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第一章 学園編

第39話 聖女就任式 ~私たちの戦いはこれからだ!【第一章完】

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 そして、いよいよ、水の聖女の就任式当日となった。

 会場は女神ルミナスをまつる光神教の大神殿の大聖堂。
 まずは控え室とされた部屋で衣装の着付けと化粧を行う。

 ノースリーブの純白のワンピース。裾が優雅に柔らかくたなびく。背中にはやはり純白のマント。
 見た目の高貴さから聖女隊の衣装は例の虫の糸から作られた布を使ったテレジオ商会製作のものが採用された。

 水の聖女を象徴する青い大きな宝石のついたネックレスを首につけ、大鏡の前に立ってみる。

 うわー、ほんとに聖女っぽい。
 でも、赤毛の赤と衣装の白、宝石の青がバラバラに見えてまとまりがない気がしないでもない。

「アンジェ、背中を伸ばして胸を張りなさい!」

 そばに立つエリザ様から注意を受けた。
 やはり同じ衣装、胸の宝石が透明な金色というところだけ違う。

「あっ、すみません……」
「そういう卑屈な態度もとらない。わたくしたちは聖女、女神ルミナスの加護に選ばれし存在。そういう意識を常に持って、堂々としていなければなりません」

 物心ついてからできるだけ目立たないように生きてきた私には、ちょっと荷が重い。

 シルビア様とミラ様も同じ衣装を着て私の方にやってきた。
 違いは胸の宝石の色で属性に合わせて緑と赤になっている。

「まあ、回りに人がいるときだけでいいだろ。あたしだって、やるときはやるんだぜ」
「そのうち、自然に身につきますわよ」

 シルビア様は普段と変わらないが、ミラ様も今日は聖女の姿がきまっている。
 お二人とも背が高く、女性としてのプロポーションも抜群。
 エリザ様はもちろん美女で、かつ慈愛の通り名が示すように母性すら感じさせる女性らしさに満ちている。

 そんな三人に囲まれると、どうしても女性としての貧弱さが目立ってしまい、まるで女学生を一人混ぜたように自分で感じてしまう。

 まあ、ついこの間まで学生だったんで、しょうがないわよね……。


「聖女の皆様、お時間です」

 いよいよ出番となったのか係の人が呼びに来た。

「さあ、参りましょう」

 三人ともまさに颯爽さっそうという感じでマントをひるがえして出口へと向かう。
 私もあわてて後に続くが心臓ははち切れそうなほどに速く鼓動している。


 通路の途中で他の三人と別れて、案内の人に連れられて大聖堂の入り口に立った。

「では、あとは打ち合わせの通りにお願いいたします」

 案内の人もいなくなり、大聖堂を入り口からのぞき込んだ。

 奥の正面にある高くなった祭壇まで、赤いじゅうたんの通路がずーと長く続いている。
 通路の両隣には光神教の関係者なのだろうか、金色の神官服を着た男女がずらりとならんでいる。


 祭壇の上には玉座のような立派なイスがあり、やはり金色の法衣のような服を着た老人が座っている。

 あの人が教皇なんだ。

 光神教の最高位でその威光と権力は国王に並ぶとも言われている。
 王政から女神ルミナスへの信仰を中心とした宗教国家への改革を狙っているとも言われ、両者の関係は微妙らしい。

 教皇の後ろには高さ十数メートルの女神ルミナスと寄り添う大聖女ルシア、さらに風、水、炎の三聖女の大きな像が立っている。

 ここの大聖女ルシアの像には背中に大きな四枚の羽が生えており、聖女というより天使のように見えてしまう。

 とにかく前に進まないと。

 背筋を伸ばして胸を張って歩き出すが、両側の人からクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 あっ、手と足が一緒に動いてる。

 顔を真っ赤にしながら、歩き方を調節して普通の歩き方に戻す。

 だめよ、私は聖女。
 女神ルミナスの加護に選ばれた存在。堂々と歩く。
 私は聖女……。

 私は聖女、何度も自分に言い聞かせる。

 今まで、なにも考えずに流されて生きてきた。
 でも、これは自分が選んだ道。
 これからは自分の意志で生きていくんだ。

 そう思いながら真っ直ぐに前を見て進んでいく。


 祭壇の手前まで行くと、左にエリザ様たち聖女の三人、右にはシオンたち従騎士の方々が立っているのに気づいた。

 立派な先輩と仲間たち、彼らとともに人々のために尽くしたい。

 目の前の女神ルミナスと大聖女ルシアの像を見ながら、祭壇への階段をゆっくりと上がっていく。
 指示されたとおり、教皇の前でひざまずいた。

「女神ルミナスの加護を得し、聖女アンジェリーヌ・テレジオよ」

 教皇が立ち上がって祝詞を唱え始める。

「女神ルミナスはお前とともにあり、その力により光で世を満たして闇を葬り、人々に祝福と笑顔を与えよ」

 そう言って差し出される聖なる杖を、私は両手でうやうやしく受け取り立ち上がる。
 先っぽに陶器でできた金色の四枚の羽とその真ん中に青の大きな宝石が付いている。

 教皇に背を向けて祭壇からの階段を降りていくと、赤い通路にエリザ様、シルビア様、ミラ様がやはり聖なる杖を持って並んで私を待っていた。

「あらためて、ようこそ聖女隊に」

 エリザ様にそう言われて、やっと緊張が解けた。

 そのままエリザ様の横に立ち、四人は横一列に並んで外の光に輝く出口に向けて真っ直ぐに歩いていく。
 私たちの後ろに従騎士の四人が続いてくる。

 真っ直ぐに出口へと続く赤い通路を進んでいく。

 これは私が自分で決めて選んだ道。
 たとえ相手が魔獣でも、みんなの幸せと笑顔を守るために私は戦う。

 私は誓う。
 もううつむかない、前を向いて胸を張って生きていく!
 人々の笑顔を絶やさない世の中を作るため、この力の限りを尽くす! 
 私の、いえ……。
 後ろを軽く振り返ってシオンを見る。
 視線が合った。
 シオンは変わらない優しい笑顔でうなずいてくれる。
 そして、しっかりと見つめ合った。

 私たちの戦いはこれからだ!  


 大聖堂からまぶしい太陽の光に満ちた外に歩み出る。
 私の聖女人生は誓いと決意を胸におごそかに始まった……はずだった。

 就任式に引き続いて水の聖女誕生祝いのパレードが行われる。
 私たち聖女の四人は美しく飾られた屋根のない馬車に立った。

 四方から押し寄せるワー!としか聞こえない大歓声に腰が引け、オドオドとおびえながら周囲を見回す。
 馬車が進む大通りの両側に集まっている大観衆の視線がいっせいにこちらを向いている。

 怖い! みんなが私を見てる!

 そう思うと顔にカーと血が上っていった。
 思わず下を向いて視線を避けようとする。

 シルビア様がそんな私を叱りつけた。

「うつむかないで、前を向いて胸を張りなさい!」

 確かにそう誓いました……。

 エリザ様が疲れ気味の私を励ましてくれる。

「笑顔を絶やさないで!」

 笑顔を絶やさないのは私じゃなくて、人々なんですけど……。

 ミラ様が私にゲキを飛ばした。

「主役なんだから手を振ってアピールしろ、力の限りを尽くせ!」

 力の限りの尽くし方がちょっと違うんですけど……。


 私は引きつった笑いを浮かべて一生懸命に手を振りながら考える。

 なんか、思ってたのと違うかもしれない……。

 
 ともかく、こうして私の聖女としての人生が始まったのだった。


第一章 学園編 完
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