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piece8 夜の会議室
会議室へ潜入
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「……さぁて。そろそろお開きかな」
たくさんマシュマロを焼いて、皆の心も満たされた頃。
谷がのんびりと言った。
「よし、後は俺が片しておくから。お前ら、気をつけて帰れ」
言いながら、谷は女子2人に目を向ける。
「お前たちは、ご自宅は近いのか? 橘さんは柴崎が送るんだろうが、石川さんも心配なら、酒井にボディーガードやらせるぞ?」
「あっはは、大丈夫です!」
彩奈が、笑いながら親指を立てる。
「もともと拓真くんとは、乗る電車一緒だし! それに、ウチは駅直結のマンションなんで!」
「わぁお。彩奈ちゃん、お嬢様じゃん!」
拓真が口笛を吹き、大袈裟に驚いてみせた。
「あっはは! そう。こう見えて私、結構お嬢様なんだからね?」
彩奈は胸を張り、拓真の冗談に乗っかった。
拓真も笑いながら、谷に親指を立ててみせる。
「大丈夫よ、先生。オレの方が電車降りるの後だから、最寄り駅までは彩奈ちゃんのボディーガードできる!」
「そうか。じゃあ安心だな」
時刻は、20時半を回っていた。
剛士が、谷に向かって微笑む。
「ありがとう、先生。助かりました」
「おうよ。何かあったら、いつでも来い」
谷の明るい笑顔が、晴れ晴れと皆を送り出してくれた。
***
谷と別れ、裏門を目指していると、ふと剛士が思いついたように言った。
「俺、ちょっとバスケ部の会議室に寄っていい?」
きょとんと彼を見上げる悠里に、剛士は微笑みかけた。
「そこにバスケ部のパソコンがあるから、写真のデータを取りに行こうと思って」
付き合ってくれる?と悪戯っぽく笑う剛士に、悠里は嬉しそうに頷いた。
自分に渡すための昔の写真を、すぐに用意しようとする剛士に、胸が暖かくなる。
彩奈と拓真が、顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、私たちは先に脱出しちゃうね」
「秘密のデート、楽しめよ!ゴウ」
「はいよ」
笑いながら剛士は頷いた。
大きな手が、しっかりと悠里の手を握り込む。
もう少し続く夜の冒険に、悠里の胸は踊った。
各部の会議室兼資料室は、部活棟の隣にある建物だという。
「時間的に、殆どの部活は終わってるから、もう人はいないと思う」
悠里の手を引き、剛士は微笑んだ。
「でもまあ、気をつけて侵入するぞ?」
「ふふ、はい」
剛士と一緒なら、大胆になれてしまう。
そんな自分の心に驚きながら、悠里も微笑んだ。
バスケ部の会議室は、2階の端に位置していた。
剛士が生徒手帳のカードをかざすと、ピッという音が鳴り、ドアのロックが解除された。
「部屋の電気をつけると、目立ちそうだから。暗くてごめんな」
「うん、大丈夫」
剛士の手を取り、悠里もそっと室内に入った。
部屋のカーテンは開けてあり、僅かに月明かりが差し込んでいた。
剛士は彼女の手を優しく引いて、教室の前に設置された長机に歩み寄る。
そこには、ノートパソコンとデスクライトが置いてあった。
2人は机の前にある長椅子に並んで腰掛ける。
剛士はデスクライトを点け、パソコンを起動させた。
「んー、ここだっけ」
剛士が開いたフォルダには、年度と行事ごとに仕分けされた膨大な写真データがあった。
「わあ」
ワクワクと、悠里は画面を見つめる。
剛士は、慣れた手つきで自分のクラウドストレージを開くと、そこにデータのコピーを始めた。
「いったん全部クラウドにコピーして、俺が写ってるのをピックアップしたら、お前に送るよ」
「嬉しい」
悠里は彼の横顔を見つめ、微笑んだ。
「ありがとう、ゴウさん」
剛士が、柔らかく微笑する。
「コピーしてる間、ヒマだから、何か見るか」
「ふふ、うん!」
剛士が、昨年度冬の日付が記載されたフォルダを開いた。
「これは、俺が1年のとき。冬にあった新人大会の写真だな」
「そっかあ!」
新人大会といえば、1月に剛士の応援に行った試合だ。
1年前の同じ大会の写真なんだと、悠里の胸は高鳴る。
剛士が次々に表示していく写真を、悠里は身を乗り出すようにして見つめた。
「すごい……カッコいい」
試合中の剛士や、他のメンバーの鋭い動きや表情。
そのときの白熱した試合状況が伝わるほどの臨場感が、美しく切り取られていた。
目を輝かせる悠里を見つめ、剛士は柔らかく微笑む。
「ウチにも、彩奈の写真部みたいな部があってな。そこは映像と写真が一緒になってる部なんだけど、たまに試合とか練習風景の写真や動画、撮りに来てくれるんだ」
「そうなんだね! 本当、素敵な写真」
「すごいよな。いろんな大会で賞も貰ってる、強い部なんだ。学校の部活紹介ページなんかも担当してるよ」
あっ、と悠里は手を打った。
「私、バスケ部の紹介動画観たよ! もしかして、あの映像も?」
剛士が、目を丸くする。
「そう、あれも写真映像部の作品。っていうか動画あること、よく知ってんな」
「ふふ、悠人が教えてくれたんだ」
「すげえな、悠人。ちょっと俺、恥ずかしくなってきた」
「すごくカッコよかったよ! 私、何度も繰り返して観ちゃった」
頬を染め、少し興奮気味に報告してくる悠里に、剛士は目を細める。
「ホント……可愛いな、お前」
悠里の長い髪に触れ、剛士は甘い声で囁いた。
たくさんマシュマロを焼いて、皆の心も満たされた頃。
谷がのんびりと言った。
「よし、後は俺が片しておくから。お前ら、気をつけて帰れ」
言いながら、谷は女子2人に目を向ける。
「お前たちは、ご自宅は近いのか? 橘さんは柴崎が送るんだろうが、石川さんも心配なら、酒井にボディーガードやらせるぞ?」
「あっはは、大丈夫です!」
彩奈が、笑いながら親指を立てる。
「もともと拓真くんとは、乗る電車一緒だし! それに、ウチは駅直結のマンションなんで!」
「わぁお。彩奈ちゃん、お嬢様じゃん!」
拓真が口笛を吹き、大袈裟に驚いてみせた。
「あっはは! そう。こう見えて私、結構お嬢様なんだからね?」
彩奈は胸を張り、拓真の冗談に乗っかった。
拓真も笑いながら、谷に親指を立ててみせる。
「大丈夫よ、先生。オレの方が電車降りるの後だから、最寄り駅までは彩奈ちゃんのボディーガードできる!」
「そうか。じゃあ安心だな」
時刻は、20時半を回っていた。
剛士が、谷に向かって微笑む。
「ありがとう、先生。助かりました」
「おうよ。何かあったら、いつでも来い」
谷の明るい笑顔が、晴れ晴れと皆を送り出してくれた。
***
谷と別れ、裏門を目指していると、ふと剛士が思いついたように言った。
「俺、ちょっとバスケ部の会議室に寄っていい?」
きょとんと彼を見上げる悠里に、剛士は微笑みかけた。
「そこにバスケ部のパソコンがあるから、写真のデータを取りに行こうと思って」
付き合ってくれる?と悪戯っぽく笑う剛士に、悠里は嬉しそうに頷いた。
自分に渡すための昔の写真を、すぐに用意しようとする剛士に、胸が暖かくなる。
彩奈と拓真が、顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、私たちは先に脱出しちゃうね」
「秘密のデート、楽しめよ!ゴウ」
「はいよ」
笑いながら剛士は頷いた。
大きな手が、しっかりと悠里の手を握り込む。
もう少し続く夜の冒険に、悠里の胸は踊った。
各部の会議室兼資料室は、部活棟の隣にある建物だという。
「時間的に、殆どの部活は終わってるから、もう人はいないと思う」
悠里の手を引き、剛士は微笑んだ。
「でもまあ、気をつけて侵入するぞ?」
「ふふ、はい」
剛士と一緒なら、大胆になれてしまう。
そんな自分の心に驚きながら、悠里も微笑んだ。
バスケ部の会議室は、2階の端に位置していた。
剛士が生徒手帳のカードをかざすと、ピッという音が鳴り、ドアのロックが解除された。
「部屋の電気をつけると、目立ちそうだから。暗くてごめんな」
「うん、大丈夫」
剛士の手を取り、悠里もそっと室内に入った。
部屋のカーテンは開けてあり、僅かに月明かりが差し込んでいた。
剛士は彼女の手を優しく引いて、教室の前に設置された長机に歩み寄る。
そこには、ノートパソコンとデスクライトが置いてあった。
2人は机の前にある長椅子に並んで腰掛ける。
剛士はデスクライトを点け、パソコンを起動させた。
「んー、ここだっけ」
剛士が開いたフォルダには、年度と行事ごとに仕分けされた膨大な写真データがあった。
「わあ」
ワクワクと、悠里は画面を見つめる。
剛士は、慣れた手つきで自分のクラウドストレージを開くと、そこにデータのコピーを始めた。
「いったん全部クラウドにコピーして、俺が写ってるのをピックアップしたら、お前に送るよ」
「嬉しい」
悠里は彼の横顔を見つめ、微笑んだ。
「ありがとう、ゴウさん」
剛士が、柔らかく微笑する。
「コピーしてる間、ヒマだから、何か見るか」
「ふふ、うん!」
剛士が、昨年度冬の日付が記載されたフォルダを開いた。
「これは、俺が1年のとき。冬にあった新人大会の写真だな」
「そっかあ!」
新人大会といえば、1月に剛士の応援に行った試合だ。
1年前の同じ大会の写真なんだと、悠里の胸は高鳴る。
剛士が次々に表示していく写真を、悠里は身を乗り出すようにして見つめた。
「すごい……カッコいい」
試合中の剛士や、他のメンバーの鋭い動きや表情。
そのときの白熱した試合状況が伝わるほどの臨場感が、美しく切り取られていた。
目を輝かせる悠里を見つめ、剛士は柔らかく微笑む。
「ウチにも、彩奈の写真部みたいな部があってな。そこは映像と写真が一緒になってる部なんだけど、たまに試合とか練習風景の写真や動画、撮りに来てくれるんだ」
「そうなんだね! 本当、素敵な写真」
「すごいよな。いろんな大会で賞も貰ってる、強い部なんだ。学校の部活紹介ページなんかも担当してるよ」
あっ、と悠里は手を打った。
「私、バスケ部の紹介動画観たよ! もしかして、あの映像も?」
剛士が、目を丸くする。
「そう、あれも写真映像部の作品。っていうか動画あること、よく知ってんな」
「ふふ、悠人が教えてくれたんだ」
「すげえな、悠人。ちょっと俺、恥ずかしくなってきた」
「すごくカッコよかったよ! 私、何度も繰り返して観ちゃった」
頬を染め、少し興奮気味に報告してくる悠里に、剛士は目を細める。
「ホント……可愛いな、お前」
悠里の長い髪に触れ、剛士は甘い声で囁いた。
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