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piece3 公開練習
嫌味ったらしい女教師
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悠人は、部の仲間たちと共に各ブースを回る。
シュートやドリブルの練習ブースもあれば、3ON3などのミニゲームを体験できるコーナーもある。
どのブースも、勇誠学園の部員と交流しながら練習できるようになっており、非常に楽しく、勉強になるものだった。
しかし、悠人の目はどうしても、剛士の姿を追わずにはいられない。
彼は、あちらこちらのブースを見回っては、受付や説明、列の整理などを行なっている。
忙しそうに動いてはいるが、やはり練習自体に参加する気配はない。
公開練習開始の際も、副キャプテンが挨拶していたところを見ると、剛士は本当に、キャプテンの任務から離れているらしい。
とはいえ、『勇誠学園バスケ部、副キャプテンの山口です』と名乗っていたから、キャプテン解任は一時的なものだと思うが――
剛士と再び話す機会はなく、公開練習最後のプログラム、模擬試合の時間になった。
勇誠学園メンバーの模擬試合を見学するのだ。
部活仲間と共に、悠人は指定された2階席に移動する。
間もなく、試合が始まった。
戦力が拮抗するように、レギュラーメンバーは半々に分かれている。
また、ポジションや学年なども考慮され、バランスよくチーム編成が組まれているようだった。
白熱した試合展開に、体育館内から、たびたび大歓声が巻き起こった。
しかし悠人の目は、試合の行方ではなく、すぐ近くの席に向いていた。
すぐそこに、剛士がいる。
しかし、声は掛けられない。
彼は、公開練習に引率してきた教師数人が座る席の近くに立っているからだ。
練習試合に参加しない剛士は、この時間帯、教師からの質問を受ける役割のようだ。
日頃の練習や、いま目の前で繰り広げられている模擬試合について、質問をする教師たち。
そのなかでひとり、いつまでもしつこく、剛士に話しかけている女教師がいる。
あれは、公開練習のときに、何度か見たことのある顔だ。
近くの中学校バスケ部の、副顧問。
悠人の学校とも近いので、何度か練習試合をしたこともある中学校の先生だった。
もっとも、やる気が無さそうに、体育館の端に座っている姿しか見たことはないが……
悠人は、じろりと、その女性教師を見据える。
悠人の目には30代半ばに映るその女性教師は、剛士のことをいたくお気に入りのようだ。
悠人は、以前の勇誠学園の公開練習で見た光景を思い返す――
都合がつかなかった顧問の代わりに引率したらしい彼女は、生徒たちが可哀想になるほど不機嫌だった。
大きな溜め息をつき、『めんどくさ』と呟いていたのを、悠人も目撃している。
そんな彼女の表情を180度変えさせたのは、キャプテンとして参加校に挨拶回りをしていた剛士だった。
『本日はありがとうございます。勇誠学園バスケ部の柴崎剛士です』
剛士の、はきはきとした爽やかな声と笑顔は、真っ直ぐに女教師の胸を貫いたようだった。
その日の剛士は、公開練習の合間に、何度かその中学校の傍に行っていた。
浮かない顔をしていた部員たちを、気にかけてのことだろう。
その様子からは、『彼らに楽しんで貰いたい』という、剛士の優しさが伝わってきた。
彼の優しさは、そこの部員たちを救った。
けれど同時に、この気色悪いモンスター教師に、ロックオンされることにもなってしまった。
以来、この女教師は、勇誠の公開練習があるたびに引率するようになった。
彼女は練習中、たびたび剛士に話しかけに行く。
キャピキャピと、甲高い声で五月蝿いので、嫌でも目についてしまうのだ。
中学生の悠人から見ても、年甲斐もなく何やってんだ、としか思えない光景だ。
剛士は毎度、爽やかな笑顔のままで女教師の猛攻を躱していた。
そうやって、いつもスムーズに練習を進行していく剛士に、悠人は感心していたものだ。
――今日も、うまくあしらってくれたら良かったのに……
悠人は膝の上で、ぎゅっと両手を握り締める。
席が近すぎたせいで、全部聞こえてしまう。
剛士を責め続ける、嫌味ったらしい女の言葉が――
「本当、今日はガッカリだわ。柴崎くん、もっとしっかりしてくれなきゃ」
「はい。本当にすみません」
神妙に謝る剛士の声が、聞こえる。
「なぁに? 部員とケンカして、キャプテン外されるって。自覚が足りないんじゃないの? ジ、カ、ク」
女教師は足を組んで剛士を見上げ、指先を突きつけている。
ズキン、と悠人の胸が悲鳴を上げた。
――部員とケンカして、外された?
嘘だ、なんで?
バスケ部を、バスケ部員を大切にしてる柴崎さんが。
何の理由もなく、そんなことになる筈がない。
一体、どうして?
悠人は身体を固くして、耳をそばだてる。
「勇誠のキャプテンやるってことはさ。周辺中高バスケ部のために働くってことだからさぁ。その辺の責任は、しっかり持って貰わないとね」
「そうですね。僕の自覚と責任が、足りなかったと思います。反省します」
「そうよ。しっかり、ご奉仕してくれないと!」
「はは……」
女教師に指を突きつけられ、剛士は困ったような微笑を浮かべた。
悠人は、部の仲間たちと共に各ブースを回る。
シュートやドリブルの練習ブースもあれば、3ON3などのミニゲームを体験できるコーナーもある。
どのブースも、勇誠学園の部員と交流しながら練習できるようになっており、非常に楽しく、勉強になるものだった。
しかし、悠人の目はどうしても、剛士の姿を追わずにはいられない。
彼は、あちらこちらのブースを見回っては、受付や説明、列の整理などを行なっている。
忙しそうに動いてはいるが、やはり練習自体に参加する気配はない。
公開練習開始の際も、副キャプテンが挨拶していたところを見ると、剛士は本当に、キャプテンの任務から離れているらしい。
とはいえ、『勇誠学園バスケ部、副キャプテンの山口です』と名乗っていたから、キャプテン解任は一時的なものだと思うが――
剛士と再び話す機会はなく、公開練習最後のプログラム、模擬試合の時間になった。
勇誠学園メンバーの模擬試合を見学するのだ。
部活仲間と共に、悠人は指定された2階席に移動する。
間もなく、試合が始まった。
戦力が拮抗するように、レギュラーメンバーは半々に分かれている。
また、ポジションや学年なども考慮され、バランスよくチーム編成が組まれているようだった。
白熱した試合展開に、体育館内から、たびたび大歓声が巻き起こった。
しかし悠人の目は、試合の行方ではなく、すぐ近くの席に向いていた。
すぐそこに、剛士がいる。
しかし、声は掛けられない。
彼は、公開練習に引率してきた教師数人が座る席の近くに立っているからだ。
練習試合に参加しない剛士は、この時間帯、教師からの質問を受ける役割のようだ。
日頃の練習や、いま目の前で繰り広げられている模擬試合について、質問をする教師たち。
そのなかでひとり、いつまでもしつこく、剛士に話しかけている女教師がいる。
あれは、公開練習のときに、何度か見たことのある顔だ。
近くの中学校バスケ部の、副顧問。
悠人の学校とも近いので、何度か練習試合をしたこともある中学校の先生だった。
もっとも、やる気が無さそうに、体育館の端に座っている姿しか見たことはないが……
悠人は、じろりと、その女性教師を見据える。
悠人の目には30代半ばに映るその女性教師は、剛士のことをいたくお気に入りのようだ。
悠人は、以前の勇誠学園の公開練習で見た光景を思い返す――
都合がつかなかった顧問の代わりに引率したらしい彼女は、生徒たちが可哀想になるほど不機嫌だった。
大きな溜め息をつき、『めんどくさ』と呟いていたのを、悠人も目撃している。
そんな彼女の表情を180度変えさせたのは、キャプテンとして参加校に挨拶回りをしていた剛士だった。
『本日はありがとうございます。勇誠学園バスケ部の柴崎剛士です』
剛士の、はきはきとした爽やかな声と笑顔は、真っ直ぐに女教師の胸を貫いたようだった。
その日の剛士は、公開練習の合間に、何度かその中学校の傍に行っていた。
浮かない顔をしていた部員たちを、気にかけてのことだろう。
その様子からは、『彼らに楽しんで貰いたい』という、剛士の優しさが伝わってきた。
彼の優しさは、そこの部員たちを救った。
けれど同時に、この気色悪いモンスター教師に、ロックオンされることにもなってしまった。
以来、この女教師は、勇誠の公開練習があるたびに引率するようになった。
彼女は練習中、たびたび剛士に話しかけに行く。
キャピキャピと、甲高い声で五月蝿いので、嫌でも目についてしまうのだ。
中学生の悠人から見ても、年甲斐もなく何やってんだ、としか思えない光景だ。
剛士は毎度、爽やかな笑顔のままで女教師の猛攻を躱していた。
そうやって、いつもスムーズに練習を進行していく剛士に、悠人は感心していたものだ。
――今日も、うまくあしらってくれたら良かったのに……
悠人は膝の上で、ぎゅっと両手を握り締める。
席が近すぎたせいで、全部聞こえてしまう。
剛士を責め続ける、嫌味ったらしい女の言葉が――
「本当、今日はガッカリだわ。柴崎くん、もっとしっかりしてくれなきゃ」
「はい。本当にすみません」
神妙に謝る剛士の声が、聞こえる。
「なぁに? 部員とケンカして、キャプテン外されるって。自覚が足りないんじゃないの? ジ、カ、ク」
女教師は足を組んで剛士を見上げ、指先を突きつけている。
ズキン、と悠人の胸が悲鳴を上げた。
――部員とケンカして、外された?
嘘だ、なんで?
バスケ部を、バスケ部員を大切にしてる柴崎さんが。
何の理由もなく、そんなことになる筈がない。
一体、どうして?
悠人は身体を固くして、耳をそばだてる。
「勇誠のキャプテンやるってことはさ。周辺中高バスケ部のために働くってことだからさぁ。その辺の責任は、しっかり持って貰わないとね」
「そうですね。僕の自覚と責任が、足りなかったと思います。反省します」
「そうよ。しっかり、ご奉仕してくれないと!」
「はは……」
女教師に指を突きつけられ、剛士は困ったような微笑を浮かべた。
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