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piece8 ずっと話したかった
幸せになってね
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沈黙が落ちた。
日は沈み、目を凝らさないとお互いの顔も見えないほど、屋上には宵が忍び寄っている。
「あのね、悠里ちゃん」
エリカは、そっと悠里の手を取り、言った。
「私、もう絶対、浮気しない」
悠里の手を握るエリカの手が、震えていた。
悠里は思わず、彼女の手を握り返す。
エリカは、振り絞るような声音で呟いた。
「私、わかってなかった。浮気って、その時に相手を傷つけるだけじゃないんだって。ずっと、相手の心に傷が残ってしまう。相手の未来を……相手の未来の恋人までも、苦しめてしまうことなんだって」
何にも、わかってなかったよ。
そう呟いたエリカは、罪の重さに苛まれるように、震える手で額を押さえた。
「本当に、ごめんなさい」
悠里は、冷たくなったエリカの手を、そっと両手で握る。
「私は、男の人とお付き合いしたことがないので……エリカさんの気持ちの全部は、わかってあげられていないかも知れないですけど、」
エリカが、ゆっくりと顔を上げ、躊躇いがちに悠里を見つめる。
悠里は真っ直ぐに彼女を見つめ返し、微笑んだ。
「そんなふうに、過去にも今にも、真剣に向き合えるエリカさんには、幸せになって欲しいです」
「悠里ちゃん……」
「だから、ゴウさんとお話ししたら……もう自分を、責めないでください」
ぎゅっとエリカの手を握り、悠里は囁いた。
宵闇迫る沈黙の中、グスッとエリカが鼻を啜るのが聞こえた。
後悔か。安堵か。
堪えきれなかった涙が、彼女の頬を伝うのがわかる。
悠里は、ただそっと、エリカに寄り添った。
「……悠里ちゃんは、本当にいい子だね」
はあっと短い息を吐き出し、エリカは涙混じりの明るい声を出した。
「こんな出会い方じゃなければ、お友だちになりたかったよ」
「……ふふ、私も、そう思います」
華やかで明るい反面、思慮深くて潔い。
この短期間のうちに知ることのできたエリカという人物は、悠里にとっても魅力的で美しい人だった。
剛士が好きになったのも頷ける。そう思える人だった。
エリカが、スッと立ち上がり、悠里に手を差し伸べた。
「すっかり、話し込んじゃったね」
彼女らしい、大輪の花が咲いたような華やかな笑顔だった。
「ふふ、いっぱいお話しましたね」
悠里はその手を取り、微笑み返した。
そのまま2人は、何となく手を繋いだまま、1階まで降りた。
どこか名残惜しそうに、エリカが悠里の手を離した。
「……じゃあ、悠里ちゃん。明日の卒業式が終われば、もう会うこともないと思うけど……元気でね」
「……はい。エリカさんも」
「悠里ちゃん」
エリカが、ふんわりと柔らかな微笑を見せた。
「幸せになってね」
その暖かい笑顔は、悠里の心の奥深くまでしっかりと届いた。
悠里は涙ぐみ、それでも必死に笑顔を返した。
「はい。……エリカさんも」
最後に、握手を交わす。
そうしてエリカは、パッと空気を切り替えた。
「さあ、帰ろう! 私はこれから、カンナをシメるから。悠里ちゃんは、気をつけて帰りな」
任せて、と言わんばかりに、エリカは親指を立てて見せた。
「じゃあね!」
元気に手を振って、歩き始めたエリカ。
その背中が、どんどん小さくなっていく。
悠里はただ、その姿を見つめ、頭を下げた。
日は沈み、目を凝らさないとお互いの顔も見えないほど、屋上には宵が忍び寄っている。
「あのね、悠里ちゃん」
エリカは、そっと悠里の手を取り、言った。
「私、もう絶対、浮気しない」
悠里の手を握るエリカの手が、震えていた。
悠里は思わず、彼女の手を握り返す。
エリカは、振り絞るような声音で呟いた。
「私、わかってなかった。浮気って、その時に相手を傷つけるだけじゃないんだって。ずっと、相手の心に傷が残ってしまう。相手の未来を……相手の未来の恋人までも、苦しめてしまうことなんだって」
何にも、わかってなかったよ。
そう呟いたエリカは、罪の重さに苛まれるように、震える手で額を押さえた。
「本当に、ごめんなさい」
悠里は、冷たくなったエリカの手を、そっと両手で握る。
「私は、男の人とお付き合いしたことがないので……エリカさんの気持ちの全部は、わかってあげられていないかも知れないですけど、」
エリカが、ゆっくりと顔を上げ、躊躇いがちに悠里を見つめる。
悠里は真っ直ぐに彼女を見つめ返し、微笑んだ。
「そんなふうに、過去にも今にも、真剣に向き合えるエリカさんには、幸せになって欲しいです」
「悠里ちゃん……」
「だから、ゴウさんとお話ししたら……もう自分を、責めないでください」
ぎゅっとエリカの手を握り、悠里は囁いた。
宵闇迫る沈黙の中、グスッとエリカが鼻を啜るのが聞こえた。
後悔か。安堵か。
堪えきれなかった涙が、彼女の頬を伝うのがわかる。
悠里は、ただそっと、エリカに寄り添った。
「……悠里ちゃんは、本当にいい子だね」
はあっと短い息を吐き出し、エリカは涙混じりの明るい声を出した。
「こんな出会い方じゃなければ、お友だちになりたかったよ」
「……ふふ、私も、そう思います」
華やかで明るい反面、思慮深くて潔い。
この短期間のうちに知ることのできたエリカという人物は、悠里にとっても魅力的で美しい人だった。
剛士が好きになったのも頷ける。そう思える人だった。
エリカが、スッと立ち上がり、悠里に手を差し伸べた。
「すっかり、話し込んじゃったね」
彼女らしい、大輪の花が咲いたような華やかな笑顔だった。
「ふふ、いっぱいお話しましたね」
悠里はその手を取り、微笑み返した。
そのまま2人は、何となく手を繋いだまま、1階まで降りた。
どこか名残惜しそうに、エリカが悠里の手を離した。
「……じゃあ、悠里ちゃん。明日の卒業式が終われば、もう会うこともないと思うけど……元気でね」
「……はい。エリカさんも」
「悠里ちゃん」
エリカが、ふんわりと柔らかな微笑を見せた。
「幸せになってね」
その暖かい笑顔は、悠里の心の奥深くまでしっかりと届いた。
悠里は涙ぐみ、それでも必死に笑顔を返した。
「はい。……エリカさんも」
最後に、握手を交わす。
そうしてエリカは、パッと空気を切り替えた。
「さあ、帰ろう! 私はこれから、カンナをシメるから。悠里ちゃんは、気をつけて帰りな」
任せて、と言わんばかりに、エリカは親指を立てて見せた。
「じゃあね!」
元気に手を振って、歩き始めたエリカ。
その背中が、どんどん小さくなっていく。
悠里はただ、その姿を見つめ、頭を下げた。
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