#秒恋４ 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

piece6 密室の恐怖

鋭いシャッター音

カシャッと、大きなシャッター音が鳴り、悠里は慌てて顔を上げた。

戻って来たばかりのカンナが、ドアを開け放ったままスマートフォンを構えていた。
「えー？ カンナ先輩、撮るなら撮るって言ってくださいよお」
男子生徒が笑いながら、悠里の肩を抱く手に力を込める。

「いや、さっきからお前ばっかりズルいし！」
右側に座っている男子も腕を伸ばしてくる。
悠里は両脇から密着される格好になった。
カシャッと、また鋭いシャッター音が鳴る。

「やっ、やめてください」
こんな姿を写真に残されるなんて。
悠里の大きな瞳に、涙が盛り上がる。

「何言ってんの」
カンナが悠里を見下ろし、冷笑を浮かべる。
ガチャリとドアを閉め、彼女は再び悠里の向かいに腰掛けた。
「今日は、アンタと写真撮りたいヤツらの集まりだって言ったでしょ」
唇を噛み、悠里はカンナを見上げた。

『今日はアンタを置いて帰ったりしないから』

ああ、そうか。悠里は理解した。
この人は、自分と男子生徒たちの写真を撮るためにこの場に残っただけだと。
一瞬でも、カンナがいることに安堵し、縋ってしまった自分を嫌悪する。


「はいカンナ先輩！撮って撮って！」
「あとで写真共有してねー！」
男子生徒たちが、悠里に顔をくっ付けるようにしてポーズをとる。
悠里は俯き、正面にいるカンナから顔を背ける。

「ほらほら悠里ちゃん、こっち向きなよ！」
カンナがスマートフォンを構え直し、笑う。
悠里は、必死に首を横に振った。

「へえ……いいのぉ？」
意味ありげに、カンナが問いかけてくる。
彼女の意図を理解した悠里の胸が、ズシンと重く痛んだ。


――彩奈。


別れ際に見た、親友の明るい笑顔を思い出す。

そうだ。自分が耐えなければ、彩奈に飛び火する。
守らなきゃ。がんばらなきゃ。
その覚悟で自分はいま、ここにいるのだ。


悠里は浅い呼吸を繰り返し、ゆっくりと顔を上げて、正面を見た。
カンナが、にやりと笑みを大きくする。
「はい、撮るよ！ 悠里ちゃん、笑って？」
悠里は唇を噛んだまま、無理やりに口角を上げた。

「表情、硬っ」
カシャカシャとシャッター音を鳴らしながら、カンナが嘲笑う。
「まあでも、その上目遣いが、まさにビッチって感じ」
反射的に目を伏せてしまう。
カンナの声が飛んでくる。
「こっち向けよ」

悠里は一瞬目を閉じ、それから顔を上げた。
早く終わらせたい。早く、解放されたい。
ならば、従うしかない。
悠里は、笑みを唇に貼り付ける。
カンナが満足そうに、涼やかな目を細めた。