#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN

文字の大きさ
21 / 94
piece3 明確な悪意

スープとおにぎり

しおりを挟む
いつの間にか、寝入ってしまっていた。
時計は22時を指している。

小さく鳴ったお腹の音を聞き、悠里は苦笑した。
こんな気持ちを抱えていても、お腹は空くものだ。

鏡で顔を確認すると、瞼が少し腫れぼったい。
明日のために、冷やしておこう。
そのついでに、何か夜食でも作ろう。

悠里は部屋を出て、1階のリビングダイニングに降りて行った。


良い匂いがする。
悠里はそっと、リビングのドアを開けた。

「悠里! もう起きて大丈夫なの?」
キッチンには母がいて、彼女を見ると大きな目を丸くした。
「お母さん!お帰りなさい」
「ただいま。お腹、少しは良くなった?」

気遣わしげに、悠里の顔を見つめる。
「帰ってから一度、部屋を覗いたんだけどね。よく眠ってるようだったから、声は掛けなかったの」
「う、うん……ごめんね」

嘘をついてしまった胸が、チリチリと痛んだ。
悠里は俯いて、小さな声で謝る。
母は優しく微笑んだ。
「何言ってるの。いつも本当にありがとう。無理しないでね」
「うん……」


しょんぼりとしている娘を見て、母は明るい声で尋ねる。
「お腹、空いてない?いまちょうど、悠里に夜食作ってたところ 」

母の笑顔に誘われるように、悠里は、パッと顔を輝かせた。
「うん!食べたい」
「よし、座ってなさい。すぐできるから」

母は、にっこりと微笑み、夜食作りを再開した。


たくさんの野菜を柔らかく煮込んだスープと、彩りの良い小さなおにぎり。
食欲をそそる匂いと湯気を立てて、コトン、と悠里の前に置かれる。

「美味しそう!」
悠里は嬉しそうに顔をほころばせる。
「ふふ、いっぱい召し上がれ!」
母は、にっこり笑うと、悠里の前の席に腰掛けた。


母の作るご飯は、身体だけではなく、悠里の心も温めてくれた。
スープを飲み干し、悠里はニコニコ笑う。
「美味しい!」
「おかわりする?」
「する!」

母がスープのおかわりをよそってくれる間に、悠里はおにぎりを頬張る。

枝豆と炒り卵、そしてシャケが混ぜられた、彩り豊かなおにぎり。
遠足の日も運動会の日も。
事あるごとに、作って作って、と、せがんでいた。

悠里の子どもの頃からの大好物。
「……ふふ」
まさか今夜、食べられるとは思わなかった。


スープを入れた器を悠里に差し出し、母は優しく笑った。
「……悠里。今日は、何かあった?」

悠里は母の顔を見つめる。
悠里の悲しい気持ちを見透かし、手を差し伸べてくれる、優しい母の瞳。

仮病を使って誤魔化しても、母にはお見通し。
少し恥ずかしく、けれど、ホッとする自分もいた。


「……うん。学校で、ちょっと」
悠里は素直に頷いた。
それから母に向かって、にっこり笑って見せる。
「でも、お母さんのごはん食べたら、元気出たよ」
「本当? 良かった」

母と娘は、よく似たお互いの顔を見合わせ、笑った。
「大丈夫?」
「うん!」
笑顔の悠里を、母は優しい眼差しで見つめる。

「無理はしちゃダメよ?」
「ふふ、うん。気をつける」
悠里はもう一度、にっこりと大きく微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...