#秒恋8 隔てられる2人〜友情か、恋か。仲間か、恋か〜

ReN

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piece2 鮮やかな記憶

親友なんだから

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彩奈に抱かれ、涙が涸れるほど、泣いて、泣き疲れて。
悠里は、クスン、クスン、と小さな嗚咽を零しながら、ぐったりと彩奈の肩に頬を預けていた。


全ての力を出し尽くして、泣いた。
そのおかげで、心の殆どが空っぽになって。


少し、楽になった。


親友の肩を借りたことで初めて、1人では到底耐えられなかったと悟る。

「彩奈……」
悠里は、きゅっと親友の身体を抱き締め、囁いた。
「ありがと……」

彩奈は小さく笑うと、ポンポン、と悠里の背を叩いた。
「当たり前でしょ。アンタと私は、親友なんだから」
「ふふ……うん」

いつだって、彩奈は暖かい。
やっと、息ができるようになった気がする。

悠里は顔を上げ、彩奈に向かって丁寧に微笑みを浮かべた。
「……ありがとう。彩奈」
彩奈も、泣き出しそうなくらいの優しい笑顔で、頷いた。
「うん」


2人して、気の抜けたような照れ笑いを零す。
悠里は、少し戯けた声で言った。
「ふふ、いっぱい泣いたら、お腹空いちゃった。マフィン食べる!」
「あっはは、食べな食べな? チョコマフィンもあるからね」
「やったあ」
悠里は、笑いながら立ち上がる。
「紅茶淹れてくる。待ってて!」

そうして2人は、いつものように、お茶とお喋りを楽しんだ。
彩奈が、身振り手振りを交えながら、自分の所属する写真部のことを話す。


これまで、活動は比較的緩めに行っていた写真部。
しかしこの4月からは、いろいろなコンテストにも挑戦していくという動きがあるらしい。

「部員も増えてきて、いま、勢いもあるんだよね。その分、どうやって部全体を纏めていくかとか、事務仕事の役割分担をどうするかとか。課題もいっぱいあるんだけど、やり甲斐あるよ」
写真部の話をする彩奈の目はいつも、キラキラと明るく輝く。
悠里は、その目を見るのが大好きだ。

「そっかあ」
悠里もつられるように、にっこり笑って頷いた。
「もし、私に手伝えることがあったら、言ってね」

悠里の言葉を聞いた彩奈が、ぱあっと顔をほころばせた。
「ホント!? 悠里が手伝ってくれたら、マジで助かる! 春休み明けたら、お願い!」
「ふふ、うん!」

未来に目を向けるための、明るい約束。
2人は、きゅっと手を繋ぎ、微笑みあった。


***


リビングの窓から差し込む外光が、徐々に夕暮れを示していく。
ふっと話の途切れた2人は、手を繋いだまま、見つめ合った。

「……悠人くんは、何時くらいに帰って来るの?」
彩奈の問いかけに、悠里は壁の時計に目をやり、答えた。
「あ……あと、1時間ちょっとかな」
時計の針は、18時を少し越えたところだった。
今日の悠人は午後練習だったから、帰りは19時過ぎの予定だ。
「そっか」

時間の話をすると、心が現実に戻ってしまう感じがする。
胸の痛みから目を背けるために、悠里は口角を上げた。
「彩奈とお喋りしてると、ほんと、時間があっという間」
悠里に合わせるように、彩奈も笑う。
「あはは、だねえ」

「もっとお喋りしてたいけど、ご飯作らなきゃー」
「えー大丈夫? 病み上がりなんだし、無理しちゃダメだよ?」
「あはは、大丈夫! 熱出てる間、悠人に全部やって貰っちゃったから」

悠里は、にっこりと笑ってガッツポーズをとった。
「今日はお礼も兼ねて、あの子の好きなもの、作ってあげるんだ」
「そっかあ。悠里は偉いなあ」
彩奈が大きく頷きながら、悠里の髪を撫でる。

「……じゃあ、今日は、帰るね」
鞄を持ち、彩奈はゆっくりと立ち上がった。
「……うん」

笑顔で送り出せるよう心を奮い立たせ、悠里は答えた。
「ありがとう、彩奈。来てくれて」
「当たり前でしょ」
彩奈も、グッと心に力を込め、同じように笑った。


2人連れ立って、玄関に向かう。
「またいっぱい、話そ?」
「うん!」

彩奈は悠里の両手をとり、ぎゅっと握った。
「一緒に、いっぱい時間を過ごそうね」
「……うん」

そう。時間を重ねて、重ねて。
痛みが薄らぐのを、待つしかないのだ。
それだけの時を、一緒に過ごすと言ってくれる。
悠里は親友の暖かさに感謝し、その手を握り返した。
「ありがとう、彩奈」


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