48 / 94
piece5 悠里の戦い
滲む涙
しおりを挟む
悠里は、ぎゅっと両手を握りしめる。
退路を、断たれた。
自分が逃げれば、カンナは本当に彩奈に接触するだろう。
カンナに罵られ、見知らぬ男子生徒に囲まれ、触られる。
彩奈を、あんな目に遭わせるわけにはいかない。
――ゴウさん……
助けて欲しい。全てを打ち明けて、彼に縋りたい。
相談すればきっと、剛士は飛んできてくれる。
部活の時間を、投げ打ってでも。
――駄目だ。
彼に部活の時間を捨てさせることになったら。
自分は、剛士の傍にいる資格がない……
エリカと別れたとき、自分を顧みず、バスケ部のために尽くした剛士。
青いイルミネーションの下で聞いた、剛士の苦しみと、願いを思い起こす。
『俺1人の感情で、バスケ部を壊すわけにはいかなかったから。先輩から託された部を、仲間も後輩もいる部を、俺が守らなきゃいけなかったから』
『俺、みんなとバスケがしたかったから。仲間と、楽しくバスケに打ち込める場所を守りたかった』
彼が、必死に守り抜いてきた、バスケ部の時間。
それを損ねてしまうのは、剛士を裏切ることと同じだと思った。
剛士を、守りたい。何としてでも。
悠里は固く目を閉じ、涙を心に押し込める。
――大丈夫。
がんばれるって、ゴウさんに言ったじゃない。
もう少し。もう少しだけ、我慢すればいい。
卒業式まで、たったの2日だ。
耐えてみせる。
それだけのことができなくて、剛士の傍にいられるはずがない。
「……大丈夫」
悠里は声に出して、自分に言い聞かせる。
昼休み終了の鐘が鳴った。
悠里は必死に息を吸い込み、気持ちを立て直す。
これから教室に戻り、彩奈と顔を合わせる。
気取られてはいけない。絶対に。
大切な親友を、カンナには触れさせない。
彩奈は、自分が守るんだ。
彩奈の笑顔を思い浮かべ、悠里は気持ちを奮い立たせた。
その日は放課後まで、悠里は彩奈の傍にいた。
他の友人たちとお喋りをしているときも、ぴったりと親友に寄り添い、ニコニコ微笑んでいた。
彩奈が、可笑しそうに問いかける。
「何か、いいことでもあった? 悠里」
「ふふ。何でもないよ?」
「あ、わかった! シバさんから、ラブラブメッセージ届いたとか?」
「ふふっ」
悠里は、楽しげに微笑んだ。
「ああ~、そっかそっかあ!」
赤メガネの奥の瞳が嬉しそうに輝き、クシャクシャと悠里の頭を撫でた。
「なぁに? 誰だれ?」
「シバさん? だれー?」
クラスメイトたちも、つられて湧き立った。
彩奈が悪戯っぽく笑う。
「そりゃあもう、悠里のダーリンだよねえ?」
「ええ!? 彼氏!?」
一気に色めいたクラスメイトたちを見て、悠里は微笑んでみせた。
「ふふ、違うよ。私の、好きな人」
きゃあっと盛り上がる彩奈とクラスメイトと一緒に、悠里はニコニコ笑う。
「ねーねー、写真ないの?写真!」
「ふふ、秘密」
「えぇ~? 彩奈なら撮ってんでしょ? シバさんの写真?」
「あはは、まあねー? でも、悠里の許可無しでは見せらんないわ」
写真という言葉は、悠里の胸を抉る。
先ほどカンナから見せられた、学祭の自分の写真。そして、彩奈の写真。
今でも自分の鞄に入れっぱなしになっている、フォトブック。
悠里を傷つけるためだけに用意された、過去の剛士。
エリカと一緒に微笑む、剛士の姿――
そのイメージを振り払おうと、悠里は意識して、笑みを大きくする。
ここ数日で、自分は友人を誤魔化すのが上手になってしまった。
わざと誤解を招くことを言って、本心を隠す。
親友の彩奈すら、欺いている……
笑う悠里の瞳に、涙が滲んだ。
悠里はあえてそれを隠さず、笑い過ぎて涙が出たように振る舞う。
「ねえねえ悠里! 今度紹介してよー。その、シバさん?だっけ?」
「ふふっ、いつかね?」
悠里は首を傾げ、クラスメイトに明るく微笑んでみせた。
退路を、断たれた。
自分が逃げれば、カンナは本当に彩奈に接触するだろう。
カンナに罵られ、見知らぬ男子生徒に囲まれ、触られる。
彩奈を、あんな目に遭わせるわけにはいかない。
――ゴウさん……
助けて欲しい。全てを打ち明けて、彼に縋りたい。
相談すればきっと、剛士は飛んできてくれる。
部活の時間を、投げ打ってでも。
――駄目だ。
彼に部活の時間を捨てさせることになったら。
自分は、剛士の傍にいる資格がない……
エリカと別れたとき、自分を顧みず、バスケ部のために尽くした剛士。
青いイルミネーションの下で聞いた、剛士の苦しみと、願いを思い起こす。
『俺1人の感情で、バスケ部を壊すわけにはいかなかったから。先輩から託された部を、仲間も後輩もいる部を、俺が守らなきゃいけなかったから』
『俺、みんなとバスケがしたかったから。仲間と、楽しくバスケに打ち込める場所を守りたかった』
彼が、必死に守り抜いてきた、バスケ部の時間。
それを損ねてしまうのは、剛士を裏切ることと同じだと思った。
剛士を、守りたい。何としてでも。
悠里は固く目を閉じ、涙を心に押し込める。
――大丈夫。
がんばれるって、ゴウさんに言ったじゃない。
もう少し。もう少しだけ、我慢すればいい。
卒業式まで、たったの2日だ。
耐えてみせる。
それだけのことができなくて、剛士の傍にいられるはずがない。
「……大丈夫」
悠里は声に出して、自分に言い聞かせる。
昼休み終了の鐘が鳴った。
悠里は必死に息を吸い込み、気持ちを立て直す。
これから教室に戻り、彩奈と顔を合わせる。
気取られてはいけない。絶対に。
大切な親友を、カンナには触れさせない。
彩奈は、自分が守るんだ。
彩奈の笑顔を思い浮かべ、悠里は気持ちを奮い立たせた。
その日は放課後まで、悠里は彩奈の傍にいた。
他の友人たちとお喋りをしているときも、ぴったりと親友に寄り添い、ニコニコ微笑んでいた。
彩奈が、可笑しそうに問いかける。
「何か、いいことでもあった? 悠里」
「ふふ。何でもないよ?」
「あ、わかった! シバさんから、ラブラブメッセージ届いたとか?」
「ふふっ」
悠里は、楽しげに微笑んだ。
「ああ~、そっかそっかあ!」
赤メガネの奥の瞳が嬉しそうに輝き、クシャクシャと悠里の頭を撫でた。
「なぁに? 誰だれ?」
「シバさん? だれー?」
クラスメイトたちも、つられて湧き立った。
彩奈が悪戯っぽく笑う。
「そりゃあもう、悠里のダーリンだよねえ?」
「ええ!? 彼氏!?」
一気に色めいたクラスメイトたちを見て、悠里は微笑んでみせた。
「ふふ、違うよ。私の、好きな人」
きゃあっと盛り上がる彩奈とクラスメイトと一緒に、悠里はニコニコ笑う。
「ねーねー、写真ないの?写真!」
「ふふ、秘密」
「えぇ~? 彩奈なら撮ってんでしょ? シバさんの写真?」
「あはは、まあねー? でも、悠里の許可無しでは見せらんないわ」
写真という言葉は、悠里の胸を抉る。
先ほどカンナから見せられた、学祭の自分の写真。そして、彩奈の写真。
今でも自分の鞄に入れっぱなしになっている、フォトブック。
悠里を傷つけるためだけに用意された、過去の剛士。
エリカと一緒に微笑む、剛士の姿――
そのイメージを振り払おうと、悠里は意識して、笑みを大きくする。
ここ数日で、自分は友人を誤魔化すのが上手になってしまった。
わざと誤解を招くことを言って、本心を隠す。
親友の彩奈すら、欺いている……
笑う悠里の瞳に、涙が滲んだ。
悠里はあえてそれを隠さず、笑い過ぎて涙が出たように振る舞う。
「ねえねえ悠里! 今度紹介してよー。その、シバさん?だっけ?」
「ふふっ、いつかね?」
悠里は首を傾げ、クラスメイトに明るく微笑んでみせた。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
神楽坂gimmick
涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。
侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり……
若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる