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第一章 学園編
第36話 聖女認定試験 ~魔獣退治も聖女の仕事?
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『その時』の意味を私に聞かれたシオンは険しい顔になった。
しかし、すぐに笑顔に変わった。
「私の口グセですが略しすぎですね。今のは『アンジェ様が独り立ちするその時まで』という意味です」
そう説明するシオンの顔を見つめた。
感じる……。
「じゃあ、ハリスに言った『その時』はなんのこと?」
「あれは、フロディアス商会の管理職は年に一度、辺境伯に業務報告をする面接があるので、その日程のことです」
へっ?
意表を突く答えが返ってきたが、説明を続けるシオンの顔を見つめ続ける。
わかった。
たぶん、これ……。
「毎年、報告の準備が大変ですが今年はレポートを送るだけでいいでしょう。アンジェ様が聖女になれば私の評価は満点です」
……これ、全部ウソだ。
私は知ってる。
シオンは必要ならウソやハッタリを平気でスラスラと言える人。
何度か見たのでウソをつくときに現れる微妙な表情でウソをついてることがわかってしまう。
でも、ちょっと驚いたフリをして、笑ってみせる。
「そうなの? だったら、私もがんばらなきゃね」
「はい。ボーナスが出たら、ごちそうしましょう」
ハハハハハと楽しそうに笑い合う。
しかし、これ以上この話題に触れてはいけない。
そんな気がして口を閉じた。
御者の声が聞こえてきた。
「そろそろ、見えてきましたよ。あの古い城が魔法研究所です」
馬車の窓から前方を見ると、広い平原が広がり、山の裾野に幽霊や魔物が出そうな古びた城が建っていた。
「ようこそ、我が魔法研究所へ!」
グリモア所長が大げさに両腕を広げ、城の門の前で馬車から降りる私たちを出迎えてくれた。
「いかにも魔法研究所という雰囲気が素晴らしいだろ?」
見るからに不気味な古城は、この人の趣味なんだ。
グリモア所長が隣に立っている仕事ができそうなスーツでメガネをかけた若い女性を紹介してくれた。
「行政魔法支援局のメルベル副局長。この前、アンジェが会ったハイデル局長の部下で、王立聖女隊の担当者だよ」
「よろしくお願いします、アンジェ様。エリザ様からいろいろとうかがっております」
様付けで呼ばれて恥ずかしいが、この前のおじさんと直接やりとりしないでいいんだと安心した。
それから全員で『検査室』と書かれた部屋に移動した。
部屋の中には色々な道具が置かれているが、入学前の身体検査で使った四つの透明な球体が並んだ装置の前に通された。
「この魔道具はボクが開発したんだよ。他者のマナに直接干渉できる暗黒魔法の原理を応用してるんだ」
グリモア所長は得意げに話すが、暗黒魔法の応用と聞いて驚いた。
「暗黒魔法って禁術じゃないんですか?」
「そうだね。術者は邪神との契約者とみなされて死罪もあり得るけど、ここでの研究は許されてるんだよ」
死罪って、そんなにいけないことなの⁉
チラッと隣に立つシオンを見るが表情を変えずに聞いている。
「光を源とする今の魔法ではできないことが暗黒魔法では実現できるのに、禁術にするとはまったく馬鹿げた話だよ!」
グリモア所長が今度は腹立たしそうに話し始めた。
「闇の力を使う対極の魔法。光と闇の両方の力を得れば無限の力が得られるかもしれないのに! 政府や光神教の奴らはなにもわかってない!」
この国の魔法関係者は、みんな興奮しやすいんだろうか?
あきれながら、熱弁を振るうグリモア所長を見た。
「グリモア所長、それぐらいにして先に進みましょう」
メルベルさんが制して、やっと落ち着いた。
「それじゃあ、アンジェ、やってみてくれるかい」
グリモア所長に促され、まず、一番右の球体の上に手を置く。
球体は金色に輝き始めてまぶしい光を放ったが、ピシッ! と鋭い音がした。
球体に大きなヒビが入って光を失った。
あっ、こわれた。
弁償とか言われたらどうしよう……。
驚いたメルベルさんが質問した。
「所長、これはどういうことですか?」
「魔力が大きすぎて、魔道具の限界を超えたんだ。エリザのときですら、こんなことはなかったが……」
次の球体は緑のまぶしい光を放ったが壊れることはなかった。
「風はシルビア並みか……」
グリモア所長がつぶやいた。
しかし、三番目の球体は青い光で輝いたあと、最初と同じようにヒビ割れをおこして壊れてしまう。
四番目は赤の光を放つが壊れることはなかった。
「光と水はこれまでの聖女レベルを上回り、風と炎は同等、ということですか?」
メルベルさんが尋ねるが、グリモア所長は考え込んでしまった。
光魔法と水魔法はエリザ様とソフィア様に教えてもらったから、風や炎よりも強くなってるのかな?
突然、グリモア所長が独り言を大声でしゃべり始めた。
「素晴らしい、実に素晴らしい! 一人の人間が四属性の全てを持ち、しかも、全てが聖女並みかそれ以上! これは奇跡だ!」
かなり興奮した様子で、うれしそうに私の方に近寄ってくる。
「ねえ、アンジェ、キミとボクなら大聖女ルシア以降、だれもできなかったことを実現できるよ!」
その勢いに押されて後ずさりする私の両手を握って上下にゆする。
「キミがねらうべきは聖女じゃない、大聖女だよ! それを助けられるのはボクだけさ!」
「そ、そうですか。よろしく、ご指導ください」
チラッとシオンの方を見ると、険しい顔をして私たちを見ている。
どうしたんだろう……。もしかして、嫉妬、とか?
心の中でフフと笑ってしまった。
メルベルさんがゴホンと大きなせき払いをして、興奮したグリモア所長を正気に戻させた。
「いや、失礼。興奮してしまったようだ。さあ、続けようか」
この人がこの国の魔法研究の第一人者?
ルミナリア王国、大丈夫なんだろうか……。
次に屋外の広い場所に出て、言われた魔法を実演して見せるが、知らないものがいくつもあった。
「使える魔法の種類は、今の聖女様たちの方がずっと多いですね」
そう言いながらメルベルさんは手にしたノートにいろいろと書いているようだった。
「ああ、特に攻撃魔法と防御魔法はほぼゼロだな」
「学校ではほとんど教えませんから。今の聖女様のときのように所長に教えていただくのと、聖女様たちから習うしかありませんね」
攻撃魔法や防御魔法がなんで必要なんだろう?
「あの、聖女は誰かと戦うんですか?」
メルベルさんは一瞬、答えるのをためらったように見えたが口を開いた。
「魔獣です。魔獣退治は王立聖女隊の大切な業務です」
私は息をのんだ。
「聖女のイメージを守るため機密事項ですから、一般には知られていませんが」
魔獣退治は騎士団の仕事というのが世間と私の常識だった。
ガク然と立ち尽くす私の肩にシオンが手を置いてくれた。
「私がお守りいたします」
「シオン……」
「この身に代えても、お守りいたします」
肩に置かれた手に自分の手を重ねてギュッと握りしめた。
次に屋外に出て湖に移動して、水を使った魔法を実演する。
「舞い上がれ、九頭龍旋!」
湖面の上に八つの魔方陣を描き、それぞれから水柱を立ち昇らせて八つの頭の水の龍を作り上げる。
「八頭か……、すごいね。大聖女ルシアが九頭、彼女以降では歴代最高だよ」
この前は七頭だったから使える魔力がまた大きくなっている。
エリザ様の特訓と決闘での治癒魔法。
短期間に大量の魔力を使って封印の穴が広がったとかなんだろうか?
その日はそれで終わり、翌日は王立病院に一日こもって重病人や重体で運ばれてきた患者を光魔法で治療した。
与えられた患者は一人残らず、うまく治療することができた。
全ての予定が終わり、グリモア所長が総括する。
「今の魔力で判断するなら、光の聖女か水の聖女が適任だろうね」
「アンジェ様はご希望はありますか?」
メルベルさんが聞いてくれたので正直に伝えた。
「できれば光の聖女としてエリザ様のように、たくさんの人を治癒して助けていきたいです」
メルベルさんはノートにメモしながら言う。
「いずれにしろ、最終試験は聖女隊の皆様との面接になります」
まだ試験があるんだ……。
不安に思った私に気づいたようにシオンが小声で話してくれる。
「こういう最終面接は偉い人への内定者のお披露目的なものですから、大丈夫ですよ」
「まあ、そんなもんだけど、ミラのときはかなりもめたなあ」
グリモア所長が笑いながら言った。
たぶん、シルビア様が大反対したのかな。
「アンジェ様はソフィア様の秘蔵っ子。エリザ様が後任に指名されたぐらいですから問題ないとは思いますが……」
言いにくそうに言葉を止めたメルビルさんに変わってグリモア所長が続けた。
「ミラとシルビアは、ちょっとクセが強いからねえ」
思わず学園祭で見たお二人を思い出す。
ミラ様はセシリアの強化版みたいな感じで、なんとなく仲良くしてもらえそうな気がする。
シルビア様は……正直、苦手なタイプ。
カリーナのお姉さんだし、これまで私を見る視線が刺すような厳しい視線だった。
「そうですねえ……、できるだけ和やかな雰囲気になるように工夫してみます」
メルベルさんが思案顔で言った。
◇◆◇
そんなことがあって、最終面接はソフィア様のご自宅で聖女様三人とメルベルさんを招いてのお茶会という形で行われることになった。
丸い楕円のテーブルをはさんで、三人の聖女様たちと向き合って座る。
私の両隣にはソフィア様とメルベルさんがついてくれている。
聖女の方々の手にはメルベルさんがまとめた私の略歴とか試験結果などのレポートがあり、それを読みながらときどき私に鋭い視線を飛ばしてくる。
従騎士の方々は部屋の隅のテーブルでシオンを交えて、トランプに興じている。
声を立てないようにしているようだが、ときどき『うわー』とか『ちきしょー』とか叫び声が聞こえてきた。
みんながレポートを読み終わったころを見計らって、ソフィア様が立ち上がって私の背後に立った。
「聖女の皆様、あらためてご紹介いたします。こちらはアンジェリーヌ・テレジオ嬢。わ・た・く・しの見つけた才能が開花し、お手元の資料にもあります通り、聖女になるには申し分ないと存じますが、いかがでしょうか」
ソフィア様はすっかり私の後見人になってくれている。
「わたくしは反対です!」
怒りの口調で異議を唱えられたのはエリザ様だった。
えっ、なんで⁉
しかし、すぐに笑顔に変わった。
「私の口グセですが略しすぎですね。今のは『アンジェ様が独り立ちするその時まで』という意味です」
そう説明するシオンの顔を見つめた。
感じる……。
「じゃあ、ハリスに言った『その時』はなんのこと?」
「あれは、フロディアス商会の管理職は年に一度、辺境伯に業務報告をする面接があるので、その日程のことです」
へっ?
意表を突く答えが返ってきたが、説明を続けるシオンの顔を見つめ続ける。
わかった。
たぶん、これ……。
「毎年、報告の準備が大変ですが今年はレポートを送るだけでいいでしょう。アンジェ様が聖女になれば私の評価は満点です」
……これ、全部ウソだ。
私は知ってる。
シオンは必要ならウソやハッタリを平気でスラスラと言える人。
何度か見たのでウソをつくときに現れる微妙な表情でウソをついてることがわかってしまう。
でも、ちょっと驚いたフリをして、笑ってみせる。
「そうなの? だったら、私もがんばらなきゃね」
「はい。ボーナスが出たら、ごちそうしましょう」
ハハハハハと楽しそうに笑い合う。
しかし、これ以上この話題に触れてはいけない。
そんな気がして口を閉じた。
御者の声が聞こえてきた。
「そろそろ、見えてきましたよ。あの古い城が魔法研究所です」
馬車の窓から前方を見ると、広い平原が広がり、山の裾野に幽霊や魔物が出そうな古びた城が建っていた。
「ようこそ、我が魔法研究所へ!」
グリモア所長が大げさに両腕を広げ、城の門の前で馬車から降りる私たちを出迎えてくれた。
「いかにも魔法研究所という雰囲気が素晴らしいだろ?」
見るからに不気味な古城は、この人の趣味なんだ。
グリモア所長が隣に立っている仕事ができそうなスーツでメガネをかけた若い女性を紹介してくれた。
「行政魔法支援局のメルベル副局長。この前、アンジェが会ったハイデル局長の部下で、王立聖女隊の担当者だよ」
「よろしくお願いします、アンジェ様。エリザ様からいろいろとうかがっております」
様付けで呼ばれて恥ずかしいが、この前のおじさんと直接やりとりしないでいいんだと安心した。
それから全員で『検査室』と書かれた部屋に移動した。
部屋の中には色々な道具が置かれているが、入学前の身体検査で使った四つの透明な球体が並んだ装置の前に通された。
「この魔道具はボクが開発したんだよ。他者のマナに直接干渉できる暗黒魔法の原理を応用してるんだ」
グリモア所長は得意げに話すが、暗黒魔法の応用と聞いて驚いた。
「暗黒魔法って禁術じゃないんですか?」
「そうだね。術者は邪神との契約者とみなされて死罪もあり得るけど、ここでの研究は許されてるんだよ」
死罪って、そんなにいけないことなの⁉
チラッと隣に立つシオンを見るが表情を変えずに聞いている。
「光を源とする今の魔法ではできないことが暗黒魔法では実現できるのに、禁術にするとはまったく馬鹿げた話だよ!」
グリモア所長が今度は腹立たしそうに話し始めた。
「闇の力を使う対極の魔法。光と闇の両方の力を得れば無限の力が得られるかもしれないのに! 政府や光神教の奴らはなにもわかってない!」
この国の魔法関係者は、みんな興奮しやすいんだろうか?
あきれながら、熱弁を振るうグリモア所長を見た。
「グリモア所長、それぐらいにして先に進みましょう」
メルベルさんが制して、やっと落ち着いた。
「それじゃあ、アンジェ、やってみてくれるかい」
グリモア所長に促され、まず、一番右の球体の上に手を置く。
球体は金色に輝き始めてまぶしい光を放ったが、ピシッ! と鋭い音がした。
球体に大きなヒビが入って光を失った。
あっ、こわれた。
弁償とか言われたらどうしよう……。
驚いたメルベルさんが質問した。
「所長、これはどういうことですか?」
「魔力が大きすぎて、魔道具の限界を超えたんだ。エリザのときですら、こんなことはなかったが……」
次の球体は緑のまぶしい光を放ったが壊れることはなかった。
「風はシルビア並みか……」
グリモア所長がつぶやいた。
しかし、三番目の球体は青い光で輝いたあと、最初と同じようにヒビ割れをおこして壊れてしまう。
四番目は赤の光を放つが壊れることはなかった。
「光と水はこれまでの聖女レベルを上回り、風と炎は同等、ということですか?」
メルベルさんが尋ねるが、グリモア所長は考え込んでしまった。
光魔法と水魔法はエリザ様とソフィア様に教えてもらったから、風や炎よりも強くなってるのかな?
突然、グリモア所長が独り言を大声でしゃべり始めた。
「素晴らしい、実に素晴らしい! 一人の人間が四属性の全てを持ち、しかも、全てが聖女並みかそれ以上! これは奇跡だ!」
かなり興奮した様子で、うれしそうに私の方に近寄ってくる。
「ねえ、アンジェ、キミとボクなら大聖女ルシア以降、だれもできなかったことを実現できるよ!」
その勢いに押されて後ずさりする私の両手を握って上下にゆする。
「キミがねらうべきは聖女じゃない、大聖女だよ! それを助けられるのはボクだけさ!」
「そ、そうですか。よろしく、ご指導ください」
チラッとシオンの方を見ると、険しい顔をして私たちを見ている。
どうしたんだろう……。もしかして、嫉妬、とか?
心の中でフフと笑ってしまった。
メルベルさんがゴホンと大きなせき払いをして、興奮したグリモア所長を正気に戻させた。
「いや、失礼。興奮してしまったようだ。さあ、続けようか」
この人がこの国の魔法研究の第一人者?
ルミナリア王国、大丈夫なんだろうか……。
次に屋外の広い場所に出て、言われた魔法を実演して見せるが、知らないものがいくつもあった。
「使える魔法の種類は、今の聖女様たちの方がずっと多いですね」
そう言いながらメルベルさんは手にしたノートにいろいろと書いているようだった。
「ああ、特に攻撃魔法と防御魔法はほぼゼロだな」
「学校ではほとんど教えませんから。今の聖女様のときのように所長に教えていただくのと、聖女様たちから習うしかありませんね」
攻撃魔法や防御魔法がなんで必要なんだろう?
「あの、聖女は誰かと戦うんですか?」
メルベルさんは一瞬、答えるのをためらったように見えたが口を開いた。
「魔獣です。魔獣退治は王立聖女隊の大切な業務です」
私は息をのんだ。
「聖女のイメージを守るため機密事項ですから、一般には知られていませんが」
魔獣退治は騎士団の仕事というのが世間と私の常識だった。
ガク然と立ち尽くす私の肩にシオンが手を置いてくれた。
「私がお守りいたします」
「シオン……」
「この身に代えても、お守りいたします」
肩に置かれた手に自分の手を重ねてギュッと握りしめた。
次に屋外に出て湖に移動して、水を使った魔法を実演する。
「舞い上がれ、九頭龍旋!」
湖面の上に八つの魔方陣を描き、それぞれから水柱を立ち昇らせて八つの頭の水の龍を作り上げる。
「八頭か……、すごいね。大聖女ルシアが九頭、彼女以降では歴代最高だよ」
この前は七頭だったから使える魔力がまた大きくなっている。
エリザ様の特訓と決闘での治癒魔法。
短期間に大量の魔力を使って封印の穴が広がったとかなんだろうか?
その日はそれで終わり、翌日は王立病院に一日こもって重病人や重体で運ばれてきた患者を光魔法で治療した。
与えられた患者は一人残らず、うまく治療することができた。
全ての予定が終わり、グリモア所長が総括する。
「今の魔力で判断するなら、光の聖女か水の聖女が適任だろうね」
「アンジェ様はご希望はありますか?」
メルベルさんが聞いてくれたので正直に伝えた。
「できれば光の聖女としてエリザ様のように、たくさんの人を治癒して助けていきたいです」
メルベルさんはノートにメモしながら言う。
「いずれにしろ、最終試験は聖女隊の皆様との面接になります」
まだ試験があるんだ……。
不安に思った私に気づいたようにシオンが小声で話してくれる。
「こういう最終面接は偉い人への内定者のお披露目的なものですから、大丈夫ですよ」
「まあ、そんなもんだけど、ミラのときはかなりもめたなあ」
グリモア所長が笑いながら言った。
たぶん、シルビア様が大反対したのかな。
「アンジェ様はソフィア様の秘蔵っ子。エリザ様が後任に指名されたぐらいですから問題ないとは思いますが……」
言いにくそうに言葉を止めたメルビルさんに変わってグリモア所長が続けた。
「ミラとシルビアは、ちょっとクセが強いからねえ」
思わず学園祭で見たお二人を思い出す。
ミラ様はセシリアの強化版みたいな感じで、なんとなく仲良くしてもらえそうな気がする。
シルビア様は……正直、苦手なタイプ。
カリーナのお姉さんだし、これまで私を見る視線が刺すような厳しい視線だった。
「そうですねえ……、できるだけ和やかな雰囲気になるように工夫してみます」
メルベルさんが思案顔で言った。
◇◆◇
そんなことがあって、最終面接はソフィア様のご自宅で聖女様三人とメルベルさんを招いてのお茶会という形で行われることになった。
丸い楕円のテーブルをはさんで、三人の聖女様たちと向き合って座る。
私の両隣にはソフィア様とメルベルさんがついてくれている。
聖女の方々の手にはメルベルさんがまとめた私の略歴とか試験結果などのレポートがあり、それを読みながらときどき私に鋭い視線を飛ばしてくる。
従騎士の方々は部屋の隅のテーブルでシオンを交えて、トランプに興じている。
声を立てないようにしているようだが、ときどき『うわー』とか『ちきしょー』とか叫び声が聞こえてきた。
みんながレポートを読み終わったころを見計らって、ソフィア様が立ち上がって私の背後に立った。
「聖女の皆様、あらためてご紹介いたします。こちらはアンジェリーヌ・テレジオ嬢。わ・た・く・しの見つけた才能が開花し、お手元の資料にもあります通り、聖女になるには申し分ないと存じますが、いかがでしょうか」
ソフィア様はすっかり私の後見人になってくれている。
「わたくしは反対です!」
怒りの口調で異議を唱えられたのはエリザ様だった。
えっ、なんで⁉
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