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piece1 花のような笑顔
何かあった?
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遠くから、声が聞こえてきた。
『剛士ー、まだ電話中かあ?』
『あ、悠里。ちょっと待っててな?』
剛士は悠里に囁くと、電話を口元から離し、その声に応えた。
『おう。部室の鍵は俺が閉めとくから、先帰って』
『彼女かあ?』
ヒューッと囃し立てる声が、折り重なって聞こえる。
『なんか、めっちゃ笑ってたし』
『オレたちと話すときと、全然声ちげぇし』
剛士が笑いながら言う。
「うっせ。勝手に聞くな、帰れ」
電話の先の話し声って、案外はっきり聞こえるものだなあ、と悠里は恥じらいつつも、聞くとはなしに聞いていた。
『じゃねー、剛士!』
『はいよ』
明るい笑い声とともに、部員らしき複数の声は遠ざかっていった。
『ごめんな?』
まだ笑っているのか、剛士の声は明るかった。
「ふふ、ううん」
悠里も小さく笑い、答えた。
「私こそ、部活中に連絡しちゃって、ごめんなさい」
剛士が、優しく問いかけてくる。
『……何か、あった?』
「え?」
『お前が電話してくるの、珍しいからさ』
今日出会った華やかな微笑が、悠里の脳裏をよぎった。
剛士に、今日のことを伝えるつもりはない。
心配をかけてしまうかも知れないし、何より、剛士とエリカの話し合いの邪魔をしたくなかった。
2人の過去。そして、バスケ部の話。
それは、悠里の立ち入ることのできない場所。
万に一つも、妨げるようなことをしたくなかった。
剛士が、悠里にまだ何も言わないのも、自分を悪戯に不安にさせないためだろう。
彼にいらぬ心配をかけたくないのは、悠里も同じだった。
自分にできるのは、剛士の気持ちを信じて、待つことだけだ。
「……ううん」
悠里はただ、今の気持ちだけを伝えた。
「あのね。ゴウさんの声が、聞きたかったの……」
剛士の声を聞いて、安心したかった。
大丈夫だと、実感したかった。
『……そっか』
剛士が、ふっと微笑む気配がした。
『いつでも、掛けてこいよ?』
「ふふ……うん。でも、部活の邪魔にならないように、気をつけるね」
『はは、大丈夫だよ。出られなかったら、掛け直すから』
「うん……ありがと」
剛士が、優しい声で囁いた。
『俺も、悠里の声聞きたかったから。ありがとな』
「ゴウさん……」
大丈夫だと、思えた。
剛士のくれた言葉で、またがんばれる。
「ゴウさん、気をつけて帰ってね」
『おう。じゃあな』
悠里は元気に別れの挨拶をし、通話を終えた。
剛士の声ひとつで、不安はすぐに晴れていく。
改めて悠里は、自分のなかにある、剛士という存在の大きさを知った。
『剛士ー、まだ電話中かあ?』
『あ、悠里。ちょっと待っててな?』
剛士は悠里に囁くと、電話を口元から離し、その声に応えた。
『おう。部室の鍵は俺が閉めとくから、先帰って』
『彼女かあ?』
ヒューッと囃し立てる声が、折り重なって聞こえる。
『なんか、めっちゃ笑ってたし』
『オレたちと話すときと、全然声ちげぇし』
剛士が笑いながら言う。
「うっせ。勝手に聞くな、帰れ」
電話の先の話し声って、案外はっきり聞こえるものだなあ、と悠里は恥じらいつつも、聞くとはなしに聞いていた。
『じゃねー、剛士!』
『はいよ』
明るい笑い声とともに、部員らしき複数の声は遠ざかっていった。
『ごめんな?』
まだ笑っているのか、剛士の声は明るかった。
「ふふ、ううん」
悠里も小さく笑い、答えた。
「私こそ、部活中に連絡しちゃって、ごめんなさい」
剛士が、優しく問いかけてくる。
『……何か、あった?』
「え?」
『お前が電話してくるの、珍しいからさ』
今日出会った華やかな微笑が、悠里の脳裏をよぎった。
剛士に、今日のことを伝えるつもりはない。
心配をかけてしまうかも知れないし、何より、剛士とエリカの話し合いの邪魔をしたくなかった。
2人の過去。そして、バスケ部の話。
それは、悠里の立ち入ることのできない場所。
万に一つも、妨げるようなことをしたくなかった。
剛士が、悠里にまだ何も言わないのも、自分を悪戯に不安にさせないためだろう。
彼にいらぬ心配をかけたくないのは、悠里も同じだった。
自分にできるのは、剛士の気持ちを信じて、待つことだけだ。
「……ううん」
悠里はただ、今の気持ちだけを伝えた。
「あのね。ゴウさんの声が、聞きたかったの……」
剛士の声を聞いて、安心したかった。
大丈夫だと、実感したかった。
『……そっか』
剛士が、ふっと微笑む気配がした。
『いつでも、掛けてこいよ?』
「ふふ……うん。でも、部活の邪魔にならないように、気をつけるね」
『はは、大丈夫だよ。出られなかったら、掛け直すから』
「うん……ありがと」
剛士が、優しい声で囁いた。
『俺も、悠里の声聞きたかったから。ありがとな』
「ゴウさん……」
大丈夫だと、思えた。
剛士のくれた言葉で、またがんばれる。
「ゴウさん、気をつけて帰ってね」
『おう。じゃあな』
悠里は元気に別れの挨拶をし、通話を終えた。
剛士の声ひとつで、不安はすぐに晴れていく。
改めて悠里は、自分のなかにある、剛士という存在の大きさを知った。
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