#秒恋2 2人の日常を積み重ねて。〜恋のトラウマ、ゆっくりと乗り越えよう〜

ReN

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piece5 カレーパーティー

フツーにカップルみたいだったよ

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「カレーパーティー?」
翌朝、部活に行く準備をしながら弟の悠人が笑った。
「オレの分、残しといてよ?」
「任せといて」
悠里は、彼の昼食用の弁当を準備しながら、明るく微笑んだ。

その様子を見て、悠人が言う。
「姉ちゃん、元気になったんだな」
「え?」
「昨日は、何ごとかと思ったけどさ」

悠里の脳裏に、リビングで鉢合わせたときの弟の表情がよみがえる。
「あ、うん……ごめんね」
姉として恥ずかしい姿を見せてしまったことを思い出し、悠里は神妙な顔をした。

「まあ、姉ちゃんのハダカなんかどうでもいいけど」
「ちょっと……」
「目が赤かったからさ」
大人びた表情の悠人に見つめられ、気付かれていたんだと悠里は頬を赤らめた。
「ごめん……」
「別に、元気になったならいいよ」

悠人が笑いながら話題を変える。
「今日は、彩奈さん?」
「あ、うん。あと、もう2人」
「へえ、誰?」
「勇誠の人だけど……別にいいでしょ」
急に恥ずかしくなり、悠里は突っぱねた。

その反応が、かえって弟を面白がらせたらしい。
彼がニヤリと探るように見つめてくる。
「彼氏?」
慌てて悠里は否定する。
「ち、違うよ!  ほら、例のイタ電騒ぎのときにお世話になった人たちだよ」

「ああ、毎日送り迎えしてくれた人ね」
悠人は笑った。
「いや、姉ちゃんが男を家に呼ぶなんて珍しいからさ。幼なじみ以外では、初じゃない?」
「別にいいでしょ。友だちなんだから」

これ以上追及されては敵わない。
悠里は時計を指す。
「部活遅れるよ? 早く行きなよ!」
がんばってね、と弁当を突き出し、手を振る。
「ハイハイ。姉ちゃんも、ダブルデートがんばってねー」
「うるさいなあ、もう」
真っ赤になった顔を持て余しながら、悠里は弟を追い払った。


弟とのやり取りで、すっかり浮き足立ってしまった。
悠里は、集合時間よりもかなり早めに駅前に着いた。
ロータリーの植え込みの傍にあるベンチに腰掛ける。
カレーの材料や手順について頭を整理していると、ふいに名を呼ばれ我にかえった。

「悠里」
「ゴウさん!」
悠里はパッと顔を輝かせ、彼を見上げる。
「よお」
剛士はいつものように、柔らかく微笑んだ。
黒のダウンジャケットにデニムを履いた長身が、悠里の隣に腰を下ろす。

「おはよう。早いね!」
集合時間15分前だった。剛士も時計を確認しつつ笑った。
「部活だと、基本10分前行動だからさ。クセなんだよな」
バスケ部主将の彼だ。部をまとめるために、率先して行動している剛士が垣間見える。

「お前こそ早いな」
「う、うん。楽しみで、張り切っちゃって」
頬を赤らめてそう答えた悠里に、剛士は可笑しそうに笑った。
「……うん。俺も、楽しみ」

顔を見合わせて、また2人で笑う。
並んで腰掛けている、ただそれだけで、温かな気持ちになれた。
取り留めのない会話をする。
剛士は、いつも通りの笑顔を浮かべている。
その顔には、翳りなど微塵も感じられない。
こうしていると、昨日のことが何だか夢のように遠く思えた。


「おっすー、お待たせ!」
「早いねえ、お2人さん!」
大声が聞こえ駅を見やると、拓真と彩奈が連れ立って、こちらに走って来ていた。
路線が同じ2人は、時間を合わせて電車に乗ってきたのだろう。

ニヤニヤ笑いを浮かべながら、彩奈が言う。
「フツーにカップルみたいだったよ、悠里たち! 」
「オレたち、しばらく向こうで見てたの、気づかなかったでしょ」
頷き、拓真も同じように笑った。

真っ赤になって絶句する悠里の隣で、剛士は呆れたようにニヤニヤ顔の友人たちを諌める。
「アホなことしてないで早く来いよ」
そして立ち上がり、スーパーを指した。
「行こうぜ」
「はいはーい!」

楽しい時間の始まりだ。4人はワイワイと連れ立って歩き始めた。
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