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piece8 ずっと話したかった

お話しよう

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教室のある校舎まで全力で走り、悠里は息を切らす。
痛む胸を押さえ、靴箱に手を付き、はあ、はあ、と不器用に呼吸を繰り返した。


一瞬、カンナと目が合った。
ギラリと、怒りの炎が燃え盛るのが見えた。

その瞬間、昨日の恐怖、そして、未来への強い不安が悠里の心に襲いかかってきた。
悠里は平静を失い、脱兎の如く走り出してしまった。


じわりと目に涙が浮かぶ。
気がつけば、手が、足が震えていた。
悠里は唇を噛みしめる。
思い知らされた。
自分が思うよりもずっと、自分の心は、カンナの恐怖に、参ってしまっている――


明日は卒業式。
それさえ終われば、この恐怖から解放される。
そう心に言い聞かせていた。

けれど、本当はわかっている。
終わる保証など、どこにもないと。

これだけ激しく、悠里に敵意をぶつけてくる相手だ。
卒業しても関係なしに、悠里を追い回す可能性も、充分にあるのだと。

わかっていた。
けれどそれでも、卒業式さえ終われば、という希望的観測に縋らずにはいられなかった。
そうしなければ、悠里は一歩も家から出られなくなりそうだった。
学校から、全てから、逃げ出してしまいそうだった。


胸を押さえ、悠里は、よろよろと靴箱にもたれかかった。
息苦しい。昨日から、ずっと。
穴の空いた風船のように、悠里の肺は、上手に酸素を取り込むことができないでいた。
小さく鼻をすすり、悠里は浅い呼吸を繰り返した。


「……悠里ちゃん」
背後から、遠慮がちに声を掛けられた。
ビクッと悠里は身体を竦ませる。

悠里を気遣う声と気配。

彼女に対して、悠里は悪い感情を抱いていない。
けれど彼女は、カンナの存在を連れてくる――

怖くて、どうしようもなくて、悠里は返事をするどころか、振り返ることすらできずにいた。


エリカが、近づいてくる。
「悠里ちゃん」
そっと、悠里を抱きしめるように、後ろから両肩に手を置いた。
「……お話しよう」

「エリカさん……」
おずおずと、悠里は彼女を見上げる。

エリカは、花のような柔らかい微笑を悠里に向けた。
「……大丈夫。見つからないとこに、行こ?」
そうして、優しく悠里の手を引いて、階段を登り始めた。

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