだろ。まあ、ワシの前で土下座して、靴でもなめたら命ぐらいはカンベンしてやるか」
この声は品性下劣なハイデル局長。
「万が一、現れても弱みもわかってますし、切り札もありますからね。双翼の大聖女といえど、手も足も出ないでしょう。自分の立場というものを思い知ってもらういい機会でしょう」
これはオークス枢機卿だが、私の弱み? 切り札? なにを言ってるんだろう……。
強化魔法で視力を何倍にも上げて、雲の切れ目から処刑場跡を見る。
平らな荒れ地の先に大きな石の舞台のような高い台があり、中央に階段。
その上に十字架が立っている。階段の両脇に槍を持った執行人がいる。
シオン!
十字架に張り付けになっているが服のあちこちが破れ、傷も目立つ。拷問を受けたんだろうか、意識がない。
悔しさと怒りで歯をかみしめる。
舞台のような台の前に五十名ぐらいの騎士が隊列を組んでいる。
騎士の前には観客がおらず、みんな、騎士の横から見ている。
相手の戦力はだいたい把握できた。
そろそろ行く!
シオン、待ってて!
「ねえ、ピピ、炎とか吐ける?」
「モチロン。ダケド、サイシュウケイタイ、ヘンシン、ヒツヨウ。トテモ、コワイヨ」
「最終形態? よくわかんないけど、見た目は怖いほどいいわ。できるだけ怖がらせて戦う気力をなくさせたいの」
「デモ、ゼッタイダメ、アブナイ。シオン、キンシ、イッタ」
「今日は特別。大丈夫、シオンもきっといいって言うから」
「ワカッタ!」
「じゃあ、いくわよ!」
ピピの体は光を放ちながら、三倍ぐらいに大きくなった。
見た目もとがった二本の角が頭に生えたり、尻尾の先まで背びれがいくつも現れて不気味な恐ろしいドラゴンになった。
「ピピ、すごいじゃない!」
「ヘヘ、アリガト」
ピピの背中に立ち、さらに迫力を出すために魔力を放出して背中にいつもよりも大きな双翼を出した。
四枚の羽がキラキラと輝き始め、ついでに破邪の槍を手に持つ。
こんな感じでいいかな。
見た人が圧倒されて、戦う気力を無くしてくれるといいんだけど。
雲を風でかき集めて大きな雲の渦を作って、処刑場の上空を覆い尽くした。
太陽の光がさえぎられて辺り一面薄暗くなったようだ。
処刑場に集まっている人たちの動揺する声が聞こえてくる。
”どうしたんだ、暗くなったぞ”
”なにが起こってるんだ?”
よしよし、そろそろ行こう!
「ピピ、行くわよ!」
ピピはゆっくりと羽ばたいて降りていき、処刑場の上空を覆っている雲の渦の中に入っていく。
雲の中で大きく羽ばたきをすると周囲の雲が消し飛んだ。
吹き飛んだ雲の中から突然現れた舞い降りてくる恐ろしい巨大なドラゴン。
その背中に立つのは光輝く大きな双翼を出した聖女。
手には黒い不気味な破邪の槍。
”なんだ、あれは……?”
”……ドラゴンか!”
見ている人たちが言葉を失い、ガク然としている様子が見える。
「ピピ、ここで一発、炎!」
ピピが首をもたげ、ギャオー! と吠えた。
大きく開かれた口の奥がカッと青く輝き、ゴォーと口から長い熱線とでも言える青い炎が勢いよく空に向かって吐き出され、首の動きに従い青い直線が空を切り裂いた。
その迫力に目を丸くして驚いた。
これは、すごすぎる……。
S級魔獣『聖女殺し』に襲われたときにこれで助けてもらってたら。
一瞬頭をよぎったが、こんなの撃ち込まれてたら敵も味方も吹っ飛んだかもしれない、とゾッとした。
シオンが絶対禁止にしたのも当然だわ。
「ピピ、絶対に地上に撃っちゃダメよ」
「チェッ、ツマンナイノ」
”ひぃーっ!”
”逃げろー!”
地上から、みんなの驚き、そして、恐怖におびえる声や悲鳴が聞こえてくる。
よし、いい感じ。
さあ、これでもまだ、私と戦いますか?
”じゃ、邪竜だ! 聖女が邪竜に乗ってる!”
”やはり水の聖女は邪神の使いだ!”
えっ?
”女神ルミナスよ、あいつを成敗ください!”
”騎士団のみなさま、邪悪な存在を倒してください!”
怒りの声も聞こえてきた。
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