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piece3 剛士の家族

和気藹々とした夕食

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***


源希とのやり取りで、怒りを吐き出したからだろうか。
剛士の頭は幾分スッキリとし、考えを巡らせることができるようになっていた。
改めて、兄から言われた痛烈な指摘を、受け止める。


『自分1人でどうにかしようなんて、烏滸がましいんだよ、ガキが。もっと人を使え。仲間を利用しろ』


言い方は悪いが、正しい、と思った。

そう。自分は前も、同じ過ちを犯したことがあった。
自分1人で抱え込んで、かえって悠里を危険な目に遭わせた過去があった――


悠里と親密になるきっかけになったストーカー事件を、剛士は思い返す。

悠里と登下校を共にし始めた途端に、学内で剛士に対する嫌がらせが始まった。
しかし自分は、悠里にはおろか、拓真にさえも、それを打ち明けなかった。
悠里に負い目を感じさせたくなかった。
拓真に嫌がらせが飛び火することを避けたかった。

けれど、何も知らない拓真が、悠里たちをバスケの練習試合に呼んでしまった。
ストーカーが悠里を拉致する、絶好の機会を与えることになってしまった。

良かれと思って黙っていたことが、仇になった――


自分は、独りで溜め込んでばかりだ。
つい最近も、夜の公園で彩奈と拓真に、悩みを共有して欲しいと言われたではないか。

何も成長していない。
何も学んでいない。
そのことに、気付かされた。


『1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ』


兄に一刀両断された心は不思議と、くさびから解放され、軽くなっていた。

剛士は鞄からそっと、スマートフォンを取り出す。
画面をチラリと見ただけで、大量の通知があるのが見てとれた。

自分は、独りじゃない。
そんな当たり前のことに、気付かされた。

そうだ。自分だけの世界に、閉じ籠もっている場合ではない。
やらねばならないことが、山ほどあるはずだ。
バスケ部のこと。仲間のこと。
何より、悠里のこと――

逃げている場合ではない。
罰を受けて、償った気になるなんて、腑抜けたことを考えている暇はない。
ひとつひとつ、真摯に向き合わなくては。

独りで戦うのではなく、周りの人に力を貸してもらうのだ。
そのためにはまず、自分が現状から目を逸らさずに、しっかりと考えよう。


心を奮い立たせるために、剛士はグッと拳を握り締める。
悠里のために、自分ができること。
何だってする。
改めて、彼女への思いを、胸に刻みつけた。


壁の時計は、18時50分を指していた。
これ以上、両親に心配をかけたくない。
兄に言われた通り、大量の通知が来ているスマートフォンを見るのは後にしよう。
そして顔を洗って、ダイニングに行こう。
剛士はしっかりとした足取りで、立ち上がった。


***


夕食は、和気藹々とした空気に包まれていた。
久しぶりに兄が帰ってきて、父も家にいて、4人で囲む食卓。
母が楽しそうに微笑んでいるので、父まで和やかに笑っている。
自分のしでかしたことがきっかけで、思いがけず作られたこの団らんが、気恥ずかしい。


誰も、今日のことについて、触れてこない。
ただ剛士を癒やし、励まそうとする空気だけが、優しく漂っていた。


剛士は照れ隠しに、いつも以上に豪快に平らげていく。
競うように、兄の源希も箸を伸ばしてくるので、ほぼ奪い合いの状態になった。
そんな兄弟を見て、母は嬉しそうに問いかける。
「2人とも、ご飯おかわりするでしょ?」
「する!!」
同時に茶碗を差し出す彼らに、母はコロコロと笑った。

「ゴーちゃん、食欲あんじゃーん」
隣りに座る兄が、グイグイと肩を寄せてくる。
「聡子さんのご飯、うまいんだから当然だろ」
「完全同意~」
面倒くさそうに肩で押し返してくる弟に、源希は楽しげに笑った。
そうして母に向かい、小首を傾げてみせる。
「これからも、ちょくちょく食べに帰っていい?」

母の顔が、パッと華やいだ。
「もちろん! いつでも帰ってらっしゃいよ。源希がいると、剛士も楽しそうだし」
「どこがだよ!」
たまらず母に抗議する剛士を見て、家族がまた笑う。

剛士は仏頂面のまま、ひたすらに食べた。
暖かな空間と食事は、彼の疲れて冷え切っていた心と身体を、温めてくれた。


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