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piece4 半分は本当のことを
言えない
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剛士は労わるように優しく、彼女の頭を撫でた。
「……悠里」
切れ長の透き通る目に、吸い込まれそうになる。
「他に、何も無かったか?」
悠里は震える胸を押さえ、頷いた。
「うん。何にもないよ」
嘘を見抜かれないように、悠里はにっこりと大きめに微笑む。
言えない、絶対に。
『正直、またお前を送り迎えしたいくらい、心配』
たったいま、剛士の口から優しい言葉を聞いてしまったから。
カンナのことを知られれば、剛士はきっと、部活の時間を犠牲にして、悠里を助けようとしてくれるから――
悠里は、必死に笑顔を作り直す。
そうして、あえて弟にでも話すような口調で答えた。
「ふふ、ダメだよ? ゴウさんは、3年生になったら、もっと部活漬けになるんでしょ? 私の心配してる場合じゃないんだからね?」
「……おお」
予想していなかった悠里の反応に、剛士の目が丸くなった。
「ふふ」
滅多に見られない、剛士の驚いた顔を見て、悠里は照れ混じりに笑う。
悠里は目を落とし、大きな手をそっと両手で握った。
「……私、バスケをがんばってるゴウさんが好きだから。部活の邪魔を、したくないんだ。……絶対に」
「……悠里」
「だから、ゴウさんに心配かけないように、もっと強くならなきゃね」
悠里は、真っ直ぐに剛士を見つめ、微笑んだ。
「悠里」
握った手を、優しく引かれた。
「あ……」
力を入れる間もなく、悠里の身体は逞しい腕の中に閉じ込められていた。
「ゴウ、さん……?」
心臓が早鐘を打ち、悠里の思考は、あっけなく飛散してしまう。
剛士が、彼女の耳元で言った。
「……言っとくけど、お前のことを部活の邪魔だなんて、俺は絶対に思わない」
背中と後頭部に大きな手が回り、悠里を逃すまいとするかのように、優しい力が込められる。
「だから、無理して強くならなくていい。もっと俺に、心配させろよ」
優しい声に誘なわれ、じわりと悠里の目に涙が滲む。
悠里は固く目を閉じ、必死に明るい声を出して、冗談にしようとした。
「……やだもう。泣いちゃうよ?」
「そのつもりで、抱きしめてんだけど」
「え……?」
へたな冗談ごと、ぎゅうっと包み込まれて、悠里は言葉を失う。
「人に心配かけないように、我慢ばっかするお前がさ。拓真の前で泣きそうな顔するくらい、辛かったんだよな」
切ないほどに優しい剛士の声が、耳元で聴こえた。
「ねえ、悠里。俺の傍で泣いて。俺の手が届くところで。俺のいないところで、泣かないで」
「……悠里」
切れ長の透き通る目に、吸い込まれそうになる。
「他に、何も無かったか?」
悠里は震える胸を押さえ、頷いた。
「うん。何にもないよ」
嘘を見抜かれないように、悠里はにっこりと大きめに微笑む。
言えない、絶対に。
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たったいま、剛士の口から優しい言葉を聞いてしまったから。
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そうして、あえて弟にでも話すような口調で答えた。
「ふふ、ダメだよ? ゴウさんは、3年生になったら、もっと部活漬けになるんでしょ? 私の心配してる場合じゃないんだからね?」
「……おお」
予想していなかった悠里の反応に、剛士の目が丸くなった。
「ふふ」
滅多に見られない、剛士の驚いた顔を見て、悠里は照れ混じりに笑う。
悠里は目を落とし、大きな手をそっと両手で握った。
「……私、バスケをがんばってるゴウさんが好きだから。部活の邪魔を、したくないんだ。……絶対に」
「……悠里」
「だから、ゴウさんに心配かけないように、もっと強くならなきゃね」
悠里は、真っ直ぐに剛士を見つめ、微笑んだ。
「悠里」
握った手を、優しく引かれた。
「あ……」
力を入れる間もなく、悠里の身体は逞しい腕の中に閉じ込められていた。
「ゴウ、さん……?」
心臓が早鐘を打ち、悠里の思考は、あっけなく飛散してしまう。
剛士が、彼女の耳元で言った。
「……言っとくけど、お前のことを部活の邪魔だなんて、俺は絶対に思わない」
背中と後頭部に大きな手が回り、悠里を逃すまいとするかのように、優しい力が込められる。
「だから、無理して強くならなくていい。もっと俺に、心配させろよ」
優しい声に誘なわれ、じわりと悠里の目に涙が滲む。
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「……やだもう。泣いちゃうよ?」
「そのつもりで、抱きしめてんだけど」
「え……?」
へたな冗談ごと、ぎゅうっと包み込まれて、悠里は言葉を失う。
「人に心配かけないように、我慢ばっかするお前がさ。拓真の前で泣きそうな顔するくらい、辛かったんだよな」
切ないほどに優しい剛士の声が、耳元で聴こえた。
「ねえ、悠里。俺の傍で泣いて。俺の手が届くところで。俺のいないところで、泣かないで」
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