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piece5 悠里の戦い
冷ややかな笑み
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火曜日の登校時。靴箱にメモ書きが入っていた。
予想はしていたが、やはり朝から見てしまうと心が冷える。
昨日貰ったばかりの剛士の温もりが、奪われてしまうようだ。
悠里の唇から、溜め息が零れる。
悠里は昨日と同じように、それをくしゃりと丸め、屑籠に入れる。
中は確認しなかった。
水曜日の朝。
昇降口の前に、カンナが立っていた。
ドクン、と痛みに近い衝撃を伴って心音が暴れる。
思わず悠里は脚を竦ませた。
カンナは悠里を見据え、薄い笑みを浮かべた。
急に、鞄が重く感じられる。
カンナに渡された、あのフォトブックが入ったままの鞄が。
悠里の力を奪っていく。
心を削っていく。
悠里は唇を噛み、カンナの様子を窺った。
2日間、彼女からの手紙を無視したのだ。
もちろん、このままで済むとは思っていなかった。
しかし、いざカンナの姿を、あの冷ややかな笑みを目の当たりにすると。
本能的な恐怖が、ゾクゾクと足元から這い上がってくる。
悠里が立ち竦んでいるのを見ると、カンナは笑みを深めた。
そして、何を言われるかと身構えた悠里の警戒に反し、踵を返して去って行った。
無意識に、息を詰めていた。
悠里は胸に手を当て、苦しい呼吸を吐き出した。
やはり、このまま卒業式の日を迎えることはできなかった。
いや、むしろ時間を稼げた方だと、必死に自分を鼓舞する。
悠里は目を伏せ、ぎゅっと唇を噛んだ。
「おっはよ、悠里!」
「あっ……」
唐突に背中を叩かれ、悠里はよろめいた。
「おわっ!? 悠里、ごめん! 強すぎた?」
彩奈の元気いっぱいの声が聞こえてきて、悠里は我に返る。
「……お、おはよ、彩奈!」
精一杯の微笑を浮かべて、悠里は振り返った。
赤メガネの下にある瞳が、悠里に笑いかけながらも、違和感を憶えている気がした。
いけない。彩奈に気取られてしまう。
慌てて悠里は、彩奈の肩をペチンと叩く。
「もう。彩奈は、加減無さすぎ!」
結構痛いんだからね?と、冗談ぽく唇を尖らせて見せた。
「あはは、 ごめんごめん! 何かぼーっとしてるから、ついつい」
彩奈が、いつものように髪を撫でてくれる。
その手の温もりが、今はありがたい。
悠里は、微笑んで首を傾げる。
「ふふ、じゃあ、もっと撫でて?」
「あっはは、可愛いなあ悠里は!」
彩奈が豪快に笑いながら、クシャクシャと髪を撫でてくれた。
親友の明るさに、こっそりと元気を分けて貰う。
悠里は不器用に息を吐き出し、気持ちの乱れを必死に整えた。
予想はしていたが、やはり朝から見てしまうと心が冷える。
昨日貰ったばかりの剛士の温もりが、奪われてしまうようだ。
悠里の唇から、溜め息が零れる。
悠里は昨日と同じように、それをくしゃりと丸め、屑籠に入れる。
中は確認しなかった。
水曜日の朝。
昇降口の前に、カンナが立っていた。
ドクン、と痛みに近い衝撃を伴って心音が暴れる。
思わず悠里は脚を竦ませた。
カンナは悠里を見据え、薄い笑みを浮かべた。
急に、鞄が重く感じられる。
カンナに渡された、あのフォトブックが入ったままの鞄が。
悠里の力を奪っていく。
心を削っていく。
悠里は唇を噛み、カンナの様子を窺った。
2日間、彼女からの手紙を無視したのだ。
もちろん、このままで済むとは思っていなかった。
しかし、いざカンナの姿を、あの冷ややかな笑みを目の当たりにすると。
本能的な恐怖が、ゾクゾクと足元から這い上がってくる。
悠里が立ち竦んでいるのを見ると、カンナは笑みを深めた。
そして、何を言われるかと身構えた悠里の警戒に反し、踵を返して去って行った。
無意識に、息を詰めていた。
悠里は胸に手を当て、苦しい呼吸を吐き出した。
やはり、このまま卒業式の日を迎えることはできなかった。
いや、むしろ時間を稼げた方だと、必死に自分を鼓舞する。
悠里は目を伏せ、ぎゅっと唇を噛んだ。
「おっはよ、悠里!」
「あっ……」
唐突に背中を叩かれ、悠里はよろめいた。
「おわっ!? 悠里、ごめん! 強すぎた?」
彩奈の元気いっぱいの声が聞こえてきて、悠里は我に返る。
「……お、おはよ、彩奈!」
精一杯の微笑を浮かべて、悠里は振り返った。
赤メガネの下にある瞳が、悠里に笑いかけながらも、違和感を憶えている気がした。
いけない。彩奈に気取られてしまう。
慌てて悠里は、彩奈の肩をペチンと叩く。
「もう。彩奈は、加減無さすぎ!」
結構痛いんだからね?と、冗談ぽく唇を尖らせて見せた。
「あはは、 ごめんごめん! 何かぼーっとしてるから、ついつい」
彩奈が、いつものように髪を撫でてくれる。
その手の温もりが、今はありがたい。
悠里は、微笑んで首を傾げる。
「ふふ、じゃあ、もっと撫でて?」
「あっはは、可愛いなあ悠里は!」
彩奈が豪快に笑いながら、クシャクシャと髪を撫でてくれた。
親友の明るさに、こっそりと元気を分けて貰う。
悠里は不器用に息を吐き出し、気持ちの乱れを必死に整えた。
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