#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN

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piece3 明確な悪意

部活の時間を

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何とか無事に切り抜けられた。
駅までの道すがら、悠里は胸を押さえ、鈍く痛む鼓動を宥める。

わかっている。
今日は、彼らが悪い人ではなかったから、助かっただけだと。

『あの人にとっての『持ち駒』は、多分いっぱいいる。気をつけた方がいいよ』

男子生徒の忠告が蘇る。
また、今日のようなことを仕掛けられたとして。
次も逃げ切れる保証は、どこにもない。


悠里は、剛士の顔を思い浮かべた。
相談した方がいいと、本能で思う。
彼なら、助けてくれると。

けれど自分はまた、彼の部活の時間を奪ってしまうのだろうか――


昨年の秋、悠里が受けたストーカー被害。
あのとき、知り合ったばかりの剛士が、登下校の送り迎えをしてくれた。

後から知った。
剛士が、バスケ部の監督に頭を下げて、部活を早退してくれていたことを。
時には悠里を家に送ってから、再度、部活に戻っていたことを……


『別にいいよ。あのときの最善策だったろ』

悠里がそれを知ったとき、剛士は事もなげに答え、微笑んでくれた。
そして、余計なこと言うな、と拓真の頭を小突いた。

剛士は、悠里に負い目を感じさせないように、黙ってくれていたのだ。
拓真が教えてくれなければ、悠里はきっと、何も知らないままだった。


自分がカンナのことを、そして今日の出来事を相談すれば、剛士は必ず助けてくれる。
もしかすると、部活の時間を削ってまで、動こうとするかも知れない。

そうなれば、またキャプテンの彼に負担をかけ、バスケ部の迷惑になってしまう。
そんなこと絶対に嫌だ、と悠里は唇をきつく噛んだ。


それに、もうひとつ、大切なことがある――

悠里の脳裏に浮かんだのは、パーマがかかったショートヘアと、華やかな笑顔を持つ、あの人。

剛士は、過去の傷と向き合って、乗り越えて、前に進むために。
エリカと話をして、決着をつけようとしている。

そんなときに、エリカの親友と自分が、揉め事に発展していると知られてしまったら。
きっと、2人の話し合いの邪魔になる。

剛士の抱えている過去の傷が、この先もずっと、彼の心を苦しめてしまうかも知れない。

あの綺麗な黒の瞳が、悲しみに揺れて、沈んでいく。
剛士にもう、あんな顔をさせたくない――


剛士には、彼の納得のいく形で傷と向き合い、そして未来に目を向けられるようになって欲しい。
そのために一緒にがんばると、自分は剛士と約束したのだ。

考えれば考えるほど、やはり剛士には言えないと、思ってしまう。

――がんばらなきゃ。
とにかく、徹底的にあの人との接触を避けて…… 
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