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piece4 裏切り
いまを頑張りきる
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ふいに、監督に言われた言葉が蘇る。
『お前には一度、少し離れた場所から、部員を見る機会を与えたかったんだ』
『多分、今までの場所からは見えなかったものが、見えるんじゃないか?』
監督の意図が、わかってきた。
――俺はまだ、仲間の力を、把握しきれていない。
どんなプレイが得意で、どんな状況が苦手なのか。
動きのクセ、伸ばしたいところ、直すべきところ。
もっと、仲間を見て、理解して。
もっともっと、仲間を信じ、一緒に戦っていかなくては――
剛士の胸が、熱く沸き立つ。
誠チームがゴールを決めたところで、剛士は笛を吹き、試合終了を告げた。
「はい、オッケーです」
「どうよ、剛士?」
豪快にダンクを決めた誠が、親指を立てて笑っている。
剛士も微笑み、誠チーム側の総評を述べる。
「ん、良かったよ。チームとしてもスムーズで、みんながお互いの位置を把握しながら動けてたな」
それから剛士は、相手チーム側にも目を向け、良かった点を褒めつつ改善点を指摘した。
「じゃあ、次のメンバー行きます」
剛士は、どんどんメンバーを決め、見てみたいシチュエーションを指定する。
どのゲームでも、新しい発見や、嬉しい驚きがあった。
仲間一人ひとりの特性や成長を、自分の目で感じることができた。
今後の課題や、練習に盛り込みたい内容が、次々に頭に思い浮かぶ。
剛士は、走り書きでノートにアイディアを書き留めていく。
今回、わざと上級生と下級生を混ぜてチームを組んだ。
それにも関わらず、どのチームも、コミュニケーションがよく取れていた。
仲間とタイミングを合わせて動こうと、皆が努力しているのが、伝わってきた。
上級生が後輩の動きを見て、フォローする意志も感じられた。
下級生には、必死に食らいつこうとする気概を感じた。
春休みが終われば、自分たちは3年生として、最後の戦いに身を投じていく。
4月中旬には、関東大会の予選。
そして6月からは、3年生にとって集大成ともいえる、インターハイの予選が行われるのだ。
勇誠学園にとって、十数年離れてしまっている、インターハイ出場。
簡単ではない。けれど何としても、掴み取りたい夢。
自分たちに残された時間は、残り僅かだ。
このチームで1日でも長く、バスケができるように。
そして、自分たちが引退した後も、バスケ部の後輩たちが、良い方向に進んでいけるように。
自分にできることは、何でもしたい。
いまを頑張りきらないと。
この仲間たちとの時間を、大切にしないと。
――俺は一生、後悔する。
心が震えるほどに、自分の使命を実感する。
その熱く強い思いを胸に、剛士は仲間を知るための時間に没入した。
***
剛士が、今日の練習を見ながら書いていたノート。
彼が、マネージャーチームと共に撤収作業をしている間に、監督はパラパラとページを捲る。
模擬試合や、3ON3を見て、書いたのだろう。
部員ひとりひとりのプレイに関する、良い点と改善点。
そして、チーム全体としての総評と課題。
今後の練習という項目には、箇条書きで、やるべきことが書かれていた。
今日、マネージャーチームと行動を共にしたことで、彼らの負担が大き過ぎる点が気になったらしい。
彼らの仕事のなかで、自分たちが担当するべき作業、手伝うべき作業として、何点かピックアップされていた。
たった1日で、これだけ分析したのかと、監督は内心で舌を巻く。
キャプテンであり、勇誠学園の中心プレイヤーである剛士。
彼に、春休み中の練習参加を禁じるのは、リスクの高いことだった。
しかし、無駄ではなかった。
彼は、制裁と課題に向き合い、自分のやるべきことに取り組んでいる。
剛士のバスケ部にかける真っ直ぐな熱意は、期待以上だった。
監督は思わず、頰をほころばせた。
撤収作業を終えた剛士が、戻ってきた。
監督の手に自分のノートが握られているのを見ると、ハッと頬を赤らめる。
しっかり纏められてはいるが、まだ走り書きのメモだ。
見られることを、想定してはいなかっただろう。
動揺の色を隠せない剛士に、監督は思わず笑ってしまう。
ポン、とノートで彼の頭を軽く叩き、返してやる。
ノートを受け取り、バツが悪そうに見つめてくる剛士に、監督は応えた。
「思う通りに進め、柴崎」
剛士の頬にも、明るい笑みが浮かんだ。
「……はい!ありがとうございます!」
「体育館の施錠と、鍵の返却は任せたぞ」
「はい!」
今日の公開練習と、午後の通常練習は、無事に終了だ。
監督は満足げに頷き、皆に言った。
「今日は終了。各自、明日の練習にしっかり備えるように」
「はい! お疲れさまでした!」
部員たちが大きな声で挨拶するのを確認し、監督は一足先に体育館を後にした。
『お前には一度、少し離れた場所から、部員を見る機会を与えたかったんだ』
『多分、今までの場所からは見えなかったものが、見えるんじゃないか?』
監督の意図が、わかってきた。
――俺はまだ、仲間の力を、把握しきれていない。
どんなプレイが得意で、どんな状況が苦手なのか。
動きのクセ、伸ばしたいところ、直すべきところ。
もっと、仲間を見て、理解して。
もっともっと、仲間を信じ、一緒に戦っていかなくては――
剛士の胸が、熱く沸き立つ。
誠チームがゴールを決めたところで、剛士は笛を吹き、試合終了を告げた。
「はい、オッケーです」
「どうよ、剛士?」
豪快にダンクを決めた誠が、親指を立てて笑っている。
剛士も微笑み、誠チーム側の総評を述べる。
「ん、良かったよ。チームとしてもスムーズで、みんながお互いの位置を把握しながら動けてたな」
それから剛士は、相手チーム側にも目を向け、良かった点を褒めつつ改善点を指摘した。
「じゃあ、次のメンバー行きます」
剛士は、どんどんメンバーを決め、見てみたいシチュエーションを指定する。
どのゲームでも、新しい発見や、嬉しい驚きがあった。
仲間一人ひとりの特性や成長を、自分の目で感じることができた。
今後の課題や、練習に盛り込みたい内容が、次々に頭に思い浮かぶ。
剛士は、走り書きでノートにアイディアを書き留めていく。
今回、わざと上級生と下級生を混ぜてチームを組んだ。
それにも関わらず、どのチームも、コミュニケーションがよく取れていた。
仲間とタイミングを合わせて動こうと、皆が努力しているのが、伝わってきた。
上級生が後輩の動きを見て、フォローする意志も感じられた。
下級生には、必死に食らいつこうとする気概を感じた。
春休みが終われば、自分たちは3年生として、最後の戦いに身を投じていく。
4月中旬には、関東大会の予選。
そして6月からは、3年生にとって集大成ともいえる、インターハイの予選が行われるのだ。
勇誠学園にとって、十数年離れてしまっている、インターハイ出場。
簡単ではない。けれど何としても、掴み取りたい夢。
自分たちに残された時間は、残り僅かだ。
このチームで1日でも長く、バスケができるように。
そして、自分たちが引退した後も、バスケ部の後輩たちが、良い方向に進んでいけるように。
自分にできることは、何でもしたい。
いまを頑張りきらないと。
この仲間たちとの時間を、大切にしないと。
――俺は一生、後悔する。
心が震えるほどに、自分の使命を実感する。
その熱く強い思いを胸に、剛士は仲間を知るための時間に没入した。
***
剛士が、今日の練習を見ながら書いていたノート。
彼が、マネージャーチームと共に撤収作業をしている間に、監督はパラパラとページを捲る。
模擬試合や、3ON3を見て、書いたのだろう。
部員ひとりひとりのプレイに関する、良い点と改善点。
そして、チーム全体としての総評と課題。
今後の練習という項目には、箇条書きで、やるべきことが書かれていた。
今日、マネージャーチームと行動を共にしたことで、彼らの負担が大き過ぎる点が気になったらしい。
彼らの仕事のなかで、自分たちが担当するべき作業、手伝うべき作業として、何点かピックアップされていた。
たった1日で、これだけ分析したのかと、監督は内心で舌を巻く。
キャプテンであり、勇誠学園の中心プレイヤーである剛士。
彼に、春休み中の練習参加を禁じるのは、リスクの高いことだった。
しかし、無駄ではなかった。
彼は、制裁と課題に向き合い、自分のやるべきことに取り組んでいる。
剛士のバスケ部にかける真っ直ぐな熱意は、期待以上だった。
監督は思わず、頰をほころばせた。
撤収作業を終えた剛士が、戻ってきた。
監督の手に自分のノートが握られているのを見ると、ハッと頬を赤らめる。
しっかり纏められてはいるが、まだ走り書きのメモだ。
見られることを、想定してはいなかっただろう。
動揺の色を隠せない剛士に、監督は思わず笑ってしまう。
ポン、とノートで彼の頭を軽く叩き、返してやる。
ノートを受け取り、バツが悪そうに見つめてくる剛士に、監督は応えた。
「思う通りに進め、柴崎」
剛士の頬にも、明るい笑みが浮かんだ。
「……はい!ありがとうございます!」
「体育館の施錠と、鍵の返却は任せたぞ」
「はい!」
今日の公開練習と、午後の通常練習は、無事に終了だ。
監督は満足げに頷き、皆に言った。
「今日は終了。各自、明日の練習にしっかり備えるように」
「はい! お疲れさまでした!」
部員たちが大きな声で挨拶するのを確認し、監督は一足先に体育館を後にした。
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