#秒恋8 隔てられる2人〜友情か、恋か。仲間か、恋か〜

ReN

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piece3 公開練習

どことなく、彼女に似ている

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***


模擬試合も後半戦に突入し、剛士はコートの脇で見守っていた――


不思議な感覚だった。

いつもレギュラーとして、コートに立つ剛士。
勇誠学園バスケ部の試合を、外から観る機会は、ほぼない。

試合に出られない悔しさは、勿論ある。
けれどそれ以上に、みずみずしい刺激が、剛士の心に降り注ぐ。
彼は、仲間たちのプレイを、真剣な眼差しで追いかけていた。


仲間ひとりひとりの、動きのクセ。
それぞれの持つ、強みと、弱み。
何より、部員みんなの、成長――

自分が一緒にプレイしているときには目が届かなかった、仲間たちの特性が、いまはよく見える。

試合に出ない、冷静な状態で観戦していると、幾つもの発見があった。
今後の練習で試してみたいこと、確認したいこと。
知りたいこと、挑戦してみたいことが、次から次へと頭に溢れ出してきた。

剛士はノートを取り出し、試合を見つめながらペンを走らせていく。
この貴重な時間から、ひとつでも多く、仲間のことを学びたかった。
もっと、チームのメンバーのことを、理解したかった。


自分がプレイしているときの興奮とは、また違う。
新しい気持ちの昂りが、剛士を心地よく支配していた。


***


模擬試合も大盛況のうちに幕を閉じ、公開練習の全プログラムが終了した。
時刻は、正午を回ったところだった。

勇誠の部員たちは各自で昼食を摂り、午後からは通常の練習に入る。
剛士は、公開練習の見学に訪れた団体の中で、学食の利用を希望する人々を誘導していた。
こうして来校者に学食の紹介をするのも、学園のプロモーション活動の一環である。


学食への案内を終え、剛士は足早に体育館に戻る。
昼食の後、皆がすぐに練習できるように、今のうちに準備をしておこうと思ったのだ。

来校者も部員たちも、既に移動しており、体育館の周辺には誰もいない。
剛士は辺りを見回し、小さく吐息をつく。


――悠人はもう、帰ったよな……

朝、受付の前で、話したときのことを思い返す。
剛士が監督に呼び戻される直前、悠人は何か、話したそうにしていた。

公開練習中に、少しでも話すチャンスがあればと思った。
しかし今日は参加校も人数も多く、剛士は各ブースのヘルプや教師の対応に駆けずり回るしかなかった。


――ごめんな、悠人……

剛士がもう一度、今度は長い溜め息を吐いたときだった。


「……柴崎さん!」
抑えた声で、しかし懸命に、剛士を呼ぶ声がした。

体育館の壁際に隠れるように。
たったいま、剛士が思いを馳せていた彼の姿があった。

「悠人!」
剛士は、急いで彼の元に駆け寄る。
「待っててくれたのか?」
「はい! すいません、忙しいのに」
「大丈夫だよ。ありがとな」
その言葉を聞いた悠人は、剛士に向かって柔らかく微笑んだ。


笑い方も、どことなく彼女に似ている気がした。
剛士は、胸の痛みを感じながらも、優しく微笑み返す。

「柴崎さん、」
悠人は剛士を見つめながら、遠慮がちな小さな声で、切り出した。
「これ……姉から預かって来ました」
そう言って彼は、ブラウンの上品な紙袋を、そっと剛士に差し出した。

「悠里、から……」
驚きと痛みを堪え、剛士はそれを受け取る。
中に入っていたのは、予想通り、自分のジャケットだ。

これが返ってきたということは、いま現在、彼女と自分を繋ぐものは、何もない。
そのことに思い当たり、剛士は苦しくなる。


悠人の済まなそうな声が、耳を打った。
「すいません。実は姉ちゃん、熱出しちゃって」

ハッと、剛士は顔を上げる。
まさか、彼女が体調を崩していたなんて。
心配に胸が冷たくなりながら、剛士は問いかける。
「大丈夫か、悠里は」
すると悠人は、にこりと微笑んだ。

「だいじょぶです! もう熱も下がったし、昨日、彩奈さんが家に遊びに来てくれたら、すごい元気になってたんで!」
「彩奈が……そっか」

あの公園で、彼女と話したのは2日前。
彩奈は、早速次の日に、悠里の傍に行ってくれたのか。


――よかった。

やっぱり、彩奈の存在は大きい。
彼女がいてくれて、本当によかった。

彩奈への感謝の気持ちを胸に抱きながら、剛士も小さく微笑んだ。


「ホントは、姉から返したかったと思うんですけど。やっぱ制服だから、なるべく早く返したいってことだったんで、オレが預かってきました」
「そっか」

「大丈夫でした? 制服なくて、困ってませんでしたか?」
「春休みだし、大丈夫だよ。俺、兄貴も勇誠だったから、そいつの制服もあるし」
「えっ?」

途端に、悠人の目が輝いた。
「柴崎さん、お兄さんいるんですか? お兄さんもバスケ部だったとか?」
期待に満ちた顔に、剛士は思わず笑ってしまう。

「いや、アイツは帰宅部」
「そうなんですか。やっぱ、柴崎さんと似てるんですか?」
「はは、さぁな。俺は、似てないって信じてるけど」
「あはは」

「お前と悠里は、似てるよな」
「え、マジですか。それ、喜んでいいんですかね?」
悠人は、大きな目を丸くして、首を傾げる。


そんな仕草も、似ていると思う。
会話しているときの、細かなリアクションも。
何より、相手を気遣いながら話す、その優しさも。

「はは、いいと思うぞ?」
目を細め、剛士は優しく微笑んだ。


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