#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

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piece4 半分は本当のことを

ひとつの嘘

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「ゴウさん……」
悠里は、苦しみながら決意する。
「ゴウさん。ごめんね……」
悠里の頬を、ひと筋の涙が伝った。


これからひとつ、剛士に嘘をつく。


悠里は唇を噛みしめ、涙を閉じ込めた。
剛士は悠里の零れた涙を見つめ、悲しい顔をする。
しかし、その切れ長の瞳に優しい笑みを浮かべ、そっと悠里に囁いた。
「どうした? 悠里」

悠里は、剛士の大きな手を握った。
暖かい手。いつも悠里を包んでくれる、優しい手――


「……あのね、」
剛士の顔を見ることはできず、悠里は俯く。
「この間、エリカさんに会ったの」

剛士の気配が、驚きに揺れたのを感じた。
悠里は顔を伏せたまま、彼の言葉を待つ。

「……ん、そっか」
僅かな沈黙を置いた後、剛士は優しい声で呟いた。
そして、穏やかに悠里に問う。
「学校で?」
「うん。放課後、偶然」
「……そっか。まあ、同じ学校だもんな」

剛士は、苦笑混じりの小さな溜め息をついたが、繋いだままの悠里の手を、優しく握り直した。


「それは、俺に電話くれた日?」
「……うん」
「そっか」
大きな手が、そっと悠里の髪に触れ、三つ編みを崩さないように気遣いながら、撫でてくれる。

「黙っていて、ごめんなさい」
「ん? 別にいいよ」
剛士が優しく微笑み、悠里の顔を覗き込む。
「やっぱりあの日は、ただ電話くれただけじゃなかったんだなって、ちょっと落ち込んでるけど」
「え? ち、ちが……声が聞きたかったのは、本当……」
「はは、冗談だよ。わかってる」

剛士は、あえて悪戯っぽく笑った。
そうして、悠里の手を両手で包み込む。
「俺に言いづらかった気持ちも……わかるから」
剛士の切れ長の瞳が微かに伏せられ、口元には寂しそうな笑みが浮かんだ。

「ごめんな、悠里」
悠里は、小さくかぶりを振る。
「ううん。辛くて言えなかったわけじゃないの」


「……何か、話した?」
剛士の唇が、核心に触れた。

悠里は顔を上げ、微笑んでみせた。
「いつか私に会えたらいいなって、思ってたって。初めて会ったあのカラオケの日のこと、ずっと謝りたかったって。笑ってくれたの」

剛士は何も言わず、悠里の大きな瞳を見つめる。
「エリカさんは私に、ひと言もゴウさんのこと言わなかったよ。……気を遣ってくれたんだと、思う」
「……そっか」

悠里は笑顔を保ったまま、そっと目を伏せた。
「ゴウさんに、すぐ話した方がいいかなって、思ったんだけど。でも、ゴウさんとエリカさんは、いま話し合いをしてると思うから。邪魔をしたくなくて……」


剛士が、ぎゅっと悠里の手を握る。
「ごめん。俺が何も話してなかったから、遠慮させちゃったんだな」

「そんなことないよ。ゴウさんも、私に心配させたくなかったんでしょう?」
悠里は、静かに微笑んでみせた。

「私も、同じだもん。エリカさんと話したって言って、ゴウさんに心配かけたくなかったの」
「悠里……」


悠里は剛士の瞳を見つめ、悪戯っぽく笑う。
「きっと、私とゴウさんは、少し似てるんだね」

剛士も小さく微笑み、コツンと悠里の額に自分の額をくっつけた。
「でも、悠里は俺に、もっと心配させろよ」
「じゃあゴウさんも、私に心配させてくれる?」
「俺は、いいの」
「ふふ。ゴウさん、ずるい」

2人で、ひとしきり笑った後、剛士は言った。

「聞いてくれる? 悠里」
「……うん。聞かせて」
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