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第二章 聖女編
第60話 つかの間の幸せ ~魔獣群vs双翼の大聖女
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「アンジェ、ようやく、目が覚めましたね」
意識が戻って目を開いていくと、私に両手をかざして治癒魔法をかけていたエリザさんが見えた。
病院の一室で寝ている私のベッドのそばにミラさんと母がいるのがわかった。
「まったく、自分の体を傷つけて魔力を直接流す治癒魔法なんて、ムチャクチャにもほどがあります」
エリザさんが魔法を終えながら、しかめっ面をした。
「きれいに斬れていたので傷跡も全くなく治せましたよ。嫁入り前の女の子ですから良かったわ」
まだぼんやりとした頭で記憶を整理する。砕け散った燃えかすのS級、目を開いたシオン……。
私はハッと上体を起こした。
「シオンは?」
「大丈夫よ、隣の部屋にいます。この一日、ずっと寝たままですが。だけど、不思議なことに、わたくしの治癒魔法が効かないんです」
あわててベッドから出ようとするが、母に止められた。
「アンジェだって丸一日眠ってたのですから少し休みなさい」
ミラさんが間に入ってくれた。
「まあまあ、アンジェ母ちゃん、早く会わせてやってくださいな。自分の体を斬り裂いてまで助けた相手なんですから」
「それはそうねえ……」
母も納得してくれた。
「あいつも、大丈夫だぜ」
ミラさんが指差した部屋の隅に置かれた木の箱の中からピピが首を出してピーと鳴いた。
「よくわかんねーけど、とにかくザックと運んどいた。ケガはエリザに治してもらっといたから」
「魔獣を治癒したのは初めてですわ」
よかった。シオンが聞いたらきっと喜ぶ。
ハッと重要なことを思い出した。
「ミラさん、あのS級の目の間の傷は……」
「ああ、ヤツラは魔法研究所から来たんだろう。もうメルベルには言っといた。おそらく、今日にでも王国軍が踏み込むだろ」
ミラさんが悲しそうな顔でつぶやいた。
「まったく、バカなことをしたもんだ」
軍が動いているなら、もう心配はいらない。
そうなると、すぐにでもシオンに会いたくなった。
隣の部屋に移動してベッドの横に置いたイスに座り、眠っているシオンを見つめる。
ついてきた母やエリザさんたちが私の後ろでニヤニヤしながら私を見ている。
きっと、私がどうやって治癒したかをミラさんがいろいろ話したんだ……。
そう思うと顔が赤くなっていく。
でも、もう誰の目も気にしない。自分の気持ちに従う。
私は立ち上がって上体を倒し、シオンにキスをした。
そして治癒魔法を発動すると私たちは金色の光に包まれた。
唇からどんどん魔力が流れていき、シオンを回復させていくのがわかる。
「あら、まあ……」
母のとまどう声が後ろから聞こえてきたが気にしない。
シオンがゆっくりと目を開き始めたので、キスをやめて見つめる。
「アンジェ様……」
「ねえ、もう『様』はやめてよ」
笑顔を作ろうとするが目からボロボロと涙がこぼれた。
「死ぬ前に言ってくれたこと覚えてるわよ」
そう言って寝たままのシオンに抱きついて胸に顔をうずめた。
「私も覚えてますよ、アンジェ」
シオンは私の背中に腕を回して抱きしめてくれた。
「さあさあ、おじゃま虫は退散いたしましょう」
エリザさんが他の二人を促して外に出ようとする声が聞こえてきた。
「あれ、アンジェ母ちゃん、どしたの? なんでそんなに泣いてんの? 涙ポロポロじゃん」
「あら、どうしたんでしょう。二人を見てたら急に涙が止まらなくなってしまって」
「ハッピーエンドですからねえ。めでたし、めでたし、ですよ」
三人が廊下に出ようとしたとき、メルベルさんが病室に駆け込んできた。
「王国軍から対魔獣戦の支援要請です! シルビア様はすでに向かわれました!」
「はあ? 対魔獣戦? 王都のどこに魔獣が出るんだ?」
「魔法研究所です」
みんなの顔に戦慄が走った。
「ちっ! あのクソ野郎。アンジェ、もう大丈夫だな、行くぞ!」
でも、私は寝ているシオンを抱きしめて胸に顔を伏せたまま言う。
「行かない。私、もう聖女辞める」
「えっ?」
みんなの驚く声が聞こえた。
「もう、あんな危険な目に遭いたくないし、遭わせたくない」
「そんなこと言われましても、そう簡単には……」
メルベルさんが戸惑いながら言うが私は無視して、体を起こしてシオンに話しかける。
「私を辺境に連れていって! シオンは商会に戻って、わたしは畑で野菜でも作るから。一緒に、のんびり暮らしたい」
シオンは一瞬、驚いた顔をしたが、微笑んで私のほほをそっとなでてくれた。
「お母様、いいでしょ?」
振り返ってそう言う私に母は笑顔でうなずいた。
「ええ、アンジェの好きになさい。お父様には一緒に話してあげるから」
「いえ、そんな! アンジェ様もお母様も勝手に話を進められては困ります!」
メルベルさんがあわてて話をさえぎるが、ちょうどそのとき、父が大あわての様子で病室に入って来た。
「あら、あなた。ちょうどいいわ」
しかし、父の表情からただ事ではないと感じる。
「アンジェリカがさらわれた!」
「ちびアンジェが⁉」
私は驚いて立ち上がった。
「返して欲しければ、アンジェ、お前に来いと手紙が届いた」
「一体誰から……?」
「ユリウス・グリモア、魔法研究所長だ」
顔から血の気が引いていくのがわかった。
シオンがベッドから体を起こした。
「行きましょう」
「えっ、でもまだ体が……」
「大丈夫です。もう、治していただきました。今はまだ、水の聖女の従騎士ですから」
私とシオンはもう一度手を取り合い、戦場へ向かわざるを得なかった。
魔法研究所の古城に続く平原で王国軍の数十人の兵士たち、先に来ていたシルビアさんと合流した。
王都の近郊だからか事態をかぎつけた新聞記者らしき人たちもたくさん来ているようだ。
なぜか、光神教のオークス枢機卿とハイデル局長も来ており、到着した私を見てヒソヒソと話をしているのが聞こえてきた。
「やはり、来たようですね」
「ぜひ、この目でみたいものだな」
前に立つシルビアさんが、研究所の古城の方を指差した。
「魔獣が研究所の前で守っているのよ。信じられる?」
ざっと見て、二十数匹。頭をもたげるムカデ型のA級、その後ろにダンゴムシのS級が数匹いるのが見える。
エリザさんとミラさんが前に進みながら魔獣を見る。
「魔獣の養殖でもやってたのかしら」
「しかも『聖女殺し』、S級があんなにいるぜ。この前のよりは少し小さいけど」
研究所の地下で初めてS級を見たとき、オリの隅で少し小さいのがウジャウジャしていたのを思い出した。
シオンが私の耳元でささやいた。
「魔獣の調教。暗黒魔法の一つです」
そのとき、ユリウスの大きな声が響き渡った。
『やっと来てくれたね、アンジェ。待っていたよ』
周囲を見回しても、どこから声がしているのかはわからないが、とにかく私は古城の方に向かって歩いていく。
「妹はどこ? 早く返してよ!」
『そう焦らないで。まずは、ボクの子たちと遊んでやってくれよ』
今まで動かなかった魔獣が一斉に前に進み始めた。
恐れよりも怒りが体中に湧き上がった。
『さあ、ボクに見せておくれ、双翼の大聖女の力を!』
そんなことのために、ちびアンジェを!
体中にわき上がる怒りが抑えきれなくなっている。
魔獣に向かって歩く速度がじょじょに上がっていく。
「おい! アンジェ、無茶するな!」
「私がやります!」
叫んだミラさんを振り返りもせず前に進み続けるが、怒りで魔力が高まり、あたりが光で明るくなり始めた。
「あれだ、この前の四枚の羽!」
ミラさんの声と『おお……』という驚きの声が後ろから聞こえてくる。 私の視界にも金、緑、青、赤の四枚の羽が入って来た。
強化した脚で跳び、風で上空に飛んで横に並びながらやってくる魔獣の群れを見下ろす。
無数の青の魔方陣を全ての魔獣を囲むように展開させ、一気に流水槍を発射して魔獣に叩き込む。
A級のムカデが頭を吹き飛ばされる様子を見つつ数十メートル離れたところに一度着地した。
オークス枢機卿とハイデル局長の会話が聞こえる。
「戦いの乙女、双翼を輝かせて天を舞い、その魔法にて闇の使いを滅して民を救う」
「なんですか、それは?」
「大聖女ルシアをたたえた詩の一節だが、こういう光景だったのだろう」
体を丸めてダンゴ状になって防御していたS級が流水槍が消えると同時に元の姿に戻って赤い目を光らせながらS級が一斉に私の方に向かって来た。
七匹いる。
数と位置を把握してS級の体の下に赤の魔方陣を出し、炎の柱を吹き出させる。
ゴォーという轟音とともに立ち昇る炎の柱で七匹のS級を宙に高々と浮かび上がらせた。
背中の双翼がさらに輝きを増した。
シルビアさんの声が聞こえる。
「ミラ……、あれが?」
「ああ、魔力全開の双翼状態。だけど、この前よりもずっとすごい……」
そして青の魔方陣を展開させてダンゴムシを一匹ずつ取り囲み、四方から水柱を発射してダンゴを一気に凍らせる。
それを風で巻き上げて互いを二度三度とぶつけ合わせ、グシャ、グシャと砕けたものから地上に落ちていく。
そこに別の一匹をぶつける。
七匹全部が地面の上で砕けたのを見届けて地面に赤の魔方陣を展開して炎を立ち昇らせる。
S級の破片を全て焼き尽くした。
炎が消えたとき、動いている物はなにもなかった。
後ろの人たちもシーンと静まりかえって見ている。
しばらくして、オークス枢機卿とハイデル局長の声が聞こえてきた。
「これが双翼の大聖女の力なのですか……」
「すさまじいな。魔獣相手だけではもったいないな」
静寂を破るようにパチ、パチ、パチと大きな拍手の音が響いた。
『素晴らしい、実に素晴らしい。これこそボクが求めていた力だよ、アンジェ』
あたりを見回すが、どこにもユリウスの姿はない。
「ユリウス、どこにいるの! 早く妹を返しなさい!」
『さあ、大聖女ルシアに等しいその力とボクの創った力、どっちが強いか試してみようじゃないか!』
地面が揺れて、目の前の地面を破って石でできた巨大な人のコブシが突き出された。
意識が戻って目を開いていくと、私に両手をかざして治癒魔法をかけていたエリザさんが見えた。
病院の一室で寝ている私のベッドのそばにミラさんと母がいるのがわかった。
「まったく、自分の体を傷つけて魔力を直接流す治癒魔法なんて、ムチャクチャにもほどがあります」
エリザさんが魔法を終えながら、しかめっ面をした。
「きれいに斬れていたので傷跡も全くなく治せましたよ。嫁入り前の女の子ですから良かったわ」
まだぼんやりとした頭で記憶を整理する。砕け散った燃えかすのS級、目を開いたシオン……。
私はハッと上体を起こした。
「シオンは?」
「大丈夫よ、隣の部屋にいます。この一日、ずっと寝たままですが。だけど、不思議なことに、わたくしの治癒魔法が効かないんです」
あわててベッドから出ようとするが、母に止められた。
「アンジェだって丸一日眠ってたのですから少し休みなさい」
ミラさんが間に入ってくれた。
「まあまあ、アンジェ母ちゃん、早く会わせてやってくださいな。自分の体を斬り裂いてまで助けた相手なんですから」
「それはそうねえ……」
母も納得してくれた。
「あいつも、大丈夫だぜ」
ミラさんが指差した部屋の隅に置かれた木の箱の中からピピが首を出してピーと鳴いた。
「よくわかんねーけど、とにかくザックと運んどいた。ケガはエリザに治してもらっといたから」
「魔獣を治癒したのは初めてですわ」
よかった。シオンが聞いたらきっと喜ぶ。
ハッと重要なことを思い出した。
「ミラさん、あのS級の目の間の傷は……」
「ああ、ヤツラは魔法研究所から来たんだろう。もうメルベルには言っといた。おそらく、今日にでも王国軍が踏み込むだろ」
ミラさんが悲しそうな顔でつぶやいた。
「まったく、バカなことをしたもんだ」
軍が動いているなら、もう心配はいらない。
そうなると、すぐにでもシオンに会いたくなった。
隣の部屋に移動してベッドの横に置いたイスに座り、眠っているシオンを見つめる。
ついてきた母やエリザさんたちが私の後ろでニヤニヤしながら私を見ている。
きっと、私がどうやって治癒したかをミラさんがいろいろ話したんだ……。
そう思うと顔が赤くなっていく。
でも、もう誰の目も気にしない。自分の気持ちに従う。
私は立ち上がって上体を倒し、シオンにキスをした。
そして治癒魔法を発動すると私たちは金色の光に包まれた。
唇からどんどん魔力が流れていき、シオンを回復させていくのがわかる。
「あら、まあ……」
母のとまどう声が後ろから聞こえてきたが気にしない。
シオンがゆっくりと目を開き始めたので、キスをやめて見つめる。
「アンジェ様……」
「ねえ、もう『様』はやめてよ」
笑顔を作ろうとするが目からボロボロと涙がこぼれた。
「死ぬ前に言ってくれたこと覚えてるわよ」
そう言って寝たままのシオンに抱きついて胸に顔をうずめた。
「私も覚えてますよ、アンジェ」
シオンは私の背中に腕を回して抱きしめてくれた。
「さあさあ、おじゃま虫は退散いたしましょう」
エリザさんが他の二人を促して外に出ようとする声が聞こえてきた。
「あれ、アンジェ母ちゃん、どしたの? なんでそんなに泣いてんの? 涙ポロポロじゃん」
「あら、どうしたんでしょう。二人を見てたら急に涙が止まらなくなってしまって」
「ハッピーエンドですからねえ。めでたし、めでたし、ですよ」
三人が廊下に出ようとしたとき、メルベルさんが病室に駆け込んできた。
「王国軍から対魔獣戦の支援要請です! シルビア様はすでに向かわれました!」
「はあ? 対魔獣戦? 王都のどこに魔獣が出るんだ?」
「魔法研究所です」
みんなの顔に戦慄が走った。
「ちっ! あのクソ野郎。アンジェ、もう大丈夫だな、行くぞ!」
でも、私は寝ているシオンを抱きしめて胸に顔を伏せたまま言う。
「行かない。私、もう聖女辞める」
「えっ?」
みんなの驚く声が聞こえた。
「もう、あんな危険な目に遭いたくないし、遭わせたくない」
「そんなこと言われましても、そう簡単には……」
メルベルさんが戸惑いながら言うが私は無視して、体を起こしてシオンに話しかける。
「私を辺境に連れていって! シオンは商会に戻って、わたしは畑で野菜でも作るから。一緒に、のんびり暮らしたい」
シオンは一瞬、驚いた顔をしたが、微笑んで私のほほをそっとなでてくれた。
「お母様、いいでしょ?」
振り返ってそう言う私に母は笑顔でうなずいた。
「ええ、アンジェの好きになさい。お父様には一緒に話してあげるから」
「いえ、そんな! アンジェ様もお母様も勝手に話を進められては困ります!」
メルベルさんがあわてて話をさえぎるが、ちょうどそのとき、父が大あわての様子で病室に入って来た。
「あら、あなた。ちょうどいいわ」
しかし、父の表情からただ事ではないと感じる。
「アンジェリカがさらわれた!」
「ちびアンジェが⁉」
私は驚いて立ち上がった。
「返して欲しければ、アンジェ、お前に来いと手紙が届いた」
「一体誰から……?」
「ユリウス・グリモア、魔法研究所長だ」
顔から血の気が引いていくのがわかった。
シオンがベッドから体を起こした。
「行きましょう」
「えっ、でもまだ体が……」
「大丈夫です。もう、治していただきました。今はまだ、水の聖女の従騎士ですから」
私とシオンはもう一度手を取り合い、戦場へ向かわざるを得なかった。
魔法研究所の古城に続く平原で王国軍の数十人の兵士たち、先に来ていたシルビアさんと合流した。
王都の近郊だからか事態をかぎつけた新聞記者らしき人たちもたくさん来ているようだ。
なぜか、光神教のオークス枢機卿とハイデル局長も来ており、到着した私を見てヒソヒソと話をしているのが聞こえてきた。
「やはり、来たようですね」
「ぜひ、この目でみたいものだな」
前に立つシルビアさんが、研究所の古城の方を指差した。
「魔獣が研究所の前で守っているのよ。信じられる?」
ざっと見て、二十数匹。頭をもたげるムカデ型のA級、その後ろにダンゴムシのS級が数匹いるのが見える。
エリザさんとミラさんが前に進みながら魔獣を見る。
「魔獣の養殖でもやってたのかしら」
「しかも『聖女殺し』、S級があんなにいるぜ。この前のよりは少し小さいけど」
研究所の地下で初めてS級を見たとき、オリの隅で少し小さいのがウジャウジャしていたのを思い出した。
シオンが私の耳元でささやいた。
「魔獣の調教。暗黒魔法の一つです」
そのとき、ユリウスの大きな声が響き渡った。
『やっと来てくれたね、アンジェ。待っていたよ』
周囲を見回しても、どこから声がしているのかはわからないが、とにかく私は古城の方に向かって歩いていく。
「妹はどこ? 早く返してよ!」
『そう焦らないで。まずは、ボクの子たちと遊んでやってくれよ』
今まで動かなかった魔獣が一斉に前に進み始めた。
恐れよりも怒りが体中に湧き上がった。
『さあ、ボクに見せておくれ、双翼の大聖女の力を!』
そんなことのために、ちびアンジェを!
体中にわき上がる怒りが抑えきれなくなっている。
魔獣に向かって歩く速度がじょじょに上がっていく。
「おい! アンジェ、無茶するな!」
「私がやります!」
叫んだミラさんを振り返りもせず前に進み続けるが、怒りで魔力が高まり、あたりが光で明るくなり始めた。
「あれだ、この前の四枚の羽!」
ミラさんの声と『おお……』という驚きの声が後ろから聞こえてくる。 私の視界にも金、緑、青、赤の四枚の羽が入って来た。
強化した脚で跳び、風で上空に飛んで横に並びながらやってくる魔獣の群れを見下ろす。
無数の青の魔方陣を全ての魔獣を囲むように展開させ、一気に流水槍を発射して魔獣に叩き込む。
A級のムカデが頭を吹き飛ばされる様子を見つつ数十メートル離れたところに一度着地した。
オークス枢機卿とハイデル局長の会話が聞こえる。
「戦いの乙女、双翼を輝かせて天を舞い、その魔法にて闇の使いを滅して民を救う」
「なんですか、それは?」
「大聖女ルシアをたたえた詩の一節だが、こういう光景だったのだろう」
体を丸めてダンゴ状になって防御していたS級が流水槍が消えると同時に元の姿に戻って赤い目を光らせながらS級が一斉に私の方に向かって来た。
七匹いる。
数と位置を把握してS級の体の下に赤の魔方陣を出し、炎の柱を吹き出させる。
ゴォーという轟音とともに立ち昇る炎の柱で七匹のS級を宙に高々と浮かび上がらせた。
背中の双翼がさらに輝きを増した。
シルビアさんの声が聞こえる。
「ミラ……、あれが?」
「ああ、魔力全開の双翼状態。だけど、この前よりもずっとすごい……」
そして青の魔方陣を展開させてダンゴムシを一匹ずつ取り囲み、四方から水柱を発射してダンゴを一気に凍らせる。
それを風で巻き上げて互いを二度三度とぶつけ合わせ、グシャ、グシャと砕けたものから地上に落ちていく。
そこに別の一匹をぶつける。
七匹全部が地面の上で砕けたのを見届けて地面に赤の魔方陣を展開して炎を立ち昇らせる。
S級の破片を全て焼き尽くした。
炎が消えたとき、動いている物はなにもなかった。
後ろの人たちもシーンと静まりかえって見ている。
しばらくして、オークス枢機卿とハイデル局長の声が聞こえてきた。
「これが双翼の大聖女の力なのですか……」
「すさまじいな。魔獣相手だけではもったいないな」
静寂を破るようにパチ、パチ、パチと大きな拍手の音が響いた。
『素晴らしい、実に素晴らしい。これこそボクが求めていた力だよ、アンジェ』
あたりを見回すが、どこにもユリウスの姿はない。
「ユリウス、どこにいるの! 早く妹を返しなさい!」
『さあ、大聖女ルシアに等しいその力とボクの創った力、どっちが強いか試してみようじゃないか!』
地面が揺れて、目の前の地面を破って石でできた巨大な人のコブシが突き出された。
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