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piece6 親友たちへの告白

なんで黙ってたの?

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剛士は目を伏せ、唇を引き結ぶ。

本当は、言いたくない。口にするのも、おぞましい。
けれど、言わなければ親友たちも納得がいかないだろう……


剛士は2人に向かい、静かにその答えを告白した。
「……あいつ。俺のことが好きだったんだ」

隣りの拓真、そして彩奈が、驚愕の目で自分を見る。
その視線が苦しくて、剛士はまた、目を伏せてしまう。


拓真が、眉を顰めて問う。
「え……それ、いつから? ゴウは、そのこと知ってたの?」
「……知ってた。昔、告白されたことあるから」
「そう、なんだ……じゃあ、あの女の本当の狙いは、ゴウとエリカさんのヨリを戻すじゃなくて、自分が、ゴウと付き合いたかったってこと?」

「それは……違う」
剛士は微かに首を横に振り、額に手を当てた。


今しがたの彩奈の言葉が、正解なのだと思う。

『自分の思い通りにならないなら、いっそ何もかも、ぶち壊してやる』


あの女は本当に、そう思っていたのだろう。

あの女は、剛士の心が自分には動かないと、知っていた。
知っていて――いや、知っていたからこそ、悠里を襲ったのだ。

吐き気と共に、不快な言葉が次々に迫り上がってくる――


『傷をつけたかったの』

『最後に剛士くんの心を、私でいっぱいにしたかったの。一生消えない傷を、つけてやりたかったの』


悠里を指差して、笑った。
『コイツは私から、剛士くんを、エリカまでも奪った。当然の報いよ』

『ねえ、剛士くん? これで一生、私のこと、忘れられなくなったでしょ?』


あの女の、どろりとした異様な目つき。
いやに甲高い笑い声と、上気した頬に広げた笑み。

それは、焼きごてを額に押し付けられたように、激しい痛みを伴って剛士の記憶に、こびり付いた。


あの女の思惑どおりだ。
自分は生涯、忘れられないだろう。

自分への執着が原因で、好きな女の子を傷つけられた衝撃を。

大切な女の子を守ることができなかった、無力な自分への怒りを――


剛士は息を止めるようにして、込み上げる吐き気を、必死に抑え込む。
いやに存在を主張する胸の鼓動は、鈍痛にも似て、剛士の心をますます疲弊させた。


***


「そうなんだ……あいつ、シバさんのこと好きだったのか。単純に、そういうことだったんだね」

彩奈の、低く抑えた声が耳を打つ。
「道理で、あんだけ躍起になって、悠里を潰そうとするわけだ……」


我にかえり顔を上げると、彩奈の瞳は、鋭く剛士を睨みつけていた。

「……思えばシバさん、あいつのこと、異常に警戒してたよね」
彩奈の怒り――いや、悲しみが、痛いほどに真っ直ぐ、剛士を貫く。


「ねえ、シバさん。なんで黙ってたの? あいつが、シバさんを好きってこと。なんで、私たちに隠したの?」


「……ごめん。伝えておくべきだった」
彩奈の言葉はもっともだと、剛士は真摯に受け止めた。

自分にとって、嫌な思い出でしかなかった。できれば、言いたくなかった。
それに、このことを打ち明ければ、カンナに接触されている悠里を、もっと苦しめてしまう気がした。


けれど、彩奈にしてみれば、違う。
『剛士が、自分にとって都合の悪いことを隠していた』
『そのせいで、悠里が酷い目に遭わされた』

そう思われたとしても、仕方がない。
彩奈の目には、不信感、そして剛士への失望の色が、ありありと浮かんでいた。


今さら後悔しても、遅い。
何を言っても、ただの言い訳だ。
剛士は彩奈に向かい、頭を下げることしかできなかった。
「本当に、ごめん」

彩奈はじっと、剛士を見つめた。
彼女もそれ以上は何も言わず、悔しさを噛み締めていた。


見兼ねたように、高木がそっと、助け舟を出す。
「……彩奈さんの言うことも、よくわかる。でも、あの女が剛士に告白したのって、1年も前の――しかも、エリカと付き合っていた頃なんだ。もちろん剛士は、きっぱり断ってる。普通だったら、とっくに終わってる話だし、わざわざ蒸し返したくもない話だと思うんだ」

彩奈を気遣いながら、高木は優しい声音で語りかける。
何とか、剛士への怒りと不信感を和らげて欲しいと、説得を続ける。

「あの女の、ものの考え方は、普通じゃない。あの女の気持ちを、みんなが知っていたところで、今回のことを防げたかというと……やっぱり、難しかったと思う」


彩奈は目を伏せながらも、高木の言葉に、きちんと耳を傾けていた。
高木は、努めて穏やかに言う。

「みんなは本当に、悠里さんのことを守ろうと、精一杯やっていたと思う。本当に誰も、何も悪くないんだよ。だからいまは力を合わせて、これからのことを考えるべきなんじゃないかな」

拓真が、高木の言葉に同意するように小さく頷き、そっと、彩奈の背に触れた。
「うん……悪いのは、あの女だよ。オレたちが、ここで仲間割れなんかしたら、それこそあいつの思う壺だよ」


彩奈が、膝に乗せている両手を、ぎゅっと握り締めている。
やるせない怒りを、必死に抑えようとしているのがわかる。

何とかして、彼女の気持ちに寄り添いたい。
剛士は彩奈に向かい、もう一度、真摯に謝罪の言葉を口にした。
「隠していて、本当にごめん。もっとみんなに、昔のことも正直に、話しておくべきだったと思う」


前に、この公園で彩奈と喧嘩をして。
彩奈と悠里にまで、仲違いさせて。
2人を泣かせてしまって。

そのときに自分は、言ったのに。

『俺、彩奈に隠し事するつもりはない。話せるよ、何でも』

そう、約束したのに。

また、彩奈を悲しませてしまった。
不信感を持たせることをしてしまった。
一度芽生えてしまった不信感は、なかなか消すことはできないのに……


少しずつ築いていた、彩奈との友情が。
近づいていた、心の距離が。
彩奈と親友になれる、道筋が。

目の前で、崩れていく。
大切なものが、自分の手から、どんどん零れ落ちていく。

自分が、守れなかったせいで――

剛士の胸の中では、自責の念が根を張り、深く広がっていった。


「……いえ、単なる私の八つ当たりです。すみませんでした」
彩奈が、小さな声で答えた。

「隠してたなんて嫌な言い方して、すみません。悪いのはあの女で、シバさんを責めても仕方ないって。頭では、わかってるんです」
「……そんなことないよ。彩奈の言ってることは正しいし、よくわかる。本当にごめん」

彩奈は目を伏せたまま、小さく首を横に振った。
彼女の中で膨らんでいた怒りは、落ち着いたように見えた。
けれど、彩奈と目が合わないことが、剛士にはとても辛かった。



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