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piece3 明確な悪意
大切な人の笑顔が詰まったもの
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写真を置いて、立ち去るわけにもいかない。
悠里はそれを持ち、のろのろと教室に戻る。
疑問には、思っていた。
剛士とエリカのツーショットを見せつけたいだけなら、スマートフォンで画像を見せれば良い。
それを何故、わざわざフォトブックにしてきたのかと。
『それあげる。よぉく見て、頭に刻みつけてよ。エリカと剛士くんの間に入る隙なんか、どこにも無いってさ』
――最初から、こうして私に持たせるつもりだったんだ……
「あれ、悠里どうしたの?」
「顔、真っ青だよ?」
教室に戻ると、クラスメートが口々に言い、顔を覗き込んできた。
「う、ううん、大丈夫! ちょっと、お腹痛いかな」
「あー、アレかあ」
「お月さまねー」
クラスメートの誤解を誘うために、わざと悠里はお腹をさすって見せた。
「痛み止め、いる? 私持ってるよ」
「ありがと、大丈夫! 今日はもう、帰るね。彩奈に伝えて」
写真部の部室に行っているのか、彩奈の姿は見当たらない。
今日に限って言えば、助かった。
いま、自分がどんな顔をしているのかはわからないが、クラスメートに心配されるような顔色だ。
彩奈にはきっと、何があったかを気取られる。
彩奈の強さと優しさに、また縋ってしまう……
カンナと会ったときに胸に響いた警鐘は、まだ鳴り止まない。
だから今は、彩奈を巻き込んではいけない気がした。
悠里は、にっこり笑ってクラスメートに手を振り、逃げるように教室を後にした。
自分は、剛士がくれる優しい眼差しを、言葉を、大きな手を、信じればいい。
ただ、それだけ――
悠里は電車の中、鞄をぎゅっと抱えた。
フォトブックは鞄の端、教科書に隠れる位置に入れてある。
見たくない。もう、触れたくない。
けれど、剛士が写った写真を捨てることは、悠里にはできなかった。
きっとカンナは、そこまで読んで渡してきたのだろう。
悠里は、自分の心を蝕むものを手放すことが、できない。
自分にとって辛いものであっても、そこには、大切な人の笑顔が詰まっているから……
今よりも、少しだけ髪が短くて、少しだけ幼い、昔の剛士。
今よりも、少しだけ無邪気な笑い方をする、昔の剛士。
自分ではない人の手を握って、幸せそうに笑う剛士――
悠里は目を閉じ、いまの剛士が自分に見せてくれる、優しい切れ長の瞳を思い浮かべる。
真っ直ぐに悠里を見つめて微笑んでくれる彼の顔を、何度も何度も、心に呼び起こす。
『悠里』
自分を呼んでくれる、低くて落ち着いた声を、胸の中で再生する。
――写真のことなんて、気にしちゃ駄目……
彼の優しい眼差しを、言葉を、大きな手を。
私は、ゴウさんを、信じる。
ただそれだけだと、悠里は繰り返し、自分に言い聞かせる。
この写真は、思い出だと。昔のことなのだと――
悠里はそれを持ち、のろのろと教室に戻る。
疑問には、思っていた。
剛士とエリカのツーショットを見せつけたいだけなら、スマートフォンで画像を見せれば良い。
それを何故、わざわざフォトブックにしてきたのかと。
『それあげる。よぉく見て、頭に刻みつけてよ。エリカと剛士くんの間に入る隙なんか、どこにも無いってさ』
――最初から、こうして私に持たせるつもりだったんだ……
「あれ、悠里どうしたの?」
「顔、真っ青だよ?」
教室に戻ると、クラスメートが口々に言い、顔を覗き込んできた。
「う、ううん、大丈夫! ちょっと、お腹痛いかな」
「あー、アレかあ」
「お月さまねー」
クラスメートの誤解を誘うために、わざと悠里はお腹をさすって見せた。
「痛み止め、いる? 私持ってるよ」
「ありがと、大丈夫! 今日はもう、帰るね。彩奈に伝えて」
写真部の部室に行っているのか、彩奈の姿は見当たらない。
今日に限って言えば、助かった。
いま、自分がどんな顔をしているのかはわからないが、クラスメートに心配されるような顔色だ。
彩奈にはきっと、何があったかを気取られる。
彩奈の強さと優しさに、また縋ってしまう……
カンナと会ったときに胸に響いた警鐘は、まだ鳴り止まない。
だから今は、彩奈を巻き込んではいけない気がした。
悠里は、にっこり笑ってクラスメートに手を振り、逃げるように教室を後にした。
自分は、剛士がくれる優しい眼差しを、言葉を、大きな手を、信じればいい。
ただ、それだけ――
悠里は電車の中、鞄をぎゅっと抱えた。
フォトブックは鞄の端、教科書に隠れる位置に入れてある。
見たくない。もう、触れたくない。
けれど、剛士が写った写真を捨てることは、悠里にはできなかった。
きっとカンナは、そこまで読んで渡してきたのだろう。
悠里は、自分の心を蝕むものを手放すことが、できない。
自分にとって辛いものであっても、そこには、大切な人の笑顔が詰まっているから……
今よりも、少しだけ髪が短くて、少しだけ幼い、昔の剛士。
今よりも、少しだけ無邪気な笑い方をする、昔の剛士。
自分ではない人の手を握って、幸せそうに笑う剛士――
悠里は目を閉じ、いまの剛士が自分に見せてくれる、優しい切れ長の瞳を思い浮かべる。
真っ直ぐに悠里を見つめて微笑んでくれる彼の顔を、何度も何度も、心に呼び起こす。
『悠里』
自分を呼んでくれる、低くて落ち着いた声を、胸の中で再生する。
――写真のことなんて、気にしちゃ駄目……
彼の優しい眼差しを、言葉を、大きな手を。
私は、ゴウさんを、信じる。
ただそれだけだと、悠里は繰り返し、自分に言い聞かせる。
この写真は、思い出だと。昔のことなのだと――
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