9 / 84
第一章 学園編
第9話 新たな縁談の阻止 ~私のために?
しおりを挟む
新たな縁談が進んでいることにショックを受けるが、シオンさんはさらに続ける。
「私の得た情報では、次のお相手は少し前に奥様を亡くされた優しい侯爵様。四歳の娘さんがいるそうで、お嬢様の子育て経験を気に入られたそうです」
えーっ……⁉
十七歳にしていきなり、四歳の女の子の母親ですって?
子育て経験って、妹と娘では全然違うでしょう……。
私は思わず頭を抱えた。
「商会立て直しの道筋を示せれば、だんな様も安心されて融資目当ての結婚をあせることもなくなるでしょう」
たぶんそうだと思う。父は単純だから。
「この縁談、なんとか阻止したいので急いでいます」
それは助かる!
いくらなんでも母親になるのはまだ早いわ。
えっ、でもこれって、何日も徹夜してくれてるのは私のためにってことなの?
自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
シオンさんはまた書類をめくり、ペンで書き込み始めた。
「できれば、お嬢様には普通に恋をして、普通に結婚していただきたいと思います」
えっ?
書類を読んでいるシオンさんを驚いて見つめてしまう。
視線に気づいたようにシオンさんが顔を上げるが、私が見つめていたことに気づいて戸惑ったような顔をした。
「……と、我が主人、辺境伯が申しておりました」
そう言って、ニッコリといつもの人なつっこい笑顔を浮かべた。
ああ、そういうことね……。
辺境伯は親友の孫娘をそこまで気に掛けてくれている、ということなのね。
四歳の時の私に会ってとてもかわいがってくれた、とかかな。
「さて、これで完成です。三、四日もあれば返事をもらえるでしょう」
あれ? 辺境伯領は馬車で行ったら片道は三週間ぐらい。
早馬飛ばしても数日はかかるはずなのに、往復を三、四日でとは無理じゃない?
「ちょうどいいので、お嬢様にご紹介いたしましょう」
不思議そうな私の顔を見てシオンさんが庭を指差した。
我が家の庭は、以前に芝生と花壇だったところは、あらかた畑になってしまった。
野菜は自給自足、の目標で母と弟たちと世話をしている。
もう夕方で薄暗くなった庭に立ったシオンさんが空に向かって指笛を吹いた。
伝書鳩でも呼んだのかな?
空を見上げると、薄暗くなった空から白い点のような物がこちらに向かってくるのが見えた。
白い点はだんだん大きくなっていくが、羽に長い首、四本の足が見えた。
まさか、これはあの日見たドラゴン⁉
しかし、パタパタと羽ばたきながら降りてきたのは子犬ぐらいの大きさの白いドラゴンのような生き物だった。
差し出されたシオンさんの腕に後ろ足二本で立った。
「私の友だちのピピです。ピピ、お嬢様にごあいさつなさい」
そのドラゴンは私の方を向いて、ピー、とかわいい声を出した。
「友だちって、この子は魔獣じゃないの?」
「魔獣ですが生まれた時から飼ってますので人に害は与えません」
シオンさんがピーのアゴの下を指でなでると、グルグルと甘えたような声を出した。
良く見ると、かわいい顔をしている。
しかし、魔獣がお友達とは……。
やはり辺境はあなどれない。
「この子がその大きな箱を辺境伯領まで持っていくの?」
さっきの書類の入った袋と毛織物や陶器など商品のサンプルの入った地面に置かれた大きな箱を指差した。
「はい、大丈夫です」
そう言って腕を動かすと、ピピは私達から少し離れたところにパタパタと羽を動かして移動した。
「ピピ、大きくなって」
突然、ピピの体がまぶしいほどの光に包まれた。
光が消えた時、そこにはこの前見た大きな黒いドラゴンがいた。
「うわっ⁉」
私は腰を抜かして、地面にしりもちをついた。
「ピピは心優しい魔獣です。外見は変わっても中身は一緒ですから」
そう言いながら大きな箱をピピの背中に乗せて、革のベルトでしっかりとくくりつけた。
「一日もあれば辺境伯領に飛んでいけますが、王都に来る時は私が重いので一日半ほどかかりましたが」
やはり、辺境はあなどれない……。
辺境伯は魔獣の軍団を持っている、というウワサも本当かもしれない。
大きな羽を上下させて空に飛び立っていくピピをシオンさんと手を振って見送った。
「あとは辺境伯の了解の返事を待つだけです」
やっと、一仕事終わったという感じの顔色の悪いシオンさん。
そりゃ、三日徹夜は体に悪い。
それは、私のため……。
「あの……、ありがとう」
少し照れながら、伏し目がちにだけど言うことができた。
たとえ主人の指示とはいえ、頑張ってくれたことにお礼を言いたかった。
シオンさんはちょっと意外とでもいうような表情を見せたあと、とても嬉しそうに微笑んだ。
私に向けられるそんな微笑みに、ドキッとしてしまう。
なんで、そんなに嬉しいの?
シオンさんにとっては仕事なんでしょ。
「もっと重要な宿題がまだ残ってます」
そう言って真剣な顔で私を見た。
「お嬢様の魔法を拝見できますか?」
いよいよ、魔法のできない私を聖女にするという宿題に取り組むのかな。
現実を見てもらって、いかに無理難題かをわかってもらうしかないわね。
地面から小指の先ほどの石を拾って手の平の上に置く。
「今、やっているのはこれ」
「魔法の第一歩、体内マナのコントロールですね」
シオンさんは、じっと私の手の平を見ている。
目を閉じて、体の中にマナの流れを感じようとするが、相変わらずなにも感じない。
「ほら、全然、動かないでしょ」
シオンさんはしゃがんで、地面に落ちていたこぶし大ほどの大きな石を拾った。
「お嬢様の肩に触れてもよろしいですか?」
「いいけど……?」
シオンさんは私の手の平から小さな小石を取り、代わりに自分が拾った石を乗せる。
私は不思議そうに石を見つめるが、背後に立ったシオンさんは私の左肩に手を置いた。
「もう一度やってみてください。少し嫌な感覚がありますが、ガマンしてください」
なにをしたいのかわからないが、私のために頑張ってくれた人なので素直に言うことを聞いてマナの流れを体に作る努力をしてみる。
ゾクッ……。
体全体に寒気を感じた直後、シオンさんの手が置かれた左肩に向かう大きな流れのようなものを感じた。
これがマナの流れ?
そして平行して肩から体内に入ってくる流れを感じた。
一瞬、流れが止まったような感覚のあと、再び流れ始めて手の平に向かっていく。
しかし、体の中をかき回されるような気持ちの悪さに体が震え、吐き気を覚えた。
手の平がフッと軽くなったと思ったら、石が浮いている。
吹き出るマナの流れが石を浮かせている。
この一年、あれほどできなかったのに。
右肩から出ていく流れがどんどん大きくなった。
それが戻ってくるが体の中で、なにかにせき止められたように急に止まり、ガン! という強い衝撃とめまいを感じた。
心臓が不規則に大きくドクンッと脈打って体が前につんのめる。
石が手の上から地面に落ちた。
「今日は、これぐらいにしておきましょう」
シオンさんが右手を私の肩から離すと体の感覚は普通に戻ったが、体の中をかき回された気持ちの悪さは残っている。
「今のはなに⁉ 私になにをしたの?」
「お嬢様のマナを私が吸収して、それを戻して本来のあるべき流れを作り、手の平から放出させました」
簡単なことのように説明されるが、他人のマナを吸収したり、体の中のマナの流れをコントロールするなんて聞いたこともない。
「これは辺境に昔から伝わる魔法です。王都には残っていない、というよりもこの国では禁術とされています」
『禁術』という単語に魔法史の授業で習ったことを思い出した。
かって邪悪な闇の力を源泉とし、男性を術者とする魔法がこの国にあった。
暗黒魔法
術者は邪神との契約が必要とされ、ときに邪悪な存在と成り果てて世界に害をなす。
それゆえに我が国でははるか昔に禁術とされたが、邪教である暗黒教の信仰と共にいまだに存在していると言われる。
先生は言っていた。
「光の女神の加護を持つあなた方は絶対に近寄ってはいけません」
私は思わず後ずさりして、シオンさんから離れた。
「なんで……、なんで暗黒魔法なんか使えるの……?」
「私の得た情報では、次のお相手は少し前に奥様を亡くされた優しい侯爵様。四歳の娘さんがいるそうで、お嬢様の子育て経験を気に入られたそうです」
えーっ……⁉
十七歳にしていきなり、四歳の女の子の母親ですって?
子育て経験って、妹と娘では全然違うでしょう……。
私は思わず頭を抱えた。
「商会立て直しの道筋を示せれば、だんな様も安心されて融資目当ての結婚をあせることもなくなるでしょう」
たぶんそうだと思う。父は単純だから。
「この縁談、なんとか阻止したいので急いでいます」
それは助かる!
いくらなんでも母親になるのはまだ早いわ。
えっ、でもこれって、何日も徹夜してくれてるのは私のためにってことなの?
自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
シオンさんはまた書類をめくり、ペンで書き込み始めた。
「できれば、お嬢様には普通に恋をして、普通に結婚していただきたいと思います」
えっ?
書類を読んでいるシオンさんを驚いて見つめてしまう。
視線に気づいたようにシオンさんが顔を上げるが、私が見つめていたことに気づいて戸惑ったような顔をした。
「……と、我が主人、辺境伯が申しておりました」
そう言って、ニッコリといつもの人なつっこい笑顔を浮かべた。
ああ、そういうことね……。
辺境伯は親友の孫娘をそこまで気に掛けてくれている、ということなのね。
四歳の時の私に会ってとてもかわいがってくれた、とかかな。
「さて、これで完成です。三、四日もあれば返事をもらえるでしょう」
あれ? 辺境伯領は馬車で行ったら片道は三週間ぐらい。
早馬飛ばしても数日はかかるはずなのに、往復を三、四日でとは無理じゃない?
「ちょうどいいので、お嬢様にご紹介いたしましょう」
不思議そうな私の顔を見てシオンさんが庭を指差した。
我が家の庭は、以前に芝生と花壇だったところは、あらかた畑になってしまった。
野菜は自給自足、の目標で母と弟たちと世話をしている。
もう夕方で薄暗くなった庭に立ったシオンさんが空に向かって指笛を吹いた。
伝書鳩でも呼んだのかな?
空を見上げると、薄暗くなった空から白い点のような物がこちらに向かってくるのが見えた。
白い点はだんだん大きくなっていくが、羽に長い首、四本の足が見えた。
まさか、これはあの日見たドラゴン⁉
しかし、パタパタと羽ばたきながら降りてきたのは子犬ぐらいの大きさの白いドラゴンのような生き物だった。
差し出されたシオンさんの腕に後ろ足二本で立った。
「私の友だちのピピです。ピピ、お嬢様にごあいさつなさい」
そのドラゴンは私の方を向いて、ピー、とかわいい声を出した。
「友だちって、この子は魔獣じゃないの?」
「魔獣ですが生まれた時から飼ってますので人に害は与えません」
シオンさんがピーのアゴの下を指でなでると、グルグルと甘えたような声を出した。
良く見ると、かわいい顔をしている。
しかし、魔獣がお友達とは……。
やはり辺境はあなどれない。
「この子がその大きな箱を辺境伯領まで持っていくの?」
さっきの書類の入った袋と毛織物や陶器など商品のサンプルの入った地面に置かれた大きな箱を指差した。
「はい、大丈夫です」
そう言って腕を動かすと、ピピは私達から少し離れたところにパタパタと羽を動かして移動した。
「ピピ、大きくなって」
突然、ピピの体がまぶしいほどの光に包まれた。
光が消えた時、そこにはこの前見た大きな黒いドラゴンがいた。
「うわっ⁉」
私は腰を抜かして、地面にしりもちをついた。
「ピピは心優しい魔獣です。外見は変わっても中身は一緒ですから」
そう言いながら大きな箱をピピの背中に乗せて、革のベルトでしっかりとくくりつけた。
「一日もあれば辺境伯領に飛んでいけますが、王都に来る時は私が重いので一日半ほどかかりましたが」
やはり、辺境はあなどれない……。
辺境伯は魔獣の軍団を持っている、というウワサも本当かもしれない。
大きな羽を上下させて空に飛び立っていくピピをシオンさんと手を振って見送った。
「あとは辺境伯の了解の返事を待つだけです」
やっと、一仕事終わったという感じの顔色の悪いシオンさん。
そりゃ、三日徹夜は体に悪い。
それは、私のため……。
「あの……、ありがとう」
少し照れながら、伏し目がちにだけど言うことができた。
たとえ主人の指示とはいえ、頑張ってくれたことにお礼を言いたかった。
シオンさんはちょっと意外とでもいうような表情を見せたあと、とても嬉しそうに微笑んだ。
私に向けられるそんな微笑みに、ドキッとしてしまう。
なんで、そんなに嬉しいの?
シオンさんにとっては仕事なんでしょ。
「もっと重要な宿題がまだ残ってます」
そう言って真剣な顔で私を見た。
「お嬢様の魔法を拝見できますか?」
いよいよ、魔法のできない私を聖女にするという宿題に取り組むのかな。
現実を見てもらって、いかに無理難題かをわかってもらうしかないわね。
地面から小指の先ほどの石を拾って手の平の上に置く。
「今、やっているのはこれ」
「魔法の第一歩、体内マナのコントロールですね」
シオンさんは、じっと私の手の平を見ている。
目を閉じて、体の中にマナの流れを感じようとするが、相変わらずなにも感じない。
「ほら、全然、動かないでしょ」
シオンさんはしゃがんで、地面に落ちていたこぶし大ほどの大きな石を拾った。
「お嬢様の肩に触れてもよろしいですか?」
「いいけど……?」
シオンさんは私の手の平から小さな小石を取り、代わりに自分が拾った石を乗せる。
私は不思議そうに石を見つめるが、背後に立ったシオンさんは私の左肩に手を置いた。
「もう一度やってみてください。少し嫌な感覚がありますが、ガマンしてください」
なにをしたいのかわからないが、私のために頑張ってくれた人なので素直に言うことを聞いてマナの流れを体に作る努力をしてみる。
ゾクッ……。
体全体に寒気を感じた直後、シオンさんの手が置かれた左肩に向かう大きな流れのようなものを感じた。
これがマナの流れ?
そして平行して肩から体内に入ってくる流れを感じた。
一瞬、流れが止まったような感覚のあと、再び流れ始めて手の平に向かっていく。
しかし、体の中をかき回されるような気持ちの悪さに体が震え、吐き気を覚えた。
手の平がフッと軽くなったと思ったら、石が浮いている。
吹き出るマナの流れが石を浮かせている。
この一年、あれほどできなかったのに。
右肩から出ていく流れがどんどん大きくなった。
それが戻ってくるが体の中で、なにかにせき止められたように急に止まり、ガン! という強い衝撃とめまいを感じた。
心臓が不規則に大きくドクンッと脈打って体が前につんのめる。
石が手の上から地面に落ちた。
「今日は、これぐらいにしておきましょう」
シオンさんが右手を私の肩から離すと体の感覚は普通に戻ったが、体の中をかき回された気持ちの悪さは残っている。
「今のはなに⁉ 私になにをしたの?」
「お嬢様のマナを私が吸収して、それを戻して本来のあるべき流れを作り、手の平から放出させました」
簡単なことのように説明されるが、他人のマナを吸収したり、体の中のマナの流れをコントロールするなんて聞いたこともない。
「これは辺境に昔から伝わる魔法です。王都には残っていない、というよりもこの国では禁術とされています」
『禁術』という単語に魔法史の授業で習ったことを思い出した。
かって邪悪な闇の力を源泉とし、男性を術者とする魔法がこの国にあった。
暗黒魔法
術者は邪神との契約が必要とされ、ときに邪悪な存在と成り果てて世界に害をなす。
それゆえに我が国でははるか昔に禁術とされたが、邪教である暗黒教の信仰と共にいまだに存在していると言われる。
先生は言っていた。
「光の女神の加護を持つあなた方は絶対に近寄ってはいけません」
私は思わず後ずさりして、シオンさんから離れた。
「なんで……、なんで暗黒魔法なんか使えるの……?」
30
お気に入りに追加
452
あなたにおすすめの小説
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる