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第一章 学園編
第23話 よみがえる死者 ~蘇生魔法・光華再還
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横たわっている女の子の手首の脈を取って、やはり死んでいることを確認したシオンが私に聞いた。
「蘇生魔法、学校で習いましたか?」
光華再還。
死んですぐの人や死にそうな人すら治癒する大魔法。
エリザ様と初めて会ったとき、馬車にひかれた重傷の子供を治されたあの魔法だけど、治癒魔法の中で最高の難度。
「理論と魔法式は習ったけど使ったことない」
使うために教えるというより、治癒魔法の理論を理解する例として説明されるようなもので、今使えるのはエリザ様ぐらいではないかと先生も言っていた。
そもそも実習用の教材を学校で用意するのは無理だし。
「でも、とにかく、やってみる!」
両ひざをついて女の子のわきに座り、胸の前で両手を広げる。
こんな大魔法は無詠唱では無理なので詠唱を開始する。
「女神ルミナスの導きに我が魂呼応せん。この手に宿るは聖なる光、姿壊れし物に満ちて形を取り戻さん」
すると魔法陣が浮かび上がり、両手から金色の光が出始めた。
「つつみこめ、光華再還!」
わたし達を取り囲んで見守る人たちから歓声が上がる。
しかし、金色の光は女の子の方に行かないで私を包み始めた。
ちがう、つつみこむのは私じゃない!
言うことを聞いてくれない魔力の流れを全然コントロールできない。
「アンジェ様、魔力をもっと手に集中させて下さい!」
「治癒魔法、ヘタクソだった……」
治癒魔法は初歩すらろくにできない実力。
こんな大魔法が使えるわけもない。
土砂をうまく飛ばせた自分の力に舞い上がってしまったか。
「片手を私に」
左手で差し出された手を握りしめた。
流れていき、そして戻ってくるマナとシオンが作ってくれる複雑な体内での流れを感じる。
私を包んでいた光は小さくなり、右手から出る光が女の子を包み始めた。
土砂崩れから時間はたってしまったが間に合うか?
止まっている心臓、つぶれた肺。
そこへ魔力を集中させる。
トクン、心臓が動き始め、そして、目がゆっくりと開いた。
うまくいった……。
ホッとして思わず地面に座り込んでしまった。
婦人は横になったままの女の子にすがりついて、大声で泣き始めた。
よかった。
でも、さすが難度最高、魔力をほとんど使い切った感じがする。
シオンもハアハアと肩で息をしている。
彼への負担も大きいはずだ。
「聖女様、聖女様、ありがとうございます……」
涙を流す婦人がひざまずいてお祈りを始めてしまい、ウソをついているという罪悪感が生まれてきた。
「……あの、すみません、勢いで言っちゃったんですけど、私、聖女じゃないんです」
「いいえ! あなたは聖女様です! そうでなければ、こんなことができるわけがありません!」
さらにお年寄りの夫婦がひざまずいて両手を組んで私を拝み始めた。
”ありがたや、ありがたや”
”死ぬ前に聖女様にお会いできるなんて……”
もう、逃げ出したい!
助けて!
頼みのシオンを見ると、少し離れた岩の上に座って、ハアハアと苦しそうに息をしている。
シオンに駆け寄ろうとしたとき、若い男が泣きながら手を振って私を呼んでいる。
「聖女様、こちらもお願いします! 妻をお助け下さい! 今、心臓が止まりました!」
駆け寄ると二十歳ぐらいの女性が目を閉じて横たわっている。
どうしよう、もう魔力がほとんど残ってない。
「助けて下さい、お願いします!」
なんとかしてあげたい、だけど……。
そう思ったとき、シオンに手を握られた。
「とにかく、やってみましょう」
シオンに左手を握ってもらい、右手をかざす。
「つつみこめ、光華再還!」
魔方陣が現れて金色の光が女性を包んだ。
”おおっ!”
見守る人たちから驚きと期待の混じった歓声がわき起こる。
その瞬間、光が小さくしぼんでいった。
”ああ、ダメだ……”
ガッカリする人たちの声が聞こえてきた。
「もう魔力がほとんどない」
そう言って、すがるような気持ちでシオンを見るが悲しそうに何度か首を横に振った。
男性に腕をつかまれてゆすられた。
「そんな! なんとかならないんですか!」
魔力がもっと、あれば……。
ある!
私はハッと気がつき、男性を振り払って走りだした。
離れた場所で村の子供たちと遊んでいるところを見つけ、ちびアンジェを抱きかかえて戻った。
みんな、ポカンとして私とちびアンジェを見ているが、シオンは意味を理解してくれた。
「やってみましょう」
そう言って私からちびアンジェを受け取り、彼女の手を取って抱きかかえた。
「なーに、シオンしゃん?」
「ちょっと、がまんしてくださいね」
不思議そうにキョトンとしているちびアンジェに話しかけながら、私の左手を握る。
「いきますよ!」
不思議そうにシオンを見るちびアンジェの体がビクッと引きつったように反応し、同時に握られた私の手に一気に魔力が流れてきた。
「つつみこめ、光華再還!」
女性にかざしている右手の先に魔方陣が浮かんで光が女性を包む。
二回目なのでなんとなく、コツがわかった気がする。
止まった心臓、折れた肋骨、つぶれた内臓……。
ちびアンジェのぐずる声が聞こえてくる。
「いやー、きもちわるい!」
「もうちょっとです、がんばってください」
そっちはシオンに任せて、私は治癒に集中する。
シオンの体も限界に近いはず、とにかく急ごうと魔力の出力を上げると女性をつつむ光が輝きを増した。
トクン……。
かすかに感じられた心臓の小さな動きが少しずつ大きくなる。
ドクン,ドクンと鼓動になった。
女性の目が開いた。
「……あなた?」
男性を見たのか小声が聞こえてきた。
男性がギュッと女性を抱きしめるのを見て、ほっと一息つく。
全身、ぐったりと疲れているのが感じられる。
そのとき、私の手を握っていたシオンの手が離れ、体が横に崩れて地面に倒れていく。
「シオン⁉」
私よりも先にシオンの体が限界を越えてしまった。
「蘇生魔法、学校で習いましたか?」
光華再還。
死んですぐの人や死にそうな人すら治癒する大魔法。
エリザ様と初めて会ったとき、馬車にひかれた重傷の子供を治されたあの魔法だけど、治癒魔法の中で最高の難度。
「理論と魔法式は習ったけど使ったことない」
使うために教えるというより、治癒魔法の理論を理解する例として説明されるようなもので、今使えるのはエリザ様ぐらいではないかと先生も言っていた。
そもそも実習用の教材を学校で用意するのは無理だし。
「でも、とにかく、やってみる!」
両ひざをついて女の子のわきに座り、胸の前で両手を広げる。
こんな大魔法は無詠唱では無理なので詠唱を開始する。
「女神ルミナスの導きに我が魂呼応せん。この手に宿るは聖なる光、姿壊れし物に満ちて形を取り戻さん」
すると魔法陣が浮かび上がり、両手から金色の光が出始めた。
「つつみこめ、光華再還!」
わたし達を取り囲んで見守る人たちから歓声が上がる。
しかし、金色の光は女の子の方に行かないで私を包み始めた。
ちがう、つつみこむのは私じゃない!
言うことを聞いてくれない魔力の流れを全然コントロールできない。
「アンジェ様、魔力をもっと手に集中させて下さい!」
「治癒魔法、ヘタクソだった……」
治癒魔法は初歩すらろくにできない実力。
こんな大魔法が使えるわけもない。
土砂をうまく飛ばせた自分の力に舞い上がってしまったか。
「片手を私に」
左手で差し出された手を握りしめた。
流れていき、そして戻ってくるマナとシオンが作ってくれる複雑な体内での流れを感じる。
私を包んでいた光は小さくなり、右手から出る光が女の子を包み始めた。
土砂崩れから時間はたってしまったが間に合うか?
止まっている心臓、つぶれた肺。
そこへ魔力を集中させる。
トクン、心臓が動き始め、そして、目がゆっくりと開いた。
うまくいった……。
ホッとして思わず地面に座り込んでしまった。
婦人は横になったままの女の子にすがりついて、大声で泣き始めた。
よかった。
でも、さすが難度最高、魔力をほとんど使い切った感じがする。
シオンもハアハアと肩で息をしている。
彼への負担も大きいはずだ。
「聖女様、聖女様、ありがとうございます……」
涙を流す婦人がひざまずいてお祈りを始めてしまい、ウソをついているという罪悪感が生まれてきた。
「……あの、すみません、勢いで言っちゃったんですけど、私、聖女じゃないんです」
「いいえ! あなたは聖女様です! そうでなければ、こんなことができるわけがありません!」
さらにお年寄りの夫婦がひざまずいて両手を組んで私を拝み始めた。
”ありがたや、ありがたや”
”死ぬ前に聖女様にお会いできるなんて……”
もう、逃げ出したい!
助けて!
頼みのシオンを見ると、少し離れた岩の上に座って、ハアハアと苦しそうに息をしている。
シオンに駆け寄ろうとしたとき、若い男が泣きながら手を振って私を呼んでいる。
「聖女様、こちらもお願いします! 妻をお助け下さい! 今、心臓が止まりました!」
駆け寄ると二十歳ぐらいの女性が目を閉じて横たわっている。
どうしよう、もう魔力がほとんど残ってない。
「助けて下さい、お願いします!」
なんとかしてあげたい、だけど……。
そう思ったとき、シオンに手を握られた。
「とにかく、やってみましょう」
シオンに左手を握ってもらい、右手をかざす。
「つつみこめ、光華再還!」
魔方陣が現れて金色の光が女性を包んだ。
”おおっ!”
見守る人たちから驚きと期待の混じった歓声がわき起こる。
その瞬間、光が小さくしぼんでいった。
”ああ、ダメだ……”
ガッカリする人たちの声が聞こえてきた。
「もう魔力がほとんどない」
そう言って、すがるような気持ちでシオンを見るが悲しそうに何度か首を横に振った。
男性に腕をつかまれてゆすられた。
「そんな! なんとかならないんですか!」
魔力がもっと、あれば……。
ある!
私はハッと気がつき、男性を振り払って走りだした。
離れた場所で村の子供たちと遊んでいるところを見つけ、ちびアンジェを抱きかかえて戻った。
みんな、ポカンとして私とちびアンジェを見ているが、シオンは意味を理解してくれた。
「やってみましょう」
そう言って私からちびアンジェを受け取り、彼女の手を取って抱きかかえた。
「なーに、シオンしゃん?」
「ちょっと、がまんしてくださいね」
不思議そうにキョトンとしているちびアンジェに話しかけながら、私の左手を握る。
「いきますよ!」
不思議そうにシオンを見るちびアンジェの体がビクッと引きつったように反応し、同時に握られた私の手に一気に魔力が流れてきた。
「つつみこめ、光華再還!」
女性にかざしている右手の先に魔方陣が浮かんで光が女性を包む。
二回目なのでなんとなく、コツがわかった気がする。
止まった心臓、折れた肋骨、つぶれた内臓……。
ちびアンジェのぐずる声が聞こえてくる。
「いやー、きもちわるい!」
「もうちょっとです、がんばってください」
そっちはシオンに任せて、私は治癒に集中する。
シオンの体も限界に近いはず、とにかく急ごうと魔力の出力を上げると女性をつつむ光が輝きを増した。
トクン……。
かすかに感じられた心臓の小さな動きが少しずつ大きくなる。
ドクン,ドクンと鼓動になった。
女性の目が開いた。
「……あなた?」
男性を見たのか小声が聞こえてきた。
男性がギュッと女性を抱きしめるのを見て、ほっと一息つく。
全身、ぐったりと疲れているのが感じられる。
そのとき、私の手を握っていたシオンの手が離れ、体が横に崩れて地面に倒れていく。
「シオン⁉」
私よりも先にシオンの体が限界を越えてしまった。
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