24 / 47
第一部 剣帝と槍姫
第24話 フローラは質問する-兄とは、もうしたの?
しおりを挟むそれから一ヶ月、フローラは既に普通の少女と変わらぬ健康を取り戻しつつあった。
クラウスのクエストの傷も癒えたある日のこと、いつものようにノエルは庭での稽古を終えた。
パーン、と長槍の柄が地面を叩き、稽古の終了を告げた。
ベンチに座るフローラが汗を拭くノエルにパチパチと拍手を送った。
ノエルはタオルで汗を拭きながら、フローラの隣に座った。
「ねえ、ノエルさん」
「ん、なに?」
「兄とは、もうしたの?」
「えっ⁉」
突然の質問にノエルの顔は真っ赤になった。
「まだなんですか?」
「う、うん……」
ノエルは恥ずかしそうにモジモジとうなづいた。
「兄だって、とってもしたがってると思いますよ」
「そ、そ、そ、そ、そうかな」
「そりゃそうですよ。こんなに近くにいて、一緒に住み始めて一ヶ月ちょっと、まだしてないなんて……」
「だだだだだ、だけど、結婚だってまだしてないし……」
「結婚なんて関係ないです。したいときにすればいいじゃないですか!」
「えっ、えっ、えっ?」
「ノエルさんは、したくないんですか?」
「いや、そんなことはないというか、なんとかいうか、経験も無いし……」
目を白黒させてノエルは真っ赤になってうつむいた。
「お兄様がはっきり言わないからですよ」
フローラは背後を振り返って言うが、ノエルは耳まで真っ赤になり、顔を上げることもできない。
ノエルの背後からクラウスの声が聞こえた。
「ノエル、俺は、したい。お前はどうだ?」
「いや、そんな、いきなり聞かれても……」
「だめなのか?、俺は、もう我慢できない」
「い、いや、わ、わたしも、したい気持ちはあるのだが……」
「そうか!、では、今、ここで!」
「ここで――⁉」
「ぜひ、手合わせ願いたい」
「えっ?」
あれっ?と顔を上げたノエルは稽古着に着替えたクラウスを見た。
クラウスは剣を前に差し出した。
「稽古をつけてくれ」
「お、おう……」
会話の真意を理解したノエルはカーと赤くなった。
クラウスとノエルはそれぞれ、剣と槍を構えて対峙する。
そんな二人をベンチからフローラがニコニコと見ている。
カチッ、と剣と槍が軽くぶつけられ稽古が始まった。
カン、カン、と初めはゆっくりとしたペースでぶつかっていた剣と槍は徐々にスピードが上がっていく。
スピードが増すにつれ、それぞれの攻撃をかわす間合いが小さくなっていく。
顔を突く槍の穂先はギリギリでかわされ、大上段から勢いよく頭に振り下ろされる長剣を槍の柄がはじく。
二人の攻撃がどんどん速くなり、より強くなっていく。
最初はニコニコしていたフローラの表情から笑顔が消えていき、代わりに恐怖が浮かんでいく。
緊迫感に耐えきれず、ついに叫んだ。
「や、やめて――‼」
クラウスとノエルはピタリと動きを止めた。
「お兄様もノエルさんも、どうしちゃったの!、そんな、殺し合うみたいに……」
クラウスとノエルは顔を見合わせた。
「いや、ただの稽古だが」
「そうよ、フローラ、別に本気で戦ってるわけじゃないわよ」
「そうなの……?」
「ええ、お互い、殺気がないでしょ?」
フローラは首をかしげる。
「……わかんないです」
クラウスはもう一度、ノエルに向き合う。
「さあ、もう一回だ」
稽古は再開され、剣と槍が激しくぶつかり合う。
今度は余裕を持って見守るフローラは二人の表情が笑顔にすら感じられた。
「ほんとだ、二人とも楽しそう……」
長槍の柄が頭上からクラウスに打ちかかる。クラウスはそれを剣の腹で受けて、そのまま地面に押しつける。
「取った!」
そのまま前に進み、動きを押さえられた槍の柄に沿って剣を走らせる。最後の一戦であわや首をかききるところまでいった策の再現だった
ノエルは槍を地面に向けて押しつけ、柄を弓なりに反らせ、反動をつけて戻す。クラウスの剣が柄にはじかれて浮いた瞬間、自由になった柄で首元を狙い、首に当たる寸前でピタリと止めた。
クラウスは動作を止めてため息をついた。
「これが、以前言ってた対応策か。あいかわらず強いな」
稽古が終わり、ノエルは汗を拭きながら、笑顔でクラウスに話しかける。
「やはり一人で稽古するより、ずっと楽しい。またやろう」
「ああ、望むところだ。毎日でもいいぞ」
愉快そうに笑う二人をフローラもニコニコと眺めていた。
言葉通り、二人の稽古は雨の日も風の日も毎日欠かさず行われる日課となった。
ある日のこと、いつものように二人が稽古していると、にわか雨のような強い雨がザーと降り出した。
ベンチのフローラが二人に声を掛けた。
「お兄様、ノエルさん、雨ですよー」
しかし、二人は打ち合いに集中しており、フローラの声が届かないように打ち合いを続ける。
「カゼ引いても知りませんよ!、あたしは先に戻りますからね」
フローラは屋敷に戻っていくが、二人は延々と打ち合いを続けていく。
ガッ、と打ち込まれたクラウスの剣を顔の前でノエルは槍の柄で受け止めた。やっと二人の動きが止まり、クラウスが雨に気がつく。
「雨か」
「今日は、ここまでにしとこう」
二人は屋敷に駆け込んで行った。
「うわー、びしょ濡れだ」
ノエルは躊躇することなく、びしょびしょに濡れた稽古着を脱いだ。さらしのような布で巻いた胸、むき出しの肩が現れた。
濡れた身体をタオルで拭くノエルを顔を赤くしながらクラウスが見る。
「ノ、ノエル……」
「ん?、タオルか?」
ノエルは近付いて、にこやかにタオルでクラウスの顔を拭く。
「お前も、ビショビショだぞ」
「あ、ああ……」
クラウスは胸をドキドキさせながらも、拭かれるままになっている。
そんな二人の様子を部屋の入り口からこっそりと、フローラとアレットが見ていた。
「結婚まで、ずっとこんな感じなのかしら……」
「フローラ様には申し訳ない言い方ですが、男として、いかがなものでしょうか……」
「そうですよねえ……」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
天使の住まう都から
星ノ雫
ファンタジー
夜勤帰りの朝、いじめで川に落とされた女子中学生を助けるも代わりに命を落としてしまったおっさんが異世界で第二の人生を歩む物語です。高見沢 慶太は異世界へ転生させてもらえる代わりに、女神様から異世界でもとある少女を一人助けて欲しいと頼まれてしまいます。それを了承し転生した場所は、魔王侵攻を阻む天使が興した国の都でした。慶太はその都で冒険者として生きていく事になるのですが、果たして少女と出会う事ができるのでしょうか。初めての小説です。よろしければ読んでみてください。この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも掲載しています。
※第12回ネット小説大賞(ネトコン12)の一次選考を通過しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる