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piece6 密室の恐怖

どうして

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密着されるたびに、ビクッと身を竦ませる悠里が面白いのか、男子生徒たちは何度も何度も、肩に腕を回してくる。
カンナのスマートフォンからも、何度も何度も、シャッター音が発せられる。
悠里の心は、どんどん追い詰められていった。


「なにこの、オトコ慣れしてない感じー!」
「クソ可愛いんだけど!」
右隣りに座っていた男子生徒に、無理やり抱き寄せられ、ぎゅっと力を込められた。
「いやっ!」
悠里は必死に、男子生徒の胸に手をつき、その身体を押し退けた。
「おわっ!? 」

びっくりしたように、男子生徒が大袈裟に仰け反る。
「ちょっとちょっと、そんなガチで、嫌がんなくてもいいじゃん」
「ノリ悪っ」
まるで悠里に落ち度があるとでもいうように、彼らは口々に文句をつけ始めた。


悠里は、か細い声でカンナに訴える。
「もう……もう、帰らせてください……」
心臓が痛いほどに脈打ち、息苦しい。
一瞬でも気を抜けば、大声で泣き出してしまいそうだった。
悠里は唇を噛み、息を詰める。

必死に保とうとした心も、掻き集めた勇気も。
剛士を、彩奈を、守ろうとした覚悟も。

何もかもが、ぼろぼろと崩れていく――

カンナが、大袈裟に笑い始めた。
「あっ!じゃあ決まった? この中からカレシ選ぶ? だったらいいよ? 何なら先週のヤツらでもいいし」

悠里は、力なく首を横に振る。
「あっそう。じゃあ、まだダメだねえ」
カンナの楽しそうな声が、カラカラと室内に響く。


堪えきれなかった涙が一粒、悠里の頬を伝った。


剛士が好きだ。
剛士に、好きだと言って貰えた。
エリカは、自分に笑ってくれた。

もう少しだけ、がんばったら。
剛士と手を繋いで、一緒にがんばったら。
幸せな明日がくると、信じていたのに――


「……どうして」
悠里は、抑えきれない思いを呟いた。
「どうして、こんなことをするんですか?」

「アンタが邪魔だからに決まってんだけど。いい加減、諦めなって」
カンナが涼やかな目に悦を滲ませ、にやりと笑った。


シン、と室内が静まり返る。

見かねて、勇誠学園の2人が口を挟んだ。
「いや、カンナ先輩。事情はよくわかんないっすけど……もういいじゃないすか」
「うん。オレたち、悠里ちゃんと楽しくカラオケできるって言われたから来たんで……ちょっとこれは、話が違うっていうか」

大騒ぎしていた4人の男子生徒も。
はじめに悠里を挟んで座った、共学校の男子2人も。
さすがに気まずそうに目を逸らす。

自分の持ち駒だったはずの男子の空気が変わったことに気づき、カンナは一瞬、口籠もった。

「……うっわあ。凄いね、ビッチちゃん。もう、勇誠のヤツらを手懐けたんだ」
硬い表情で、不器用に口元だけを歪め、カンナは笑ってみせる。
しかし笑みはすぐに崩れ、その下からは、悠里への激しい憎しみが噴き出した。


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