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piece6 親友たちへの告白
それが償いとか思ってません?
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***
「……大丈夫ですか?」
エリカの涙が少し落ち着いた頃、彩奈が静かに声を掛けてくれた。
「……うん」
はあっと涙の混じる溜め息をつき、エリカは残った弱気を吹き飛ばした。
そして涙を拭い、顔を上げた。
「ごめん、情けないね……」
彩奈がまた、微苦笑を浮かべて首を横に振った。
「全然です。悲しいのは、当たり前ですよ」
ああ、優しい人だなあと、エリカは思った。
そうして、照れ混じりの微笑みを返して言った。
「さすが……悠里ちゃんの親友さんだね」
悠里も、いま目の前にいる彩奈も。
人の心に、寄り添ってくれる。
本当に、本当に優しくて強くて、暖かい人だと、感動すら覚えた。
悠里の親友と言われたのが嬉しかったのか、ふっと彩奈の表情も和らいだ。
「彩奈さん……本当にありがとう」
高木までもが、泣き出しそうに眉尻を下げて、深々と彩奈に頭を下げた。
「親友がこんなことをして、いなくなって。エリカはショックに決まってますよね……」
高木がそっと、傍らのエリカの背を撫でた。
「情けないことに、彩奈さんに言って貰えるまで、俺、そういうところに頭が回っていませんでした」
続いて剛士も、彩奈に、そしてエリカたちに頭を下げた。
「俺も……配慮が足りなかったです。すみません……」
彩奈が、困ったように笑った。
「もう……誰も気がつかないなんて。これだから、オトコはいけませんね」
そう冗談めかして言うと、高木の方に向き直った。
「そういう部分を受け止めて、慰めてあげられるのは、貴方だけだと思います。後で2人になったら、フォローしてあげてくださいね」
「はい……ありがとう。本当に」
高木はしっかりと頷き、彩奈に深く頭を下げた。
「――ああ。ついでにもう一個、お節介しますけど、」
彩奈の目が、再びエリカに向かった。
「……エリカさん、彼氏さんと別れようとか、思ってません?」
エリカは、ぎょっと目を丸くした。
図星だった。
悠里のことで、自分にできることは何でもする。
そのために、高木の力も借りる。
けれど、それが終わったら、自分は高木から離れよう。独りになろう。
自分は、悠里と剛士を傷つけ、引き離してしまった原因なのだから――
悠里を家に送り届けた帰り道、まさに考えていたことだった。
「それが償いだとか、思ってません?」
更に、図星の図星をつかれ、エリカは思わず口籠もる。
彩奈の目が、厳しい光を放った。
「そんなこと、悠里は望まないです」
彩奈は、ぴしゃりと言い放つ。
「貴女が彼氏さんと別れたりなんかしたら。貴女が不幸になったら。悠里はすごく悲しみます。あの子は、そういう子なんです」
何を申し開きすることもできない。
エリカは、グッと両手を握り締め、うな垂れる。
「そう、だよね……悠里ちゃんは、そういう子だ……」
自分の辛さよりも、人の気持ちを思いやってくれる、優しい人だ。
悠里を家に送り届けたとき、エリカはそれを身をもって、知ったはずだった。
「ごめん……」
「償いだなんて、貴女の自己満です。悠里を余計に傷つける真似はやめてください。迷惑です」
容赦のない彩奈の物言いに、場に緊張が張り詰める。
高木が、何か助け舟を出そうと口を開きかけた。
しかし、エリカがそれを押し留める。
「うん……うん。本当に、彩奈ちゃんの言う通りだ」
エリカは深く、頭を垂れた。
「私が彼氏と別れたからって、償いになんかならない。単に私が、償ったような気になるだけだね……」
自分が、カンナと繋がっていたバスケ部1年生の2人に言った言葉を思い起こす。
『君たちが悠里ちゃんに謝りたいのは、自分の罪悪感を減らしたいだけだよ』
単なる自己満足だと、エリカは後輩2人を、厳しく断罪した。
それと、まったく同じことだ。
彩奈に指摘されるまで、そんなこともわからないなんて。
「ごめん。情けないね……」
はあっと、エリカは心に絡みついた薄暗い感情を吹き飛ばすように、息を吐いた。
彩奈の怒りの炎が、今度は高木に向いた。
「エリカさんが、そんなこと考えないように。貴方がしっかり繋いでいてくれないと困ります」
「はい……彩奈さんの言う通りだ。俺、頑張ります」
高木も彩奈の言葉に対し、神妙に頭を下げた。
「……彩奈ちゃん、つよ」
拓真が、場の空気を和ませるように、明るい声を上げた。
「いつもながら、彩奈ちゃんの言葉には、パワーがあるわ。さすが」
「いや、本当に」
高木が深く頷き、同意する。
「芯を貫く正論で、ぐうの音も出ない……さすがだね」
初対面の2人が、異口同音に彩奈を讃えている。
それが可笑しくて、剛士とエリカも思わず、ふっと口元をほころばせた。
エリカは、心に立ち込めていた深い霧のような不安感が、晴れていく気がした。
おかげで落ち着いて、これからのことに頭を巡らせることができる。
――自分がするべき償いは、高木と別れるとか、そんなことじゃない。
そんなことをしても、誰も、何も救われない。
もっと前向きに、能動的に、悠里ちゃんと剛士の助けにならなくては――
「……大丈夫ですか?」
エリカの涙が少し落ち着いた頃、彩奈が静かに声を掛けてくれた。
「……うん」
はあっと涙の混じる溜め息をつき、エリカは残った弱気を吹き飛ばした。
そして涙を拭い、顔を上げた。
「ごめん、情けないね……」
彩奈がまた、微苦笑を浮かべて首を横に振った。
「全然です。悲しいのは、当たり前ですよ」
ああ、優しい人だなあと、エリカは思った。
そうして、照れ混じりの微笑みを返して言った。
「さすが……悠里ちゃんの親友さんだね」
悠里も、いま目の前にいる彩奈も。
人の心に、寄り添ってくれる。
本当に、本当に優しくて強くて、暖かい人だと、感動すら覚えた。
悠里の親友と言われたのが嬉しかったのか、ふっと彩奈の表情も和らいだ。
「彩奈さん……本当にありがとう」
高木までもが、泣き出しそうに眉尻を下げて、深々と彩奈に頭を下げた。
「親友がこんなことをして、いなくなって。エリカはショックに決まってますよね……」
高木がそっと、傍らのエリカの背を撫でた。
「情けないことに、彩奈さんに言って貰えるまで、俺、そういうところに頭が回っていませんでした」
続いて剛士も、彩奈に、そしてエリカたちに頭を下げた。
「俺も……配慮が足りなかったです。すみません……」
彩奈が、困ったように笑った。
「もう……誰も気がつかないなんて。これだから、オトコはいけませんね」
そう冗談めかして言うと、高木の方に向き直った。
「そういう部分を受け止めて、慰めてあげられるのは、貴方だけだと思います。後で2人になったら、フォローしてあげてくださいね」
「はい……ありがとう。本当に」
高木はしっかりと頷き、彩奈に深く頭を下げた。
「――ああ。ついでにもう一個、お節介しますけど、」
彩奈の目が、再びエリカに向かった。
「……エリカさん、彼氏さんと別れようとか、思ってません?」
エリカは、ぎょっと目を丸くした。
図星だった。
悠里のことで、自分にできることは何でもする。
そのために、高木の力も借りる。
けれど、それが終わったら、自分は高木から離れよう。独りになろう。
自分は、悠里と剛士を傷つけ、引き離してしまった原因なのだから――
悠里を家に送り届けた帰り道、まさに考えていたことだった。
「それが償いだとか、思ってません?」
更に、図星の図星をつかれ、エリカは思わず口籠もる。
彩奈の目が、厳しい光を放った。
「そんなこと、悠里は望まないです」
彩奈は、ぴしゃりと言い放つ。
「貴女が彼氏さんと別れたりなんかしたら。貴女が不幸になったら。悠里はすごく悲しみます。あの子は、そういう子なんです」
何を申し開きすることもできない。
エリカは、グッと両手を握り締め、うな垂れる。
「そう、だよね……悠里ちゃんは、そういう子だ……」
自分の辛さよりも、人の気持ちを思いやってくれる、優しい人だ。
悠里を家に送り届けたとき、エリカはそれを身をもって、知ったはずだった。
「ごめん……」
「償いだなんて、貴女の自己満です。悠里を余計に傷つける真似はやめてください。迷惑です」
容赦のない彩奈の物言いに、場に緊張が張り詰める。
高木が、何か助け舟を出そうと口を開きかけた。
しかし、エリカがそれを押し留める。
「うん……うん。本当に、彩奈ちゃんの言う通りだ」
エリカは深く、頭を垂れた。
「私が彼氏と別れたからって、償いになんかならない。単に私が、償ったような気になるだけだね……」
自分が、カンナと繋がっていたバスケ部1年生の2人に言った言葉を思い起こす。
『君たちが悠里ちゃんに謝りたいのは、自分の罪悪感を減らしたいだけだよ』
単なる自己満足だと、エリカは後輩2人を、厳しく断罪した。
それと、まったく同じことだ。
彩奈に指摘されるまで、そんなこともわからないなんて。
「ごめん。情けないね……」
はあっと、エリカは心に絡みついた薄暗い感情を吹き飛ばすように、息を吐いた。
彩奈の怒りの炎が、今度は高木に向いた。
「エリカさんが、そんなこと考えないように。貴方がしっかり繋いでいてくれないと困ります」
「はい……彩奈さんの言う通りだ。俺、頑張ります」
高木も彩奈の言葉に対し、神妙に頭を下げた。
「……彩奈ちゃん、つよ」
拓真が、場の空気を和ませるように、明るい声を上げた。
「いつもながら、彩奈ちゃんの言葉には、パワーがあるわ。さすが」
「いや、本当に」
高木が深く頷き、同意する。
「芯を貫く正論で、ぐうの音も出ない……さすがだね」
初対面の2人が、異口同音に彩奈を讃えている。
それが可笑しくて、剛士とエリカも思わず、ふっと口元をほころばせた。
エリカは、心に立ち込めていた深い霧のような不安感が、晴れていく気がした。
おかげで落ち着いて、これからのことに頭を巡らせることができる。
――自分がするべき償いは、高木と別れるとか、そんなことじゃない。
そんなことをしても、誰も、何も救われない。
もっと前向きに、能動的に、悠里ちゃんと剛士の助けにならなくては――
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