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piece7 青春の共犯者
大それた青春の1ページ
しおりを挟む「すごい! どうやったら、そんな綺麗に焼けんの?」
3つのマシュマロに悪戦苦闘する拓真に、悠里はにっこり笑う。
「もう少し火から離して、串をくるくる回しながら、ゆっくり焼くと美味しいよ?」
悠里のアドバイスを受け、拓真そして彩奈が、真剣な目をして団子状のマシュマロに向き合う。
「うーん、難しい!」
「なかなか満遍なく焼けないもんだね?」
「お前らは、欲張るからだろ?」
こんがりキツネ色に焼けたマシュマロ串を手に、剛士が笑った。
そして傍らの悠里に言う。
「よし。欲張りどもは放っといて、先に食おうぜ?」
「ふふ、うん!」
2人は谷に向かい、いただきますと手を合わせると、焼きたてのマシュマロを頬張った。
カリッと焼けた外側を噛むと、内側からはトロリと甘い幸せが溢れ出す。
「……ん、うまい」
驚いたように呟く剛士に、悠里は微笑みかける。
「ふふ、美味しいね」
「うん、これは止まらないかも」
剛士は早速、マシュマロ第2弾に突入する。
気に入ったようで、今度は2つだ。
そんな彼が可愛くて、思わず悠里は笑ってしまう。
「私も焼こうっと」
言いながら、悠里は谷を振り返る。
「良かったら私、先生の分も焼きますよ」
「おっ、じゃあお願いしようかな?」
「ふふ、はい!」
谷は串に2つマシュマロを刺し、悠里に手渡す。
悠里はニコニコ笑いながら、両手に串を持って焼き始めた。
器用に串を回してマシュマロを焼く悠里を、皆は感心して見つめる。
「悠里ちゃん、どうしてそんな上手なの?」
拓真の問いかけに、悠里は微笑んで答える。
「子どもの頃、近所のお友だちと、よく庭でバーベキューをやってたの」
「さっすが、ホームパーティー好きのパパさんとママだよね」
彩奈も、ニコニコして言った。
「へえ、いいなあ! オレ、悠里ちゃんのご近所さんになりたかった!」
「あはは」
拓真の可愛らしい願望に、悠里は声を立てて笑う。
「その近所の子とは、今も仲良いの?」
「あ、ううん。その子、私の1つ下の男の子で、悠人とも仲が良かったんだけど。小学校の途中で、引越しちゃったんだ」
「そっかあ」
「ふふ……元気かなあ、あの子」
マシュマロの甘い香りに誘われて思い出した、子どもの頃の楽しい記憶。
悠里は、ふんわりと柔らかな微笑みを浮かべた。
綺麗に焼けたマシュマロ串を、悠里は谷に手渡す。
「おおっ橘さん、本当に上手だなあ」
「ふふ、子どもに戻ったみたいで、とても楽しいです。ありがとうございます」
「それは何より」
谷が、明るい声で笑う。
「こういう楽しい青春の1ページがあるかないかで、人は辛いときに踏ん張れるかが決まるからな」
悠里作の焼きマシュマロに舌鼓を打ちながら、谷は言った。
「まあ、教師が言うのも何だが。多少のバカは、10代のうちにやっておくといいさ」
ボディーガードは、ちゃんと付けてな、と剛士を指し、谷は悪戯っぽく笑ってみせた。
「ふふ、はい!」
男子校に侵入してマシュマロを焼くという、夜の大冒険。
大それた青春の1ページの共犯者になってくれた、厳しい顔立ちの暖かい教師。
何より、自分のために一生懸命に力を貸してくれる親友。そして、大好きな人。
悠里は皆に、たくさんの感謝を捧げたのだった。
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