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第一部 剣帝と槍姫

第24話 フローラは質問する-兄とは、もうしたの?

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 それから一ヶ月、フローラは既に普通の少女と変わらぬ健康を取り戻しつつあった。
 クラウスのクエストの傷も癒えたある日のこと、いつものようにノエルは庭での稽古を終えた。

 パーン、と長槍の柄が地面を叩き、稽古の終了を告げた。
 ベンチに座るフローラが汗を拭くノエルにパチパチと拍手を送った。


 ノエルはタオルで汗を拭きながら、フローラの隣に座った。

「ねえ、ノエルさん」
「ん、なに?」
「兄とは、もうしたの?」
「えっ⁉」
 突然の質問にノエルの顔は真っ赤になった。

「まだなんですか?」
「う、うん……」
 ノエルは恥ずかしそうにモジモジとうなづいた。

「兄だって、とってもしたがってると思いますよ」
「そ、そ、そ、そ、そうかな」
「そりゃそうですよ。こんなに近くにいて、一緒に住み始めて一ヶ月ちょっと、まだしてないなんて……」
「だだだだだ、だけど、結婚だってまだしてないし……」
「結婚なんて関係ないです。したいときにすればいいじゃないですか!」
「えっ、えっ、えっ?」

「ノエルさんは、したくないんですか?」
「いや、そんなことはないというか、なんとかいうか、経験も無いし……」
 目を白黒させてノエルは真っ赤になってうつむいた。

「お兄様がはっきり言わないからですよ」
 フローラは背後を振り返って言うが、ノエルは耳まで真っ赤になり、顔を上げることもできない。

 ノエルの背後からクラウスの声が聞こえた。
「ノエル、俺は、したい。お前はどうだ?」
「いや、そんな、いきなり聞かれても……」
「だめなのか?、俺は、もう我慢できない」
「い、いや、わ、わたしも、したい気持ちはあるのだが……」
「そうか!、では、今、ここで!」
「ここで――⁉」

「ぜひ、手合わせ願いたい」
「えっ?」
 あれっ?と顔を上げたノエルは稽古着に着替えたクラウスを見た。

 クラウスは剣を前に差し出した。
「稽古をつけてくれ」
「お、おう……」
 会話の真意を理解したノエルはカーと赤くなった。
 


 クラウスとノエルはそれぞれ、剣と槍を構えて対峙する。
 そんな二人をベンチからフローラがニコニコと見ている。
 カチッ、と剣と槍が軽くぶつけられ稽古が始まった。

 カン、カン、と初めはゆっくりとしたペースでぶつかっていた剣と槍は徐々にスピードが上がっていく。
 スピードが増すにつれ、それぞれの攻撃をかわす間合いが小さくなっていく。
 顔を突く槍の穂先はギリギリでかわされ、大上段から勢いよく頭に振り下ろされる長剣を槍の柄がはじく。
 二人の攻撃がどんどん速くなり、より強くなっていく。

 最初はニコニコしていたフローラの表情から笑顔が消えていき、代わりに恐怖が浮かんでいく。

 緊迫感に耐えきれず、ついに叫んだ。
「や、やめて――‼」

 クラウスとノエルはピタリと動きを止めた。
「お兄様もノエルさんも、どうしちゃったの!、そんな、殺し合うみたいに……」

 クラウスとノエルは顔を見合わせた。
「いや、ただの稽古だが」
「そうよ、フローラ、別に本気で戦ってるわけじゃないわよ」
「そうなの……?」
「ええ、お互い、殺気がないでしょ?」 
 フローラは首をかしげる。
「……わかんないです」

 クラウスはもう一度、ノエルに向き合う。
「さあ、もう一回だ」

 稽古は再開され、剣と槍が激しくぶつかり合う。
 今度は余裕を持って見守るフローラは二人の表情が笑顔にすら感じられた。
「ほんとだ、二人とも楽しそう……」

 長槍の柄が頭上からクラウスに打ちかかる。クラウスはそれを剣の腹で受けて、そのまま地面に押しつける。
「取った!」
 そのまま前に進み、動きを押さえられた槍の柄に沿って剣を走らせる。最後の一戦であわや首をかききるところまでいった策の再現だった
 ノエルは槍を地面に向けて押しつけ、柄を弓なりに反らせ、反動をつけて戻す。クラウスの剣が柄にはじかれて浮いた瞬間、自由になった柄で首元を狙い、首に当たる寸前でピタリと止めた。

 クラウスは動作を止めてため息をついた。
「これが、以前言ってた対応策か。あいかわらず強いな」

 稽古が終わり、ノエルは汗を拭きながら、笑顔でクラウスに話しかける。

「やはり一人で稽古するより、ずっと楽しい。またやろう」
「ああ、望むところだ。毎日でもいいぞ」
 愉快そうに笑う二人をフローラもニコニコと眺めていた。
 
 言葉通り、二人の稽古は雨の日も風の日も毎日欠かさず行われる日課となった。

 ある日のこと、いつものように二人が稽古していると、にわか雨のような強い雨がザーと降り出した。

 ベンチのフローラが二人に声を掛けた。

「お兄様、ノエルさん、雨ですよー」
 しかし、二人は打ち合いに集中しており、フローラの声が届かないように打ち合いを続ける。

「カゼ引いても知りませんよ!、あたしは先に戻りますからね」
 フローラは屋敷に戻っていくが、二人は延々と打ち合いを続けていく。

 ガッ、と打ち込まれたクラウスの剣を顔の前でノエルは槍の柄で受け止めた。やっと二人の動きが止まり、クラウスが雨に気がつく。
「雨か」
「今日は、ここまでにしとこう」

 二人は屋敷に駆け込んで行った。

「うわー、びしょ濡れだ」
 ノエルは躊躇することなく、びしょびしょに濡れた稽古着を脱いだ。さらしのような布で巻いた胸、むき出しの肩が現れた。
 濡れた身体をタオルで拭くノエルを顔を赤くしながらクラウスが見る。
「ノ、ノエル……」
「ん?、タオルか?」

 ノエルは近付いて、にこやかにタオルでクラウスの顔を拭く。
「お前も、ビショビショだぞ」
「あ、ああ……」
 クラウスは胸をドキドキさせながらも、拭かれるままになっている。
 そんな二人の様子を部屋の入り口からこっそりと、フローラとアレットが見ていた。
「結婚まで、ずっとこんな感じなのかしら……」
「フローラ様には申し訳ない言い方ですが、男として、いかがなものでしょうか……」
「そうですよねえ……」
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