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第一部 剣帝と槍姫
第25話 フローラ舞踏会デビュー-ノエル、窮地に陥る
しおりを挟むノエルの部屋の中でアレットがギューッとノエルのコルセットを締め上げた。
「く、苦しい、ドレスなんか着たくない!」
「サンドラ王女が遊びに来られた歓迎の舞踏会、ノエル様が出席しないわけにいかないでしょう」
「だが、ダンスなんかできないぞ」
「そういう人は壁際に立って、拍手してればいいんです」
さらにギューと締め上げる。
「そうか、ぐえー」
ノエルは苦しそうな悲鳴を上げた。
「ノエル、そろそろ行くぞ」
着替えが終わったノエルの待つ部屋に入ってきた礼装のクラウスが、ドレス姿のノエルに目を見張る。
フリルやレースに飾られた裾の広いスカート、髪も束ねられ華やかな髪飾り。
「こんな格好は、初めてなのだが似合ってるだろうか」
「きれいだ……」
ノエルは恥ずかしそうにうつむいた。
その周囲で着替えを手伝ったアレットやメイド達が満足げにウンウンとうなずいた。
「さあ、行こうか」
クラウスは腕組みを誘うように、ノエルに腕を差し出し、ノエルはそれに応えた。
王宮の大広間。礼装やドレスで着飾った多くの男女が集まっている。
クラウスとノエルは、サンドラ王女、ルーク王子と立ち話に興じている。
「ノエル、どう、もう慣れた?、かなりお似合いのカップルに見えるけど」
そう言ってクラウスとノエルに目をやり、ニヤニヤと笑う。
「クラウス、子供はまだか?、二人の子供は金髪か黒髪かサンドラと賭けているのだが」
「殿下、まだ結婚しているわけではございませんので……」
二人は真っ赤な顔でうつむいた。
その時、入り口からざわめきの声が聞こえてきた。
「誰、あのきれいな子?、見たことないけど」
「お人形さんみたい……」
「俺知ってるぞ、『ハイゼル家の病弱姫』、以前見たことある」
イエルクにエスコートされて、フローラが会場に入ってきた。
腰まで伸びるフワフワの金髪、華やかなドレス。
しかし、自分に向けられる視線とざわめきに怖がり、フローラはイエルクの腕にすがりついた。
「イエルクさん、なんか、こわい……」
「みんな、フローラを見てるんだよ、さあ、顔を上げて胸を張って」
フローラは何とか頑張って、背中をピンと張って真っ直ぐ前を向く。
そんな妹の様子をクラウスが心配そうに見ている。
サンドラ王女はクスクスと笑いながらフローラを見た。
「なんてきれいなお嬢さん。王女からパーティーの主役を奪うとは、なんたる不届き者でしょう」
「わたしの妹分ですので、ご容赦を」
ノエルが自慢げに笑った。
「ピンク色の肌、健康ではち切れそう。若さっていいわねー」
うらやましげにフローラを見るサンドラ、それを見てクラウスとノエルはにこやかに顔を見合わせた。
会場に音楽が流れ始め、ダンスが始まった。
ルーク王子に手を引かれ去ろうとするサンドラがノエル達を振り返った。
「あら、あなたたちは踊らないの?」
ノエルは引きつったばつの悪い笑顔を浮かべる。
「ここで、見ておりますので」
広間の中央で何組もの男女がダンスを開始した。
中でもイエルクにリードされるフローラの華麗さと二人の美しい足運びが周囲の男女を魅了していく。
しかし、フローラは踊れることが嬉しいように、踊りを続けていく。
一組、二組と踊りを止め、フローラ達の踊りを見始めた。
いつしか、会場で踊っているのはフローラ達だけになってしまった。
そんな二人を壁際に立つクラウスとノエルが見ている。
「イエルクはダンスの先生としては優秀だったようだな。俺たちも習うか?」
「そんな時間があれば稽古したいな」
「同感だな」
あくまでもダンスには無関心な二人だった。
音楽が終わり、フローラはスカートを両手で持ち上げてイエルクに一礼して踊りを終えた。
そんな二人を周囲からの拍手が包んだ。そこで初めて、踊っているのは自分たちだけだったことにフローラは気がついた。
「えっ?、えっ?」
「見事な舞踏会デビューだったよ、フローラ」
動揺するフローラの耳元でイエルクがささやいた。
そんな様子を苦々しく見ている若い婦人の一群から大きなイヤミにも聞こえる声が上がった。
「ハイゼル家にはもう一人、お姫様がいましたよねー」
「槍姫でしたっけ?、ぜひ、踊りを拝見したいわー」
視線が一斉に壁際に立つノエルに向かった。
「げっ……」
ノエルは固まった。その間にも聴衆の期待は高まり、拍手が鳴り始め、催促する歓声が上がり始めた。
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