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piece2 鮮やかな記憶
悪夢――あの部屋の扉
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***
涙が、止まらなかった。
悠里はタオルに顔をうずめ、必死に声を押し殺す。
冬もののパジャマを纏い、布団を頭から被っていても、身体が震える。
独りの夜は、あの日の記憶を鮮明に浮かび上がらせる。
固く閉じた悠里の目の前で、あの日の、あの部屋の扉が開いた――
『待ってたよ。悠里ちゃん』
涼やかな瞳、冷たい笑み、嘲けるようなカンナの声が。
あの日と同じだけの恐怖を持ち、悠里の心を射竦める。
それでも勇気を振り絞って、あの日の悠里は答えた。
『私はただ、ゴウさんが好きなんです』
『2人で一緒に進もうって、約束したんです』
しかし彼女は、悠里を憎しみに満ちた目で睨みつけ、怒りの咆哮を上げた。
『黙れ!』
『黙れ、黙れ!!』
悠里の襟ぐりを掴み、怒鳴り散らしながら頬を殴りつけてきた。
『ふざけやがって! このクソビッチが!!』
衝撃でよろめく悠里の身体を、力づくで自分に引き寄せ、何度も何度も。
彼女は執拗に、悠里に向かって腕を振り上げた。
経験したことのない激しい暴力に、心と身体は竦み、ただ涙が溢れた。
必死にドアを叩き、助けを求める悠里の髪を、彼女の乱暴な手が鷲掴みした。
痛みと恐怖に我を忘れ、悠里は悲鳴を上げる。
引き摺られていく。
勇誠学園バスケ部――彼の仲間であるはずの、男子3人がいるところまで。
その1人は、彼と同じ学年だった。
『岸部ユタカって言いまーす!』
男は、キツネのような目に冷たい笑いを滲ませ、悠里を見下ろした。
『どうして……』
悠里は必死に勇気を振り絞り、この理不尽を問うた。
しかしカンナは、悠里に身勝手な怒りと恨みをぶつけ、蹂躙した。
『アンタなんかよりも、ずっとずっと。私は剛士くんのこと、知ってる』
『どうして、アンタなのよ。どうしてバスケ部でもないアンタが、剛士くんに選ばれんのよ!!』
カシャンッ!と激しい音を立てて、カンナは悠里のスマートフォンを床に叩きつけた。
そうして、反射的に拾おうと四つん這いになった悠里のみぞおちを、蹴り上げた。
息が詰まり、くぐもった悲鳴が悠里の唇から零れ落ちた。
重く、深く、熱く激しい、痛み。
悠里は床に這いつくばり、全身を強張らせる。
『だーいじょうぶー? 悠里ちゃん?』
悠里の背と髪に触れる、無遠慮な手。
悠里は無理やりに、ユタカの腕の中に閉じ込められる。
悠里の髪に指を盛んに絡ませ、好きなように弄びながら、彼は笑った。
『……男って、チカラ、強いでしょ?』
彼は悠里の左手を取り、ギリギリと力を込めてみせた。
『これでも、半分もチカラ入れてないよ? どう、悠里ちゃん?……怖い?』
心が握り潰されていくような、恐怖だった。
『ゴウさん……助けて……』
泣きながら呟いた悠里を見て、彼は笑った。
『……悠里ちゃんを、オレ色に染め上げてやったら。剛士は、どんな顔するだろう?』
『ねえ、悠里ちゃん。今から、既成事実、作っちゃおうか?』
死の宣告を受けたかのように、すぅっと背筋が冷たくなった。
『やだ……嫌、助けて……』
『ゴウさん……ゴウさん……』
ユタカは悠里の顔を覗き込み、残忍な笑みを浮かべた。
『脱げよ……悠里?』
必死に後退る悠里を見て、皆が甲高い声で笑い始めた。
泣きじゃくる悠里を見下ろし、カンナは舌打ちする。
『ユタカが、脱げっつってんのよ。さっさとしろよ』
苛立つ彼女の手により、悠里は無理やりジャケットを剥ぎ取られた。
『脱げよ!』
『いやぁっ!』
悲鳴を上げ抵抗すると、思い切り頬を殴られた。
恐怖に縮こまる悠里の腕を掴み、カンナは力任せに悠里のブラウスを引っ張る。
ブチブチッと嫌な音がして、ボタンが弾け飛んだ。
男子3人の囃し立てる声が、折り重なって聞こえる。
『おっ? 悠里、美乳じゃん! でっかくはないけど、肌白いし、形キレイ! ははっ、揉みてぇ~』
『ブラは、白? ん? 薄いピンク?』
『イイ! 悠里ちゃんセクシー!』
大きな笑い声と、下卑た言葉を投げつけられるたびに、自分の心と身体が、グチャグチャに汚されていく。
頭が、痛い。
息が、苦しい。
身体が、動かない。
『ほらクソビッチ! コイツらにもっと、見せてあげなよ!』
裂けたブラウスの中に、カンナの手が入り込んできた。
その手は悠里の下着のストラップを掴むと、勢いよく捩じ切る。
肌とストラップが擦れる痛みと、ビリビリッ! という下着が破ける、鋭い音。
恐怖に突き動かされ、悠里は大きな悲鳴を上げた。
『いやああっ!!』
あまりにも生々しく蘇る絶望に、悠里は呻いた。
ここで、終わるはずだった。しかし悪夢はまだ、終わらなかった――
『エッチしよ。悠里?』
笑いながら、ユタカが近づいてくる。
恐怖が、迫ってくる。
――なんで?
悠里は息を飲み、四つん這いの姿勢で逃げようとする。
必死に部屋の扉に向かい、開けようとする。
しかし扉はビクともせず、悠里はカンナとユタカたち男子3人に、取り囲まれてしまった。
――どうして、どうして?
夢が、醒めない。
悠里は両手で、ドンドン!と力いっぱいにドアを叩く。
カンナの冷たい瞳が悠里を見下ろし、ニィッと愉悦を滲ませた。
『惨めだねえ、悠里ちゃん?』
急激に身体が重くなり、指先ひとつ動かせなくなる。
カンナが笑いながら悠里の両腕を捕らえ、床に引き倒す。
男子2人が、悠里の脚を床に押さえつける。
身体が、ぴくりとも動かない。
ユタカが笑いながら、悠里にのし掛かってきた。
『悠里の可愛いおっぱいは、好きにさせてもらうし。下も、メチャクチャに弄ってあげるからねー』
『悠里のエッチな姿、剛士に見せてやろうねぇ?』
喉が引き攣れたように、声が出ない。
悠里はただ、恐怖に満ちた衝撃の中、カンナとユタカの残忍な微笑を見上げた。
――嘘だ。嘘だ。
こんなの、本当じゃない。
『悠里ー』
『悠里ちゃん』
ユタカが、カンナが、顔を覗き込んでくる。
悠里は必死に、身体を捩って逃げようとする。
しかしユタカに跨られ、カンナたちに手も脚もガッチリと掴まれている悠里は、全く身動きができない。
ユタカが笑いながら、悠里の身体に手を伸ばしてきた。
『……さ。エッチしよ? ゆ、う、り?』
――嫌、嫌!
助けて。誰か、助けて!!
カンナが笑いながら、悠里に顔を近づけ、耳打ちした。
『悠里ちゃんはもう、汚れちゃったんだからね? 剛士くんに、相応しくないんだからね?』
頭の中に、彼女らの笑い声が響き渡る。
身体にのし掛かる重みが、増していく。
悠里の全てが、絶望に沈んでいく。
悠里は喉を開き、力の限り叫んだ。
『いやあああ――っ!!』
涙が、止まらなかった。
悠里はタオルに顔をうずめ、必死に声を押し殺す。
冬もののパジャマを纏い、布団を頭から被っていても、身体が震える。
独りの夜は、あの日の記憶を鮮明に浮かび上がらせる。
固く閉じた悠里の目の前で、あの日の、あの部屋の扉が開いた――
『待ってたよ。悠里ちゃん』
涼やかな瞳、冷たい笑み、嘲けるようなカンナの声が。
あの日と同じだけの恐怖を持ち、悠里の心を射竦める。
それでも勇気を振り絞って、あの日の悠里は答えた。
『私はただ、ゴウさんが好きなんです』
『2人で一緒に進もうって、約束したんです』
しかし彼女は、悠里を憎しみに満ちた目で睨みつけ、怒りの咆哮を上げた。
『黙れ!』
『黙れ、黙れ!!』
悠里の襟ぐりを掴み、怒鳴り散らしながら頬を殴りつけてきた。
『ふざけやがって! このクソビッチが!!』
衝撃でよろめく悠里の身体を、力づくで自分に引き寄せ、何度も何度も。
彼女は執拗に、悠里に向かって腕を振り上げた。
経験したことのない激しい暴力に、心と身体は竦み、ただ涙が溢れた。
必死にドアを叩き、助けを求める悠里の髪を、彼女の乱暴な手が鷲掴みした。
痛みと恐怖に我を忘れ、悠里は悲鳴を上げる。
引き摺られていく。
勇誠学園バスケ部――彼の仲間であるはずの、男子3人がいるところまで。
その1人は、彼と同じ学年だった。
『岸部ユタカって言いまーす!』
男は、キツネのような目に冷たい笑いを滲ませ、悠里を見下ろした。
『どうして……』
悠里は必死に勇気を振り絞り、この理不尽を問うた。
しかしカンナは、悠里に身勝手な怒りと恨みをぶつけ、蹂躙した。
『アンタなんかよりも、ずっとずっと。私は剛士くんのこと、知ってる』
『どうして、アンタなのよ。どうしてバスケ部でもないアンタが、剛士くんに選ばれんのよ!!』
カシャンッ!と激しい音を立てて、カンナは悠里のスマートフォンを床に叩きつけた。
そうして、反射的に拾おうと四つん這いになった悠里のみぞおちを、蹴り上げた。
息が詰まり、くぐもった悲鳴が悠里の唇から零れ落ちた。
重く、深く、熱く激しい、痛み。
悠里は床に這いつくばり、全身を強張らせる。
『だーいじょうぶー? 悠里ちゃん?』
悠里の背と髪に触れる、無遠慮な手。
悠里は無理やりに、ユタカの腕の中に閉じ込められる。
悠里の髪に指を盛んに絡ませ、好きなように弄びながら、彼は笑った。
『……男って、チカラ、強いでしょ?』
彼は悠里の左手を取り、ギリギリと力を込めてみせた。
『これでも、半分もチカラ入れてないよ? どう、悠里ちゃん?……怖い?』
心が握り潰されていくような、恐怖だった。
『ゴウさん……助けて……』
泣きながら呟いた悠里を見て、彼は笑った。
『……悠里ちゃんを、オレ色に染め上げてやったら。剛士は、どんな顔するだろう?』
『ねえ、悠里ちゃん。今から、既成事実、作っちゃおうか?』
死の宣告を受けたかのように、すぅっと背筋が冷たくなった。
『やだ……嫌、助けて……』
『ゴウさん……ゴウさん……』
ユタカは悠里の顔を覗き込み、残忍な笑みを浮かべた。
『脱げよ……悠里?』
必死に後退る悠里を見て、皆が甲高い声で笑い始めた。
泣きじゃくる悠里を見下ろし、カンナは舌打ちする。
『ユタカが、脱げっつってんのよ。さっさとしろよ』
苛立つ彼女の手により、悠里は無理やりジャケットを剥ぎ取られた。
『脱げよ!』
『いやぁっ!』
悲鳴を上げ抵抗すると、思い切り頬を殴られた。
恐怖に縮こまる悠里の腕を掴み、カンナは力任せに悠里のブラウスを引っ張る。
ブチブチッと嫌な音がして、ボタンが弾け飛んだ。
男子3人の囃し立てる声が、折り重なって聞こえる。
『おっ? 悠里、美乳じゃん! でっかくはないけど、肌白いし、形キレイ! ははっ、揉みてぇ~』
『ブラは、白? ん? 薄いピンク?』
『イイ! 悠里ちゃんセクシー!』
大きな笑い声と、下卑た言葉を投げつけられるたびに、自分の心と身体が、グチャグチャに汚されていく。
頭が、痛い。
息が、苦しい。
身体が、動かない。
『ほらクソビッチ! コイツらにもっと、見せてあげなよ!』
裂けたブラウスの中に、カンナの手が入り込んできた。
その手は悠里の下着のストラップを掴むと、勢いよく捩じ切る。
肌とストラップが擦れる痛みと、ビリビリッ! という下着が破ける、鋭い音。
恐怖に突き動かされ、悠里は大きな悲鳴を上げた。
『いやああっ!!』
あまりにも生々しく蘇る絶望に、悠里は呻いた。
ここで、終わるはずだった。しかし悪夢はまだ、終わらなかった――
『エッチしよ。悠里?』
笑いながら、ユタカが近づいてくる。
恐怖が、迫ってくる。
――なんで?
悠里は息を飲み、四つん這いの姿勢で逃げようとする。
必死に部屋の扉に向かい、開けようとする。
しかし扉はビクともせず、悠里はカンナとユタカたち男子3人に、取り囲まれてしまった。
――どうして、どうして?
夢が、醒めない。
悠里は両手で、ドンドン!と力いっぱいにドアを叩く。
カンナの冷たい瞳が悠里を見下ろし、ニィッと愉悦を滲ませた。
『惨めだねえ、悠里ちゃん?』
急激に身体が重くなり、指先ひとつ動かせなくなる。
カンナが笑いながら悠里の両腕を捕らえ、床に引き倒す。
男子2人が、悠里の脚を床に押さえつける。
身体が、ぴくりとも動かない。
ユタカが笑いながら、悠里にのし掛かってきた。
『悠里の可愛いおっぱいは、好きにさせてもらうし。下も、メチャクチャに弄ってあげるからねー』
『悠里のエッチな姿、剛士に見せてやろうねぇ?』
喉が引き攣れたように、声が出ない。
悠里はただ、恐怖に満ちた衝撃の中、カンナとユタカの残忍な微笑を見上げた。
――嘘だ。嘘だ。
こんなの、本当じゃない。
『悠里ー』
『悠里ちゃん』
ユタカが、カンナが、顔を覗き込んでくる。
悠里は必死に、身体を捩って逃げようとする。
しかしユタカに跨られ、カンナたちに手も脚もガッチリと掴まれている悠里は、全く身動きができない。
ユタカが笑いながら、悠里の身体に手を伸ばしてきた。
『……さ。エッチしよ? ゆ、う、り?』
――嫌、嫌!
助けて。誰か、助けて!!
カンナが笑いながら、悠里に顔を近づけ、耳打ちした。
『悠里ちゃんはもう、汚れちゃったんだからね? 剛士くんに、相応しくないんだからね?』
頭の中に、彼女らの笑い声が響き渡る。
身体にのし掛かる重みが、増していく。
悠里の全てが、絶望に沈んでいく。
悠里は喉を開き、力の限り叫んだ。
『いやあああ――っ!!』
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