#秒恋8 隔てられる2人〜友情か、恋か。仲間か、恋か〜

ReN

文字の大きさ
上 下
10 / 34
piece2 鮮やかな記憶

悪夢――あの部屋の扉

しおりを挟む
***


涙が、止まらなかった。
悠里はタオルに顔をうずめ、必死に声を押し殺す。
冬もののパジャマを纏い、布団を頭から被っていても、身体が震える。

独りの夜は、あの日の記憶を鮮明に浮かび上がらせる。

固く閉じた悠里の目の前で、あの日の、あの部屋の扉が開いた――


『待ってたよ。悠里ちゃん』


涼やかな瞳、冷たい笑み、嘲けるようなカンナの声が。
あの日と同じだけの恐怖を持ち、悠里の心を射竦める。


それでも勇気を振り絞って、あの日の悠里は答えた。

『私はただ、ゴウさんが好きなんです』

『2人で一緒に進もうって、約束したんです』


しかし彼女は、悠里を憎しみに満ちた目で睨みつけ、怒りの咆哮を上げた。


『黙れ!』

『黙れ、黙れ!!』

悠里の襟ぐりを掴み、怒鳴り散らしながら頬を殴りつけてきた。
『ふざけやがって! このクソビッチが!!』

衝撃でよろめく悠里の身体を、力づくで自分に引き寄せ、何度も何度も。
彼女は執拗に、悠里に向かって腕を振り上げた。


経験したことのない激しい暴力に、心と身体は竦み、ただ涙が溢れた。

必死にドアを叩き、助けを求める悠里の髪を、彼女の乱暴な手が鷲掴みした。
痛みと恐怖に我を忘れ、悠里は悲鳴を上げる。

引き摺られていく。
勇誠学園バスケ部――彼の仲間であるはずの、男子3人がいるところまで。


その1人は、彼と同じ学年だった。

『岸部ユタカって言いまーす!』
男は、キツネのような目に冷たい笑いを滲ませ、悠里を見下ろした。


『どうして……』

悠里は必死に勇気を振り絞り、この理不尽を問うた。
しかしカンナは、悠里に身勝手な怒りと恨みをぶつけ、蹂躙した。


『アンタなんかよりも、ずっとずっと。私は剛士くんのこと、知ってる』

『どうして、アンタなのよ。どうしてバスケ部でもないアンタが、剛士くんに選ばれんのよ!!』


カシャンッ!と激しい音を立てて、カンナは悠里のスマートフォンを床に叩きつけた。
そうして、反射的に拾おうと四つん這いになった悠里のみぞおちを、蹴り上げた。

息が詰まり、くぐもった悲鳴が悠里の唇から零れ落ちた。
重く、深く、熱く激しい、痛み。
悠里は床に這いつくばり、全身を強張らせる。


『だーいじょうぶー? 悠里ちゃん?』
悠里の背と髪に触れる、無遠慮な手。

悠里は無理やりに、ユタカの腕の中に閉じ込められる。
悠里の髪に指を盛んに絡ませ、好きなように弄びながら、彼は笑った。


『……男って、チカラ、強いでしょ?』
彼は悠里の左手を取り、ギリギリと力を込めてみせた。
『これでも、半分もチカラ入れてないよ? どう、悠里ちゃん?……怖い?』


心が握り潰されていくような、恐怖だった。

『ゴウさん……助けて……』

泣きながら呟いた悠里を見て、彼は笑った。


『……悠里ちゃんを、オレ色に染め上げてやったら。剛士は、どんな顔するだろう?』

『ねえ、悠里ちゃん。今から、既成事実、作っちゃおうか?』


死の宣告を受けたかのように、すぅっと背筋が冷たくなった。

『やだ……嫌、助けて……』

『ゴウさん……ゴウさん……』


ユタカは悠里の顔を覗き込み、残忍な笑みを浮かべた。

『脱げよ……悠里?』


必死に後退る悠里を見て、皆が甲高い声で笑い始めた。

泣きじゃくる悠里を見下ろし、カンナは舌打ちする。
『ユタカが、脱げっつってんのよ。さっさとしろよ』

苛立つ彼女の手により、悠里は無理やりジャケットを剥ぎ取られた。

『脱げよ!』
『いやぁっ!』

悲鳴を上げ抵抗すると、思い切り頬を殴られた。
恐怖に縮こまる悠里の腕を掴み、カンナは力任せに悠里のブラウスを引っ張る。
ブチブチッと嫌な音がして、ボタンが弾け飛んだ。


男子3人の囃し立てる声が、折り重なって聞こえる。

『おっ? 悠里、美乳じゃん! でっかくはないけど、肌白いし、形キレイ! ははっ、揉みてぇ~』

『ブラは、白? ん? 薄いピンク?』

『イイ! 悠里ちゃんセクシー!』


大きな笑い声と、下卑た言葉を投げつけられるたびに、自分の心と身体が、グチャグチャに汚されていく。

頭が、痛い。
息が、苦しい。
身体が、動かない。


『ほらクソビッチ! コイツらにもっと、見せてあげなよ!』

裂けたブラウスの中に、カンナの手が入り込んできた。
その手は悠里の下着のストラップを掴むと、勢いよく捩じ切る。

肌とストラップが擦れる痛みと、ビリビリッ! という下着が破ける、鋭い音。

恐怖に突き動かされ、悠里は大きな悲鳴を上げた。

『いやああっ!!』


あまりにも生々しく蘇る絶望に、悠里は呻いた。

ここで、終わるはずだった。しかし悪夢はまだ、終わらなかった――


『エッチしよ。悠里?』
笑いながら、ユタカが近づいてくる。
恐怖が、迫ってくる。


――なんで?

悠里は息を飲み、四つん這いの姿勢で逃げようとする。
必死に部屋の扉に向かい、開けようとする。
しかし扉はビクともせず、悠里はカンナとユタカたち男子3人に、取り囲まれてしまった。


――どうして、どうして?

夢が、醒めない。


悠里は両手で、ドンドン!と力いっぱいにドアを叩く。

カンナの冷たい瞳が悠里を見下ろし、ニィッと愉悦を滲ませた。

『惨めだねえ、悠里ちゃん?』

急激に身体が重くなり、指先ひとつ動かせなくなる。
カンナが笑いながら悠里の両腕を捕らえ、床に引き倒す。

男子2人が、悠里の脚を床に押さえつける。
身体が、ぴくりとも動かない。

ユタカが笑いながら、悠里にのし掛かってきた。

『悠里の可愛いおっぱいは、好きにさせてもらうし。下も、メチャクチャに弄ってあげるからねー』

『悠里のエッチな姿、剛士に見せてやろうねぇ?』


喉が引き攣れたように、声が出ない。
悠里はただ、恐怖に満ちた衝撃の中、カンナとユタカの残忍な微笑を見上げた。


――嘘だ。嘘だ。
こんなの、本当じゃない。


『悠里ー』

『悠里ちゃん』

ユタカが、カンナが、顔を覗き込んでくる。


悠里は必死に、身体を捩って逃げようとする。
しかしユタカに跨られ、カンナたちに手も脚もガッチリと掴まれている悠里は、全く身動きができない。


ユタカが笑いながら、悠里の身体に手を伸ばしてきた。
『……さ。エッチしよ? ゆ、う、り?』


――嫌、嫌!
助けて。誰か、助けて!!


カンナが笑いながら、悠里に顔を近づけ、耳打ちした。

『悠里ちゃんはもう、汚れちゃったんだからね? 剛士くんに、相応しくないんだからね?』


頭の中に、彼女らの笑い声が響き渡る。
身体にのし掛かる重みが、増していく。
悠里の全てが、絶望に沈んでいく。


悠里は喉を開き、力の限り叫んだ。

『いやあああ――っ!!』


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...